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■シモン・ボッカネグラ

■作曲:G・ヴェルディ,指揮:大野和士,演出:ピエール・オーディ,美術:アニッシュ・カープア,出演:ロベルト・フロンターリ,イリーナ・ルング,リッカルド・ザネッラード,ルチアーノ・ガンチ他,管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 ■新国立劇場・オペラパレス,2023.11.15-26 ■硬い印象を持ったのは初演のためかしら? 演出と美術は無機質な劇場をさらに冷やしていた。 ベスビオ火山を逆さに吊るしただけの、だだっ広い空間に立つ歌手には孤立感が漂う。 父娘の哀楽は霧散していく。 演奏は当劇場を熟知している指揮者で聴きごたえ十分よ。 祖父と父、そして夫になる3人に囲まれた紅一点のアメーリアを中心に歌手たちは熟練の歌唱力をみせてくれた。 でもドラマ性は感じられない。 たぶん歌唱をじっくり聴いてくれと言っているのね。 ある意味この劇場らしい演出だった。 初登場ルチアーノ・ガンチのテノールが場内に響いていたのが印象深い。 5人もの招聘歌手の共演はさすがに豪華だった。 でも皆が濃厚のため逆に躍動感に欠けてしまったかな? *NNTTオペラ2023シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/37_026674.html

■能楽堂十一月「執心鐘入」「三井寺」

*国立能楽堂十一月企画公演の□2舞台を観る. □組踊・執心鐘入■出演:宮城茂雄,佐辺良和,島袋光尋ほか □能・観世流・三井寺(二重座)■出演:観世銕之丞,安藤継之助,宝生欣哉ほか ■国立能楽堂,2023.11.25 ■この劇場での組踊は珍しい。「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」は初めて観る。 琉球楽器の演奏が始まり紅型衣装(?)の役者が登場すると一機に琉球風景が出現した。 沖縄語(?)の歌詞歌唱から18世紀琉球人に出会った気分がおとずれる。 いやー、楽しい。 でも語句の理解は半分もいかない。 演奏が非連続なため静寂が時々訪れる。 それからみると能は賑やかに感じる。 「三井寺」は特にそうだ。 たぶん二人のアイが登場する為だろう。 各役割のテンポが小刻みで気持ち良い。 しかし和漢詩歌を地謡が紹介する後場が長すぎる。 母子再会を待ちくたびれてしまった。 小書「二重座(にじゅうずわり)」あり。 面は「深井(伝是閑作)」。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/11175.html?lan=j

■午後の曳航

■原作:三島由紀夫,作曲:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ,台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル,演出:宮本亜門,指揮:アレホ・ペレス,出演:北原瑠美,新堂由暁,小森輝彦ほか,演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団 ■日生劇場,2023.11.23-26 ■主人公ノボルの父権を望む一直線な行動が物語を分かり易くしていた。 三島由紀夫のエキスを飲まされた感じがするわね。 無彩色の美術と無調風な楽曲が同期して物語の緊張感をより高めていた。 ドイツ表現主義を思い出したように舞台に暗闇が立ち現れてきたわよ。 ダンサーは黒子にもなり、ノボルの分身としても動き回り結末を急がす。 ノボルが母フサコを覗き穴からみる近親相姦的行為、ノボルと船乗りツカザキの同性愛的戯れ、フサコとツカザキの過激なベットシーン、どれも抜群の演出ね。 そこにヘンツェの曲が取り囲み感情をより不安にそしてより高揚させてくれた。 とても完成度の高い舞台だった。 でも観後のカタルシスは無い。 ノボルの狂気への暴走とフサコの小市民的幸福の崩れる幕切れが脳裏に引っかかってしまったからよ。 *二期会創立70周年記念公演 *日生劇場開場60周年記念公演 *二期会、 http://www.nikikai.net/lineup/gogonoeiko2023/index.html *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、宮本亜門 ・・ 検索結果は4舞台 .

■無駄な抵抗

■作・演出:前川知大,出演:池谷のぶえ,渡邊圭祐,安井順平ほか,劇団:イキウメ ■世田谷パブリックシアター,2023.11.11-26 ■ギリシア神話から続くあの話だと分かったのは幕が下りる直前、主人公メイが母からの手紙を読む場面でした。 この時は高揚・落胆・呆然・納得・・が脳内を駆け抜けました。 昔からよくある結末のため混乱したからです。 粗筋も読まず劇場に行ったのは正解でしたね。 父や伯父に怖がられるメイに超能力を期待してしまった。 彼女が伯父に犯された語りもジャニーズへ連想が行ってしまった。 ・・全て外れてしまった。 イキウメとリズムが違うメイ役の池谷のぶえを採用したのは「人魂を届けに」の篠井英介に次いで二度目です。 イキウメに漂う<SF力>と近親相姦という<現実力>の橋渡しを彼女は熟した(?) しかし前者が空中分解してしまった。 電車事故が脳裏から一目散に逃げてしまった。 後者の力はギリシア時代から流石に衰えていません。 いつもと違う現実的後味だけが残りました。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/stage/2140/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、前川知大 ・・ 検索結果は13舞台 .

