投稿

6月, 2015の投稿を表示しています

■沈黙

■原作:遠藤周作,作曲:松村禎三,指揮:下野竜也,演出:宮田慶子,出演:小原啓楼,小森輝彦 ■新国立劇場・オペラハウス,2015.6.27-30 ■話すように歌うので独特なリズムを醸し出している。 しかも歌唱の合間でも考えさせる時間を観客に与えてくれるの。 松村禎三が作成に時間をかけた理由を感じることができる。 ロドリゴの問いに「日本人に天文学を教えている・・」とフェレイラは的外れな答えをするの? 一度も十字を切らないの? 信徒の呻き声と鼾の間違えが転ぶきっかけになるの? ポルトガル人には踏絵がどう見えていたの? 平凡な疑問が次々と浮かぶ。 それでも感動は湿らない。 ド迫力の十字架と船首甲板のような美術が劇場に負けていなかった。 これが作品に安定感を与えていたのね。 フェレイラは「 さまよえるオランダ人 」の如く存在感が立現れていた。 ロドリゴもさまよえるポルトガル人の仲間入りね。 *NNTTオペラ2014シーズン作品 *劇場サイト、 htt p://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150627_003708.html

■新・殺人狂時代

■作:鐘下辰男,演出:日澤雄介,劇団:流山児★事務所ほか ■スズナリ,2015.6.24-28 ■重苦しい舞台だった。 暗いし狭いし空気も濁っている。 しかも男ばかりだ。 作家と演出家は似た者同士のため共振してしまったらしい。 今や再び殺人狂時代の入口に来てしまった。 どう対応すべきか? 原発労働者たちに語らせ行動させるのだが正に事故現場なので混乱している。 日常の地道な行動も必要だが切羽詰まった対応も緊要だと言っている芝居である。 今朝のニュース「報道圧力」を見ながら舞台に登場したジャーナリストのことを思い出してしまった。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/64556

■サーカス

■演出:森山開次,出演:森山開次ほか ■新国立劇場・小劇場,2015.6.20-28 ■子供向けですが楽しかったですね。 新体操のリボンやボールを真似たり小道具が幅を利かしていましたが、リズムが合ってくると目立たなくなりました。 ミラーボールを被った竹田仁美の素晴らしい踊りを境に、ゆったりとした流れの音楽と振付にダンス本来の面白さが戻ってきたのも嬉しいですね。 華麗な映像と衣装もダンスを巧く引き立てていました。 天井に飾ってあった風船を体に纏って走り回るエンディングもよかった。 まさに「サーカスは心踊る場所」を現前させる舞台でした。 *NNTTダンス2014シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/150620_003727.html

■ゴミ、都市そして死

■作:R・W・ファスビンダ,演出:千木良悠子,音楽:石橋英子,出演:緒川たまき,若松武史ほか ■世田谷パブリックシアタ,2015.6.25-27 ■歌も演奏も生と録音が混ざっているの。 場面間が途切れる為かぎこちない詩をみているような舞台ね。 エロネタも具体的で豊饒さのないドイツ的濃密さを助長している。 かったるいけど精神は冴えている。 この感じがゆっくりと異化効果を持って来るのが肌でわかる。 面白かったわ。 「貧しい娼婦ローマの父ミュラーはナチス党員時代その金持ちユダヤ人の両親を殺していた・・」。 この背景の想像力不足かしら? 娼婦ローマと金持ちユダヤ人の対話に入れなかった。 父ミュラーは「そんなこともあったかもしれない」で終わらせていたけど。 でも三人の役者は好演だったわよ。 「自由の代償」「マリア・ブラウンの結婚」「ベロニカ・フォスのあこがれ」しか見ていない。 でも芝居だとファスビンダの思想が身体を伝わって来るようだわ。 *チラシ、 http://stage.corich.jp/img_stage/l/stage51610_1.jpg?1435358442

