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■シー・ラヴズ・ミー She Loves Me

■監督:デヴィッド・ホーン,作曲:ジェリー・ボック,演出:スコット・エリス,出演:ザカリー・リーバイ,ローラ・ベナンティ他 ■東劇,2020.12.25-2021.1.14(アメリカ,2016年) ■1930年代、ブタペストにある小さな香水店の日常を描く舞台です。 ・・街なかに小綺麗な店が建っている。 その店が展開していくと屋内の売場が現れ、さらに回転して裏部屋もみえる。 この凝った構造が場面切替を滑らかにさせミュージカルのリズムを壊さない。 登場する社長や社員たちの行動が驚くほど理に適っていますね。 従業員の採用や解雇、業務命令と評価、商品知識などに当時の小企業の姿がリアルに見えてきます。 レシートの長さで売り上げを予想する場面もある。 人間関係も同様です。 行動の理由と結果に納得できます。 出退社の挨拶など細かい所まで練られています。 それは仕事ばかりか日常にも言える。 スーツなどの衣装にも余裕がある。 店員同士であるジョージとアマリアは文通をしているが双方が文通相手だとは知らない。 出会いの古さから来る楽しさがあります。 出会い条件を評価する、たとえば「戦争と平和」「赤と黒」「魔の山」などの教養は少し押しつけがましいですが・・。  演技と歌唱、労働と恋愛など物語展開のすべてに目が行き届いていた。 小粒ながらブロードウェイの実力を見せつけられた作品でした。 *松竹ブロードウェイシネマ *映画com、 https://eiga.com/movie/90383/

■2020年ライブビューイング・ベスト10

 □ アクナーテン   演出:フェリム.マクダーモット,歌団:METメトロポリタン歌劇場 □ パリ・オペラ座ダンスの饗宴   舞団:パリ・オペラ座 □ スモール・アイランド   演出:ルーファス.ノリス,劇団:NTナショナル・シアター □ アグリッピーナ   演出:デイヴィッド.マクヴィカー,歌団:METメトロポリタン歌劇場 □ 夏の夜の夢   演出:ニコラス.ハイトナー,劇団:NTナショナル・シアター □ Lost Memory Theatre   演出:白井晃,劇場:KAAT神奈川芸術劇場 □ ダークマスターVR   演出:タニノクロウ,出演:庭劇団ペニノ □ 偽義経冥界歌   演出:いのうえひでのり,出演:劇団☆新感線 □ じゃじゃ馬ならし   演出:イヴォ.ヴァン.ホーヴェ,劇団:ITAインターナショナル.シアター.アムステルダム □ 赤鬼   演出:野田秀樹,劇団:NODA・MAP  *並びは上映日順。 当ブログに書かれたライブビューイング(舞台を撮影し配信又は映画上映)から選出。 *「 2019年ライブビューイング・ベスト10 」

■2020年舞台ベスト10

□ 鶴かもしれない2020   演出・出演:小沢道成 □ サイレンス   作曲・台本・指揮:アレクサンドラ・デスプラ □ 少女と悪魔と水車小屋   演出:宮城聰,劇団:SPAC □ 少女仮面   演出:杉原邦生,出演:若村麻由美ほか □ 亡霊たち、再び立ち現れるもの   演出:毛利三彌,劇団:CAPI □ 夏の夜の夢   演出:レア.ハウスマン,指揮:飯森範親 □ フィガロの結婚、庭師は見た!   演出:野田秀樹,指揮:井上道義 □ M   演出:モーリス・ベジャール,舞団:東京バレエ団  □ アルマゲドンの夢     演出:リディア・シュタイアー,指揮:大野和士 □ 外地の三姉妹   演出:多田淳之介,劇団:東京デスロック *並びは上演日順。 当ブログに書かれた作品から選出。 映画(映像)は除く。 *「 2019年舞台ベスト10 」

■外地の三人姉妹

■原作:アントン・チェーホフ,翻案・脚本:ソン・ギウン,演出:多田淳之介,翻訳:石川樹里,出演:伊藤沙保,李そじん,亀島一徳ほか,劇団:東京デスロック ■神奈川芸術劇場・大スタジオ,2020.12.12-20 ■舞台は1930年代朝鮮北部。 最初は慌てたけど「三人姉妹」にしっくり来る時代と場所に思える。 チェーホフに出会えた!と言える舞台は少ない。 でも今日の舞台はチェーホフに届いたという達成感があったわよ。 「東京へ帰りたい!」「生きなくちゃ!」。 言葉を越えて迫ってきた。 それは時代風景が荒々しく描かれていたこともある。 特に日本兵に存在感があった。 日韓合同作品の成果の一つかしら。 映像説明が過剰だったが90年前だから仕方ない(?)。 舞台中央には居間、奥に中庭、客席前には素焼き色をした陸軍鉄帽や歩兵銃、楽器やキーボードなど数十の置物が散らばっているの。 この均衡ある舞台美術は終幕が近づくにつれて片づけられる。 でも置物の効果はあったようにはみえない。 置物に目が行き届かなったからよ。 姉妹の長男福沢晃の登場場面にはびっくり。 彼はどうしようもないアウトサイダーね。 次女昌子と中佐磯部史郎との恋愛もなかなか激しい。 異化効果のようで物語を活き活きとさせていた。 朝鮮舞踊(?)で幕が下りるのも良し。 今日のような舞台に出会うとチェーホフを改めて好きになってしまうわね。 *日韓合同作品,KAATx東京デスロック作品 *劇場、 https://www.kaat.jp/d/ThreeSisters2020