■ねじまき鳥クロニクル

■原作:村上春樹,演出:インバル・ピント,脚本:アミール・クリガー,藤田貴大,音楽:大友良英,出演:成河,渡辺大知,門脇麦ほか ■東京芸術劇場・プレイハウス,2023.11.7-11.26 ■美術やダンス、数人一役の面白さに目が向かっていたが、旧日本軍人マミヤがモンゴルを語るところで脳みそが目覚めました。 後半にはナツメグが満州を語る場面もある。 しかし語りは支流を流れるだけで物語の本流がみえてこない。 主人公トオルの妻クミコが失踪した理由は? トオルの対局に居るらしいノボルとは何者? この二つの謎は解けぬままです。 通底に現代の特に女性の苦悩と解放が見え隠れしている。 しかし、それはダンスで拡散されてしまう。 ダンスは現代人が過多に浴びている情報のようなものか? あるいは不可逆的な時間を表現しているのかもしれない。 捉え難い舞台でした。 原作は読んでいません。 小説から舞台への過程が単純にみえない。 舞踊や歌唱、美術や演奏をまとめて総合芸術として変換しているからです。 「読んだら観ない、観たら読まない」をモットーにしているが、今回は原作を読んでみたい。 刺激ある舞台でした。 *劇場、 https://www.geigeki.jp/performance/theater345/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、インバル・ピント ・・ 検索結果は3舞台 .

■桜の園

■作:A・チェーホフ,台本:サイモン・スティーヴンス,翻訳:広田敦郎,演出:ショーン・ホームズ,出演:原田美枝子,八嶋智人,成河ほか ■NHK・配信,2023.11.5-(パルコ劇場,2023.8収録) ■役者たちの大げさな演技、服装、そしてダンス、すべてが祝祭的だが違和感なく現代に統一されている。 しかも原作から逸脱していない。 19世紀末ロシアと21世紀現代がピタリと貼りつく。 見事な舞台です。 この作品は何回も観ています。 過去の舞台を思い出しながら目の前の舞台を観てしまった。 それは劇中劇になって現れる。 むかしの「桜の園」の中で、今この「桜の園」を演じている。 チェーホフの舞台は積み重なっていきます。 まるで地層のように。 今日の舞台を観てまた層が豊かになりました。 チェーホフが飽きない理由です。 *PARCO劇場開場50周年記念シリーズ作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/267066

■能楽堂十一月「竹生嶋詣」「実盛」

*国立能楽堂十一月普及公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・竹生嶋詣(ちくぶしままいり)■出演:茂山千之丞,茂山宗彦 □能・宝生流・実盛(さねもり)■出演:朝倉俊樹,殿田謙吉,則久英志ほか ■国立能楽堂,2023.11.11 ■「竹生嶋詣」に行ってきた「抜参り物」である。 でも旅話の楽しさは無い。 太郎冠者の駄洒落で笑わせる作品だ。 プレトーク「実盛の「執心」とは何か」(佐伯真一)を聴く。 実盛はなぜ亡霊となりこの世に戻ってきたのか? この一点に収束していく。 それは戦いで大将木曽義仲の首を取りたかったからである。 武士の執念と言える。 実盛の生涯から始まり、松尾芭蕉「おくの細道」、多太神社「実盛の兜」、呪術的行事「実盛送り」、柳田國男の豊作祈願「さなぶり」などを持ち出して話を面白くしていた。 遊行上人や里人の科白を聞いていると、実盛討死二百年後の加賀国篠原で亡霊が出現するその場に居る気分を持つことができる。 室町時代にワープできた。 緊張感あふれる舞台だった。 シテ面は「三光尉」だが笑いが微かに漂う。 ここは喜怒哀楽を消す面を付けていたら文句無しだったと思う。 しかし、実盛は僧の前で微笑んでいたのかもしれない。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/11172.html?lan=j

■能楽堂十一月「岩橋」「雪」

*国立能楽堂十一月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・岩橋■出演:高野和憲,深田博治,飯田豪 □能・金剛流・雪(雪踏之拍子)■出演:豊嶋彌左衞門,野口能弘ほか ■国立能楽堂,2023.11.8 ■「岩橋」は、新婚ホヤホヤの妻が衣をかぶったまま何日も夫に顔をみせない。 困った夫は仲人に助言をもらう。 彼女は和歌が好きなので歌で迫ってみたらどうか? ・・夫が歌を詠んでも、しかし妻はイヤイヤするだけである。 妻も歌で返すのか?と観ていたが残念!それはなかった。 オチも平凡すぎた。 「雪」の精霊が僧の前に現れて舞を舞う一場物の舞台だ。 みどころは序の舞である。 でもボッテリした舞だ。 粉雪より牡丹雪にみえる。 シテ面は「小面」だが古元休作とあった。 これが牡丹雪と似合ってる。 白くてポッチャリしている。 親しみのある面だ。 神妙な僧との微妙なズレがまた楽しい。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/11171.html?lan=j