■箱入り娘

■音楽:B・バルトーク,演出:金森穣,出演:NOISM ■神奈川芸術劇場・大スタジオ,2015.6.22-28 ■場内に入ると桃色兎が落ち着いたカメラワークで客席を撮影し緞帳に映写しているの。 兎は上演中もダンサーを撮って舞台上のスクリーンに乗せる役目をしている。 ストーリーは「かかし王子」かしら? 役者のスタイルや衣装の紹介を新潟弁?で紹介する幕開きは劇的さを伴う楽しさがある。 映像を取り入れ絵画的で箱庭のような舞台でのダンスはとても刺激的ね。 ダンサーの機敏な動きがより冴えるからよ。 特にカメラ兎、老魔女、イケ面の振付は面白い。 でも映像の力がどんどん強くなっていくの。 兎の撮影と映写の為ね。 ダンスを見るかスクリーンを見るかの選択を迫られる。 しかしダンスと映像は物語に混じり合って分けられない。 結果ダンスというよりパフォーマンスに近い舞台になってしまった。 ダンスの相対的な希薄性が問題ね。 映像を撮り映すことを強調した作品は初めてかしら? 演出家の総合芸術への飽くなき挑戦は頼もしい。 ところで箱から出たらそこは波打ち際の海岸だった場面は寺山修司を思い出しちゃった。 でもこのような編集映像は方向性が定まらなくなる。 リアルタイムな撮影と映写ならダンス身体へ接近できるけどね。 *劇場サイト、 http://www.kaat.jp/d/hm

■ルル

■原作:F・ヴェデキント、演出:鐘下辰男、出演:演劇企画集団THE・ガジラ ■下北沢・小劇場B1、2016.6.18-21 ■ http://stage.corich.jp/img_stage/l/stage51996_1.jpg?1434666617 ■役者たちの叫ぶような発声で緊張する。 美術や照明もこれに呼応している。 前半の音楽は過剰の見本だ。 エンジンを吹かしっぱなしにしているような舞台だ。 でも緊張感が続かず飽きが来てしまった。 台詞が皆同じように聞こえてきてしまう。  しかし科白が脳に刻み込まれる場面もある。 例えばルルが殺される終幕10分間がそれだ。 旋律が聞こえたと言ってよい。 硬く熱い舞台だったが、演出家の問い「アウトサイダーは可能か?」は勢いだけではせっかくの問いと答えが舞台上で出会えない。 荒削りの舞台は面白いが全体にメリハリをつけたい。 パッションが熟成する条件でもある。 勿論アウトサイダーにも効く。 「・・この問いはそのまま<演劇>は可能か?に繋がる」とチラシにある。 実はこの文章をみて下北へ行く気になった。 芝居を観る取捨選択手順は略決まっているがこういう文言に弱い。

■ジャージー・ボーイズ

■監督:C・イーストウッド,出演:J・L・ヤング,E・バーゲン,M・ロメンダ,V・ピアッツァ ■うん、とても楽しい作品ね。 ヴォーカル・グループ「フォーシーズンズ」物語なの。 ブロードウェイミュージカルが6月末に来日するから借りてきたのよ。 クリント・イーストウッド監督の気配が隅々まで行き届いている。 無駄は省いているけど時代精神が美事に刻み込まれている感じね。 俳優が時々カメラに向かって心の内を話しかけてくるの。 まるで私小説のよう。 面白い構造だわ。 60年頃の若者の行動が上手に表現されている。 しかも初代ブロードウェイ役のヤングと恋人E・ピッチニーニも出演している。 1930年生まれの監督はJ・L・ゴダールと同い年だけど益々冴えてきている感じね。 彼の監督作品でベスト5に入れてもいいかな。 ところでシアターオーブはどうする? *映画com、 https://eiga.com/movie/79806/

■新・冒険王

■演出:平田オリザ,ソン・ギウン,出演:青年団,第12言語演劇スタジオ ■吉祥寺シアタ,2016.6.12-29 ■冒険王はどこに行ってしまったのか? 自身の言葉で国境の話をしなくなってしまったからです。 モタつきながらも自分の足で国境を越えるのが冒険王たちです。 いまや国家を通してしか国境を語れなくなってしまった!? この状況を打破して新なる冒険王は再び国境を越えられるか? それが今回の共同作業とみました。 この作品は2か国語での上演です。 オリザ演劇での字幕は可能なのでしょうか? 青年団の劇的舞台はどこから来るのか? 特長ある科白の余韻が役者と観客の身体を巻き込んで共鳴するからだと考えています。 舞台では英語の通訳もあります。 微妙な冗長や字幕を読むリズムの乱れは避けられない。 そして新冒険王からサッカーの試合結果と共に国境の話を聞くことができたか? 演出家も「何が変わり、何が変わっていないのか?」と問うています。 冒険王の目指す国境が変質してしまったのでしょう。 *劇団サイト、 http://www.seinendan.org/play/2015/06/4357

