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■メサイア

■作曲:G・F・ヘンデル,編曲:W・F・モーツァルト,演出:R・ウィルソン,指揮:マルク・ミンコフスキ,出演:エレナ・ツァラゴワ,ヴィープケ・レームクール,リチャード・クロフト他,演奏:ルーブル宮音楽隊 ■NHK・配信,2022.9.19(ザルツブルク・モーツァルト劇場,2020.1.21,23,26収録) ■ロバート・ウィルソンの名前があったので観ることにしたの。 この時期に会えるとはラッキー! 10月公演の「浜辺のアインシュタイン」のチケットも入手したし・・、今回は演出が平原慎太郎だから楽しみね。 この「メサイア」もウィルソンらしい舞台になっている。 照明や美術は無彩色系に統一して、逆光やスモークも使い神秘性を表現している。 宗教音楽のため派手なところはみせない。 ただし歌手が舌を出したりウィンクするところ、女の子が登場する場面などは遊び心ある演出家に戻るの。 「ハレルヤ」では宇宙飛行士も登場して楽しいわね。 今回は配信をパソコンで観たけど生の舞台ならより集中できたとおもう。 ヘンデル唯一のオラトリアで聖書の歌詞も表面は分かり易い。 でも歌詞は吟味しないと深みに行けない。 イエス・キリストを描いているが物語性は弱い。 むしろ詩楽を観たような感じかな。 *NHK、 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2022122744SA000/

■能楽堂九月「空腹 そらはら」「薄」

*国立能楽堂九月企画公演の下記□2作品を観る。 □復曲狂言・空腹■出演:野村又三郎,野口隆行 □復曲能・薄■出演:金剛永謹,有松遼一,山本則秀 ■国立能楽堂,2022.9.23 ■どちらも復曲作品である。 狂言「空腹」は男が何某にカネを借りにいくが断られる。 そこで男は心にもなく切腹するぞ!と何某を脅す。 しかし逆に切腹を勧められてしまう。 男は切腹から逃げようとするが・・、カネも欲しい。 さいごまで気を揉む舞台だ。 能「薄」では<薄の精>が登場する。 能世界の山川草木の描写はどれも素晴らしいが、これは植物学的な作品にもみえる。 なんと薄の種類まで謡われる。 薄を愛でた登蓮法師を回向する話だが補陀落信仰に繋がるらしい。 「舞金剛」と言われるように後場の序之舞が見所である。 増女が似合う。 前シテは小面だった。 絣?衣装がゴワゴワしていて踊り難いようにみえたが。 「・・今は忘れ去られてしまった」。 鴨長明の無常観に繋がっていくのだろうか? *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2022/4116.html?lan=j

■天の敵

■作・演出:前川知大,出演:浜田信也,安井順平,盛隆二ほか,劇団:イキウメ ■本多劇場,2022.9.16-10.2 ■粗筋を読まないで観たのは正解でした。 イキウメは特にそうですね。 牛蒡のバルサミコ炒め、豆腐・長葱・人参と発芽玄米の混ぜご飯。 客席にも美味しい匂いが届きました。 その匂いが消え、次第に緊張が高まります。 主人公長谷川卯太郎の120年の過去が劇中劇を伴って語られる。 役者の動きは少ない。 しかし存在感がありますね。 緊張は終幕まで続く。 良質なSF小説を読んでいる気分です。 でも最後に、鰻の話で緊張が壊れてしまった。 主人公と医師夫婦の行く末は、舞台では演じられないが、凡庸です。 このまま「ポーの一族」として生きていく手もあった? これでジャーナリストでありALS患者の寺泊満が思い悩んで冷蔵庫の扉を閉める場面が強く浮き出ました。 終幕の流れから「天の敵」の意味を噛みしめました。 人間の健康や寿命のことを、生物としての生と死をです。 久しぶりに血肉に響いた舞台でした。 カーテンコールの拍手が大きかったですね。 流石です。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/164667

