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■徒花に水やり

 ■作・演出:土田英生,出演:田中美里,桑原裕子,千葉雅子,土田英生,岩松了 ■Streaming+・配信,2021.12.24-31(ザ・スズナリ,2021.12.15-19公演) ■有名演出家が4人も役者で登場するとは驚きです。 興味津々ですね。 劇中劇のように演出中演出など複雑な構造を取り入れてくる? いや、普通の、少しレトロな芝居でした。 ・・4人兄弟の末妹がフィアンセを連れてくる。 しかし彼は兄弟たちの父を死に追いやった元ヤクザだった。 4人はどうする? 次女が劇的な解決方法を編み出すのでは? そして足を洗った元ヤクザと末妹はめでたく結婚するのでは? こう予想しながら観ていたが・・。 けっこう笑えました。 でも家族の絆、兄弟の繋がりがどこか古臭い。 ヤクザを登場したからでしょう。 結末が兄弟でトランプとは、これもです。 ヤクザ風人生から逃げられない。 タイトルがしっくりきました。 男優二人は演技を楽しんでいましたね。 土田英生はどこからみてもチンピラの末裔でしょう。 そして岩松了がニヤケを抑えながら拳銃を振り回すところは地がでていました。 千葉雅子風が全体に感じらる作品です。 *千葉雅子X土田英生舞台制作事業VOL.2 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/115368 *「ブログ検索」に入れる語句は、土田英生  ・・検索結果は5舞台。

■母 My Mother

■作・演出:鄭義信,企画・出演:みょんふぁ,演奏:イチャンソプ ■下北沢シアター711,2021.12.22-28 ■舞姫・崔承喜(チェ・スンヒ)の娘・安聖姫(アン・ソンヒ)が母を語る一人芝居である。 みょんふぁがカーテンコールでこの企画を十数年温めていたことを話していた。 鄭義信を説得してやっとこの作品ができたようだ。 この舞台で彼女は娘役を演じている。 私が崔承喜を知ったのは2000年に観た映画「伝説の舞姫・崔承喜、金梅子が追う民族のこころ」(藤原智子監督)だった。 ここから崔承喜は忘れられないダンサーの一人になった。 2005年には金梅子(キム・メジャ)の舞踊公演「沈静」で記憶を新たにした。 しかしその後はご無沙汰である。 今回、本多劇場のHPでこの公演を偶然知り急遽チケットを購入した。 崔承喜は今でも行方不明のままである。 舞台では亡命が失敗したことになっている。 娘は語る。 「母は踊りのことしか考えていなかった・・」。 日本・韓国・北朝鮮を渡り歩き激動の時代を生き抜いた母娘の姿が舞台に出現する。 みょんふぁの熱演に拍手。 イ・チャンソプのチャング演奏も一人芝居に深みを与えていた。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/114421 *「ブログ検索」に入れる語句は、鄭義信 ・・ 検索結果は3舞台 .

■境界

*下記の□2作品を観る。 ■東京芸術劇場・プレイハウス,2021.12.24-26 □Endless Opening ■演出:山田うん,衣装:飯嶋久美子,出演:Noism1 ■ダンサー9人の衣装それぞれがカラフルでフリルも付いている。 周囲に蝶が飛んでいるようにみえます。 振付におおらかさがあり気持ちが良い。 衣装が微妙な動きを隠してしまい逆に素朴さも感じられる。 軽さ有る春の祭典と言ってよい。 後半に入ると小さなベッドを押しながらダンサー達が登場する。 棺桶だと直感しました。 彼らの笑顔は消え苦味が出てくる。 その棺桶と戯れたあとフリルを脱ぎ捨てる。 これでダンスが成長したようにみえた。 死と再生の物語だと再び直感しました。 生→死→再生、この流れを軽く明るく描いたところに妙味がある。 ダンサーはもちろん、衣装・道具が互いに共鳴して巧くまとまっていました。 □Near Far Here ■演出:金森穣,衣装:堂本教子,出演:Noism0(金森穣,井関佐和子,山田勇気) ■山田うん振付とは真逆の世界です。 しかし振付家二人の境界は近い。 これは再生ではなく生と死の真剣な戯れとでも言うのでしょうか? 生↔死、その境界は鏡です。 バロック系音楽が響くなか、3人が絡み合う振付は複雑で重量感があり見応え十分ですね。 木枠で鏡を意識させる。 それはオルフェウスの冥界への入り口を思い出させてくれる。 鏡の延長とした映像も凝っている。 メランコリアに描かれたような立方体フレームを含め舞台の隅々まで魂が宿っている。 そしてオンブラ・マイ・フで幕が下りる・・。 西欧形而上学をダンスで表現したような舞台だった。 完成度が高く至福の時間を過ごせました。 カテンコールに年末大サービスの薔薇吹雪付きとは嬉しい。 *劇場、 https://www.geigeki.jp/performance/theater279/

■2021年舞台ベスト10

■ 少女都市からの叫び声  演出:久保井研・唐十郎,劇団:唐組 ■ 眠れない夜なんてない  演出:平田オリザ,劇団:青年団 ■ セルセ  演出:中村蓉,主催:東京二期会 ■ 夜への長い旅  演出:フィリップ・ブリーン,主催:Bunkamura ■ 未練の幽霊と怪物ー挫波・敦賀ー  演出:岡田利規,主催:神奈川芸術劇場 ■ ウィルを待ちながら  演出:河合祥一郎,制作:kawai Project ■ ヤコブの井戸  演出:清水寛二,主催:銕仙会 ■ 桜の園  演出:ダニエル・ジャンヌトー,劇団:SPAC ■ 検察官  演出:レオニード・アニシモフ,主催:東京ノーヴイ・アート ■ あーぶくたった、にいたった  演出:西沢栄治,主催:新国立劇場 *並びは上演日順。 当ブログに書かれた作品から選出。 映画・映像は除く。 *「 2020年舞台ベスト10 」

■2021年ライブビューイング・ベスト10

■ シー・ラヴズ・ミー  演出:スコット・エリス,提供:松竹ブロードウェイシネマ ■ シラノ・ド・ベルジュラック  演出:デビィット・ルボー,提供:松竹ブロードウェイシネマ ■ ポーの一族  演出:小池修一郎,劇団:宝塚歌劇団ほか ■ 赤い靴  演出:マシュー・ボーン,劇場:サドラーズ・ウェルズ劇場 ■ カルミナ・ブラーナ  演出:熊川哲也,舞団:K・バレエカンパニー ■ タンホイザー  演出:トビアス・クラッツアー,劇場:バイロイト祝祭劇場 ■ アメリカン・ユートピア  演出:デビット・バーン,劇場:ハドソン劇場 ■ ル・パルク  演出:A・プレルジョカージュ,劇場:オペラ座・ガルニエ宮 ■ ヴァネッサ  演出:キース・ウォーナー,劇場:クライドボーン・ハウス ■ パリのアメリカ人  演出:クリストファー・ウィールドン,提供:松竹ブロードウェイシネマ *並びは上映日順。 当ブログに書かれたライブビューイング作品から選出。 *ライブビューイングとは舞台公演を撮影した映像を作品としたもの。 当ブログではラベルが「映像」に該当。 *「 2020年ライブビューイング・ベスト10 」

■泥人魚

■作:唐十郎,演出:金守珍,出演:宮沢りえ,磯村勇斗,愛希れいか他 ■Bnkamura・シアターコクーン,2021.12.6-29 ■唐十郎作品は台詞に集中しリズムに入り込まないと弾き返されてしまうの。 この作品は入り易いと思う。 でも役者の身体と共鳴しない。 蛍一が中央で動かず科白を喋り続けることが多いから。 それは周囲の大袈裟ないつもの動きとも調和しない。 ブリキ店の床を舞台中舞台にして狭くはしたが、それでも劇場が広過ぎたせいもある。 ブリキ店周囲の美術も目障りだわ。 「風の又三郎」とは違ったアプローチが裏目に出たかな? でもこの広さは初めと終わりの海には効果があった。 それと月影小夜子とヘルパー腰田の声が快く聴こえてきたこともね。 それでも後半は一気に面白くなった。 やすみの熱演が佳境を迎えたからよ。 貯水池の水槽に何人も潜るのはいかにも唐十郎らしさがでている。 でも劇場とのマッチングが悪い。 役者の動きが再び小さくなってしまった。 「下谷万年町」の大きな池とは違い、むしろ水槽が得意の転移21を思い出してしまったわよ。 つまり今日の作品は下北沢の小劇場が似合うということね。 そして科白は唐十郎のいきなり接近してくる言葉で一杯だった。 諫早湾干拓堤防から浦上天主堂、天草四郎、人間魚雷までも、そして義眼から桜貝の鱗へと・・。 「唐十郎の集大成!」とチラシに書いてあったが戯曲としては納得。 やすみ役の宮沢りえは李麗仙の乾いた大陸系の空気を引き継いでいるわね。 *劇場、 https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_doroningyo/

(中止)■影のない女

■作曲:R・シュトラウス,演出:ペーター・コンヴィチュニー,指揮:アレホ・ペレス,出演:菅野敦,渡邊仁美,橋爪ゆか他,演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団 ■東京文化会館・大ホール,2022.2.9-13 ■「新型コロナウィルス・オミクロン株の世界的な感染状況が悪化の一途をたどっている中・・、 2月の上演は実現不可能であるとの結論に達しました・・」。 二期会初の取り組みだったのに残念だわ。 コロナ下でのチケ購入後の中止は2020年2月以降から累計で35本になってしまった。 *二期会、 http://www.nikikai.net/lineup/die_frau_ohne_schatten2022/index.html

■世界の果からこんにちはⅡ  ■演劇で<世界>を変える、鈴木忠志論

□世界の果からこんにちはⅡ ■演出:鈴木忠志,出演:竹森陽一,内藤千恵子,塩原充知ほか,劇団:SCOT ■吉祥寺シアター,2021.12.18-24 ■演歌は進んで聴くことはないが聞こえると耳をそば立てる。 ラーメンはあまり食べないが大好きだ。 チャンバラ映画は近頃観ないが好きな方だ。 新幹線に乗った時は車窓から富士山を探してしまう。 ヤクザ映画はまず観ないが嫌いではない。 すべてに消極的な私だがこれに沿って日本人を意識したこともほとんど無い。 ぬるま湯に浸かってきたからだろう。 舞台は日本人とは何かを議論していく。 解説的場面が多いのでいつもの劇的感動はやってこない。 昭和時代から日本と生きてきた演出家が未来へ向けてメッセージを送っているような内容だった。 アフタトーク「ショベルカーとギリシャ・その後」(東浩紀x鈴木忠志)は都合で聞かなかった。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/115695 □演劇で<世界>を変える,鈴木忠志論 ■著者:菅孝行,出版社:航思社 ■2021.9.15発行 ■吉祥寺公演のチケット取得のついでにこの本も購入する。 8章で構成され、著者の企ては2019年を総括した1章に集約されている。 一言で表すと「鈴木忠志の演出と舞台は世界水準」である。 その指標を次のようにまとめている・・ 1.作品の持続的地域的な招聘実績 2.俳優訓練メソッドの世界的確立 3.他国でのレパートリー・シアター定期公演演目化 4.業績評価の国際的認知と機関顕彰実績 2章からは1960年代から時系列に沿って2018年までの劇団の歩みと作品の解説、批評や注釈で埋められている。 いつものことだが演劇関連の本は読み難い。 理由は対象作品の多くは舞台をみていないことに尽きる。 渡辺保著「 演出家鈴木忠志、その思想と作品 」では14作品が掲載されていたが今回は周辺作品にまで広げている。 注釈が多いので記録書として活用できる。 私が舞台を観る理由は、己の身体を通して世界の見方を変えられるからである。 しかし<世界を変える>舞台でないとそれが出来ない。 *出版社、 http://www.koshisha.co.jp/pub/archives/788

■牧野良三、舞台美術における伝達と表現

■感想は、「 牧野良三、舞台美術における伝達と表現 」      *話題になる語句は「オペラコンチェルタンテ」。

■あーぶくたった、にいたった

■作:別役実,演出:西沢栄治,出演:山本大輔,浅野令子,木下藤次郎,稲川実代子,龍昇 ■新国立劇場・小劇場,2021.12.7-19 ■舞台には電信柱が立っている。 そこに古びた国旗が垂れ下がっている。 下手の床は砂模様がみえ上手にポストが砂に埋もれている。 シュールな風景です。 これぞ別役特注美術です。 上演時間100分の10場で1場10分、でも全体のストーリーは繋がっていきます。 男1と女1の婚礼場面から始まり、・・子供が成長し、・・仕事が嫌になり、・・殺人事件に巻き込まれ、・・死期を向かえるという夫婦物語になっている。 最初の数場は夫婦が漫才をする数コマ漫画をみているようです。 科白の至るところに昭和のしがらみが感じられる。 楽しい対話ですが神経症的でどこか不気味です。 しかし、夫婦は時代の先取りをしている。 現代人の孤独を背負って生きているからです。 二人の悩む生活場面がジーンと胸にくる。 後半になって諄い部分もあったが、削ぎ落した役者の喋りや動きが活きていました。 数年前だが「 ハイキング 」(中野茂樹演出)をみて別役実に興味が湧きました。 あらゆる事柄の密度を上げると面白くなるという確信が持てたからです。 今回の美術や照明、小道具もそれに沿っている。 そして一番は「こつこつプロジェクト」の成果が出ていることでしょう。 <こつこつ>は別役作品と相性抜群かと思います。 *NNTTドラマ2021シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/bubbling_and_boiling/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 西沢栄治  ・・検索結果は2舞台。

■蝶々夫人

■作曲:ジャコモ・プッチーニ,指揮:下野竜也,演出:栗山民也,出演:中村恵理,村上公太,アンドレア・ボルギーニ他,演奏:東京フィルハーモニー交響楽団 ■新国立劇場・オペラパレス,2021.12.5-12 ■2017年からみているが演出家や舞台美術は今回も変わりがない。 ピンカートンが日本人歌手になったところが新しい。 でも違和感はあったわね。 蝶々夫人が日本人の場合はピンカートン役は日本人以外が似合うはず。 米国との法律や宗教そして文化や生活までを比較している作品だから。 「悲劇に至る背景までを感じてほしい・・」。 中村恵理のインタビューの通りの内容になっていた。 近代日本からやってきたような衣装や小道具類、親戚や隣人、母と子そして科白などなど。 その細かいところすべて、特に男と女の関係が観客に突き刺さる。 今でも近代日本を引きずっているのがわかる。 現代にも通じるから悲劇が体感される。 涙なしでは観ていられない。 歌唱は、この劇場の特長を生かして、澄み切った空間を伝わり心の底まで届いていた。 特に蝶々夫人は言うことなし。 米国旗は物語が煮詰まってきたら降ろしたほうが良い。 これはいつもの提案よ。 そして階段を降りる場面は転びやしないかとハラハラする。 なんとかできないかしら? *NNTTオペラ2021シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/37_021780.html *追記・・ピンカートン役は当初ルチアーノ・ガンチだったのね。 今ニュースをみて知った。

■帝国月光写真館

■作:高取英,音楽:J・A・シーザー,演出:流山児祥,出演:塩野谷正幸,伊藤弘子,里美和彦ほか,劇団:流山児★事務所 ■スズナリ,2021.12.8-12 ■物語りの修飾が厚くて嬉しい混乱が続きますね。 最後にじわっとみえてくるのが1940年代という時代の雰囲気です。 具体的な当時の映像や事件が多く出てくるからでしょう。 「三原山自殺事件、新興宗教弾圧、日本軍の動向、月光写真や幻視複製機などなどが虚実入り混じり・・」。 わくわくどきどきですね。 「新作音楽劇」と書いてあったが歌唱は多くない。 怪人二十面相との繋がりは知りませんが、むしろ少年冒険活劇と言ってよい。 テーマはボケましたが1940年は現代と繋がりたいらしい。 なにもかも詰め込んだ凝縮の強さが現れていました。 舞台をみながら先日の「地球空洞説」を思い出してしまった。 期待していたがツマラナカッタからです。 途中の休憩で劇場を後にしてしまった。 理由は多々あるが、やはり劇場が合わなかった(?) IMAホールという多目的劇場です。 ガラーンとした無機質感漂う空間での寺山修司作品&高野美由紀演出は似合わない。 役者が登場し舞台中央に行くのに10歩はかかる。 小劇場系の役者が10歩も歩けますか? 5歩が限度です。 劇団と劇場は切り離せません。 高野美由紀も流山児祥も凝縮力ある舞台が命です。 歩数の少なさもその力を高める一つの手です。 今日のスズナリを観てそう感じました。 *高取英メモリアル2021作品 *CoRich(帝国月光写真館)、 https://stage.corich.jp/stage/115637 *CoRich(地球空洞説)、 https://stage.corich.jp/stage/114930 *「ブログ検索」に入れる語句は、 流山児祥  ・・検索結果は5舞台。

■検察官

■作:ニコライ・ゴーゴリ,演出:レオニード・アニシモフ,劇団:東京ノーヴイ・アート ■梅若能楽学院会館,2021.12.4-5 ■チラシには笑劇と書いてある。 登場者の髪型や鬚をみてもそれが分かります。 地方の領主や小役人が都会から来た放蕩息子を監査人と間違えてしまう「間違いの笑劇」でした。 まるで日常から抜け出してきたような喋り方ですね。 役者たちが科白を喋っている感じがしない。 <静かな演劇>とは違う静けさがある。 この劇団の特長です。 しかも今回は関西弁(?)ときている。 そして舞台は漫才を次々と繋げていくような流れになっている。 例えば市長と病院長、市長と判事、市長と郵便局長、市長と妻、妻と娘等々、漫才大会ですね。 変わった舞台でした。 静かな笑いがあった。 この劇団からはいつも驚きをもらいます。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/11584

■アルトゥロ・ウイの興隆

■作:ベルトルト・ブレヒト,演出:白井晃,出演:草彅剛,松尾諭,渡部豪太ほか,音楽:オーサカ=モノレール ■神奈川芸術劇場・ホール,2021.11.14-12.3 ■2005年のハイナー・ミュラーと2020年の白井晃の両舞台は見逃している。 今回やっと観ることができた。 それは2018年の白井晃X草彅剛「 バリーターク 」が面白かったこともある。 今日は観客の9割が若い女性で驚く、硬い作品だが。 役者の贔屓筋かな? 音楽劇とは知らなかったが期待以上だった。 ナチスをシカゴのギャング団に置き換えた作品である。 団のボスであるルイが支配者にのし上がっていく過程を描く。 ルイ役草彅剛は青白い化粧と鋭い目つき、金玉を握りベロ出す姿はヒトラーの亡霊のようだ。 ダンスがもう少し上手ければ言うことなし。  ファンクのジェイムズ・ブラウンの楽曲を背景に赤系衣装で統一した楽団、ダンサー、役者が激しく歌い踊りまくる舞台だ。  加えて観客をも挑発してくる。 いつのまにかヒトラーの大好きな、あの熱狂が場内に充満してくる。 いつの時代になっても1930年代党大会の熱気は時空を越えてじわっとやって来る。 ところでギャングとナチスの関係を字幕で解説するのは興ざめする。 でも字幕がなければ関係がぼやけそうで悩ましい。 ルイの教師役として小林勝也が再び登場したが作者がブレヒトだったことをあらためて思い出させてくれた。 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/arturoui2021