■プライベート・ジョーク

■作・演出:野木萌葱,出演:井内勇希,植村宏司,小野ゆたか,加藤敦,西原誠吾 ■東京芸術劇場.シアターイースト,2020.12.4-13 ■舞台は近頃の美術系大学の学生寮らしい。 特別講義にノーベル賞受賞者が招かれている!?。 ・・場所は日本ではないようです。 検閲の話題で時代も今ではないことがわかってくる。 後半になり闘牛場へ行くことで場所はスペインで決まりです。 ドイツ人らしき物理学者はアインシュタインかな・・? そして有名画家はピカソ! では映画作家は?詩人は?そしてもう一人の若い画家は誰でしょう? 彼らの作品名が一つも登場しないので分からない。 「ゲルニカ」らしき話は後半に登場しますが。  深刻な時代のようですが、そうみえない。 どこか学生演劇のようなシンプルなリズムを持っている。 これが深刻さを抑えている。 時間の進みが不規則で可逆なところもある。 演出家が「思わずに」書いた作品だと言っていますね。 このリズムが「思わずに」書いた成果でしょう。 学生寮という場所で再会する再会群像劇です。 自ずと青春群像に変わっていく。 劇団主催者でもある詩人は最期に死刑になってしまう。 演出家は詩人と自身を重ねたのかもしれない。 「この作品を最後に劇団化へ踏み切る・・」。 詩人を引き継いだのですね。 登場人物の歴史上の名前は最期まで分からなかった。 そしてタイトルも謎のままです。 *パラドックス定数第46項 *劇場サイト、 https://www.geigeki.jp/performance/theater252/ *2020.12.14追記・・不明の3人が分かりました。 詩人はガルシア・ロルカ、映画作家はルイス・ブニュエル、画家はサルバドール・ダリのようです。

■シラノ・ド・ベルジュラック

■作:エドモンド・ロスタン,演出:ジェミー・ロイド,出演:ジェームズ・マカヴォイ ■TOHOシネマズ日本橋,2020.12.4-(プレイハウス・シアター,2019年収録) ■白枠で周囲を強調した舞台には椅子とマイクしか置いていない。 役者たちは普段着で登場したが時代は1640年。 ヒップホップ系のノリもあり、椅子取りゲームのような動きが面白い。 大きな鼻を持つべきシラノが素顔で登場するのは初めてでしょう。 彼を眺める時は肉体を離れて言葉に集中できます。 ロクサーヌの詩への入れ込みようは半端ない。 詩作ができないと肩身が狭い。 クリスチャンの存在感が消え失せてしまいましたね。 ここまで詩作優位を誇る作品でしたっけ? ロンドンとパリの違いを意識していたことから、パリへの対抗心のためシェイクスピアの国としての詩作を強調したのかもしれない(?)。 後半は照明も役者の動きも緩くなる。 ロクサーヌが戦場に来ること自体に無理がある、いつも観ながらこう思ってしまいます。 クリスチャンへの肩入れ理由をシラノは「俺は詩に取りつかれた狂人さ!」。 でも取り持ち役はやはり侘しい。 NTLナショナルシアターライブを気にしているとロンドンの演劇状況がわかります。 奇想天外なシェイクスピア作品はともかく、今回は特に美術や小道具、役者の動きなどに大胆な試みがあり、大鼻を含めた身体に対する差別への抵抗も強く感じられました。 *NTLナショナル・シアター・ライヴ作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/93604/