■NHKバレエの饗宴2022

*以下の□7作品を観る。 ■指揮:冨田実里,管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 ■NHK・配信,2022.9.18(NHKホール,2022.8.13収録) □パ・ド・カトル Pas de quatre■振付:アントン・ドーリン,音楽:プーニ,出演:中村祥子,菅井円加,永久メイ,水谷実喜 □バリエーション・フォー・フォー Variations for four■振付:アントン・ドーリン,音楽:キーオ,出演:厚地康雄,清瀧千晴,猿橋賢,中島端生 □牧神の午後への前奏曲■振付:平山素子,音楽:ドビュッシー,出演:小尻健太,柴山紗帆,飯野萌子,フルート:高木綾子 □ウェスタン・シンフォニー■振付:ジョージ・バランシン,音楽:ケイ,出演:スターダンサーズ・バレエ団 □「ロメオとジュリエット」からバルコニーのパ・ド・ドゥ■振付:レオニード・ラヴロフスキー,音楽:プロコフィエフ,出演:永久メイ,ビクター・カイシェタ □「ドン・キホーテ」からグラン・パ・ド・ドゥ■振付:マリウス・プティバ他,音楽:ミンクス,出演:菅井円加,清瀧千晴 □アンダンテ Andante■振付:金森穣,音楽:バッハ,出演:中村祥子,厚地康雄,バイオリン:小林美樹 ■幕開き2作品「パ・ド・カトル」と「バリエーション・・」のダンサーを「ロメオとジュリエット」「ドン・キホーテ」「アンダンテ」にも出演させる構造になっている。 コロナ禍の都合もあったのだろう。 国内外で活躍しているダンサーをじっくりと見せてくれた。 アンドレ・ドーリンは初めて聞く振付家だ。 落ち着いていて、そこに豊かさもみえる。 ソロを重視しているが、でも全体への繋がりは雑だ。 気に入ったのは「ロメオとジュリエット」。 ビクター・カイシェタのダイナミックさと永久メイの繊細さが上手く調和していた。 それと「ウェスタン・シンフォニー」。 西部劇の酒場にいるような楽しい雰囲気がとても良かった。 「曲から入るタイプである」と「アンダンテ」の金森穣は言っている。 しかしバッハの選択はどうだろうか? 「・・二人のカラダは人生をかけた作品」とも言っている。 二人は名誉K中村祥子とオールマイティ厚地康雄のイメージが強い。 大人の厚い味は出ていたが、もう少し華麗な楽曲にして二人の人生をより肯定しても面白

■グッバイ・ゴダール

■監督:ミシェル・アザナビシウス,出演:ルイ・ガレル,ステイシー・マーティン,ベレニス・ベジョ他 ■アマゾン・配信(フランス,2017年作) ■雑誌「リュミエール」に蓮實重彦と武満徹が涙を流しながら抱き合っている記事を思い出してしまったの。 二人はA・タルコフスキーを観て涙が止まらなかった・・。 タルコフスキーで私は涙を流したことはない。 でもJ=L・ゴダールは何度もある。 1980年代の「パッション」以降、彼の作品の幾つかは涙が止まらない。 特に1990年代に入ってから、たとえば「愛の世紀」「新ドイツ零年」などなど。 喜怒哀楽とは別の涙ね。 映画的・音楽的リズムや演劇的・劇的とも違う。 ゴダールは新しい映画芸術の涙=感動を私に与えてくれた。 「グッバイ・ゴダール」はアンナ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説を映画化したものらしい。 彼女はR・ブレッソンの「バルタザールどこへ行く」に、ゴダールでは「中国女」から「万事快調」まで出演している。 素人の感じがいつも離れなかった。 ブレッソンの影響が続いたのかしら? それはゴダールの当時の方針にも合っていたのかも。 今回の作品は夫婦からみたゴダールの裏側が見えて楽しかったわよ。 そして本当に最後になってしまった・・、グッバイ ゴダール! *映画com、 https://eiga.com/movie/88998/