■鷗外の怪談

■作・演出:永井愛,出演:松尾貴史,瀬戸さおり,味方亮介ほか,劇団:二兎社 ■東京芸術劇場・シアターウエスト,2021.11.12-12.5 ■幸徳秋水は舞台でよく見かける。 昨年末の「 太平洋食堂 」は大石誠之助、そして今年7月の「 一九一一年 」は大逆事件の判事が主人公でした。 今回は、この事件に森鷗外が関わっていたこと、しかも当弁護士が登場し、さらには女中が大石誠之助と同郷だったことなど驚きの場面が続く。 トリロジーが形作られたと言ってよいでしょう。 そして鷗外は体制側の人間として不当逮捕不当裁判に苦しんでいく・・。  この舞台は政治と共に鷗外の家族そして文壇の話が盛り込まれていて目に暇ができない。 二人目の妻しげとのすれ違い、嫁姑の喧嘩、永井荷風の自然主義批判、早稲田文学と三田文学の対決、また当時の芝居の話も楽しい。 親友の賀古鶴所、文芸スバル担当かつ弁護士の平出修を含め、架空の女中を入れて7人で鷗外の内と外を剥がしていきます。 でも「鷗外はどういう人だかわからない」と言われていた。 彼が何でも屋だったのも一因でしょう。 *二兎社公演45 *劇場、 https://www.geigeki.jp/performance/theater285/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 永井愛

■DANCE to the Future 2021 Selection ダンス・トゥ・ザ・フューチャー

■監督:吉田都,アドヴァイザー:遠藤康行,振付:木村優里,木下嘉人,高橋一輝,柴山紗帆ほか,貝川鐵夫,上島雪夫,出演:新国立劇場バレエ団 ■新国立劇場.中劇場,2021.11.27-28 ■7作品で構成されている。 2011年再演の「ナット・キング・コール組曲」を除いた6作品の中で気に入ったのは下記の2点。 一つは「コロンバイン」(高橋一輝振付)。 3組のペアが登場しバレエ、ダンス、パフォーマンスを混ぜコミカルな動きも取り入れている。 少し荒いところもあったが・・。 衣装は昭和時代の若者風で背景のボヤケた花模様や音楽がレトロ感を漂わせている。 タイトルは植物のオダマキを指らしい。 アメリカ合衆国の国花でもある。 「アメリカン・グラフィティ」を思い出してしまった。 過去の記憶が次々とやって来て舞台を想像で広げることができた。 二つめは「神秘的な障壁」(貝川鐵夫振付)。 天女のような姿のダンサーが一人踊る作品。 タイトルの障壁とは逆に、自然の中を自由に滑らかに飛び回る気持ち良さがある。 音楽にのったリズムも心地よい。 作品の多くは断片を抜き出したような舞台が多く中途半端な感が否めない。 照明が暗くなり(カーテンコールの)拍手のあと再び明るくなって続きを踊る作品も幾つかあった。 納得ができる終わり方が必要である。 観客の拍手も早すぎる。 義務義理に縛られ過ぎているからだ。 余韻を楽しむこともできない。 *NNTTダンス2021シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/ *「ブログ検索」に入れる語句は、dance to the future

■ニュルンベルクのマイスタージンガー

■作曲:R・ワーグナー,指揮:大野和士,演出:イェンス・ダニエル・ヘルツォーク,出演:トーマス・ヨハネス・マイヤー,アドリアン・エレート,林正子ほか,演奏:東京都交響楽団 ■新国立劇場・オペラパレス,2021.11.18-12.1 ■場内は・・満席に近いかな? 昨年の中止の反動もありそう。 開幕が14時で終了は20時。 関係者の体力維持は大変ね。 カーテンコールの指揮者をみてもそれが分かった。 作品を劇中劇に仕立てたらしい。 舞台上には客席もみえるから劇場中劇場の構造なの。 でもその効果は薄かった。 劇場中劇場はなんとか保ったが、劇中劇は物語が混ざりあい一つにみえてしまったからよ。 二つの劇の間を行き来する驚きがやって来なかった。 そして、ザックスの仕事場や事務室はあまりにもモノに溢れていたわね。 彼の世界は修飾し過ぎで身動きが取れない。 でも彼はヴァルターが新しい世界の人間だと確信してエーフェへの愛を諦める。 オチはヴァルターが自身のマイスター肖像画を破り捨てエーファと退場する終幕。 これは古い殻を破ろうとするザックスより過激だわ。 演出家の意図が現れていた。 解説的舞台に陥る可能性が大きい作品だけど今回はこれにハマってしまったかな? 躍動感がなかった。 劇場中劇場のマイスターやコロスの動きが煩雑で骨太のワーグナーと合わない。 ひと塊の群衆に括れない。 字幕の詩の説明が本格的でリズムに乗れない。 演出家の考え過ぎよ。 3幕、結婚の承認とダーヴィットの職人昇進の4場からやっと楽しくみることができたけど。 歌唱では若さを発揮していたダーヴィットが前半目立っていた。 ザックス、ボーグナー、ヴァルター、ベックメッサーは無難に熟していた。 舞台上に作られた舞台での歌唱は減衰しているように聞こえる。 舞台の奥と前との差が大きい。 劇場が広いから? エーファは存在感を増せばより華やかになったかしら? ワーグナーは緊張感を維持して観ないとつまらない。 その緊張感が途中で固まってしまった舞台だった。 *NNTTオペラ2021シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/diemeistersingervonnurnberg/

■桜の園

■作:アントン・チェーホフ,演出:ダニエル・ジャンヌトー,ドラマツルギー:ママール・ベンラヌー,出演:鈴木陽代,布施安寿香,ソレーヌ・アルベル他,劇団:SPAC ■静岡芸術劇場,2021.11.13-12.12 ■役者のマスク姿を見たとたん2月の「ハムレット」を思い出してしまった。 顔半分の表情は諦めるしかない。 それにしても変わった舞台です。 暗みがかった何もない舞台、背景に雲を映し出し、遠方に雷光も、ときどき鳥が飛んでいくのがみえる・・。 この暗さはマスクを意識させない? そして役者の動きと喋り方に間(マ)を効かせ独特な存在感を作り出している。 どこか近未来的ですね。 私の好みです。 しかも舞台の下に字幕があり目の動きが楽に感じる。 横壁は字幕を見るときに舞台から目が離れてしまう。 中央下を標準にして欲しい。 でも舞台を一段高くして距離を取ったので可能になったのでしょう。 コロナ予防にもなり一石二鳥ですね。 今回も神西清訳を読んでから静岡に向かいました。 このため台詞は既知として耳に入る。 しかしロパーピンとワーリャの破談は胸に迫ってこなかった。 当時の階級を意識した舞台だったからでしょう。 帰りの新幹線内で安達紀子の解説を読んで分かりました。 ロパーピンとラネーフスカヤにあった階級の 深い溝がそのままワーリャに続いていたということですね。 3年前に演出家の「ガラスの動物園」を観ていますが今回のほうが完成度が高い。  それにしてもチェーホフは本より舞台が何故こんなにも面白いのか? マスクがなければ言うことなしでした。 *劇場、 https://spac.or.jp/au2021-sp2022/thecherryorchard_shizuoka

■十一月歌舞伎「一谷嫩軍記」

*「一谷嫩軍記 いちのたにふたばぐんき」から序幕「御影浜浜辺の場」,二幕目「生田森熊谷陣屋の場」を観る。 ■作:並木宗輔,出演:中村芝翫,中村錦之助,中村松江ほか ■国立劇場・大劇場,2021.11.2-25 ■「熊谷陣屋」の演出・演技には芝翫型と団十郎型がある。 今回は上演機会が少ない前者らしい。 気にしないでみていたが、ダイナミックな感が一段とある。 御影浜から始まる舞台は弥陀六が物語をサンドイッチにしてまとめている印象が強い。 弥陀六役鴈治郎の演技も平家側の緊張感が出ていた。 ところで敦盛の存在を感じさせる舞台だが能「敦盛」にはご無沙汰している。 舞台をみながら思い出してしまった。 好きな作品だが長らく観ていない。 能や歌舞伎へ再び接近しだしたのでスケジュールに入れたい。 *国立劇場開場55記念作品 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2021/3110225.html?lan=j

■The New Gospel 新福音書

■監督:ミラ・ロウ,出演:イヴァン・サニェ,パパ・ラティア・フェイ,サミュエル・ジェイコブス他 ■vimeo・配信,2021.11.13-28 ■東京芸術祭4本目の配信を観る。 舞台を撮影した映像ではなく映画として作られていました。 ・・アフリカからイタリアへやってきた移民労働者の政治活動をドキュメントした内容のようです(?) イエス・キリストを主人公とした映画の作成過程を映しているようにもみえる? 役者イエスは活動家らしい? この映画はパゾリーニ監督「奇跡の丘」に似ている? なんと本物の「奇跡の丘」の断片まで挿入してある! イタリア市民と移民たちに取り囲まれながら、最後の晩餐、ペテロの裏切り、そしてイエスの磔へと進んでいく・・。 複雑な構造を持っています。 これらが溶け合い一つの流れになっていく。 現代の移民とイエスの時代が重なって立ち現れてくる。 革命家イエスはいつの時代にも我々の隣にいる。 久しぶりに骨のある映画に出会いました。 *東京芸術祭2021参加作品 *芸術祭、 https://tokyo-festival.jp/2021/program/newgospel/

■更地

■作:太田省吾,演出・美術:杉原邦生,出演:濱田龍臣,南沢奈央,カンパニ-:KUNIO ■世田谷パブリックシアター,2021.11.7-14 ■日常の些細な喜怒哀楽を積み重ねながら・・、いつしか振り返るとそこに人生の幸せが確かにあったと思える。 更地の舞台に日常を運び入れて過去を語り始める男と女・・。 でも二人称の経験は幻想だったかもしれない? 違和感があったのは二人が若すぎるからでしょう。 振り返る余裕は無い。 でも乾いた舞台のためか若さを越えて人生のカラッとした染み染み感は伝わってきました。 大きな布を舞台に覆うのは人生を一新させる為でしょうか? 「なにもかも、なくしてみる」。 満点の星空もです。 日常を詩にしたような、賑やかさもある、舞台でした。 記録をひっくり返したら1996年に藤沢市民劇場で観ていました。 でも記憶がまったく無い。 出演は岸田今日子と瀬川哲也で当時はたぶん60代。 今日の舞台も歳が過ぎれば忘れてしまっているでしょう。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/202111sarachi.html

■能楽堂十一月「無布施経」「忠度」

*国立能楽堂十一月定例公演の下記□2作品を観る。 □狂言・無布施経 ふせないきょう■出演:小笠原由祠,野村万蔵(和泉流) □能・忠度 ただのり■出演:塩津哲生,殿田謙吉,大日方寛ほか(喜多流) ■国立能楽堂,2021.11.10 ■「忠度自身の行動に敬語が多く用いられている・・」と天野文雄の著にあるが舞台上にその理由がみえる。 忠度は一ノ谷で六弥太に首を落とされるが、そこでシテ忠度に六弥太が乗り移ったかのようになって死んだ忠度を実検する。 つまり一人二役を演じているからである。 それも混ざり合ったような二役になっている。 六弥太が短冊を確認した後「行き暮れて・・」を詠みながらぼやけていくからだ。 そして何故に忠度は幽霊として現れたのか? それは藤原俊成に仕えていた僧に会えて忠度は単純に懐かしさが抑えられなかったのだと思う。 千載集に「詠み人知らず」として採られたからではない。 それは謡の抑揚から分かる。 詞章の上では理解していたが舞台をみて身体的に納得した。 能や歌舞伎は感動や疑問の箇所がいつも微妙に替わる。 それは謡・舞・囃子の毎次の差異からくる。 *公演チラシ(表)、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0311_omo.jpg *同(裏)、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0311_ura.jpg

■カルメン

■作曲:ジョルジョ・ビゼー,指揮:大野和士,演出:アレックス・オリエ,出演:ステファニー・ドゥストラック,村上敏明,アレクサンドル・ドゥハメル,砂川涼子ほか,演奏:東京フィルハーモニー交響楽団 ■OperaVision・配信,2021.10.18-  2022.1.18 (新国立劇場,2021.7.8収録) ■カルメン役ステファニーは適役ね。 彼女が出演するから観ることにしたのは正解だった。 ドン・ホセの村上敏明、ミカエラ役砂川涼子も存在感があったわよ。 エスカミーリョはもう少しハリが欲しい。 警官がたくさん登場して「事件でもあったのかしら?」という雰囲気の舞台。 前半のジプシー周辺は昭和のバーやクラブのようでレトロな感じがする。 彼らをヤクザに見立てたのかしら? でも後半の工事現場は盛り上がらないわね。 特にカルメンが殺される場面は索漠としている。 この劇場が持っている希薄な空間がそうさせたのかもしれない。 演出の狙いかもね。 ところでカルメンや女性たちの入墨がマジックで描いたようで安っぽい。 ここは入墨より衣装などで修飾したほうが映えたかな? それにカード占いの女性陣のトレーナー姿も場違いにみえ、ドン・ホセのスーツも地味過ぎる。 衣装はまとまっていなかった。 演奏と歌唱で勝負した舞台だった。 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_021138.html

■廻る礎

■脚本・演出:中村ノブアキ,出演:谷仲恵輔,福田真夕,宮越麻里杏ほか,劇団:JACROW ■座高円寺,2021.114.11 ■吉田茂の回顧録のような内容だった。 十数人のキャストには、鳩山一郎、片山哲、芦田均、岸信介、山口シズエ、田中角栄、園田直、池田勇人、佐藤栄作など当時の政治家がズラリと並び、吉田茂率いる自由党の活躍で新憲法を軌道に乗せるため戦後からサンフランシスコ講和条約までを描く。 特に天皇戦争責任、芦田修正、警察予備隊などの節目が印象に残る。 そして憲法護持と改正の垂れ幕が下り終幕となる。 日本の民主主義の礎を腐らしている要因は天皇・皇室の位置付けにある。 憲法改正ならば一条から八条の廃止つまり天皇・皇室を解体すべきである。 舞台でも天皇の戦争責任は通底に響いていたが政治家は触れたがらない、GHQはそれを利用したが。 八条迄と九条は表裏の関係として作られている。 九条を骨抜きにするなら八条迄を同時に廃止する。 これが改正の必要条件だろう。 初めて観る劇団だ。 客席を見渡すと・・、40代から60代男性が6割を占める。 劇団のHPをみると・・、「大人が楽しめる小劇場」とある。 舞台幅がある劇場の特徴を巧く使ってのスピーディーな展開で、途中ゆるむことなく最後まで走り切った舞台だった。 *劇場、 https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2544

■歌舞伎座十月「天竺徳兵衛新噺」「俄獅子」

*10月大歌舞伎第一部の2作品(下記□)をWEB経由で観る。 ■MIRAIL・配信,2021.10.30-11.19(歌舞伎座, 2021.10収録) □天竺徳兵衛新噺,小平次外伝 てんじくとくべえいまようばなし ■作:四世鶴屋南北(「彩入御伽草」より),出演:市川猿之助,坂東巳之助,中村米吉ほか ■小平次の女房おとわをよく見ると猿之助に似ている!?、・・配役リストを開くと一人二役だった。 夫婦を一人で演ずるとはさすが猿之助。 しかも亭主を惨たらしく殺してしまう女房おとわの恐ろしさが出ている。 小平次は幽霊になっても女房との早替りは尋常ではない。 替わるのがいつもより0.2秒も速い。 まさか映像編集ではないと思うが。 他作品ではこれほど速くない。 加えてこの作品はセックス&バイオレンス系に近い。 江戸時代の日常の延長としての性と暴力が描かれている。 これらを1時間に詰めているからスピード感ある娯楽作品になっている。 尾形十郎役の尾上松也が悪漢を成敗し幕が下りるのも後味が良い。 □俄獅子 にわかじし ■出演:尾上松也,坂東新吾,市川笑也 ■「小平次伝」では脇役だった尾上松也が鳶頭となり芸者と楽しく踊る舞台だ。 手獅子や「おかめ」「ひょっとこ」の面などを持ち出す。 これは「吉原俄」と言ってよいのかな? 吉原を描いたしゃれた歌詞だが字幕を入れて欲しい。 *歌舞伎座、 https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/728

■フタマツヅキ

■演出:横山拓也,出演:モロ師岡,杉田雷麟,清水直子ほか,劇団:iaku ■シアタートラム,2021.10.28-11.7 ■父子の確執が激しい芝居です。 ここまでいくのは珍しい。 その前に息子は家を出る。 この舞台も息子が家を出ることで確執が解けた。 これしか方法が無い。 確執の原因が母にあると考えたが結局は分からなかった。 舞台の時間が二重に動いていたのが見えなかった。 父の克(すぐる)がギャラリーをクビになった場面で過去と現在の両夫婦の名前が一致していることに気が付きました。 嬉しい驚きです。 この並行して進む時間が鹿野夫婦の人生を浮かび上がらせてくる。 二人の結婚から息子が離れていく間の30年という年月をです。 妻雅子(まさこ)は夫に尽くしてきたが彼はそのことに疲れ切ってしまった。 「家族とは単なる入れ物だ」「己自身が好きなように生きろ」。 どちらも疲れた言葉です。 二人の人生を初めさせ、人生を壊し、人生を再生させる要因が夫の職業(落語家)だったのも驚きでした。 職業は人生を左右させますが、主役を人生にさせる職にしたいものです。 二人は苦闘の末にこれを獲得した。 感無量です。 ところで舞台に門のような額縁が作られていた。 これは何なのでしょうか? *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/202110iaku.html

