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■Fire Shut Up in My Bones

■作曲:テレンス・ブランチャード,演出:ジェイムズ・ロビンソン,カミール・A・ブラウン,出演:ウィル・リバーマン,エンジェル・ブルー,ラトニア・ムーア他 ■新宿ピカデリー,2022.1.28-2.3(メトロポリタン歌劇場,2021.10.23収録) ■「子供時代に受けた性暴力のトラウマを背負った青年が魂浄化への旅に出る・・」。 主人公チャールズは子供と青年の二人一役で演じられる。 子供時代の1幕と青年時代の2幕構成で、子供が登場する場面には必ず青年が近くで彼を見守っているの。 子供時代は回想にも取れるわね。 前半の歌詞歌唱は素朴素直で気持ちがいい。 母と5人の息子、伯父と2エーカの土地、そして家に寄り付かない父親、そこに近隣の人々や労働現場を入れて南部の貧困生活を淡々と描き出している。 この描写が終幕まで続いても文句は言えない。 チャールズは末っ子の甘えん坊ね。 この作品はヴェリズモ・オペラに入るのかしら? 指揮者や作曲家のインタビューではプッチーニの影響を認めているが、そこにジャズや映画音楽が絡まり合い親しみやすい楽曲になっていた。 後半は社交団体の活動や失恋などチャールズの大学生活が語られダンスも幅を利かせて舞台が派手になっていくの。 でも心の描写が消えてしまい前半の心地よいリズムが崩れてしまった。 主人公が持つトラウマを物語に乗せることができなかった。 「ときには何もせずに放っておくべきこともある・・」。 復讐の炎を骨の中に閉じ込めてしまった。 同時に彼が母のもとに戻る甘えん坊で終わってしまったのは残念。 未来に踏み出して欲しかったわね。 *METライブビューイング2021作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/95906/

■能楽堂一月「二千石」「求塚」

*国立能楽堂一月特別公演の下記□3作品を観る。 □仕舞・雲林院■出演:梅若万三郎,青木健一ほか □狂言・二千石■出演:茂山七五三,茂山宗彦 □能・求塚■大槻文藏,森常好,茂山逸平ほか ■国立能楽堂,2022.1.26 ■「求塚」は面白く観ることができた。 若菜摘み3人の白装束が新鮮だ。 シテの存在感は十分に出ていた。 特に後場の声と動きは劇的ともいえる。 身体の存在力が地獄に打ち勝っていた。 この力で彼岸が溶解し此岸に引き寄せられてしまった。 地獄の苦しみはこの世の苦しみそのものであり、世界と人の間には埋められない事象が多々ある。 この境地に達して処女の霊は消えていく・・。 兎名日処女が地獄へ落ちた理由は諸説ある。 しかし謡本を開くだけでは分からない。 今日の演者をみて彼女自身に原因があるとは思えなくなった。 普遍への志向性が感じられたからだ。 戯曲は別物だ。 考えさせられる舞台だった。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2021/1135.html?lan=j

■初春歌舞伎「南総里見八犬伝」

■作:曲亭馬琴,脚色:渥美清太郎,監修:尾上菊五郎,出演:尾上菊五郎,中村時蔵,尾上松緑ほか ■国立劇場・大劇場,2022.1.3-27 ■舞台に流れるゆっくりとした時間に触れて正月に逆戻りした感じだ。 異類婚姻譚に陰陽と儒教を結びつけたこの作品を初芝居にしたのは総出演ともいえる多数の役者を動員したことにある。 騒がしさの中に正月特有の静けさが出ていた。 犬塚信乃役尾上菊之助もその空間に包まれていた。 七場の舞台美術も場所と風景が多彩で目が喜ぶ。 途中に劇場広告が入りドローンが登場したのは驚いたが・・。 伏姫・八房の場が映像説明で逃げたのは残念。   この作品は少年文庫で中学時代に読んだ記憶があるが今でも伝奇の面白さは心に残っている。 チケットを購入したときにダイジェスト版を再読して劇場へ行ったが舞台は小説とは似て非なるもの。 作品が持っているイメージやリズムの違いがもろに歌舞伎では現れるからだろう。 それはともかく初春公演が持つまったりした時を過ごせた。 *国立劇場開場55周年記念作品 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2021/42210327.html