■笑顔の砦

■作・演出:タニノクロウ,出演:井上和也,FOペレイラ宏一朗,緒方晋ほか,庭劇団ペニノ ■吉祥寺シアター,2022.9.10-19 ■舞台には身窄らしい長屋の二部屋が並んでいる。 下手は漁師の船長の部屋。 ここで同僚と一緒に食事もしている。 カネは無さそうだが人生を謳歌しているようです。 上手の部屋は新たに引っ越してきた父と娘、父の母の三人家族。 母は認知症らしい。 家族の崩壊が見え隠れする。 そして二部屋で物語が同時進行していく。  ・・船長は隣の家庭を覗き見した後にふさぎ込んでしまう。 身近な<現実>を見てしまったためです。 自身の将来を考えてしまった。 しかもテレビでC・イーストウッドの「荒野の用心棒」(?)を観たのでなおさらです。 自身の孤独も考えてしまった。 しかし同僚のくだらない笑いで船長は救われます。 隣の家族も食事で笑顔が戻り幕が下りる・・。 調理や食事の場面が多い。 でも上手くまとめています。 「ただ食って、ただ飲んで、・・」。 日常生活の裂け目から現代人の不安や孤独が見えてくる。 「この人生、酒のツマミになればいい」が舞台の結末です。 追い詰められているが思い切りの良い人生ですね。 「笑顔の砦」が「笑顔が砦」になっていました。 今日の客席は老若男女にばらけていました。 このような観客席も近頃珍しい。 でもC・イーストウッドの映画を知らない客は煮え切らなかったと思います。 別作品を重要な場面に挿入するのは難しいですね。 E・ヘミングウェイも同じでしょう。 イーストウッドが大好きな私には逆に舞台が膨らみましたが。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/163940 *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、タニノクロウ  ・・検索結果は5舞台.

■能楽堂九月「昆布売」「殺生石」

*国立能楽堂九月普及公演の下記□2作品を観る。 □狂言・和泉流・昆布売■出演:前田晃一,高澤祐介 □能・金春流・殺生石■出演:櫻間右陣,江崎欽次朗,三宅右矩ほか ■国立能楽堂,2022.9.10 ■三浦裕子のプレトーク「能・狂言の動物誌、狐を中心に」を聴く。 「殺生石」にも狐が登場する。 動物とヒトは非日常でも距離は近かった。 この作品は詞章を読んでいるときは狐は脇役に座っている。 しかし舞台では狐が主役に躍り出てくる。 地謡が背景に後退する為だろう。 地謡の場面が長いからだ。 「昆布売」は、侍が昆布を売るはめになるのだが、謡節・浄瑠璃節・踊節で売り声や動作を変えていく姿は楽しい。 刀は重い。 脇差も加わる。 長く差していると侍も疲れる。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2022/9119.html?lan=j

■能楽堂九月「鶏泣」「自然居士」

*国立能楽堂九月定例公演の下記□2作品を観る。 □狂言・大蔵流・鶏泣■出演:山本秦太郎,山本東次郎 □能・観世流・自然居士■出演:片山九郎右衛門,福王茂十郎,福王和幸ほか ■国立能楽堂,2022.9.7 ■鶏は鳴くのか歌うのか? 主人と太郎冠者は古歌でこれを競い合う。 「鶏泣(けいりゅう)」は<言葉争い物>と呼ばれるらしい。 観阿弥作の「自然居士(じねんこじ)」は将軍義満が絶賛している。 力強い舞台だ。 なんとしても子供を助けたい。 居士の意志の強さが現れている。 勧善懲悪チャンバラ時代劇をみているようだ。 後半は居士が舞、簓(ささら)、羯鼓(かっこ)の芸を披露してく。 これが剣劇にもみえる。 そして芸能も仏道修行と同等という思想に感心する。 ところで「自然居士」は正面席で観る作品だ。 正面に向かって演ずる場面が殆どだから。 いつもの脇正面を選んでしまったのは失敗。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2022/9118.html?lan=j