■Learning from the Future  ■「映像のパフォーマンス」オンラインディスカッション

□Learning from the Future ■振付:コレット・サドラー,出演:リア・マロイエヴィッチ ■vimeo・配信,2021.10.29-11.8(イギリス,2019) ■東京芸術祭3本目の映像作品です。 舞台は暗く中央に直方体らしきものが置いてある。 「宇宙の旅」モノリスですか? 一人のダンサーがその回りを踊り続ける。 ダンサーの表情や衣装そして頭部を動かさず胴体や手足を等速度で動かし歩く姿はアンドロイドを思い出させます。 加速度は生物的ですが等速度は無生物に近づいていく。 幾何学的振付が入ると尚更です。  直方体のモノリスが効果を発揮していますね。 まるでモノリスが主でダンサーのアンドロイドが従のようにもみえる。 この主客逆転が交互にやってくる。 面白い舞台でした。 *東京芸術祭2021参加作品 *東京芸術祭、 https://tokyo-festival.jp/2021/program/learning/ □「映像のパフォーマンス」 ■司会:長嶋確,,出演:岡田利規(演劇),竹下暁子(パフォーマンス),深沢晃司(映画) ■東京芸術祭・配信,2021.10.29-11.30 ■生舞台とそれを撮影した映像は何が違うのか? これを議論しています。  出席者の印象に残った言葉を列挙すると・・。 カメラのファインダーに見える像が全てである。 役者が自分自身を見ることができる。 目の機能はカメラと比較できないくら優秀だ。 カメラは観客だ。 ダンスは鏡をみて作成するから映像で見ても違和感が少ない。 ・・等々。 感動した芝居を映像で見たらツマラナカッタ、それは何故か? 答えは3次元舞台空間の役者達の表情や動きの全てを2次元カメラは捕えることができないから。 生舞台では空間全てに張めぐされた関係性を観客は一瞬で掴める。 ほんの些細な視線のズレなどをです。 目が脳と合体している為でしょう。 また舞台は空間、映像は時間の芸術とも言える。 <場所>という言葉が議論になったが、これは空間と解釈しました。 6月のブログ「室伏鴻」で写真家金村修は「なぜ室伏鴻のダンス映像は新鮮なのか?」を問うています。 室伏は自身の肉体を記号化・物質化できる力がある。 映像は生命と非生命を区別しない特長がある。 室伏はこれに合致するから新鮮にみえる。 このことも思い出してしまいました

■シャルリー、茶色の朝

■作:フランク・パヴロフ,作曲:ブルーノ・ジネール,演出:クリスチャン・レッツ,出演:アデール・カルリエ,アンサンブルK ■神奈川県音楽堂,2021.10.30-31 ■プログラムは・・、 第1部アンサンブルKによる室内楽コンサート 第2部フランク・パヴロフ作「茶色の朝」にもとづくポケット・オペラ 第3部作曲家ブルーノ・ジネールを囲むクロストーク 先ずはクルト・ヴァイルに始まりパウル・デッサウ「ゲルニカ」で終わる第一部はそのまま第2部へ繋がっていくの。 「茶色い朝」では犬も猫も服も全てが茶色に染まっていく・・。 「1984年」や「アンネの日記」を思い浮かべながら観てしまった。 内容がシンプルなため第1部の<前奏曲>が効いているわね。 近未来の話だけど20世紀の狂乱の時代が入り混じり舞台に深みがでたわよ。 第3部はアフタートーク。 やなぎみわの名前が載っていたので楽しみにしていたが今日は高橋哲哉だった。 ブルーノ・ジネールはオンライン参加。 以下よりトーク内容。 質問(高橋)・・「ゲルニカ」を発見した経緯は? 答(ジネール)・・作品の消滅を避けるため採用した。 我が家族がスペインから亡命してきた過去もある。 問・・「セーヌ哀歌」「ユーカリ」を選択した理由は? 答・・フランスの反ユダヤ主義はドイツより酷かったから。 クルトは2年後米国へ逃げた。 問・・近衛秀麿を知っているか? リサーチをお願いしたい。 答・・知らない。 調べてみる。 問・・本では登場人物は男性だが? 答・・異化効果を出すため女性にした。 しかし重要なことではない。 問・・作者パヴロフの評価は? 答・・好奇心を持った人だ。 翻訳本がカラフルだったのを誉めていた。 問・・フランスはソフトな極右が伸びているが? 答・・ヴィシー政権やアルジェリア戦争をみて分かる通り昔から一定数はいる。 フランスは二面性がある。 問・・日本でも学術会議任命や愛知トリエンナーレで問題が起きている。 ソフトな極右は注意してくれ。 答・・芸術は最期の砦になる。 以上のような内容だったかしら? 欧州極右が増えた一つに難民問題があると思う。 解決できないと混乱が続くはずよ。 そして極右はいつの時代でもフレンドリーに近づいてくる。 よーく見極めないとね。 ところでこの劇場は舞台両脇に時計が掛けてあるの。 目障りだわ。 次回までに

■能楽堂十月「頼政」「飛越」「三井寺」

*国立能楽堂十月特別公演の下記□4作品を観る。 □能・頼政■出演:浅井文義,飯冨雅介,井上松次郎ほか(観世流) □狂言・飛越■出演:佐藤友彦,今枝郁雄(和泉流) □一調・遊行柳■出演:山本順之(謡),三島元太郎(太鼓) □能・三井寺■出演:高橋忍,中村優人,宝生欣哉(金春流) ■国立能楽堂,2021.10.30 ■床几に腰かけたままの頼政が交える所作は時折激しくなる。 面「頼政」も目をカッと見開いていて感情が高ぶっているのがわかる。 終幕、床几から立ち上がり刀を捨て次に扇を捨て消えていく。 そういえば前ジテは杖を捨てて立ち去っていたことを思い出す。 「三井寺」を観ながら「頼政」のことを考えてしまった。 「三井寺」のざわつく感じは登場人物の多さからきている。 しかも、まとまっていない。 そして生身の子役が現実の母子の姿に近づける。 「頼政」は頼政の表層でざわめく。 辺りは静かだ。 床几にかけたままの姿もそれを抑制したのだろう。 「頼政」は後味が残らない。 唯一、枯れはてた感覚だけがやってくる。 *公演チラシ(表)、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0310_omo.jpg *公演チラシ(裏)、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0310_ura.jpg

■ムジカエテルナ×サシャ・ヴァルツ、交響曲第7番

 ■作曲:L・V・ベートーベン,振付:サシャ・ヴァルツ,指揮:テオドール・クルレンツィス,管弦楽:ムジカエテルナ,舞団:サシャ・ヴァルツ&ゲスト ■NHK・配信,2021.10.24-(デルフォイ古代劇場,2021.6.5-6収録) ■交響曲第7番とダンスは初めてかな?、第9番はあるが・・。 サシャ・ヴァルツは「 松風 」を以前観ている。 楽団は劇場跡で演奏し、舞踊は神殿跡の前庭で踊る。 上空から劇場跡とその周辺を映すのだが素晴らしい眺めだ。 遠くの山々が輝いている。 朝焼けかと思っていたが演奏経過をみると夕暮れ時刻らしい。 ダンスは2章と4章に入る。 床が石畳や細かい砂利のため緩く巾のある振付になっている。 後半それが激しくなるが。 衣装は下が黒、上は肌色もしくは裸で廃墟に良く似合う。 ギリシャ映画をいろいろ思い出してしまった。 指揮者サシャ・ヴァルツも存在感がある。 第7番とギリシャもなかなかだ。 演奏とダンスが遺跡を介して結び付いている。  ムジカエテルナ、サシャ・ヴァルツ、ベートーベン、デルフォイ古代遺跡。 この4つの組み合わせがこんなにも面白いとは予想以上だった。 企画の上手さだろう。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/JZG18M1NKW/

■魔弾の射手

■作曲:ウェーバー,演出:カルルス・パドリッサ,指揮:クリストフ・エッシェンバッハ,出演:ベンヤミン・ブルンス,ジニーン・ド・ビック,アンナ・プロハスカ他,演奏:ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 ■NHK・配信,2021.10.10-(ベルリン・コンツェルトハウス,2021.6.17-19収録) ■無観客収録のようね。 客席を取り外してカメラが自由に動き回る。 しかも叙唱というより芝居に近い科白が時々入るの。 この二つでドイツ語の響きが耳に残る演劇的な舞台に仕上がっている。 自由度が有る為か、音響技術を最大限に生かした歌唱も十二分に聴かせてくれた。 満足よ。  天井を被う布が森になり、サーカス団員のような悪魔たちが登場し、また照明の明暗で教会の中に居るようにもなる。 鹿の剥製が並ぶ、その遠くには指揮者が見える。 粗筋は知っているようで知らなかった。 三幕は魔弾を手にした猟師マックスが婚約者アガーテを撃ってしまい悲劇的な幕引きになる?、と思ったら違った! 隠者が登場し弾を外し悪魔の仕業を失敗させるの。 そして二人の結婚を許す・・。 隠者とは誰か? 彼の付添人は水の中で泳ぎまわりプラスチックゴミを収集している。 森なのに海を連想させる。 演出家は何を考えているのかしら? でも悲劇場面を深追いせず素直な舞台でサッパリ感があった。 楽しかったわよ。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/XZJ582WRM8/

■A JOURNEY、記憶の中の記憶へ

■演出・振付:金森穣,出演:小林十市,金森穣,井関佐和子ほか,舞団:Noism ■神奈川芸術劇場・ホール,2021.10.16-17 ■配られたチラシをみて小林十市がローザンヌのバレエ団に所属していたことを知る。 金森穣と井関佐和子は知っていたが・・、ローザンヌ・トリオとは楽しい。 舞台の三人がとても親密だったことでもそれが分かります。 そして小林がスーツ姿で登場したのはなにゆえ? 「いまは役者をしている」と言ってましたね。 それは過去を辿る旅姿なのでしょう。 鞄には彼(彼ら)のローザンヌ時代が一杯詰まっている? 第一部「追憶のギリシャ」はボレロです。 でも何故ギリシャなのか? 第二部「The 80’s Ghosts」では何故80年代なのか? これは帰宅してからチラシをみてわかった。 ベジャールの詩ですね。 でもギリシャは分かりません。 そして小林のスーツ姿を受けて金森は、今ここで「記憶の更新」をして「新たな旅」へ踏み出そう! このように言っている舞台にみえました。 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/noism_juichi

■パリのアメリカ人

■作詞・作曲:ジョージ・ガーシュウィン,アイラ・ガーシュウィン,演出・振付:クリストファー・ウィールドン,出演:ロバート・フェアチャイルド,リャーン・コープ,ハイドゥン・オークリー他 ■東劇,2021.10.15-(ドミニオン劇場,2018年収録) ■舞台の完成度はピカ一ですね。 さすがミュージカルの古典といえる。 歌唱やダンスはもちろん、音楽・美術・照明・衣装・映像・大道具のどれをとっても申し分ない。 ダンス6割、歌唱2割、科白2割でダンスに比重を移している舞台です。 戦争の傷痕が生々しい。 でも新しい時代の解放感がみえる。 そして三人の男性が一人の女性を愛してしまう四角関係は珍しい、・・ピアニストのアダムが付け足しにみえますが。 ダンサーのリズはアンリと婚約したのに画家ジェリーのもとへ行ってしまう。 愛が社会常識を打ち破る物語ですが終幕がサッパリし過ぎにみえます。 でも、これ以上重くしたら現実に戻されてしまう。 最高の時間を過ごせました。 *松竹ブロードウェイシネマ *映画com、 https://eiga.com/movie/95465/

■能楽堂十月「仏原」「蝉丸」

*国立能楽堂10月の定例公演と普及公演の下記□4作品を観る。 ■国立能楽堂,2021.10-9 □蟹山伏 かにやまぶし ■出演:山本則俊,若松隆,山本凛太郎ほか(大蔵流) ■「二眼天を向き、一甲地に着かず、大足二足小足八足、右行左行して遊ぶ者の精だ・・」。 野村萬斎が子供番組でチョキチョキしているが生舞台を観るのは初めてだ。 □仏原 ほとけのはら ■出演:片山九郎右衛門,副王知登,山本泰太郎ほか(観世流) ■舞台の時間は進みが遅い。 それも無機質に近づいていくようなあっさり感が漂う。 観客は「平家物語」「祇王」を舞台に積み重ねながら時間を有機質に変えながらみていくのだが、それもいつしか霧のように消えていく。  □清水 ■出演:野村萬,野村万之丞(和泉流) ■「いで食らおう、アア、アア。ヤイヤイ、ヤイそこなやつ」。 □蝉丸 ■出演:武田宗和,山階彌右衛門,殿田謙吉ほか(観世流) ■揚幕がおもむろにあがり、橋掛りを歩いていく蝉丸とその一行の姿は劇的と言ってよい。 端折傘を持った二人の従者が蝉丸にぴたりと寄り添い、3歩下がって清貫がついていく。 身震いしてしまった。 良質の舞踏をみているようだ。 濃緑色の衣装もいい。 この場面だけで全てに満足してしまった。 プレトークがあった。 松岡心平の「蝉丸」を意識した「貴種流離の王女と王子」が題目。 松岡は問う、姉弟がなぜ一緒に暮らしていかないのか? 今昔物語や延喜帝、甲楽談儀のことを話し、次に梅原猛の価値の反逆者を論じ、山口昌男の王権論を支持し、日本神話のヒルコが逆髪にスサノオが蝉丸に生まれ変わった話で終わる。 先の問いの答えとして、流されることが宿命である貴種流離譚だから。 二人は流され続けなければならない・・。 *チラシ表、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0310_omo.jpg *チラシ裏、 https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/noh/2021/R0310_ura.jpg

■The Life and Times

■振付:ジョアン・クレヴィエ,舞団:スコティッシュ・ダンス・シアター ■vimeo・配信,2021.10.15-25(ダンディー・レップ・シアター,2021.6収録) ■「東京芸術祭」2本目の配信です。 それも配信用に作成された映像作品らしい*1。 この舞団の舞台は初めて見る。 基本の振付は数種類あるようです。 足裏を床から離さないで身体を等速度に動かす形が特に目立った。 しかし多くはパフォーマンス系に近い動きです。 板に車を付けた台車を活用し、それを引っ張ったり乗ったりして画面の左から右へ人の流れを作る。 ガイドに「テンプス・フギト(時は流れる)」とあったが、その<流れ>を意識しているようです。 撮影は70分でワンショットらしい。 しかもカメラも舞台に上がってダンサーの間をぬって撮影している。 これも<流れ>でしょうか? ところで、男女一組のコントのようなパフォーマンスを所々に挿入している。 パンを食べたり大工や料理をするが、最期に小麦粉で粉塗れになってしまう。 二人の演技は日常を思い出させます。 バロック系音楽はダンスに合っていたが、しかし「時が流れてる」ようには見えない。 日常場面とダンスが分離していた為でしょう。 ダンスも繋がらず積み重なっていかない。 むしろ「空間が流れる」に近い舞台でした。 ところで「時は流れる」を聞くと人生の儚さを考えてしまう。 この先入観が作品の見方を狭くしてしまったようです。  (以下よりインタビュー映像の感想) 付録のインタビュー映像(40分)を見る。 出席は振付家、ダンサー、撮影担当の3人、司会は長嶋確。 振付家ジョアンはコミュニティダンスを重視しているらしい。 これを聞いてダンサーたちの距離感や関係性に納得。 観客はカメラ視点を強制させられるので時間より空間を意識してしまったことにも納得。 バロックは絵画的と訳していたが強引すぎるかもしれない。 撮影はとても巧かった。 カメラマンに拍手! *東京芸術祭2021参加作品 *東京芸術祭、 https://tokyo-festival.jp/2021/program/lifeandtimes/ *1、生舞台をそのまま映像に収めた場合はブログのラベルを「映像」に、それ以外は「映画」にしています。 今回は「映像」にしました。

■ヴァネッサ Vanessa

■作曲:サミュエル・ハーバー,演出:キース・ウォーナー,指揮:ヤクブ・フルシャ,出演:エマ・ベル,ヴィルジニー・ヴェレーズ,エドガラス・モントヴィダス他,演奏:ロンドン・フィル・ハーモニー管弦楽団,グラインドボーン合唱団 ■NHK・配信,2021.10.11(グラインドボーン音楽祭歌劇場,2018.8.14収録) ■スタッフの目が隅々まで行き届いている美術・照明にみえる。 大きなガラス壁を挟み舞台を前後に分け二つの場面を同時進行させていくの。 壁は映写幕にもなる。 シンプルだけどとても繊細ね。 ソファーをみるとボロボロなの。 それが年季の入った模様にみえる。 時代も場所も分からない。 観後に調べたら1905年の北国のカントリーハウスとある。 でも演奏を聴いて連想するのはアメリカの映画音楽だわ。 舞台からは作者の故郷ペンシルベニアを思い浮かべてしまった。 ヴァネッサの時は20年間止まっている。 愛するアナトールの息子が訪問しても昔のアナトールで押し通す。 彼女はアナトールが好きになった姪エリカとの関係を壊し彼と結婚してしまう・・。 ヴァネッサの愛は直截に進む。 それはエリカにも言えるわね。 二人は誤ってしまうが人生は短い。 すべてが終わって、エリカはヴァネッサがしていたように鏡を布で覆ってしまう・・。 老いた者たちに安らぎを! 女性の生き方について考えさせられる舞台だった。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/XZJ582WRM8/

■アリアーヌ・ムヌーシュキン、太陽劇団の冒険  ■Me,My Mouth and I

□アリアーヌ・ムヌーシュキン,太陽劇団の冒険 ■監督:カトリーヌ・ヴィルプー,出演:アリアーヌ・ムヌーシュキン他 ■東京芸術劇場・プレイハウス,2021.10.6-10(フランス,2009年作) ■「金夢島」の公演は中止になってしまった。 残念です。 代替に映像4作品が上映された。 この中で「堤防の上の鼓手」は2001年9月に新国立劇場で上演、これを記念して演劇博物館で企画展「太陽劇団とオリエント」を開催したのを覚えています。 もう一度(映像だが)見たかったがスケジュールは満杯でした。 今回はドキュメンタ-「太陽劇団の冒険」のみを選択しました。 しかし劇団もムヌーシュキンもよく知らない。 この映画は団員が撮った記録映像を彼女が観ながらコメントする内容になっている。 劇中劇と同じ映画中映画の構造です。 彼女はアジアや映画にも接近し、演劇で世界を変えようとしている。 劇団員の平等で自主的な行動も深みが有る。 特異な劇団にみえます。 再びの来日を期待したいですね。 *東京芸術祭2021参加作品 *劇場、 https://www.geigeki.jp/performance/theater281/ □Me,My Mouth and I ■監督:ソフィー・ロビンソン,出演:ジェス・トム他 ■vimeo・配信,2021.10.1-11(2018年作) ■東京芸術祭に絡めたドキュメンタリー映画をもう1本みる。 これは配信です。 出演のジェス・トムはチック症のひとつトゥレット症候群を持っている。 彼女がサミュエル・ベケットの不条理劇「わたしじゃない」を上演するまでの経緯を撮った映画です。 舞台を創るためにベケット専門家、同症を持人々、脳性マヒの演劇人、視力障害の議員、ヒップホップアーティストなどと会い上演内容を詰めていく。 そして本番をむかえる。 チック症は演劇との相性が良い。 それは制御できない身体としての言葉が舞台を激しく変容させるからです。 チック症を演技する映画作品は時々みますが、演技しない演劇は初めてです。 意識に従わない身体を取り込んだ舞台は興味が尽きません。 *東京芸術祭2021参加作品 *東京芸術祭、 https://tokyo-festival.jp/2021/program/me/