■ボリス・ゴドゥノフ

■作曲:M・ムソルグスキー,指揮:セバスティアン・ヴァイグレ,演出:スティーヴン・ワズワース,出演:ルネ・パーペ,デイヴィッド・バット・フィリップ,マクシム・パステル他 ■新宿ピカデリー,2022.1.21-27(メトロポリタン歌劇場,2021.10.9収録) ■粗筋だけを読んで映画館へ行った為か直ぐには物語に入り込めない。 ボリスは何に恐れ、なぜ苦しんでいるの? 皇子ドミトリーを暗殺して手に入れた権力だから? いや、もっと奥がある・・。 多くの地名や川の名前が歌詞に登場するがイメージが付いてこない。 ロシア皇帝の名前も。 これらの風景や人物像が浮かんだら豊かな舞台になったはず。 全てを覆うロシア正教がコロス(合唱団)を動かし、小さな波が繰返し押し寄せてくる達成感の無いリズムで充満している。 しかし、これが少しずつ充実感として貯められていくの。 変わった舞台だわ。 こういうオペラも悪くない。 宗教と権力が縦糸と横糸になり編み上がっているようにみえる。 しかしその織物は荒い。 プーシキン物語もムソルグスキーも遠い時代にみえる。 でも息子を後継者に指名し息絶えるボリスは権力者そのものね。 横糸はなんとか解けたかな?  *METライブビューイング2021作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/95905/

■蹠の剃刀 あしうらのかみそり

■作・演出・出演:工藤丈輝,音楽:曽我傑,美術:黒川通利 ■座高円寺,2022.1.12-16 ■舞踏家は独自の動きや形を持っているが、工藤丈輝にはそれが無い(ようにみえる)。 全身が読んで字の如く河原乞食です。 これが型かもしれない。 今回は音楽と美術のコラボが効いていた。 聴覚・視覚・触覚=音楽・美術・身体が共鳴して躍動感が舞台から伝わってきました。 型を見せない身体は容易にシンクロできるのかもしれない? 全12章で組み立てられた作品だが、章を追うごとに異形に驚きながら、日常から離陸していき非日常に入り込むことができました。 黒で始まった衣装変化も身体に馴染んでいましたね。 途中、顔を覆っていた黒布を外した時の凄みの表情もいい。 頭髪の先まで突っ張っていた。 10章前後で拍手をした観客が少なからずいたが「いや、これは終わりではない」? 等身大のパペットと踊る「屍のソシアルダンス」、光り輝く大円盤を背景に踊る「東西胎夢」、そして蜘蛛の巣まみれになるフィニッシュはいただけない。 もっとスマートに終幕へ持っていけたら後味が良かったはず、そして観客は拍手をより集中できたはずです。 総合力の強さが感じられる舞踏でした。 *劇場、 https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2582 *「ブログ検索」に入れる語句は、工藤丈輝  ・・ 検索結果は6舞台

(中止)■THREE QUIET DUETS

■振付:ウィリアム・フォーサイス ■Bunkamura.オーチャードホール,2022.2.4-6 ■「・・「外国人の新規入国停止」については、「本年2月末までの間、継続するものとする。」との発表がございましたため、出演者、スタッフの来日が叶わず、残念ながら全公演の中止を決定いたしました・・」。 久しぶりのフォーサイスだったのに残念。 コロナ下でのチケ購入後の中止はこれで36公演になってしまった。 今年前半はオミクロンで再び増えそう・・。 *劇場、 https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/kashi/20220204.html *「ブログ検索」に入れる語句は、フォーサイス  ・・検索結果は4舞台。   

■九十九龍城

■作・演出:上田誠,出演:石田剛太,酒井善史,角田貴史ほか,劇団:ヨーロッパ企画 ■本多劇場,2022.1.7-23 ■香港へ行けば必ず面白いことがある! 右側窓席に座って街を横に見ながら啓徳空港に降りていく時のドキドキ感は忘れない。 九龍城砦は行ったことが無いが<香港>を魔界にするランドマークでした。 でも今は香港への興味が遠のいている。 中国に飲み込まれつつ有るからです。 数ある都市の一つになってしまいそうですね。 舞台美術は苦心しているのが分かります。 ビルを外から描いているが透視技術を使ってビル内を望遠鏡で覗き見できる仕掛けになっている。 ビルの壁が動き部屋の中が見える!? それは豚肉処理、スマホ組立、雀荘、キャバレーでどれもイカガワシさに溢れている。 でも主人公らしき刑事二人が遠くから見ているだけではツマラナイ。 そこで彼らが途中から魔窟に潜入する・・。 演出家が得意とする繰返しや併合、再帰を駆使している。 それが思いもかけない展開の架け橋をしていた! 彼らがRPG(ロール・プレイング・ゲーム)世界の住人だったとは・・。 マトリックス以来、使い古した手ですが気にならない。 物語構造がプログラム構造と相似の為です。 その気配が最初から舞台に充満していた。 この巧さがチケット販売を抽選にできたパワーでしょう。 さすがです。 唯一残念なところは、ゲーム世界から戻る劇中劇が無かったところですか? *ヨーロッパ企画第40回公演 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/115322 *「ブログ検索」に入れる語句は、上田誠  ・・検索結果は3舞台。