■白鳥の湖

■音楽:P・チャイコフスキー,振付:M・プティバ,プティバ,演出:牧阿佐美,指揮:A・バクラン,出演:長田佳世,奥村康祐,新国立劇場バレエ団 ■新国立劇場・オペラパレス,2015.6.10-14 ■梅雨時の白鳥は白が映えていいわね。 去年は2月だったけど、この作品は今の時期に観るのがベストよ。 しかも楽日だからリラックスできる。 長田佳世は3幕のオディールになってからほぐれてくるの。 主人公にとっては初日だけど、長距離種目だから演出の影響もあるはず。 何度も観る定番作品は舞台に身を任すようになるから恍惚感がやってくるの。 お坊さんの読経と同じ感じかしら? チャイコフスキー三大バレエと浄土三部経は兄弟作品かもしれない。 *NNTTバレエ2014シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/

■東海道四谷怪談

■作:鶴屋南北,演出:森新太郎,出演:内野聖陽,秋山奈津子 ■新国立劇場・中劇場,2016.6.10-28 ■舞台美術はシンプル且つ斬新だが、この締まりのない劇場に誰もが苦労しているのは確かだ。 オモシロイというかツマラナイというか焦点が定まらない舞台だった。 お岩以外が全員男性の為である。 笑ってしまう場面が多いので、死んでゆく者の哀しみや苦しみが素直に伝わってこない。 装飾的現代歌舞伎を狙ったのかもしれない。 気に掛かったので終演後プログラムを買ってしまった。 「南北は・・滑稽を好みて、人を笑わすことを業とす」(諏訪春雄)。 「お岩は男性原理の追及を断罪した・・」(小林恭二)。 この二か所を読んで、怪談なのに笑いが多いのは?お岩以外が男性なのは?の問いが少し解けた。 「南北は非日常が優越している」のはわかるが伊右衛門のニヒルな殺人が表面を覆いすぎている。 「お岩は神である」ようにもみえない。 幽霊場面の多さも江戸時代ならともかく戸惑ってしまう。 この二つが日常と非日常の交流ができず劇的への道が閉ざされてしまった。 お岩が宅悦を呼び寄せお歯黒をつけ母の形見の櫛で髪をすきはじめる場面は唯一女としての存在感が出ていた。 場面転換は独特のリズムがあって面白い。 音楽はちょっとズレていたが、斬新な美術を背景に役者の動きと台詞が上手く同期していたからである。 変化球で三振に打ち取られたような観後感のある舞台だった。 *NNTTドラマ2014シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/play/yotsuyakaidan/

■ドン・ジョヴァンニ-天才劇作家とモーツァルトの出会い-

■監督:カルロス・サウラ,撮影:V・ストラーロ,出演:L・バルドゥッチ,L・グランイチャーレ,E・ヴェルジネッリ ■映画というより演劇らしさが見え隠れします。 台本を書いたロレンツォ・ダ・ポンテが主人公のようです。 モーツァルトはもちろん、サリエリ、カサノヴァも登場します。 しかしパッとしない作品ですね。 ダ・ポンテとアンネッタを大根役者のように演じさせた監督の意図がわからない。 登場人物が「ドン・ジョヴァンニ」へと繋がっていかない。 唯一意見を言うカサノヴァくらいでしょう。 それも申し訳程度です。 劇作家と作曲家の出会いを深く描けないのは監督の想像力不足です。 「ドン・ジョヴァンニ」は地獄へ落ちる場面を劇中劇として上演しますが、美術も衣装も凝っていて面白い。 映像美はよかった。 琴線に触れるテーマなのに勿体ない一品でした。 *映画comサイト、 http://eiga.com/movie/55305/