■チェネレントラ Cenerentola

■作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ,指揮:城谷正博,演出:粟國淳,出演:ルネ・バルベラ,上江隼人,脇園彩ほか ■新国立劇場・オペラパレス,2021.10.1-13 ■舞台は映画制作の現場に仕立てているの。 そこはチネチッタかもしれない。 撮影用クレーンに乘る黒帽赤マフラー姿の監督は当にF・フェリーニだわ。 でもイタリアのネットリ感が無い。 劇場の乾いた雰囲気がそれを拒むから、そして華麗な美術・衣装からハリウッドを感じさせるから。 アンジェリーナ役脇園彩は自信がみえる。 タイトロールの名に恥じない歌いっぷりね。 王子ラミーロ役ルネ・バルベラはオペラ・ブッファの楽しさを持って来てくれる。 白塗り化粧と変わった髪型の合唱団も隅に置けない。 全体像は劇場得意の総合力で押し切った感じかしら。 相撲で言えば白鵬の強さね。 物語りは劇中劇を取っているようだけど<外の劇>と<内の劇>との関係がイマイチだった。 再び<外の劇>に戻らなければいけないのにそのまま<内の劇>で幕が下りてしまった(?)から。 まっ、それはどうでもいいの。 ロッシーニを久しぶりにエンジョイしたわよ。 シーズン開幕公演かつ新制作でも1階席を見回すと観客は6割の入りかな。 コロナの影響が続いていることがわかる。 ところで休憩中に客の一人が転倒してしまったの。 この劇場は転倒が多い。 理由は場内が広くホワイエから客席まで距離があり、しかも特有な階段仕様だから。 東京文化会館と比較しても客席を歩くときは倍の緊張感が必要よ。    *NNTT2021/2022シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/37_021257.html

■歌舞伎座八月「加賀見山再岩藤」  ■歌舞伎座九月「お江戸みやげ」「須磨の写絵」「近江源氏先陣館」「女伊達」

*八月花形歌舞伎から1作、九月大歌舞伎から4作の計5作品(下記の□)をWEB経由で観る。 ■MIRAIL・配信,2021.9.27-10.17(歌舞伎座, 2021.8,9収録) □加賀見山再岩藤,岩藤怪異篇 かがみやまごにちのいわふじ ■作:河竹黙阿弥,演出:市川猿之助ほか,出演:市川猿之助,坂東巳之助,市川男女蔵ほか ■八月花形歌舞伎(第一部)にあたる。 「三代猿之助四十八撰の内」とあるが今回は短縮版らしい。 その為か物語が非連続に流れていく。 しかし観ていて疲れない。 鳥居又助切腹の終幕は盛り上がった。 「市川猿之助六役早替り相勤め申し候」のため早替りの前後が特にクロースアップされている。 猿之助の演技はブレない。 ダンサーでいうと(直接比較はできないが)若い時のモーリス・ベジャールを感じさせる。 *歌舞伎座、 https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/722 □お江戸みやげ ■作:川口松太郎,演出:大場正昭,出演:中村芝翫,中村勘九郎,中村七之助ほか ■芝翫がお辻で勘九郎がおゆう役だった。 「のんきなおゆう、しまり屋のお辻」と聞いていたので途中まで芝翫がおゆう役とみていた。 この配役にした理由は後半にわかる。 宮地芝居が美貌の役者坂東栄紫に惚れこむのがお辻だから。 それも酒の勢いが必須ときている。 背負い呉服お辻の「一生一度の大尽遊び」は何とも言えない江戸の土産になっている。 □須磨の写絵,行平名残の巻 すまのうつしえ ■出演:中村梅玉,中村児太郎,中村魁春 ■在原行平と海女である姉妹の松風と村雨の別れの部分をほぼ舞踊で作られている。 行平は良い意味でボケを感じさせる存在感があった。 松風の細かい動きに違和感が少しあったがこれは演出なのか? □近江源氏先陣館,盛綱陣屋 おうみげんじせんじんやかた ■出演:松本幸四郎,中村雀右衛門,中村錦之助ほか ■和田兵衛と盛綱、盛綱と微妙、微妙と小四郎の対話には緊張感が溢れている。 それは首実検の場面でクライマクスに達する。 役者の動きと表情が観る者の心に食い込んでくる。 切腹で忠義を尽くすという劇的な行為が迫ってくる。 この作品は何回か観ているがいつも舞台に釘付けになってしまう。 □女伊達 おんなだて ■出演:中村時蔵,中村萬太郎,中村種之助 ■20分弱の舞踊劇だ

■冬の旅 Winterreise

■作曲:F・シューベルト,振付:クリスティアン・シュプック,指揮:ベンジャミン・シュナイダー,管弦楽:フィルハーモニア・チューリヒ,歌唱(テノール):マウロ・ペーター,舞団:チューリヒ・バレエ団 ■NHK・配信,2021.9.19-10.3(チューリヒ歌劇場,2021.2.12-13収録) ■小雪が舞う冷え冷えする舞台に蛍光灯の照明、黒系衣装に青白い化粧。 それに歌詞が呼応する。 死に寄り添う若き旅人。 にもかかわらずダンサーは身体の中心から手足をキリッと伸ばし機械のように正確な動きをする。 これで歌詞とダンスの関係に違和感が最初は続いた。 「冬の旅」は24の歌曲からなる。 舞台もそれに沿う。 後半に入り少しずつ舞台と同期していくのが分かる。 違和感が薄れていく。 旅人と同じ道を歩いている感覚に陥る。 終曲の「辻音楽師」は旅人が年老いた楽師についていく歌唱だが劇的である。 旅人は<あるがままに受け入れる>心境に達したのだ。 同時に24曲が一つにまとまり感動としてやってくる。 作曲した頃のシューベルトのことなど色々と考えてしまった。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/LRQY51M11G/

■娼婦・奈津子

■作:趙博,演出:金守珍,出演:広島光,島本和人,蜂谷眞末ほか,劇団:梁山泊,演奏:趙博,ジャン・裕一,神谷沙奈美ほか ■スズナリ,2021.9.11-20 ■いつもの梁山泊とは違ったリズムを持つ舞台でした。 二つあります。 それはバンドが入り役者も演奏し歌う場面が多い、そして法廷場面が長かったためです。 主人公奈津子が殺人を犯してしまった! ロック系の演奏と殺人罪の裁判を如何に同期させるかが見所です。 どうして奈津子が娼婦になったのか? 裁判で明らかにされていく。 義父との関係や母の傍観など衝撃的な過去が暴かれるが迫ってこない。 物語の深みへ降りていくところを演奏が代替したからでしょう。 奈津子は娼婦という<職業>にプライドを持っていた。 娼婦は職業や性の差別から逃れられないのか? 人生の大事な分岐点では報酬(カネ)は主役になれない! その答えを音楽で体感し考えてくれと言っているような舞台でした。 趙博の作品を金守珍が演出する舞台では演出家がいつも遠慮している。 作家に敬意を払っているとみました。 *新宿梁山泊第71回公演 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/113596

■ワーグナーの夢、メトロポリタン・オペラの挑戦

■監督:スーザン・フロムスキー,出演:ロベール・ルパージュ,デボラ・ヴォイド,ハンター・モリス他 ■MIRAIL・配信,2021.9.3-27(アメリカ,2012年作) ■ワーグナーのドキュメンタリーを続けてもう1本みることにしたの。 それは2010年にMETで上演されたロベール・ルパージュ演出の「指輪」制作過程を撮ったドキュメンタリー作品。 副題は「ニーベルングの指輪の舞台裏」。 もちろん当ブログに感想は載せているわよ。 当時のMETは動員数が減少していた。 しかも数十年にわたり舞台は変化してこなかった。 ワーグナーも1876年のバイロイト初演を認めていない。 ここで歌劇場の発展とワーグナーの夢を叶えるためルパージュが登場したということね。 今回は数十枚の板を串刺にしてグルグル回転する床が大きな話題かな。 重量は40トンもある。 ルパージュは北欧神話「エッダ」と地殻変動を繰り返すアイスランドをイメージしてこの舞台を作ったらしい。 でも本番までの道のりは大変、見ていてそう思った。 METマネジャーのピーター・ゲブルは「守りに入ったら(失敗したら)、国外に去る」とまで言っている。 「ラインの黄金」初日は(危険なので歌手の替りに)スタントマンがヴァルハラへ神々として入城するところが機械の故障でできない。 「ワルキューレ」ではブリュンヒルデが転んでしまう。 「ジークフリート」から指揮者が都合で交代、しかも本番4日前に主役も交代。 「神々の黄昏」は機械も正常稼働し問題なく幕が下りる。 (過去のことだけど)公演が無事に終わりホッとしたわよ。  この作品は映画館で観たが制作過程をみると生舞台でもう一度観たくなってしまった。 *METライブビューイング、 https://www.shochiku.co.jp/met/news/3690/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 ルパージュ

■さまよえるオランダ人  ■ワーグナー信仰、バイロイトから世界へ

□さまよえるオランダ人 ■作曲:R・ワーグナー,演出:ドミートリ・チェルニャコフ,指揮:オクサーナ・リーニフ,出演:ジョン・ルンドグレン,アスミク・グリゴリアン他,管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団 ■NHK・配信,2021.9.12-17(バイロイト祝祭劇場,2021.7.25収録) ■・・海も船もみえない無機質で小綺麗な街の、それは酒場であり広場でオランダ人船長は彷徨い続ける・・。 バイロイト得意の新解釈にはいつも戸惑ってしまう。 首吊りの光景は序幕からまさかの驚きね。 「・・母を死に追いやった男と社会に、復讐を果たす為に帰還した」と説明があった。 縊死した女は船長の母かも。 二幕の集会場で彼は銃を抜いて街の人を撃ってしまう。 そして三幕、街中に火の手が上がるなか(ゼンダの母)マリーはオランダ人を撃ち殺して幕が下がる。 ・・! 「さまよえるオランダ人」の伝説を皆が信じ込んでいる、特にゼンダはね。 ゼンダの恋人エリックもゼンダがオランダ人と去る夢をみる。 未来はすべて決められているの。 この舞台はマリーだけがまともな夢を見ていたということかしら? 4人の会食場面でもそれが分かった。 うーん、でも混乱する。 カーテンコールではゼンダへの拍手が大きかった。 次がエリックかな。 拍手の量と質で評価が分かるの。 船長は少し拍手が弱かった。 演出家が登場した時はブーイングが混じっていたわね。 演出の評価は分かれるとおもう。 ワーグナーの時空は突破できたけど着地は大きく揺れていたからよ。 現代社会に繋がる問題を感じさせたのは面白かったけど。 それでも、ワーグナーは転んでもワーグナー、を証明した舞台だった。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/YZQ9KM4JQ5/ □ワーグナー信仰,バイロイトから世界へ ■NHK・配信,2021.9.13-17(ドイツ,2021作成) ■世界のワーグナーファンを訪ね歩く旅なの。 先ずはヴェネツィアへ。 彼はこの地で客死している。 次にバイロイトへ。 ここで曾孫カタリーナ・ワーグナーが登場。 そして米国ニューアークへ。 ここから音楽評論家(名前は忘れた?)がナビゲーターになる。 スターウォーズもロード・オブ・ザ・リングもマトリックス

■ある八重子物語

■作:井上ひさし,演出:丹野郁弓,出演:篠田三郎,横島亘,藤巻るも他:劇団民藝,こまつ座 ■NHK・配信,2021.9.5-19(紀伊国屋サザンシアター,2021.6収録) ■時代は1941年から46年、柳橋で経営する古橋医院に出入りする人々を描いている作品です。 茶の間には水谷八重子の写真が飾ってある! ここの住人、院長から看護師事務員そして女中まで新派が好きで好きでたまらない。 日々のなか鏡花の名セリフを競い合っている。 医院は新派中毒患者で一杯です。 舞台には時代の雰囲気が漂い町内の小さな事件や日常のこまごまとした生活がみえてきます。 しかし新派の話題が戦中戦後の暗さを吹き飛ばしている。 とは言っても大きな事件は登場しない。 院長と芸者花代との恋愛事件、芸者ゆきえの弟が「女形の研究」を論じ演じる場面、花代の父が打つ拍子木の回想くらいです。 井上ひさしが持つ、いつもの毒が無い。 たぶん新派への敬意を表す作品として作ったのかもしれない。 それで納得しました。 *劇団民藝+こまつ座公演 *劇団民藝、 https://www.gekidanmingei.co.jp/performance/2021special_aruyaekomonogatari/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 井上ひさし

■SICF20 Winners Performance

■スパイラルホール,2021.9.11-12 *SICF(スパイラル・インディベンデント・クリエイターズ・フェスティバル)パフォーマンス部門受賞者3組による共演(下記□3作品)。 □FLAG ■振付・出演:加藤弥生,出演:加藤裕子,杉村優理恵,西村唯起子ほか,舞団:ハハダン ■客席に小学生が多かったのは「ハハダン」の応援に来ていたのね。 この舞台だけみて帰っていったからよ。 それにしても動きの多くが素人舞団のようだった。 それは音楽に一番の原因がある。 50年前の映画音楽を繋げたような勇ましい曲は大きな布を旗のようになびかせるのには良いけど・・、ダンサーを粗くさせてしまった。 元気が取柄の舞団かな。 そして、すべての母にエールを! □住処 ■振付:三東瑠璃,出演:安心院かな,金愛珠,堺佑梨ほか,舞団:Co.RuriMito ■三東瑠璃の作品はこれで3本目。 床に折り重なり這うようにゆっくり動き回る6人。 アクロバット的な要素が多いかしら? 音楽も照明も含めて完成度が高い。 □パン ■振付:橋本ロマンス,出演:YO,HIBARI,MINOR他 ■「都市、止めどなく生成される焦燥感と怒り、行き場のないエネルギー・・」。 原宿より動きの激しい新宿が似合う舞台ね。 都市風景の断片を繋げていく若者の姿が巧く表現されている。 少しバラケ過ぎている感じがしないでもない。 照明が巧い、衣装も良し。 橋本ロマンスの生舞台は初めてよ。 ダンスはコマメに足を運ばないと観客として錆びついてしまいそう。 *劇場、 https://www.spiral.co.jp/topics/sicf20-winners-performance *「ブログ検索」に入れる語句は、 三東瑠璃

■歌舞伎座八月「真景累ヶ淵」「仇ゆめ」「源平布引滝」「伊達競曲輪鞘當」「三社祭」

*歌舞伎座八月公演(第二部・第三部)の下記□5作品をWEB経由で観る。 ■MIRAIL・配信,2021.9.2-22(歌舞伎座, 2021.8収録) □真景累ヶ淵,豊志賀の死 しんけいかさねがふち,とよしがのし ■口演:三遊亭円朝,出演:中村七之助,中村児太郎,中村鶴松ほか ■先ずは第二部「真景累ヶ淵」から・・。 怪談噺だが時々笑ってしまう。 驚しさは無い。 新吉の献身的介護や豊志賀の独占愛が幽霊という異次元にかき消されてしまった。 七軒町隣人の話しぶりは落語そのままである。 多くの場面が落語から逃げきれていないようだ。 このため中途半端にみえる。 落語で聴く方が想像力が働くかもしれない。 □仇ゆめ あだゆめ ■作・演出:北條秀司,出演:中村勘九郎,中村七之助,中村虎之介ほか ■これは楽しい。 狸風ムーンウォーカーもできている。 舞師匠や店旦那に狸が教えるおばた踊り?も笑える。 前作の豊志賀役中村七之助は熟れていなかったが(これは演出?)、この深雪大夫役では動きや表情が活き活きしていた。 後半はしみじみ調になる。 まさに御伽噺舞踊劇だ。 □源平布引滝,義賢最期 げんぺいぬのびきのたき,よしかたさいご ■作:並木千柳,三好松洛,出演:松本幸四郎,中村梅枝,中村隼人ほか ■物語りが展開していくリズムはとても気持良く感じる。 待宵姫の小万への嫉妬、義賢の葵御前や待宵姫との別れなど細かい感情表現もこのリズムに乗っている。 よく練られている。 後半は義賢最後の場面が続き心地よいリズムが消えてしまったのが惜しい。 「戸板倒し」や「蝙蝠の見得」「仏倒し」は嬉しいが、これを入れる為に単調になったのは否めない。 「実盛物語」を続けて観ればこのチャンバラ場面が生き返ってくるのだろう。 今回は二段目のみの上演。      □伊達競曲輪鞘當 だてくらべくるわのさやあて ■作:四世鶴屋南北,出演:中村歌昇,中村隼人,坂東新悟 ■三味線が聴こえる幕開けからウキウキしてしまう。 伴左衛門と山三による「渡りぜりふ」を聴いて再びリズムに乗ってしまった。 作品の選択・順序が巧い。 これは第二部でも言えた。   □三社祭 さんじゃまつり ■作:二代目瀬川如皐,出演:市川染五郎,市川團子 ■この軽快でシンプルな振付は江戸時代の体操舞踊といってよい。 ここまで来ると八月の目玉である第一部もみたくなってしまっ

■ル・パルク  ■プレイリスト#1

□ル・パルク ■振付:A・プレルジョカージュ,音楽:W・A・モーツァルト,指揮:ベンジャミン・シュワルツ,出演:アリス・ルナヴァン,マチュー・ガニオ,舞団:パリ・オペラ座 ■NHK・配信,2021.8.29-(オペラ座・ガルニエ宮,2021.3.9-11収録) ■プレルジョカージュ2作品を観る。 初めの「ル・パルク」は不思議な作品だった。 ・・ゴーグルをかけたダンサーの登場で一気に釘付けになってしまった。 その後はロココ風男性衣装をまとった男女十数人のダンサーがモーツアルトの曲に乗りながら愛を語らう。 その中から主人公らしきぺアに注目がいく、でも女性の方は乗り気ではない。 環境音が鳴り響くなか再びゴーグルが登場する。 そしてロココ風女性衣装に変えた女性ダンサーと男性ダンサー達は再び踊りだす。 切替場面には必ずゴーグルが登場するが、主人公二人が愛し合って幕が下りる・・。 ゴーグルを付けた男性ダンサーは何者なの? ロココ風?衣装がとても素敵だった。 時代はロココ?、でもゴーグルは現代? モーツァルトの中に現代的な環境音が入り込む。 時間の亀裂がこの切替で起こる・・!? 謎めいた面白さが充満している。 照明が暗いので部屋も暗くして観ると劇場にいる雰囲気に浸れる。 この番組は画質が良いので猶更ね。 作品の背景を調べたい。 それは後にして、この不思議な余韻を楽しむことにするわね。 □プレイリスト#1 ■振付:A・プレルジョカージュ,音楽:G・H・ヘンデル他,舞団:バレエ・プレルジョカージュ ■NHK・配信,2021.8.29-(ベルサイユ宮殿・王立歌劇場,2017.12.16収録) ■二つ目の作品はオムニバスかしら? タイトルが毎回表示されるのでプレルジョカージュの過去作品の断片を繋げたものだと分かったの。 それは「ベラータムへの帰還」(2015年)に始まり「ロミオとジュリエット」(1996年)で終わる。 数えたら9作品も入っていた、先ほどの「ル・パルク」(1994年)も。 振付家を深く知るには都合がよい。 彼は愛の濃密表現が特に巧いとおもう。 「千夜一夜物語」(2013年)は「カーマ・スートラ」にも劣らない。 でも活動的にみえるのはダンサーの若さを前面に押し出している1990年代かな? 今回の2作品でプレルジョカージュへ一気に近づ