■歌舞伎座一月「岩戸の景清」「義経千本桜」

*近頃はテレビをみなくなった。 気になる作品はWEB経由のパソコンで観る。 この正月は初春大歌舞伎第三部の2作品(下記□)を久しぶりにテレビで鑑賞した。 ■NHK,2022.1.2(歌舞伎座, 中継) □岩戸の景清,難有浅草開景清 いわとのかげきよ,ありがたやはながたつどうあけのかげきよ ■作:河竹黙阿弥,出演:尾上松也,坂東巳之助,中村種之助ほか ■これは楽しい。 初めてみる作品だが心が浄化していくように感じる。 近代の演劇・バレエ・ダンスでは浄化できない部分、つまり母語としての言語、身体、世界の深層を揺さぶられるのかもしれない。 平家の勇将藤原景清そして源氏諸大名の立ち姿は見ごたえがある。 コロスを含めて衣装も風景も素晴らしい。 □義経千本桜,川連法眼館の場 よしつねせんぼんざくら,かわつらほうげんやかたのば ■出演:市川猿之助,中村雀右衛門,市川猿弥ほか ■猿之助で何回か観ている作品だが、彼はこのごろ出突っ張りではないだろうか? 多くの舞台で名前をみる。 彼を初めて知った時はモーリス・ベジャールを連想してしまった。 バレエとは質が違うが、演者としての身体言語が似ているように思えたから、顔貌も。 40代後半に入っている今が絶好調なのかもしれない。 *歌舞伎座、 https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/738 *追記・・下記□8本も正月に観る。 □岸辺露伴は動かない(一巻〜六巻)■作:荒木飛呂彦,出演:高橋一生,飯豊まりえ他 □柳生一族の陰謀■原案:野上龍雄ほか,脚本:大石哲也,出演:吉田鋼太郎ほか □シンデレラ■演出:マシュー・ボーン,出演:アシュリー・ショー,アンドリュー・モナガン,ミケラ・メアッツア他 ■どれも楽しく観ることができて選択は正解だった。 「 シンデレラ 」はこのブログに感想を載せた。 「柳生一族の陰謀」は徳川家光暗殺の話だが、歴史上の権力者が偽物に入れ替わる可能性は低くないだろう。 なりすまし以外にも誰が親か?誰の子か?を含めれば、遡る歴史に生物的繋がりの意味は薄い。

■シンデレラ

■演出:マシュー・ボーン,出演:アシュリー・ショー,アンドリュウ・モナガン,ミケラ・メアッツア他 ■Streaming+・配信,2021.11.5-2022.3.31(サドラーズ・ウェルズ劇場,2017.12.16収録) ■ザ・ブリッツの実写映像から入っていく。 1940年、大空襲下のロンドンが舞台だ。 シンデレラの家はてんやわんやである。 兵士の出入りは多いし街は混乱の極みだ。 そこに空襲警報が鳴り響き燃え盛る夜空に飛行機の影がみえる。 このような状況下の為かダンサー達の動きが大きく荒々しさがある。 戦時中の雰囲気を出す為の振付にみえる。 空襲の合間に舞踏会場が作られ兵士や市民そして継母と姉たち、遅れて魔法使いに連れられたシンデレラが集まってくる。 会場はどこかいかがわしさもある。 彼女は一人の兵士と恋に陥りベッドを共にする。 午前0時に再び空襲に見舞われ舞踏会場は消え失せ皆散り散りになってしまう。 後日、兵士は彼女が忘れていった片方の靴を持って地下鉄や娼婦街などを探し回るがやっと病院にいるシンデレラに再会することができる。 そして二人は友人たちに見送られながら列車でロンドンから離れる・・。 シンデレラと言うより戦時下での男と女の出会いを描いた恋愛物にみえる。 兵士も主人公も並の男と女だ。 明日の命がみえないなか、魔法使いがいなくても彼女は別の男と出会っていたはずである。 物語の必然も偶然も溶解していくような舞台だった。 *映画com、 https://eiga.com/movie/89717/