■幸福論、現代能楽集Ⅹ「道成寺」「隅田川」より

■作:長田育恵(隅田川),瀬戸山美咲(道成寺),演出:瀬戸山美咲,出演:瀬奈じゅん,相葉裕樹,清水くるみ,明星真由美,高橋和也,鷲尾真知子 ■シアタートラム,2020.11.29-12.20 □道成寺 ■橘家の父・母・息子3人は職歴・学歴たぶん財産も申し分ない。 世間では成功者とみられそうだ。 彼らもそう確信している。 3人は無意識に高慢となり他人の幸せや生き方が分からないし許せない。 しかし所詮は種として似た肉体・精神を持つ者同士だ。 弱みは誰でも持っている。 その弱みを他者から言われたくない。 貶し蔑みした相手から反撃を食らい結局3人は退場する・・。    このような優越感の欠片を持つ人は数多いる。 人の振り見て我が振り直せ、と言われているような舞台である。 □隅田川 ■3人の女の生き様を縄に撚っていくようなストーリーである。 そこに母娘関係、堕胎、人工妊娠、介護老婆等々を煉り込んでいく。 男の身として弱い所を突いてくる内容だが背景に男女不平等がみえる。 先の「道成寺」は原作との関係がよく見えなかった。 この「隅田川」は母と子供(ここでは胎児)との再会が胸に滲みる。 しかし幸福とは何だろう? 2作品の切り口は違うがどちらも社会問題が詰まっている。 観ながら自身のことから世間のありようまで考えてしまった。 現実に引き戻される舞台に弱い。 このような作品は避けているのだが・・。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/202011koufukuron.html

■村のドン・キホーテ

■演出:田中泯,松岡正剛,出演:田中泯,石原淋ほか,チェロ演奏:四家卯大ほか ■東京芸術劇場.プレイハウス,2020.12.4-6 ■松岡正剛とのコラボらしい?、これは観に行くしかない! ・・舞台は木柱の家が建ち張りぼて馬が歩き回り張りぼて飛行機が飛ぶ。 赤や白の布を上手に使って嫌味の無いスッキリした美術だ。 久しぶりにみる踊りは親しみ易くなっている。 静かに横たわる身体は乾いた存在感が出ていた。 その後の動きある振付はドン・キホーテを重ねるせいか緊張が薄れていく。 呼吸と動きが一致していて雑念を感じさせない。 ステップを踏む場面は気持ちがいい。 ダンサー石原淋に科白はあるが少ない。 言語演出松岡正剛とチラシにあったので台詞はもっと饒舌になるのかと思っていた。 気が抜けてしまった。 でも、これで良い。 演出家二人の写真が並べられていたが、似ている。 ヒゲもそっくりで兄弟のようだ。 「互いに三十歳をすぎたとき、意気投合した。 以来、ずっと・・」。 似るのも無理はない。 2年前、この劇場で観た「 ・・形の冒険 」以来である。 時間を解き放ったと書いたがそれは過去、今日の舞台は未来を解き放ったと言ってよい。 感動は少なかったが身体が軽くなった。 カーテンコールの挨拶では山梨や師匠(土方巽)を語る。 途中チェロ演奏が入ったが強すぎてダンスを越えてしまった。 タイミングは休憩前奏曲? そして、張りぼて馬がとてもよく出来ていた。 おたふく面も日常性を上手に消していた。 *劇場サイト、 https://www.geigeki.jp/performance/theater262/

■太平洋食堂

■作:嶽本あゆ美,演出:藤井ごう,出演:劇団メメントC,「太平洋食堂を上演する会」 ■座高円寺,2020,12.2-6 ■1911年の大逆事件で起訴された26人のひとり大石誠之助を主人公とした舞台です。 ここでは大星誠之助と名乗る。 最初に登場した若い牧師は語部でした(主人公だと勘違)。 物語りはバルチック艦隊撃破、ポーツマス条約締結のニュースを聞きながら戦争の時代の真っ只中へ落ちていきます・・。 大星はアメリカ帰りの医者ですが料理もできる。 それが彼のレストラン「太平洋食堂」です。 食堂に集まる人々が活き活きと描かれていますね。 当時の階級や差別を乗り越えた会食場面が見所でしょう。 そして<レシピ>という言葉が大星の口からよく発せられる。 ここに彼の思想の鍵があるのかもしれない。 幸徳秋水と平民社を全面で支持しているのですが、何を考えているのか分からなくなる場面が時々ある。 彼が医学と料理、アメリカ=自由主義と社会主義が混ざり合った人物だからでしょう。 作家獄本あゆ美の舞台はこれで2本目です。 最初に観た「 安全区、堀田善衛より 」もそうでしたが、彼女は僧侶を登場させ語らせるのが巧い。 この舞台でも浄土真宗僧侶高萩懸命が仏教型社会主義と言えるような行動を取り大星を補足します。 僧侶の実名は高木顕明ですか。 同時上演の「彼の僧の娘ー高代覚書」にも登場する(?)ようですがこちらは都合がつかない。 そして事件逮捕後の大審院場面で被告弁護士は「動機信念説」を批判するが大星は死刑、僧侶は獄中自殺で幕となってしまう。 主人公大星は一つの思想に固執するのではなく幾つもの選択肢を考え、悩んでいたようにみえました。 いくつものレシピをです。 *劇場サイト、 https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2371