(中止)■へそで、嗅ぐ

■作・演出:山口茜,ドラマトゥルク:ウォルフィー・佐野,出演:豊島由香,福角幸子,高杉征司ほか,劇団:トリコ・A ■こまばアゴラ劇場,2021.9.2-6 ■「この度、2021年9月2日(木)ー9月6日(月)に開催を予定しておりましたトリコ・A演劇公演2021「へそで、嗅ぐ」は、現在の新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、中止とさせていただきます」。 再び中止が多くなってきた・・。 コロナでのチケ購入後の中止は2020年2月に始まり今日迄で34本目よ。 *劇場、 http://www.komaba-agora.com/play/11170

■カプリッチョ Capriccio

■作曲:R・シュトラウス,指揮:クリスティアン・ティーレマン,出演:カミッラ・ニールント,クリストフ・ポール他,演奏:ドレスデン国立歌劇場管弦楽団・合唱団 ■NHK・配信,2021.8.22-(ドレスデン歌劇場,2021.5.4-8収録) ■・・主人公は若くして未亡人になった伯爵夫人マドレーヌ。 彼女主催のパーティに詩人・音楽家・女優・演出家、そして夫人の兄が集まる。 そこでの議論は「言葉か、音楽か」。 職業上の立場も加味されながら4人の芸術論が熱を帯びていく。 詩人と音楽家は夫人との三角関係にも熱中してくる。 彼女は演出家にオペラ創作を依頼する。 演出家は今日の集会をそのままオペラに乗せることを考える。 皆は納得し解散する・・。 終幕、三角関係に夫人は悩むの。 詩人と音楽家の背後にある詩と音楽まで関係が広がるからよ。 結局は詩も音楽も両方が大事ということになる。 それは詩人も音楽家も、つまり両者を取るということかしら? ここは見せずに幕が下りてしまった! フランスのロココ様式に沿っている、ドイツ語の硬さは感じるけど。 サロン文化の一コマを切り取った物語がとても新鮮ね、 主人公マドレーヌの存在感には満足よ。 作品の面白さはオペラの中でオペラを含めた芸術を論ずるところかな? 舞台好きなら嬉しくなる内容だわ。 シュトラウス最晩年のサービスと言ってよい。 喜劇作品として少し湿っていたのは無観客で収録した為かもしれない。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/MJQ54KXG47/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 シュトラウス

■4 FOUR

■作・演出:川村毅,出演:今井朋彦,加藤虎ノ介,川口覚,池岡亮介,小林隆,劇団:ティーファクトリー ■あうるすぽっと,2021.8.18-24 ■科白量の多い舞台に出会ったのは久しぶりかな? 5人の男が登場しクジ引きを始める。 役に選ばれた4人は一人づつ喋り出す・・。 その役とは裁判員、法務大臣、執行人、死刑囚らしい。 話題は死刑(制度)について。 一通り話し終えると役を交代するの。 ここで演出家のゲーム好きを思い出してしまった。 つまりどんでん返しがあるということね。 後半に入ると少しづつゲームの規則から外れていく。 それでも一人づつ喋り続けるのを止めない。 執行に失敗して死刑囚が死ねない状況に陥った話もある。 死刑制度をなぜ無くせないのか? 前半は緊張を維持できたがモノローグの舞台としては長すぎる。 数々の戯曲賞をとっている作品はさすが真面目だわ。 でもドンデン返しは入れて頂戴! *第16回鶴屋南北戯曲賞 *2012年度文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞作品 *劇場、 https://www.owlspot.jp/events/performance/4_1.html *「ブログ検索」に入れる語句は、 川村毅

■完全版マハーバーラタ、愛の章・嵐の章

■演出:小池博史,出演:LeeSweeKeong,小谷野哲郎,DanangPamungkas他 ■なかのZERO・大ホール,2021.8.20-23 ■前編「愛の章」、後編「嵐の章」で構成され上演時間は合計6時間。 人物相関を予習したが頭に入らない。 「わかろうとするな!」とチラシに書いてある。 でも「分かる」仕掛けが作られていた。 スケベなトリオ「三角関係」が登場し補足説明をしてくれる。 状況説明として字幕も表示される、科白は省かれているが。 なんと舞台は演劇と言うより舞踊に近い。 「踊ろうとせよ!」。 出演者をみると殆どがダンサーだった。 出身国もマレーシア、インドネシア、タイそして日本と多彩だ。 音楽も南アジア系?から琉球、能楽の囃子も演奏される。 舞台装置や道具類はシンプルでとてもいい。 衣装もお似合いだ。 ・・前半はバラタ族の繁栄を願っての産めよ増やせよである。 感情はパントマイムやダンスで表現するので深層は追えない。 ダンサーたちは持ち前の型や振付を持っているようだ。 お国柄が出ている。 そして一族はパンドゥ族とクル族に分かれていく。 ・・後半は両族の戦争を描く。 戦闘場面が次から次へと繰り出してくる。 微妙に違うがどれも同じにみえてくる。 背景に映像も映し出される。 ほぼ漫画だ。 これも補足説明のようだ。 戦いが終わり戦士たちは現代の旅行者に戻り、かつての戦場跡を観光しながら幕が下りる・・。 6時間を振り返っても残る場面がほとんどない。 個々のダンスや美術はとても印象的だが同じような場面の繰り返しがそれを消してしまった。 そして補足説明が過剰だ。 少ない科白を字幕にしたほうが物語としては効果的だったろう。 映像が入ると役者たちの身体が薄くなってしまう。 「三角関係」の三人はトリックスターのように混沌混乱でかき回して舞台像をひっくり返したと思う。 1988年6月に銀座セゾン劇場でピーター・ブルックの同作品を観ている。 9時間を越える上演だったがあまり覚えていない。 物語の面白さは出ていたと記憶している。 そこには中央アジアの匂いがあった。 今回は舞踊が東南アジアに近づけてくれた。 演劇と舞踊、中央アジアと東南アジア。 起点インドからの方向の違いが面白い。 よりアジアの身体を感じさせてくれた。 *東京2020NIPPONフェスティバル参加作品 *作品、

(中止)■どん底

■作:マキシム・ゴーリキー,翻訳:神西清,演出:三浦基,出演:安部聡子,石田大,小河原康二ほか,劇団:地点 ■吉祥寺シアター,2021.9.4-11 ■「9月4日(土)~11日(土)に開催予定の「地点『どん底』」公演は、東京都の「緊急事態宣言」延長に伴い、公演の延期が決定いたしました」。 チケット購入後の中止は33本になってしまった。 コロナの勢いは当分続きそう。 *劇場、 http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2021/07/chiten-donzoko.html *「ブログ検索」に入れる語句は、 三浦基

■アメリカン・ユートピア

■監督:スパイク・リー,出演:デヴィツド・バーン,ジャクリーン・アセヴェド他 ■吉祥寺オデオン,2021.7.30-(ブロードウェイ・ハドソン劇場?,2020年収録・編集) ■デビッド・バーンと聞いて映画館へ急ぎました。 「ストップ・メイキング・センス」以来でしょう。 簾で囲まれたシンプルな舞台は出入りが自由でなんでもできる。 その中で裸足の演奏者が縦横に動き踊り回る。 バーン自身も喋り歌いまくる。 脳の話から始まり、選挙投票や人種問題など話題も活動的です。 プロテストソングも入り全21曲です。 そこに響き渡るリズムは中南米系が入っていますか? 最高です。 日本では珍しい、社会性を含んだ人生を俯瞰するような歌詞ですね。 しかも人称が単数形ではない。 私たちとあなたたち、彼らと彼女ら、多くが複数形です。 その複数形の人々を一つに繋げようとする。 舞台から降りて演奏しながら観客席を回るエンディングは素晴らしい。 最高でした。 *映画com、 https://eiga.com/movie/94691/

■MeMe

■演出:三東瑠璃,音楽:後藤正文:舞団:CO.RURI MITO ■vimeo.配信,(三鷹芸術文化センター・星のホール,2019.2.5収録) ■三東瑠璃をもう1本みることにする、映像だけど。 ・・8名?の女性ダンサーが床に重なるようにうずくまっている。 ゆっくりと離れたりくっついたりしている。 2・3人で組になり絡まり合い舞台に広がる。 あるいは一人。 動きが止まる。 同期が取れてくる。 志向性がみえてくる。 そして形つくられ崩れる・・。 カメラが悪い。 アップが多過ぎて舞台に散らばるダンサーたちの関係がみえない。 全体を映した場面は5%もなかったかな? カメラマンも悩んだとおもう。 記録用としても使えない。 画面を二分割して全体と部分を同時撮影するしかないわね。 ところでダンサーの絡み合いはアジア的にみえた。 哺乳類を感じる。 それと時間の捉え方がダンサーは無関心にみえる。 受け身に近い。 ダンサー自身が時間を創り出す舞踏との違いかもしれない。 電波ノイズのような音楽はとてもいい。 アフタトークの追加映像をみる。 先日と同じ後藤正文との対談よ。 「最初は音楽無しで粘土をこねくりまわすように振付をしていく・・」。 なるほど。 この作品は生舞台で観たらきっと気に入ったと思う。 *アーツカウンシル東京、 https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/support/program/43159/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 三東瑠璃

■MATOU

■振付・出演:三東瑠璃,音楽:熊地勇太,衣装:稲村朋子 ■川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場,2021.8.12-13 ■舞台に何か置いてあるのが見える。 薄暗いのでよくわからない。 ダンサーの背中だと分かるのに時間がかかってしまった。 姿勢がはっきりするのはもっと時間が必要なの。 白い腕がみえてきて、うつ伏せで腰を持ち上げた姿勢だとわかるのに10分は掛かったかしら?  軟体動物のような柔らかい身体を持っている。 転げまわっても身体部位の繋がりが読めない。 顔は見せない。 立ち上がってもそれは同じ。 後ろに反り返っているからよ。 観客席からみると顎と喉仏しかみえないので異様な歩き姿にみえる。 ・・。 人形のようだが生きた身体を保っている。 舞踏のようで舞踏でない。 パフォーマンスのようでそうではない。 エロチシズムもギリギリで抑えている。 全てが境界線上を保っている。 面白いダンスだわ。 衝撃はある、でも何かが不足している。 終わり方が中途半端なためだと思う。 簡単な方法として、終幕の動きを最初に戻すのはどうかしら? 歩く姿から床に丸く閉じてフェードアウトするの。 ループ構造をつくり作品を完結させる。 アフタトークを聞く。 出席は三東瑠璃と音楽家後藤正文。 使った曲の話が多い。 三東にとって音が身体に<当たる>曲は合わないらしい。 メロディーやビートがあると感情が貼り付いてしまうから。 身体は音楽と非同期に動かしたい。 衣装は今回はじめて黒を使用したとのこと。 見せたくない部分を隠したかったから。 以前の衣装は肌色だったらしい。 このようなトークだったかな。 糊代のある作品とダンサーにみえた。 *劇場、 https://kawasaki-ac.jp/th/archives/detail.php?id=000416&year=2021 *追記・・ブログを書いた後に三東瑠璃と石井達朗の対談を読む(2021年7月28日実施)。 この作品は2015年初演で既に6年が経過してるとのこと。 この間、演出的な部分は全て削ぎ落したことを知ったの。 ブログは勘違いしていたようね。

■ヤコブの井戸  ■長崎の聖母

□ヤコブの井戸 ■作:ディートハルト・レオポルド,演出・出演:清水寛二,出演:殿田謙吉,小笠原弘晃,みょんふぁ他,能団:銕仙会 ■座高円寺,2021.8.4-8 ■場内には能舞台が作られています。 橋掛もあり、鏡板にはアクション・ペインティング風の絵が描かれ、針金で吊った4本の柱は傾いている。 前衛能舞台と言ってよい。 スカッとしていて気に入りました。 ・・旅する師弟らしきユダヤ人が井戸の前にやってくる。 ワキツレは自分のことを<僕>と言う。 でも違和感がない。 そこへパレスチナの老婆が登場し身上を語りだす。 ユダヤの男と水を分かち合ったこと、子供たちを戦争で失ったことなどを話して立ち去る。 ここで猫が登場するが二千年も生きているアイのようです。 猫の話から、女が水を与えた男はイエスだったのかもしれない!? 物語が俄然輝きだします。 後場に入り、女は若いサマリア人となって登場する。 女は数千年に続く宗教と民族の争いを嘆き踊る。 すると井戸から水が湧きだし、女はユダヤ人と水を分かち合ってから去っていく・・。 久しぶりに感動しました。 舞・謡・囃子が一つにまとまり迫ってきたからです。 能がもつ劇的さでしょう。 新作能とあったがとても練られていた。 イエスは登場しませんが、この名前を感じることで物語の時空が深まったと思います。 佐藤信と清水寛二のアフタートークを聞くことにしました。 この作品はワルシャワ・ウィーン・パリで公演を行い、ペルシア女の能面は新しく作った等々。 能では演出と演技は同時進行する、演出家は非難されたときに責任を負う為にいる、能と違って現代演劇は帰る家がない、観世榮夫は能の一部を切り取って出演するのを嫌がった等々。 以上がトークの内容です。 □長崎の聖母 ■作:多田富雄,演出・出演:清水寛二,出演:大日向寛,小笠原由,歌唱:波多野睦美,能団:銕仙会 ■座高円寺・WEB,2021.8.7-(座高円寺,2021.8.7収録) ■公演日時の都合がつかずWEB配信で観ることにしました。 ・・巡礼者が長崎浦上天主堂を訪れ、そこで老女に出会う。 女は1945年8月9日の被爆の有り様を語り去っていく。 そこで巡礼者はアイ役の修道僧と祈りをささげる。 すると聖歌が聴こえるなか女が現れる。 女は聖母マリアなのか? 女は平和と救済を祈り舞う・・。 メッセージの強い作

(中止)■ニュルンベルクのマイスタージンガー

■作曲:R・ワーグナー,指揮:大野和士,演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク,出演:トーマス・ヨハネス・マイヤー,ギド・イェンティンス,アドリエン・エレート他 ■東京文化会館・大ホール,2021.8.4-7 ■「オペラ夏の祭典2019-20「ニュルンベルクのマイスタージンガー」東京文化会館公演につきまして、公演関係者の新型コロナウイルス感染が確認され、公演の準備が整わないことから、8月4日(水)に予定していた公演を中止することとしました・・」。 昨年からのチケ購入後の中止は32本目。 この作品は2020年6月に中止しているので2度目の不運よ。 3度目の正直、今年11月の新国立劇場公演に期待するしかない。 *劇場、 https://www.t-bunka.jp/stage/10110/

■物語なき、この世界。

■作・演出:三浦大輔,出演:岡田将生,峯田和伸,柄本時生ほか ■シアターコクーン,20201.7.11-8. ■自分探しを発展させたのが物語探しかな? 発展とは「因果律によって世界を梱包してみせる思考ゲーム」に参加することよ。 そう・・、登場人物はいつもゲームに向かってしまう。 主役は誰で脇役は誰か? 監督ならこう考える?演出家ならそう考える? そして皆はその役割をはたしていく・・。 モノハラ(物語ハラスメント)も発生しそう。 そして科白には<物語>という言葉が必ず入る。 これで「世界を梱包」した対象は解説的に陥る。 これは梱包演劇だわ。 しかも梱包すると真面目になるの。 こんなに真面目な作品になるとは演出家も驚いているんじゃないかしら? おっパブやファッションヘルスも肉化されず梱包されてしまう。 二人の主人公、菅原と今井の冴えない関係が面白く描かれていた。 同じように高校時代さえもパケット化されてしまう。 その時代を身体的に関係付けができない。 恩師の話も続かない。 でも今井の歌は二人のシラケを上手に消したかな? 脇役では、スナックママ橋本が二人を3Pに誘うのは全体の流れからみて脱線。 これがなければママ最高よ! それと巡査妻の浮気も不要。 スタッフが物足りないと感じてしまったから。 どれほど足しても解説を呼び込む梱包演劇だから物足りなさは消えない。 観客層はお嬢さんが多いし、ここは直系劇場の限界も出たのかな? それはともかく、物語とは何か? 物語りと舞台の関係をいろいろ考えされられたわね。 ところで、道具造りは最高だった。 建物を展開しながら室内を見せるのは近頃の流行りだけどとても良く出来ていた。 色とりどりのネオンサインに映像を混ぜ合わせた風景は歌舞伎町の華やかさと寂しさに変換されていたと思う。 *劇場、 https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_monogatarinaki/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 三浦大輔

■砂女

■原作:安部公房,演出:ペーター・ゲスナー,出演:後藤まなみ,荒牧大道,松尾容子ほか,劇団:うずめ劇場 ■調布市せんがわ劇場,2021.7.28-7.29 ■それにしても男は忙しすぎる。 自由というものを失いたくないからでしょう。 ヘビースモーカですか? 苛立ってもいる。 しかし生物本能には抗えない。 それは性の欲望と生の継承です。 女との営みで彼は人間生物の道へ戻ることに悩む。 その後、女の出産でその道を歩き続けることに満足していく。 それを共同体がしっかり後押しする。 共同体=権力は道を外れないで自由を考えろと言う。 砂をどのように表現するのか? 考えてしまいます。 今回は映像や音響で表現しましたね。 これが成功したかどうか? 砂がもう一つの共同体=自然として迫ってきたら成功でしょう。 そして二人の住居を具体?それとも抽象?にするのも悩ましい。 砂と同じにするのは勇気がいる。 前者を選んだ舞台は、二人が共同体から外れてしまった河原乞食のようです。 外部が弱まってしまったことは確かです。 勅使河原宏監督の映画を観た記憶がある。 圧倒される砂の中で女役の岸田今日子が壺から取り出したラッキョウを食べる場面は鮮明に覚えています。 *うずめ劇場第35回公演 *シビウ国際演劇祭2021招聘作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/113244 *「ブログ検索」に入れる語句は、 ゲスナー