■Dance Speaks

*以下の□2作品を観る。 ■神奈川県民ホール・大ホール,2022.9.3 □ウェスタン・シンフォニー ■振付:ジョージ・バランシン,音楽:ハーシー・ケイ,振付指導:ベン・ヒューズ,舞団:スターダンサーズ・バレエ団 ■19世紀アメリカ開拓時代を舞台にした作品。 枯草の香りがする音楽を背景にカウボーイ姿のダンサーが舞台を走り回る。 馬が駆けまわるように。 女性ダンサーはカンカン風の振付が入っているのかな? 終章のフィナーレは華やかだったわよ。 開拓時代のイメージは西部劇に行き着く。 それはジョン・フォードの作品を思い出してしまうと言うこと。 先日、本屋で「ジョン・フォード論」をみかけたが蓮實重彦は遂に一冊にまとめあげたのね。 □緑のテーブル ■台本・振付:クルト・ヨース,作曲:フリッツ・A・コーヘン,ピアノ:小池ちとせ,内山祐大,出演:スターダンサーズ・バレエ団 ■スターダンサーズ・バレエ団総監督小山久美のプレトークを聞く。 作品の振付などを簡単に説明してくれた。 緑のテーブルを囲む黒服の紳士たちは政治を語っているのかしら? 次の場面からは有無を言わせず戦場の真っただ中へ。 そこで闘う兵士や市民には死神がいつも寄り添っているの。 音楽も振付も大袈裟だが悲劇的にならず柔らかみもある。 2台のピアノが舞台を仕切る。 ブレヒトとの親近性もみられる。 戦争に巻き込まれた人々が、鎌の替りに血で汚れた旗を持つ死神に先導され踊る場面はベルイマン監督の「第七の封印」そのもの、まさに死の舞踏といえる。 再び紳士たちは緑のテーブルを囲み語り合う。 でも問題解決は先延ばしかしら? 1930年頃の舞台は当時の音楽・演劇・舞踊・映画を引用し混ざり合い大戦に挟まれた時代の雰囲気をつくりだすの。 そして再び戦争がやってくる予感で幕が下りる。 *劇場、 https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/SDB_DS2022

■毛皮のヴィーナス

■作:デヴィッド・アイヴズ,翻訳:除賀世子,演出:五戸真理枝,出演:高丘早紀,溝端淳平 ■シアタートラム,2022.8.20-9.4 ■この芝居の注目はオーディションという設定にある。 つまり劇中劇の面白さだ。 「裏舞台もの」の楽しさ、たとえば演出家と俳優の関係逆転もある。 舞台好きにはたまらない。 しかしこの作品はとても難しい。 いわゆるマゾヒズムを論じているのだが、ギリシャ神話や聖書、歴史や慣習が随所にでてくる。 西欧精神の硬さを強く感じる。 しかも現代のジェンダー問題に繋がっていく。 ・・女優ワンダと演出家トーマスの100分二人芝居だ。 美術はすんなり入れる。 前半は内側の劇が芝居がかっていて違和感があった。 ワンダの喋りが棒読みの為だ。 科白にこびり付いている西欧の垢に戸惑ったのだろう。 いや演出かもしれない? 後半はよくなる。 外と内は次第に溶け合っていく・・。 ところで尿瓶劇場はどこにあるのだろう? 「ご主人様!」と聞くと寺山修司の舞台を思い出してしまう。 それは形を変え三島由紀夫に辿り着く。 この作品はロマン・ポランスキー監督で2015年に観ていた。 ポランスキーの糞真面目さがでている傑作だ。 演出家五戸真理枝は劇中劇が好きなようだ。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/202208venusinfur.html *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、五戸真理枝  ・・検索結果は2舞台.