■太平洋食堂

■作:嶽本あゆ美,演出:藤井ごう,出演:劇団メメントC,「太平洋食堂を上演する会」
■座高円寺,2020,12.2-6
■1911年の大逆事件で起訴された26人のひとり大石誠之助を主人公とした舞台です。 ここでは大星誠之助と名乗る。 最初に登場した若い牧師は語部でした(主人公だと勘違)。 物語りはバルチック艦隊撃破、ポーツマス条約締結のニュースを聞きながら戦争の時代の真っ只中へ落ちていきます・・。
大星はアメリカ帰りの医者ですが料理もできる。 それが彼のレストラン「太平洋食堂」です。 食堂に集まる人々が活き活きと描かれていますね。 当時の階級や差別を乗り越えた会食場面が見所でしょう。
そして<レシピ>という言葉が大星の口からよく発せられる。 ここに彼の思想の鍵があるのかもしれない。 幸徳秋水と平民社を全面で支持しているのですが、何を考えているのか分からなくなる場面が時々ある。 彼が医学と料理、アメリカ=自由主義と社会主義が混ざり合った人物だからでしょう。
作家獄本あゆ美の舞台はこれで2本目です。 最初に観た「安全区、堀田善衛より」もそうでしたが、彼女は僧侶を登場させ語らせるのが巧い。 この舞台でも浄土真宗僧侶高萩懸命が仏教型社会主義と言えるような行動を取り大星を補足します。 僧侶の実名は高木顕明ですか。 同時上演の「彼の僧の娘ー高代覚書」にも登場する(?)ようですがこちらは都合がつかない。
そして事件逮捕後の大審院場面で被告弁護士は「動機信念説」を批判するが大星は死刑、僧侶は獄中自殺で幕となってしまう。 主人公大星は一つの思想に固執するのではなく幾つもの選択肢を考え、悩んでいたようにみえました。 いくつものレシピをです。