■夏の名残のバラ  ■映像舞踊「BOLERO2020」  ■FratresⅢ  ■春の祭典

■彩の国さいたま芸術劇場・大ホール,20201.7.23-25 □夏の名残のバラ ■振付:金森穣,音楽:F・V・フロトー,衣装:堂本教子,出演:井関佐和子,山田勇気 ■「春の祭典」のチケットを購入したらオマケが3品付いていた。 夏の名残りは今年初めに当劇場で観ている。  ブログ を読み返したが今回も同じ感想だ。 床に散らばった薔薇の枯花の後処理が気になったが、次の上映中に掃除がなされていた。 □映像舞踊「BOLERO2020」 ■振付:金森穣,出演:Noism ■ステイホーム用かな? 分割した画面間の関係が楽しく考慮されている。 リズムあるステイに浸れるだろう。 □FratresⅢ ■振付:金森穣,音楽:A・ペルト,衣装:堂本教子,出演:Noism0,Noism1 ■「Ⅱ」以上に宗教性がでていると思う。 天井から落ちてくる砂をかぶるダンサーたちは滝行の僧侶にみえてしまった。 儀式舞踊とも言える。 □春の祭典 ■振付:金森穣,音楽:I・ストラヴィンスキー,衣装:RATTA RATTARR,椅子:須長檀,出演:Noism0,Noism1,Noism2 ■椅子が並べられた舞台ツラでのダンサーの動きが劇的舞踊を思い出させる。 舞台の心や奥を使わないでツラだけで勝負すると言語的になる。 作品は劇的舞踊とは言えないが制約をかける面白い始まり方だ。 ダンサー達の感情を込めた動きと白の衣装は未熟さを感じさせるが上手くまとまっていた。 重量感はないが逆に春の祭典らしさが浮き出たと思う。 カーテンや照明の動かし方、椅子の使われ方も巧い。 *劇場、 https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/90425/

■サデ21 Sadeh21

■振付:オハッド・ナハリン,舞団:バッドシェバ・ヤング・アンサンブル ■NHK・WEB,2021.7.19-(パリ・シャイヨー劇場,2018.10.27収録) ■一人から二人そして複数人へと舞台は膨らんでいく。 動きはスローモーションを混ぜて変化をつけていく。 衣装と照明は中間色を配して振付に寄り添っている。 ダンサーの動きをみていると静かな喜びが湧き起こってくるわね。 輪になったり整列したり・・、でも憂鬱さも感じられる。 パレスチナ人との軋轢が日常化しているイスラエル世界を表現しているのかしら? 叫び声が聞こえ幕切れには壁から飛び降りたり・・、この政治状況に打つ手がないと言っているようにもみえる。 バッドシェバ舞踊団若手クラスのダンサーらしい。 近頃では珍しい男性たちの毬栗頭はこの舞踊団の特徴ね。 彼らが黒の女性用衣装をまとっての場面は唯一劇的だったはず(映像のため効果がみえない)。 これはユダヤ教徒の服装と関係があるのかしら? ナハリンらしい、そして充実した舞台だった。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage_main/30645

■一九一一年

■脚本:古川健,演出:日澤雄介,出演:浅井伸治,岡本篤,西尾友樹ほか ■シアタートラム,2021.7.10-18 ■題名をみて舞台に登場するのは辛亥革命の孫文か青鞜社の平塚雷鳥か? 違いました。 大逆事件の菅野須賀子です。 幸徳秋水は1910年に逮捕され判決は翌年、・・1911年。 配られた資料を読み「予審」の意味と位置づけが分かったところで幕が開く。 主人公は予審判事田原巧という若者らしい。 事件の予審過程が舞台の大部分を占めます。 そこで提出される証拠は不十分にもかかわらず司法組織は嘘で塗り固めていく。 政権と天皇への忖度です。 田原判事は担当者の一人としてその偽りの調書を大いに悩み苦しむ。 そこで奇策を考える。 それは逮捕者26名全員を天皇大権で特赦にすることです。 これには政権へ忖度してきた彼の上司や同僚も賛同する。 逆転かと思いきや、この奇策も政府が先に用意していた!! 結局、幸徳と菅野を含め12名は死刑になってしまう。   菅野と田原が<自由>について議論する場面があります。 菅野は束縛されない強制されない率直な自由論を展開する。 しかし田原は彼女の自由を理解できない。 彼の職業柄や立ち位置から<権利>と<義務>そして<権力>との関係も考えていたのかもしれない。 この議論は途中で有耶無耶になってしまった。 田原判事の予審での熱演は観客に届きました。 観後に知ったのですが1960年代に事件の再審請求があったのですね。 免訴になったようですが酷い裁判だったことが分かります。 しかも権力への忖度は現代も続いている・・。 *劇団チョコレートケーキ第34回公演 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/21071911.html

■解体青茶婆

■作・演出:横内謙介,出演:有馬自由,砂田桃子,山中崇史ほか,劇団:扉座 ■座高円寺1,2021.6.30-7.11 ■死体解剖と聞いて浮かぶのは養老孟司でしょう。 次はレオナルド・ダヴィンチですか? この舞台の主人公、江戸時代の蘭学医、「蘭学事始」「解体新書」著者の杉田玄白は知らないことが多く観後にいろいろと調べてしまいました。 江戸時代、腑分け(解剖)用の死体を得るのがナゼ難しかったのか? 死体は身近にあったはず。 様斬(ためしぎり)を含め死体管理が厳しくなったようだが合点がいかない。 その貴重な献体となる悪人青茶婆がどのような経緯で腑分けにされたのか? 当時の三権と庶民の生活や信仰などを織り交ぜてそれを語り継ぐ流れです。 そこでは玄白と医学塾の弟子たちが、蘭学揺籃期に得られた肉体の事実、つまり人間すべてが同じ内臓を持っていることを基にして人間が平等であることを認め、忌み嫌われた職業、ここでは死体処理を支えた穢多・非人にもこれを適用していく。  分け隔てなく治療し苦痛を和らげるために誠心誠意で努める、という医学の大意が背景にある為か舞台は羽目を外すような勝負に出ません。 このため経緯説明が多くなります。 それは講談の形をとったりする。 説明を重ねながら舞台が進んでいく。 無難にまとめましたね。 久しぶりに古き良き舞台に出会った感じもしました。 得能万兵衛の幕切れの科白「この世は、なかなか捨てたもんではない。・・」に作品のオチが現れています。 扉座を観るのは初めてです。 会場雰囲気が違いますね。 中年男女が多い。 劇団の歴史が窺えます。 *劇団扉座第70回公演,40周年記念作品 *劇場、 https://www.za-koenji.jp/detail/index.php?id=2477 *「ブログ検索」に入れる語句は、横内謙介

■メディア

■原作:エウリピデス,脚色:ベン・パワー,演出:キャリー・クラックネル,ロス・スクギボン,出演:ヘレン・マックロリー,ダニー・サパーニー他 ■TOHOシネマズ日本橋,2021.7.9-(オリヴィエ劇場,2014.9.4収録) ■メディアが追い詰められていく心情変化は激しく速い。 観客が持っている知識想像すべてを注ぎ込んで変化に対応しないと舞台に捨てられてしまう。 話はとんとん拍子に進む。 ヘタな寄り道が無いので気持ちがいい。 役者たちの息の強さが迫ってくる。 リズムも強い。 血まみれになりながら、二人の息子の死体を入れた袋を背負いながら消えていくメディア・・。 これをみて息が詰まってしまった。  この作品は観た後に気が重くなることが多い。 多くの舞台は抽象化などで避けるのだが。 しかし、今回のロンドンは直截を選んだ。 メディアだけではなく夫や子供が血でべっとりになる。 でも、その重さをスピード感が振り払ってくれた。 これは劇画と言ってよい。 この舞台は重さと速さが劇画的に融合してカタルシスを発生させた。 舞台構成は2階建で、1階はメディアの住まい2階はジェイソンの住まいになっている。 映像では明暗調整が単純化されてしまうので両階の差異が複雑に迫ってこなかった。 生舞台ならより迫力が出ていたはずだ。 *NTLナショナル・シアター・ライブ作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/95095/

■ウィルを待ちながら Waiting for Will

■作・演出:河合祥一郎,出演:田代隆秀,高山春夫 ■こまばアゴラ劇場,2021.7.2-11 ■「ゴドーを待ちながら」の形を取り入れシェイクスピア作品から抜粋した台詞群で作られた芝居なの。 二人の掛け合いが楽しい。 彼らは名前からとったタカとハルで呼んでいたかしら? 二人が出演した過去の実舞台の話を入れ、「マクベス」魔女場面では鍋を囲んで酒を酌み交わしたりする。 途中に落語まで入る。 しかし老いや死について語ることが多い。 特に「リア王」ドーヴァー断崖場面が繰り返し演じられる。 シェイクスピアの40作品から抜粋したから物語は薄くなるが、逆に舞台と現実、役者と現実が入り混じって奇妙な舞台が現前してくる。 ウィルは遺言と言っていたわね。 シェイクスピアの科白を役者(自身)の遺言のように語り、観客は劇中劇中劇・・に巻き込まれていく。 字幕は日本語と英語、作品名と幕場が表示されるので分かり易い。 原作の面白さと繋がっている舞台だった。 会場はいつもと違った客層にみえる。 やはり演劇系より文学系かしら? *シビウ国際演劇祭招聘作品 *Kawai Project公演 *劇場、 http://www.komaba-agora.com/play/11165

■センス・オブ・ワンダー

■振付・出演:山田せつ子,木佐貫邦子,矢内原美邦 ■シアタートラム,2021.7.2-4 ■山田・木佐貫・矢内原ダンサー3人を同じ舞台でみるのは初めてです。 ・・それぞれがソロを踊るが、木佐貫、山田はいつもの振付にみえる。 矢内原は衣装の袖を外したり付けたり、靴を脱いで歩き回る。 しかしこれも彼女のいつもの動きかもしれない。 次には矢内原が箱庭を背負って登場!? それは庭付き家の模型です。 庭には🐘や🦒、🐼などのフィギュアが貼り付いている・・。 箱庭療法は作者の心の風景が現れると言われています。 彼女はこのような大邸宅に住みたいのでは?と考えてしまった。  そして机が一つ用意され、木佐貫が羽ペンで書いている・・。 すると天井から吊り下げられている数百枚の白い短冊に照明文字が映し出され美しく動き回る。 七夕の願いごとでも書いたのでしょうか? と、このような流れでした。 衣装、美術、照明はなかなかですが、でも箱庭は意味が強過ぎて亀裂が入っていた。 パフォーマンス時々ダンスという舞台でしたね。 「センス・オブ・ワンダー」を身体だけで表現するのは難ですか? しかも3人がまとまるのも大変にみえました。 もっとダンスがみたかったのですが・・。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/202107nibroll.html *「ブログ検索」に入れる語句は、矢内原美邦

■ジャニス・ジョプリン  ■ジャニス、リトル・ガール・ブルー

□ジャニス・ジョプリン ■監督:デビィット・ホーン,演出:ランディ・ジョンソン,出演:メアリー・ブリジット・デイビス他 ■東劇,2021.7.2-(アメリカ,2018年収録) ■心の底から唸り叫ぶジャニスの声がテキサス荒野に響き渡るようだわ。 「私は、白人女ブルース・・」。 彼女が自身の立ち位置を話していたけど、日本で言えば北方演歌かしら? テキサスは東北へ、綿花畑は寒村風景へ、汗ばむニューオーリンズは吹雪く港町へ、目指すシスコは東京かもね。 コンサートをここまで再現した舞台は珍しい。 バンド構成や衣装・・、それよりジャニス役メアリー・ブリジット・デイビスの熱演が素晴らしい。 でも実際のジャニスのコンサートは映像でも観たことが無い。 彼女が影響を受けたベッシー・スミス、エタ・ジェイムス、アレサ・フランクリンも登場して彩を添える。 胸に響く舞台だったわよ。 *松竹ブロードウェイシネマ作品 *松竹ブロードウェイシネマ、 https://broadwaycinema.jp/_ct/17460199 □ジャニス,リトル・ガール・ブルー ■監督:エイミー・バーグ,出演:サム・アンドリュー,ピーター・アルビン,デイブ・ゲッツ他 ■(アメリカ,2015年作) ■上記「ジャニス・ジョプリン」の後に観たのは正解ね。 先だと舞台を本物のジャニスと比較してしまったからよ。 このドキュメンタリーをみて舞台でのアドリブの多くがジャニス本人の言葉だと知ったの。 彼女の家族、両親や妹弟のこと、シスコでのビッグ・ブラザー参加、モンタレーフェスティバル、コズミック・バンド結成、ウッドストック、高校同窓会での無視・・。 死の前は薬を断ち切っていたようだけど、だめだったようね。 この2本でジャニスがずっと身近になった。 *映画com、 https://eiga.com/movie/84828/

■盲人達

■作:モーリス・メーテルリンク,演出:岡本章,出演:櫻間金記,鵜澤久,清水寛二ほか,舞団:錬肉工房 ■神奈川芸術劇場・中スタジオ,2021.6.24-27 ■引率の老神父が急に姿を消してしまい盲人達が道に迷ってしまう話だ。 舞台は暗く8人の盲目達が蹲っている。 修道院生活が長いのだろうか? 黒っぽい頭巾を被っている。 床を這いまわり、照明がうっすらと射しはじめて顔が浮かび上がる。 彼らは置かれている状況を喋り出す。 それは神父から離れてしまったこと、落ち葉の匂い、海の風、波の音、そして眠り、空腹など、身体の内と外の観察を言葉にしていく。 神妙な雑談のようだ。 しかし声はしっかり、言葉もはっきりと伝わってくる。 詩になる前の言葉が集積していく。 そして立ち上がり、歩き回り、立ち止まる。 コロス劇である。 能のようで能ではない。 ゴトーを待っているようで待っていない。 起こるようで起こらない。 「死だけが、我々の中で生きる」、「死だけが、永遠のものだ」、「死の中では、誰も死なない」、・・。 終幕、すべての言葉はこの地謡の声に集約していくようだ。 動きは少ないが緊張感が途切れなかった。 科白は身近な語彙が多いがこのほうが身体に響く。 難しい語句は一瞬だが意味解析を脳に譲るためリズムが狂う。 中央に一人座って最後まで声も出さず身動きもしなかった人物が老神父だろうか? 舞台が暗かったので何とも言えないが・・。 良くまとまっている作品だ。 ブログを書いている今でも舞台の声が聴こえる。  *錬肉工房創立50周年記念公演 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/moujintachi

■猫を探す

■作:永山智行,演出:山口浩章,出演:広田ゆうみ,二口大学,劇団:このしたやみ ■こまばアゴラ劇場,2021.6.25-27 ■「男が火事の焼け跡から日記を見つける・・。 その家に住んでいた人の50年前の日記だった。 見つけた男はその日記に合わせるかのように自身の生活を変えていく・・」。 登場する役者は男と女の二人だが二人数役を熟す。 ト書も役のように喋るので不思議な感覚に落ちていく。 久しぶりに小説を読んでいる気分だ。 小説を観ているというのが正解だが。 舞台背景は三好達治からチェーホフ、そしてクリームが話題になるので昭和だが明治にも飛ぶことができる。 主人公の初老の男が<先生>と呼ばれるのを聞いて夏目漱石まで遡ってしまった。 時間巾を広げられる戯曲だ。 そして主人公に近づく女たちはどこか謎を持っている。 彼女たちは動物報恩譚に登場する動物が遠い祖先かもしれない。 猫も時々現れるがこれに沿っている。 東京で上演する京都の劇団の質が良いのに気付いていた。 「劇団このしたやみ」も京都出身とあったので観ることにしたのだが、はたして期待を裏切らない面白さだった。 *劇場、 http://www.komaba-agora.com/play/11164

■キネマの天地

■作:井上ひさし,演出:小川絵梨子,出演:高橋恵子,鈴木杏,趣里,那須佐代子ほか ■新国立劇場・小劇場,2021.6.10-27 ■女優4人が次々と登場してくる幕開きは舞台の楽しさを満喫できます。 しかし先輩後輩 4 人の間には上から目線、嫉妬や下心ある称賛、殺意?黙殺などなどが渦巻いている。 女優たちが女優役で女優生態論を語る勢いは凄まじい。 久しぶりに声を出して笑ってしまいました。 前半はこのまま突っ走ります。 4人を集めたのは松竹小倉監督で、彼の妻を殺した犯人を捜す為です。 女優たちの中に犯人が・・? チラシに「推理喜劇・・」とあったので急展開は驚かなかったが後半に入った途端、前半の舞台をそっくり省いても成り立つような飛躍がある。 2本立てと言っても良い。 それでも女優4人の達者な口数は衰えない。 一人一人が犯人扱いされても4人が団結して反論していく。 「演劇賛歌の物語」と書いてあったが、彼女らの科白から賛歌を納得しました。 そして犯人はもう一人の呼び出されていた男優らしい・・。 以降、作者得意のどんでん返しが華々しく続いていく。 監督が女優たちを集めた真の理由も幕切れに分かる。 いや、お見事でした。 映画「キネマの天地」は「蒲田行進曲」とごちゃまぜにして記憶していましたね。 いま記憶を再整理しました。 ところで、今日の舞台では前半と後半でぷっつり切れていたのが勿体ない。 殺人を早々と匂わせたらどうなるか? この間を巧く繋げられていたら言うことなしでした。 *NNTT演劇2020-シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/kinema/

■虹む街

■作・演出:タニノクロウ,美術:稲田美智子,出演:安藤玉恵,金子清文,緒方晋ほか ■神奈川芸術劇場・中スタジオ,2021.6.6-20 ■これはテーマパークか!? 場内に入った途端、薄汚れた街並みに眩暈がしました。 ・・しかし舞台は何も進まない。 男が乾燥機を回し、洗濯物を畳み、女が自動販売機で買食し、中国人親子が歩き回り、車椅子での散歩、アラブ人が路上賭博で、ママとギター弾きがフィリピンパブで歌い、親分がウロウロ・・。 事件といえば、女がコインランドリーを閉店することぐらいでしょう。 美術の路上観察に従い街並観察劇と言っても良い。 古びた街並みを行き交う人々、商店街の様子、町内の小さな出来事を観客は眺めている。 映画でときどき出会う方法です。 それはミニマムなリズムが心地よい。 しかし飽きてしまいました。 このリズムを演劇空間に巧く変換できなかった。 凝った美術は汚すぎる。 脇役に一般人?を登場させたのは面白いのですが。 細かい日常の演技が大げさすぎる。 過剰でリズムが蒸発してしまった。 男と女、二人の行動に謎がみえたのは救いでした。 謎とは思いやりのようなものでしょう。 それは街中に漂っていた。 ところで戦後には、自動販売機やコインランドリー、もちろん洗濯機や乾燥機、携帯電話は無かった。 この舞台は戦後の福富町から未来(現代)を描いたSF作品だったのでしょうか? 長塚圭史の挨拶文でブレードランナーを話題にしていたのでこの解釈もできそうですね。 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/nijimumachi