■善き人

■作:C・P・テイラー,演出:ドミニク・クック,出演:デヴィット・テナント,エリオット・リーヴィ,シャロン・スモール他 ■TOHOシネマズ日本橋,2023.10.20-(ハロルド・ピンター劇場,2023年収録) ■登場人物は小説家のジョン、その妻ヘレン、そして親友モーリスの3人。 でも一人数役を熟す。 その替わり方が激しい。 妻を演技をしていると突然、祖母や女学生アンになったりする、整合性はとれているが。 同じようにジョンやモーリスはゲッペルス、アイヒマン、ヒトラーなどなどに替わる。 忙しいですね。  舞台道具はほとんど何も無い。 そして3人は台詞を喋り演技をするだけです。 効果音はスタッフが出しているらしい。 たとえばドアを開ける音など日常音のほとんどは舞台外から発します。 面白いですね。 ジョンは小説家らしくゲーテやトーマス・マンなどを話題にし、彼の蔵書「失われた時を求めて」を焚書とする場面もある。 音楽への興味は特に高くワーグナー、ベートーベンはもちろんジャズなどポピュラー系の話題も多い。 その楽曲が背景に流れる。 これが物語に効いています。 ジョンは安楽死の論文をヒトラーに気に入られナチスに入党する。 安楽死の議論が中心になるのか? でもそうならない。 彼の生活場面の描写が多い。 後半、親友でありユダヤ人モーリスとの切実な対話も中途半端になってしまった。 話題の詰め込み過ぎでしょう。 ・・いつのまにか彼は親衛隊SSの制服姿でアウシュビッツ駅のホームに立っている。 彼はおもむろに「ドン・キホーテ」を取り出す。 そこに囚人服姿のユダヤ人が演奏する「軍隊行進曲」が聴こえてくる・・。 一人数役のためテンポが速い。 ジョンの世界は家族と親友と恋人、文学に音楽、そしてナチスと扱う範囲が広い。 終幕は何とかまとめたが、ジョンの苦悩は速くて広くて上滑りしてしまった。 そして彼はいつのまにか<悪き人>になっていた。 その善悪の境はもはやどこにあるのか見えない。 今日の観客は若い女性が多い。 NTLの年齢層はいつもは高い。 スクリーンNOを間違えた? 確認のため入口に一度戻ってしまいました。 今回は特に地味で深刻なのに何故でしょうか? *NTLナショナルシアターライブ作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/99200/ *「ブログ

■皇国のダンサー

■作・演出:佐藤信,出演:服部吉次,桐谷夏子,片岡哲也ほか,劇団黒テント ■ザスズナリ,2023.11.1-5 ■手ぶらで観に行ったので最初はチンプンカンプンでした。 近未来の話のようです。 でも途中から日本の古代史を思い出しながらストーリーを追うことになる。 なぜならフルコト(日本書紀・古事記?・風土記?)からの抜粋が字幕に表示されるからです。 しかも物語を「マトリックス」構造に仕立ててある。 無機質な近代的ビルの一室らしき場所で、役者は叙事詩的な台詞を喋り演技をしていく。 ロボット風と言ってよい。 古めかしいコンピュータ用語も出てくる。 これらが結構おもしろい。 ダンサーの一人、服部吉次は後期高齢者風だが動きも発声も存在感があります。 観客も高齢者が多い。 それは7割くらい? でも若い女性も目立つ。 観客も新陳代謝が必要ですね。 観後に演出家の挨拶文を読んでWEBを調べると舞台は「乙巳の変」(645年)を描いていたことが分かる。 久しぶりに当時の歴史を調べ直し今日の舞台を思い起こしました。 ダンサー=俳優とは何者か? そして天皇とは? メモリのように記憶も消されていく? プログラムのように歴史も書き換えられていくのか? ・・。 *劇団黒テント第79回公演 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/268744 *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、佐藤信 ・・ 検索結果は6舞台 .

■尺には尺を

■作:W・シェイクスピア,翻訳:小田島雄志,演出:鵜山仁,出演:岡本健一,ソニン,木下浩之ほか ■新国立劇場・中劇場,2023.10.18-11.18 ■こんなにも面白い作品だったとは・・! 再発見です。 一度観ていますが昔のことで覚えていない。 今日の舞台はまとまっていました。 ヴィンセンシオ侯爵が指揮者の役割を果たしていたからでしょう。 物語にリズムがあった。 シェイクスピアの心地よさも出ていました。 現代に通ずる法律や権力者の行動も興味深い。 「こんな現代的な作品が400年前に?」とチラシにあったが同感です。 先日の「終わりよければすべてよし」と違い、今日は前面に出る主役級がバートラム(浦井健治)からアンジェロ(岡本健一)へ、ヘレナ(中嶋明子)からイザベラ(ソニン)へと変化する楽しさもあった。 「二作品は合わせ鏡」とあったが、この時期に完成度の高い2本を観ることができて幸せです。 *NNTTドラマ2023シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/shakespeare-dark-comedy/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、鵜山仁 ・・ 検索結果は14舞台 .