■Ko Murobushi、室伏鴻

□Ko Murobushi ■監督:小松浩子 ■THEATRE for ALL.WEB(コロンビア国立大学,2010年収録) ■室伏鴻が2010年にコロンビア共和国で開催した講演と公演を記録した映像作品。 前半は舞踏教室の風景が映し出される。 二十名近い生徒は一般市民かな? 室伏の解説は哲学的だ。 「身体の中心とは・・」「体の中の境界を探す・・」「バランスとは、エッジとは?」「NNつまり名の無い死体・・」「Nはニュートラル・・?」 次に大学らしき庭先で生徒たちの実践が入る。 後半は室伏の舞台が上演される。 残念ながら断片で映像の質も良くない。 「美貌の青空」などのオムニバスかもしれない。 鋼鉄のような身体に腕が生き物のように動く・・。 ここに映った当時の言葉と身体は室伏の集大成とみてよい。 そして彼の活動の広さにあらためて驚く。 *作品サイト、 https://theatreforall.net/movie/ko-murobushi/ □解説動画「Ko Murobushi」 ■監督:小松浩子,出演:大谷能生,金村修 ■THEATRE for ALL.WEB ■音楽家大谷能生と写真家金村修の対談。 「室伏鴻の舞台は録画した映像で見ても何故に新鮮に伝わってくるのか?」などがテーマだ。 コロナ禍のため舞台を録画映像で観ることが多くなった。 タイミングの良い対談と言える。 「(室伏は)身体を記号化させるのが巧い」「身体を(物質に)変換できるので、映像が持つ生の有無を区別しない特長が活かされている」などなど。 なるほど。 *作品サイト、 https://theatreforall.net/movie/ko-murobushi-learning/ □Ko&Edge「Ko Murobushi」 ■出演:小松浩子,タカザワケンジ ■THEATRE for ALL.WEB ■3本目の映像は写真家小松浩子とタカザワケンジの対談。 最初にみた「Ko Murobshi」は既に撮られていた映像を小松がかき集めて編集したものらしい。 舞台を撮った映像作品の位置づけとは? その映像を編集した新しい作品の意義は? 今回の3作品は蜜に繋がっている。 久しぶりに室伏鴻の舞台を考えてしまった。 *作品サイト、 https://theatreforall.net/movie/komurobu

■未練の幽霊と怪物ー挫波、敦賀ー

■演出:岡田利規,音楽・演奏:内橋和久ほか,歌手:七尾旅人,出演:森山未來,片桐はいり,栗原類ほか ■神奈川芸術劇場・大スタジオ,2021.6.5-26 ■能の形を取り入れた音楽劇と聞いて期待して劇場へ向かう。 休憩を途中に挟んで「挫波ザハ」と「敦賀つるが」の2作品を上演。 囃子方は3人、見慣れない楽器で聴き慣れない幽玄的な演奏が面白い。 歌手七尾旅人が一人で地謡を受け持つ。 「挫波」はまとまっていたように思う。 科白をゆっくり喋りながら独特な手足の動きをするワキがなんともいえない。 演出家の得意とする振付だ。 囃子の流れに乗った地謡の声も舞台に溶け込んでいく。 アイで登場した片桐はいりの早口の喋りがまた楽しい。 囃子、舞、謡の三拍子が揃った独特な雰囲気が恍惚感へ導いてくれた。 能に似た感動を得ることができた。 ザハ・ハディドは成仏できただろうか? 「敦賀」はワキとシテの役者が替わっただけで前作と同じような構成だ。 文殊菩薩と高速増殖炉を繋げようと試みているらしい。 しかし亡霊がヒトでないため空洞に居るような体感がおそってきた。 亡霊とは何者か? 不思議な舞台だ。 舞が長くて全体の調和が崩れたようにみえる。 横浜駅へ向かう帰りには作品のいろいろなことを考えてしまった。 刺激的な舞台だった。 ところでアイの科白が多過ぎて諄く感じた。 少し省くと面白さに深みがでる。 それとギクシャクした動きの多い舞に見えた。 弛緩と緊張の間の動きが速すぎるのかもしれない。 久しぶりに楽しめた舞台だった。 *第72回読売文学賞受賞作品 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/miren2021

■夜への長い旅路

■作:ユージン・オニール,台本:木内宏昌,演出:フィリップ・ブリーン,美術:マックス・ジョーンズ,出演:大竹しのぶ,大倉忠義,杉野遥亮,池田成志,土居志央梨 ■シアターコクーン,2021.6.7-7.4 ■麻薬や酒を舞台に乗せる作品はツマラナクなることが多い。 これに頼ってしまうからです。 朦朧としたり酔う演技をするしないのではなく、上手く言えないが、瞬時瞬時にこれを昇華した演出演技ができるか?ということです。 この作品は誇張した作者の記憶を科白が持っているようにみえる。 出来事の一つ一つが彼の身体を通しているから、その誇張が重みに変る。 役者達はこの変化を演じることができたと思います。 前半の父ジェイムスと兄ジュニア、母メアリーと弟エドモンドの長い対話を聞きながら少しずつ精神が集中していくのを感じました。 途中のメアリーと召使キャサリンの対話も楽しい。 後半になると対話の充実度がより増したようにみえます。 過去に2度みていますが、作品の面白さが今回やっと分かりました。 *劇場、 https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_yoru/ *「ブログ検索」に入れる語句は、オニール

■外の道

■作・演出:前川知大,出演:浜田信也,安井順平,盛隆二ほか,劇団:イキウメ ■シアタートラム,2021.5.28-6.20 ■いろいろなことを頭に浮かべながら観てしまった。 この劇団はいつもそうだが。 「気がついたらここにいた・・」。 認知症を考えてしまった。 認知状態をリアルに想像できる舞台だ。 そして意識ついて。 それはいつ獲得したのか? 子供の頃のある夕方、自宅近くで「ここにいる」と自身の存在を初めて意識したことを覚えている(たぶん)。 ヒトは3歳頃に意識を獲得することが既に知られている 。 また三島由紀夫の産湯の話から記憶の取得は意識より早いのが分かる。 そしてガラスの破片を脳内に挿入できるか? 原子を野球ボールの大きさにすると電子は数百mも離れて原子を回っているらしい。 つまり原子や電子を取り巻く空間はスカスカなのだ。 物質間に働く力を無視すれば挿入も可能だが・・。 後半に入ると<無>が登場する。 これは厄介な言葉だ。 ある物理理論の話だが、空間も時間も物質からできている。 それを取り除けば、・・以下省略。 <無>の描き方が具体的過ぎる。 想像力が緩い。 しかも終幕に死を持ち出すのも突飛だ。 なぜ<死>に繋がるのかがみえない。 いつもの科学と非科学の境界に横たわる謎を詰め込み過ぎてしまった。 話題を絞ればよい。 この作品の一番は「気が付いたらここにいた」意識の覚醒だと思う。 ヒトはいつもここに戻る。 「我思うゆえに我あり」より日本的なところがいい。 美術、照明、音響は余分を捨てて物語のリズムを助長していた。 そして役者全員が退場しないで舞台に居続ける方法も面白い。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/20210506sotonomichi.html

■余韻 Only the Sound Remains 

■作曲:カイヤ・サーリアホ,指揮:クレマン・マオ・タカス,演出:アレクシ・バリエール,振付・ダンス:森山開次,出演:ミハウ・スワヴェツキ,ブライアン・マリー他,演奏:東京文化会館チェンバーオーケストラ,コーラス:新国立劇場合唱団 ■東京文化会館・大ホール,2021.6.6 ■サーリアホは「遥かなる愛」以来かな。 今日の舞台は能から採ったから楽しみね。 ・・っと直前に、サーリアホが私の席の二つ後ろの列に着席したの。 この時期の来日は大変だったでしょう。 第一部は「経正」で上演は45分。 黒シャツ姿の僧行慶が気軽な足取りで登場するから調子が狂う。 でも演奏は幽玄調と言ってよいかしら? 次第に経正の影が濃くなっていく。 青山を奏でるところからダンスが入るの。 けっこう激しい振付で再び調子が狂う。 ダンサーは琵琶の分身なの?それとも経正の分身なの? そして修羅道に堕ちた苦しみで経正は静かに消えていく・・。 歌詞は原作を相当省略している。 歌唱や演奏でエコーを多用している(?)ためか人物心情が無機質な空間で漂っているようにみえる。 <幽玄とは何か>を北欧の自然で答えたのかな? 死者との出会方にも違いがあるようだわ。 休息後の第二部「羽衣」も上演45分。 シテとワキは「経正」と同じ歌手。 歌詞は自然描写が多い。 ダンサーも落ち着いた振付で天女に連係できる。 でも前作品と同じくエコー(?)が効いていてどこか掴み切れない。 タイトルの「余韻」はここから来ているのかしら? 能を観たときの自然と人間が溶けあう感覚とは違うわね。 両者が互いに響き合う感じかしら? 厳しい自然観が背景にあるようにみえた。 *劇場、 https://www.t-bunka.jp/stage/9159/ *「ブログ検索」に入れる語句は、サーリアホ

■鰯賣戀曳網 いわしうりこいのひきあみ

■作:三島由紀夫,演出・振付:藤間勘祖,出演:中村勘三郎,坂東玉三郎ほか ■新宿ピカデリ,2021.6.4-24(歌舞伎座,2009.1.-収録) ■深刻さを隠したさっぱりした喜劇ですね。 エッジの効いた五条橋を背景に、鰯売の猿源氏と父親である遁世者海老名なあみだぶつのリズムある台詞回し、博労六郎左衛門と栗毛のユーモアある動きで直ぐに舞台に入っていけました。 遊女が並ぶ遊興の座敷に傾城蛍火が登場する場面も絵になっている。 猿源氏の魚介類合戦譚や寝言、そして蛍火の隠し事がほどけていく問答は親密なリズムを保っている。 商売人の声が気に入るのも蛍火実は丹鶴城の姫らしい。 そして「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かうえい」の合唱で終わるのが楽しい。 これは三島由紀夫の<大人の童話>かもしれない。 深刻さを隠したと書きましたが、限りある人生あたって砕けろしかないということでしょう。 *シネマ歌舞伎第37弾作品 *シネマ歌舞伎、 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/45/ *「ブログ検索」に入れる語句は、三島由紀夫

■フェイクスピア

■作・演出:野田秀樹,出演:高橋一生,川平慈英,前田敦子ほか ■東京芸術劇場・プレイハウス,2021.5.25-7.11 ■恐山イタコのもとに古き同級生が亡き父の口寄せを依頼するところから物語が始まる。 厚化粧のイタコ役白石加代子はともかく、同級生役だがそのまんまの橋爪功が登場したので現実に戻されてしまった。 これも異化効果かな? イタコはリア、オセロ、マクベス、ハムレット、そしてシェイクスピア本人から彼の子供?の霊まで呼び出す。 しかも言葉に謎を持たせ後場面でそれを解く演出家独特の方法で進めていく。 もちろんシェイクスピアは野田秀樹が演じているが、まさにフェイクスピア。 ・・次第に、同級生の父(高橋一生)の声が舞台に滞留していく。  <劇中劇>と<コトバ中コトバ>を掛け合わせたメタ・メタシアターと呼んでもいいだろう。 その展開は夢と現実の境界を溶かし、空間と時間を飛び越えてしまうメタメタさがある。 言葉にのめり過ぎて芝居が観念的になったようにも思えた。 しかし、それを一掃する終幕がやってくる。 神々の使者やコロスのようなカラスが探していた<声の箱>はなんとボイスレコーダーだったのだ。 そして舞台は一転、ボーイング747の機内を再現する。 機長だった父が叫ぶなか飛行機は乗客と星の王子様を連れて高天原山の樹海の中へ消えていく・・。 木々が倒れる幕開き、父の声「頭を下げろ!」「頭を上げろ!」、神々の登場と高天原、「大切なものは見えない」星の王子様、・・全ての謎がここで消える。 747機内の場面だけを切り取って一つの作品を作れるくらいだ。 コトバで充満していた舞台がここで初めて身体を得たように感じた。 *NODA・MAP第24回公演 *劇場、 https://www.geigeki.jp/performance/theater273/ *「ブログ検索」に入れる語句は、野田秀樹

■黄金の馬車  ■マダム・ボルジア

□黄金の馬車 ■原案:プロスペル・メリメ,ジャン・ルノワール,演出:宮城聰,出演:阿部一徳,石井萠水,大内米治ほか,劇団SPAC ■観劇三昧・WEB(舞台芸術公園・野外劇場「有度」,2013.6.15収録) ■日本の戦国時代、旅芸人一座がとある農村で演じる劇中劇の構成を取っている。 一座の演目が日本神話、イザナギとイザナミに始まりアマテラスやスサノオなどなど神々が総登場します。 その芝居を観ている農民が観客の仲介者となり劇中劇が一体化されている。 まさに舞台と現実が溶けあい主人公の科白「人生は芝居か?芝居こそが人生か?」に繋がっていく。 原作映画は観ているが記憶が無い。 当時の記録には「ルノワールにしてはツマラナイ」と書いてあった。 ルノワールの作品は観るほどに味がでてくるので、今なら別評価になるかもしれない。 ところで今回は役者たちの声が殆ど聞き取れなかった。 舞台中央で喋る時はハッキリ聞こえるが周辺では呆けてしまっていた。 舞台映像は画質だけではなく音質も重要です。 途中に2行ほど字幕が表示されたが日本語字幕があれば助かります。 *ふじのくに・せかい演劇祭2013作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/45835 □マダム・ボルジア ■作:ヴィクトル・ユゴー,演出:宮城聰,出演:美加理,阿部一徳,大内米治ほか,劇団:SPAC ■観劇三昧・WEB(駿府城公園・紅葉山庭園前広場,2019.5.5収録) ■ついでにもう1本観ることにする。 野外それも公園での上演だが、先ほど観た「黄金の馬車」よりずっと音質は良い。 最期まで役者の声がはっきりしていた。 音響技術の違いでしょうか? ギリシャ神話から題材をとったような母と子の近親相姦に近い物語です。 その背景は多国が混ざり合ったような戦国時代になっている。 緊張と弛緩が交互にやってくるリズム展開は良く出来ていますね。 しかし緊張感が散ってしまう。 公園より劇場が合っている作品かもしれない。 映像ではなんとも言えないもどかしさもある。 生舞台とは違います。 *ふじのくに・せかい演劇祭2019作品 *劇団、 https://festival-shizuoka.jp/2019/program/madame-borgia/index.html

■東京ゴッドファーザーズ

■原作:今敏,台本:土屋理敬,演出:藤田俊太郎,出演:松岡昌宏,マキタスポーツ,夏子ほか ■新国立劇場・小劇場,2021.5.12-30 ■舞台(パティ)を客席(バンズ)で挟んだ(バーガー)構成です。 床を上下して役者を入退場させたり、天井に沢山のゴミ袋を吊るして看板や広告を写すのも凝っていますね。 ホームレスも新宿で集めてきたのでしょうか!? 主人公ハナ、ギン、ミユキの3人が捨て子の親を、・・新宿、総武線で、錦糸町、タクシーで、月島、自転車で、品川を、探し歩く物語です。 親探しと都市風景を交互に進めていくロードムービーの形を取っている。 途中、彼ら3人の過去がフラッシュバックのごとく現前したり、赤ん坊に小さな奇跡が起こったりする。 それにしても場面間の繋がりが薄いですね。 変わりゆく風景を科白に塗りこめようとしたが上手く融合しなかった? 風景に力を入れ過ぎたのかもしれない。 探し出した両親もトラウマは深いが、彼らも都市に漂うばかりです。 観客側の感度を上げないとアツくならない。 移り行く映画的リズムを崩さず演劇的感動を得るにはどうしたらよいのか? 原作は漫画アニメと聞いています。 早速に観たいですね。 ところでハナは赤ん坊を思いやる複雑な気持ちが上手く表れていて存在感がありました。 新しい家族制度を作れる位置に彼はいたが、でも全てが古いまま幕が下りてしまった。 *NNTT演劇2020/21シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/tokyo-godfathers/

■セルセ

■作曲:G・F・ヘンデル,演出:中村蓉,指揮:鈴木秀美,出演:澤原行正,本田都,長田惟子,田中夕也,塚本正美ほか,演奏:ニユーウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ ■めぐろパーシモンホール・大ホール,2021.5.22-23 ■生舞台はやはりイイわね。 流行りの映像配信は別物だと分かる。 今日は主要歌手7人のうち5名が二期会デビューとのこと、しかもダンサー兼振付の中村蓉も演出としてのデビューなの。 期待に添い、始まりから歌手がダンスで挨拶とは嬉しい。 6名のダンサーは背景のように煩雑に登場する。 ヘンデル・オペラはダンスに合うと思う。 あとモーツァルトもね、それとロッシーニはどう? 舞台はシンプルな階段と扉だけ。 その扉から姉妹の部屋やバーが飛び出してくる。 軽やかなダンスと美術で「コメディタッチの恋物語」がより強く感じるわね。 「オンブラ・マイ・フ」は、先ずはセルセが、後半のはじめにアルサメーネ、そして終幕に再びセルセで3回は歌われたはず? この歌を聴くといつも宗教的感動が押し寄せてくる。 解説に「(史実)クセルクセスは樹に惚れこみ、警備の歩哨までつけた・・」(三ヶ尻正)とある。 やはり樹木信仰が長く伝わっていたと思う。 歌詞「飲み、食い、それだけでも生きている価値がある」にも信仰に沿う素朴な人生観が現れている。 演奏は梅雨空を忘れる枯れた爽やかさがあった。 歌唱はロミルダが安定していたかな? ダンスをしながら歌うのは苦手な歌手もいるはず。 でも皆若いから気にしない! しかも演出が休まず歌手たちを引っ張っていたと思う。 久しぶりの楽しい舞台だった。 *二期会創立70周年記念公演,ニューウェーブ・オペラ劇場 *二期会、 http://www.nikikai.net/lineup/serse2021/index.html

■ニジンスキー

■振付:ジョン・ノイマイヤー,出演:アレクサンドル・リアブコ,カロリーナ・アグロエ,イヴァン・ウルバン他,ハンブルク・バレエ団 ■NHK.WEB(ハンブルク国立歌劇場,2017.5.25-27収録) ■先月の「 ゴースト・ライト 」だけでは物足りなかったので、もう一本ハンブルク・バレエ団を観ることにした。 この2本でノイマイヤーの近況が凡そ見えてきた。 振付家得意のドラマティック・バレエである。 ニジンスキーの妻はもちろん彼の両親や兄妹も登場する。 しかも同性愛者として、これは力の入る作品だろう。 それはニジンスキーとディアギレフの独特な振付に表れている。 二人の愛情表現を含め前半は見応えがあった。 薔薇の精、奴隷、ペトルーシュカは別ダンサーが当時の姿で踊るがニジンスキーの分身のようだ。 また彼の後衛レオニード・マシーンもテニス姿で登場する。 後半に入ると激しく踊る場面が多くなる。 ここで舞台は1919年1月19日のニジンスキーの静養先であるスイスのホテルであることを思い出させる。 前半は彼の回想だったのかもしれない。 そして終幕、妻と踊ったあとに苦しみに悶えながら幕が下りる。 美術と衣装は引き締まっていてドラマを湿らせない。 空気は張り詰めていた。 舞台にピアノを置くのはノイマイヤーの好みかな?  ニジンスキー役のアレクサンドル・リアブコは特に目立つダンサーではなかった。 他ダンサーに埋もれてしまい、ちょっと残念。  後半の2幕はカメラの動きが激しくなり戸惑ってしまった。 カメラマンが代わったのか? ショットが短すぎる、しかもダンサーのアップが多い。 これで舞台を楽しむ余裕が半減してしまった。 舞台の撮影はどっしり構えて欲しい。 *バレエ団、 https://www.hamburgballett.de/de/spielplan/stueck_repertoire.php?SNr=448 *「ブログ検索」に入れる語句は、ノイマイヤー

■タンホイザー  ■バイロイトとザルツブルク、新型コロナウィルスが変えた夏

□タンホイザー ■作曲:R・ワーグナー,演出:トビアス・クラッツァー,指揮:ワレリー・ゲルギエフ,出演:ステファン・グールド,リーゼ・ダヴィッドセン他,演奏:バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団 ■NHK.WEB(バイロイト祝祭劇場,2019.7.25収録) ■ドキュメンター映画(下記)といっしょにバイロイト音楽祭2019年公演の「タンホイザー」をみる。 ・・ヴェーヌスベルクのサーカス団が車で登場する幕開きは驚きの光景だわ。 なんとハインリッヒがクラウン姿なの。 そのサーカス団は歌合戦に再び現れる。 この場面も結構な衝撃力がある。 1848年ドイツ三月革命でワーグナーが掲げた?マニフェストをサーカス団はいつも持ち歩いている。 それは「意志における自由、行為における自由、享楽における自由」と書かれている。 そしてローマ巡礼から戻った終幕、ハインリッヒは車を運転しながらエリーザベトと共に昇天していく・・ 圧倒される終わりは、デッカードがレイチェルを連れ出し車で旅経つ「ブレードランナー」と重ね合わせてしまった。 アンドロイドを殺してきたデッカードは「彼らも同じ人間だ」と悟る。 テーマは違うが両作品の通底は響き合っている。 今回は文句なしの面白さがあったわよ。 ステファン・グールドの安定感のある、そしてリーゼ・ダヴィッドセンのノビのある歌唱は聴きごたえ十分。 字幕も正統に近い。 バイロイトは目を離せない。 *NHK、 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101628SA000/index.html?capid=nol_4_P1622 □バイロイトとザルツブルク,新型コロナウィルスが変えた夏 ■出演:クリスティアン・ティーレマン,クラウス・フロリアン・フォークト他 ■NHK.WEB(NHK,2020.11.8放送) ■二大音楽祭の2020年近況をまとめたドキュメンタリー映画。 コロナ禍で観劇が少なくなったのでWEBでこの映画を探し出したの。 バイロイトは早々に中止を決定したのね。 ザルツブルクは8月開催になんとかこぎつける。 イエイ!モーツァルト。 でも公演数は半減、作品はカット、観客数は半数。 どうしようもない。 開催することで損益を少しでも合わせることで良しかな? 来年を期待しましょう。 *NHK

■アンティゴネ、時を超える送り火

■作:ソポクレス,演出:宮城聰,出演:美加理,本多麻紀,赤松直美ほか,劇団:SPAC ■観劇三昧.WEB(アヴィニョン法王庁中庭,2017.7.6-12収録) ■ふじのくにせかい演劇祭では「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」と「アンティゴネ」を観る予定が都合で叶いませんでした。 残念です・・、特に唐十郎作を見逃したのは。 後者はWEB配信でみることにしました、アヴィニョン演劇祭(2017年)での録画ですが・・。 法王庁建物を背景に、中庭は池?それとも水を張ったのか? 役者たちは水の上で演技をすることになる。 画面はちょと暗い。 動き(ムーバー)と声(スピーカー)を分離した二人一役の為か音声が澄んでいる。 壁に反射していることもある。 ゆったりした白衣装でゆっくりとした動きが能を連想させます。 入退場での役者たちが踊る姿は静かな盆踊りですね。 日本的な動きや発声が多い。 しかしカメラワークが頂けない。 ムーバをまったく映さないからです。 演出家得意の二人一役は、ムーバとスピーカが一体となるような感覚、つまり声が身体に近づき一つになる時に感動が訪れるのです。 映像はこれを無視している。 まっ、しょうがないですか。 打楽器演奏やコロスの合唱場面は舞台風景にとてもマッチしていました。 *アヴィニョン演劇祭2017年作品 *SPAC、 https://spac.or.jp/2017/antigone_avignon *ふじのくにせかい演劇祭2021、 https://festival-shizuoka.jp/

■ランスへの旅

■作曲:G・A・ロッシーニ,演出:ルカ・ロンコーニ,指揮:オッターヴィオ・ダントーネ,出演:パトリツィア・チオーフィ,ダニエラ・ナルセロナ他,演奏:ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団 ■ライブ・ビューイング・ジャパン.WEB,2021.3.18-(ミラノ・スカラ座,2009年収録) ■1825年のシャルル10世戴冠式に参列する人々を描いた作品。 パリ郊外?の宿「金の百合亭」が舞台。 そこに各国の参列者が滞在して旅の一時を楽しんでいる・・。 舞台美術は白系でギリシャ・ローマ時代を意識しているようにみえる。 階段も多い。 ロッシーニ好みのエプロン(ピットと客席の間にある張り出し舞台)もある。 衣装も白を基本に原色を重ねて豪華だけど軽快な感じがするわね。 登場人物はフランスやイタリアはもとよりスペイン、イギリス、ドイツ、ロシア人と多彩で肩書も伯爵、軍人、詩人、医者、学者など幅広い。 他愛の無い恋愛、肩書の自慢や母国の慣習等々の話で進み、予測できない展開の面白さがある。 1幕終わり、リヨン行を都合で止めた一行は2幕初めで行先をパリに変更する。 最期のパーティを催すことになり参列者はお国自慢の歌を披露するが、これがまた楽しい。 そしてシャルル10世が登場して幕が下がる。 戴冠式の期間限定作品らしく物語の無い自由度があり「ロッシーニの愉悦、イタリア・オペラの陶酔」がいつも以上に軽やかに体感できる舞台だった。 *ミラノ・スカラ座オペラ配信 *公演サイト、 https://liveviewing.jp/scalaopera/ *「ブログ検索」に入れる語句は、ロッシーニ

■ゴースト・ライト  ■グレート・ゴースト、偉大なる幽霊たち

□ゴースト・ライト ■演出:J・ノイマイヤー,音楽:F・シューベルト,演奏:タヴィッド・フレイ,出演:ハンブルク・バレエ団 ■NHK.WEB,2021.4.19(バーデン・バーデン祝祭劇場,2020.10.8-10収録) ■ゴースト・ライトとは公演が無いときに舞台を照らすためのライトを指す。 この作品も等身大の電気スタンドが一つ置かれている。 今は天井に蛍光灯を付けることが多い。 ・・舞台端ではピアノ奏者がシューベルトを弾き続ける。 ダンサーたちは分散しテクニックを披露しているような動きを見せる。 衣装もほぼバラバラだ。 数名がシンクロする場面はある。 開始30分くらい経つとデュオが多くなる。 感情のやりとりがみえてくる。 この演出家らしい愛情表現だ。 曲ごとに場面とダンサーが入替る。 でも後半になっても雰囲気は変わらない。 カラフルを抑えた統一感のある衣装が増えてくるが。 そのままゴースト・ライトは静かにフェードアウトする・・。 カーテンコールでは70人近いダンサーが挨拶をしたが出退回数も多かったのでもっと少なく感じた。 この舞台はノイマイヤー2020年9月の新作らしい。 舞台上のダンサーが分散していたのはコロナ禍の為だろう。 振付は起伏がなく平坦な流れで練習風景をそのまま洗練させたような舞台だった。 心身が落ち着き心地よい観後感が残った。 *ハンブルク・バレエ団、 https://www.hamburgballett.de/de/spielplan/stueck.php?AuffNr=501389 □グレート・ゴースト ■演出:ヨアン・ブルジョア,出演:津川友利江,エリーズ・ルグロ他 ■NHK.WEB,2021.4.26(パリ.パンテオン,2017.10.3収録) ■タイトルにゴーストが付いていたのでついでに観る。 ダンスかと思いきやパフォーマンスのような内容だ。 力学を駆使した道具たとえば、起き上りこぼし、回る円盤、トランポリンなどを利用してパフォーマーが演技をする舞台である。 散文詩のようなト書が入るが身体と古典物理学の宇宙観を論じているようだ。 ゴーストはパンテオンつまり霊廟の関係から来ているのかもしれない。 機械的な道具からくる古臭い感じがいい。 どこか長閑さもある。 *NHK、 https://www.nhk.j

(中止)■東京ゴッドファーザーズ

■原作:今敏,台本:土屋理敬,演出:藤田俊太郎,出演:松岡昌宏,マキタスポーツ,夏子ほか ■新国立劇場.小劇場,2021.5.6-30 ■「・・緊急事態宣言発出に伴う政府等の要請を受け、以下の公演を中止することとしました。 ・・5月2日(日)~11日(火) 演劇「東京ゴッドファーザーズ」(11日のシアタートークも中止といたします)」 前半のチケを購入したので宣言に当たってしまった。 昨年から続く購入後の中止はこれで31本目。 1年たっても何も変っていないわね。 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/tokyo-godfathers/

■逢いにいくの、雨だけど

■作・演出:横山拓也,出演:尾方宜久,異儀田夏葉ほか,演劇ユニットiaku ■三鷹市芸術文化センター・星のホール,2021.4.17-25 ■断片が少しずつ繋がっていきながら・・、やっとパーティ場面で全体がみえました。 人物相関が朧気ながら理解できたと言うことです。 子供時代のちょっとした悪戯で視力を失ってしまった話です。 その子供は歳をとると被害者と加害者になってしまうのだろうか? 大人になっても子供時代の責任を問う人がいる。 厳しいですね。 舞台でも意見が分かれる。 片目を失明した大沢潤は気にかけていない。 そして加害者(?)の金森君子は気にかける。 君子の心は分かります。 でも潤の内心は分かりません。 彼は大人として振舞った? いや彼はこの事件を凍結し子供のままにしたのです。 大人として論じるのを止めたのです。 舞台上の潤の些細な動作、声の調子からもそれが読み取れます。 子供時代は人生の宝物としてそっとしまっておく。 もちろん痛みも一緒にです。 しまっておく幸せを潤は知っているのです。 *第26回OMS戯曲賞佳作受賞作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/111235

■ロミオとジュリエット

■作:W・シェイクスピア,演出:デヴィッド・ルヴォー,出演:オーランド・ブルーム,コンドラ・ラシャド他 ■松竹ブロードウェイシネマ.WEB,2021.3.26-(ブロードウェイ,2013.9.16収録) ■昨年夏に映画館で上映した作品だがWEBで配信中と知る。 演出がルヴォーなので観ることにした。 今年1月の「 シラノ・ド・ベルジュラック 」が面白かった為である。 WEB配信が多いのはコロナ禍のお陰かな? やはり、ルヴォーは期待に答えてくれた。 一言でいうとムラ・ムダ・ムリが感じられないから。 しかも分かり易い。 科白量が多いのにもかかわらず熟れている。 なぜロミオとジュリエットが死に向かっていくのか論理的にも納得できる。 当作品の入門用に持って来いにみえる。 プロが作った舞台である。 ロミオがバイクに乗って登場するのも若者が多い観客好みになっている。 仮死状態のジュリエットのベッドが宙吊りになって場面をまたぐのもスムーズな進行だ。 エイドリアン・ノーブル風なところもある。 コスパの良い舞台にもなっていた。 ブログを書きながら、「ブロードウェイ・システム」の存在を考えてしまった。 前回のシラノと今回のロミオは共通しているところがある。 それは明快かつ明解な舞台だったから。 ブロードウェイ作品はこれら表現がシステムとして確立しているのでは? *松竹ブロードウェイシネマ、 https://broadwaycinema.jp/_ct/17440064

■鈴木忠志の一日  ■鈴木忠志、創造の軌跡  ■SCOT「ニッポンジン」

■出演:鈴木忠志,テオドロス・テルゾプロス,エレン・ローレン,ロバート・ウィルソン,劇団SCOT ■YouTube,2021.2- ■コロナ禍の為か映像配信が多くなった。 WEBサイトに今年掲載された劇団SCOT関連のドキュメンタリー映像3本を観る。 ショベルカーや除雪車に乘って雪かきをしている鈴木忠志の姿を映す。 コロナ禍下での挨拶。 ひんやりする空気に薄青い空の色、雪に反射する眩しい光がいいわね。 次に鈴木メソッドの練習風景、あいだに6作品の断片映像が挟まれているの。 インタビューは3人、・・ロバート・ウィルソンは若い!? 「ニッポンジン」を含め映像を見ていると様式美学の鋭さがより伝わってくる。 動作と科白、つまり身体と声が映像は時間軸に沿って共鳴が起こるようにみえる。 でも劇場で観るとそうはならない。 たぶん様式への共鳴が空間に出現するから。 ここが映画と舞台の感動の違いだとおもう。 映画はリズムが大事ね、ドキュメンタリーだからまぁどうでもいいけど。 *YouTube、 https://www.youtube.com/watch?v=PTDA9_6EY9M

■斬られの仙太

■作:三好十郎,演出:演出:上村聡史,出演:伊達暁,瀬口寛之,小泉将臣ほか ■新国立劇場.小劇場,2021.4.6-25 ■天狗党と言えば漫画?で知ったのが最初かもしれない。 時代劇は台詞を当時の言葉に近づけるか否かで印象が変わってくる。 今回は幕が開いて10分間は役者が何を喋っているのか聞き取れなかった。 方言が入れば尚更です。 しかし慣れるのも早い。 言葉とは不思議ですね。 それとチャンバラ(剣術)場面が多いのも楽しい、舞台では舞踊に近いが。 主人公仙太は百姓から博徒に流れ、次に天狗党に参加し切込み隊長となりタイトルの如く斬って斬られながら時代を走っていく。 仙太は百姓寄りの正義は持つが水戸浪士加多の尊王攘夷から距離を置いているようにみえる。 その中で仙太のカネの扱い方が面白い。 お妙に持ち金20両すべてを恵む場面、罪悪がみえない賭場荒らしをする、周囲の同士からカネを集め女に渡すのは並外れた行動にみえる。 女に惚れていたのは分かるが、仙太にとってカネは天狗のような妖怪魔物だと承知していたのでは!? それは贈与に似たものかもしれない。 しかし天狗党は違った。 天狗党が天狗ではないことを仙太は見抜いていたのでしょう。 終幕、彼は<天狗探し>を止め百姓に戻っていく・・。 <天狗>の二つの意味、鼻高々の出来星か、妖怪魔物か、を加多と仙太の行動から寄り道をしながら観ました。 歴史を取るか、仙太の人生(天狗探し)を取るか、両者が上手く練れていたと思います。 *NNTT演劇2020シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/kirarenosenta/ *追記・・周りの席で米沢唯の記事を読んでいる客が多いのに気が付く。 彼女がダンサーということは知っていたし舞台も観ている。 なぜ彼女が演劇に? 気になったので帰りにプログラムを買った。 なんと彼女の父が有名演出家だったとは驚きです。

■夜鳴きうぐいす  ■イオランタ

■演出・美術・衣装:ヤニス・コッコス,指揮:高関健,演奏:東京フィルハーモニー交響楽団 ■新国立劇場・オペラパレス,2021.4.4-8 □「夜鳴きうぐいす」,原作:ハンス・アンデルセン,台本・作曲:イーゴリ・ストラヴィンスキー,出演:三宅理恵,針生美智子,伊藤達人ほか ■・・山水画のような風景の中を舟を走らせる漁師と鶯の訪れの1幕は緊張感を引きずるがどこか長閑。 2幕はその真逆で都市風景の皇帝宮殿が現れる。 ハリボテ感が楽しい。 でもロボット鶯を操縦している仮面ライダーには驚き! 目が釘付けになり元に戻るのが大変よ。 3幕の空に漂う大凧のような死神に再び驚き! これも同じ。 漁師の声が山水に響き静けさを取り戻し幕が下りる・・。 山水と都市、漫画(仮面ライダー)と宗教(死神)の対比が尋常ではない。 しかしストラヴィンスキーのパロディはこの対比をものともしない。 さすが新音楽ね。 漁師や鶯は聴きごたえがあったがやはりこの二人は風景かな? 物語を進めるのは皇帝ただ一人、しかも歌唱の量も質も与えられない。 この作品の上演を見ないのは主役のいない構造にある。 逆に想像力でいくらでも面白くできる作品かもしれない。  □「イオランタ」,原作:ヘンリク・ヘルツ,作曲:ピョートル・チャイコフスキー,出演:妻屋秀和,井上大聞,内山信吾ほか ■盲目とは?肉体と精神の統合とは?等々いろいろ考えさせられる舞台だった。 字幕が充実していたこともあるわね。 2015年METで観た時は強い宗教性を感じた記憶がある。 それは淡々と時間が進む強さと言ってよい。 今回はその強さは無い。 時間が乱れる感情重視にみえる。 たとえば父と娘の愛情が歌唱に表れていた。 二人の声は心に響いたわよ。 終幕の歓喜の高揚もね。 美術は「夜鳴き鶯」と違い平凡だった。 やはりチャイコフスキーだと博打ができない? *NNTTオペラ2020シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/iolanta/ *2021.4.8追記・・劇場 の「 小さなお客様向けのあらすじ」をみて、はたして仮面ライダーや大凧死神の登場した理由が分かった。 作品が童話だったこともあらためて思い出したわよ。 小さな客は何人か見たけどスタッフもここまで気を配るとは大変ね。

■シラノ・ド・ベルジュラック

■作:エドモン・ロスタン,演出:ドゥニ・ポダリデス,出演:ミシェル・ビュイエルモーズ,フランソワーズ・ジラール他 ■Bunkamura.ルシネマ,2021.4.2-8(リシュリュー劇場,2017.7.4収録) ■活気ある弾けるような舞台裏を映す出足場面が素晴らしい。 さすがコメディ・フランセーズか? 馬蹄形の劇場もなかなかのものだ。 しかし舞台は、今年初めに観た ブロードウェイ版 のような易しさが無い。 隙間から楽しさが伝わってくるのだが・・、フランス語が母語でないと面白さが味わえないのかもしれない。 科白が多いと字幕問題はいつものことだし、ローカルな知識も必要だ。 再びシラノが遠くなってしまった。 演出家や役者のインタビューが途中に入る。 この舞台では調理場を含め豊かな美術が目に留まったが、小道具係の物持ちの良い手作りの世界が紹介されていたので納得。 コロナ禍でライブビューイングが流行っているがフランスはオペラ座の上映しかない。 今回のように演劇系も一つ欲しいところだ。 *コメディ・フランセーズinシネマ *映画com、 https://eiga.com/movie/94700/