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■ローエングリン

■作曲:R・ワーグナー,指揮:飯守泰次郎,演出:M・V・シュテークマン,出演:K・V・フォークト,M・ウール ■新国立劇場・オペラパレス,2016.5.23-6.4 ■騎士はエルザに向かって「私の名前を聞くな」と言うの。 ワーグナーのあのジワッとくる謎が無い。 この言葉で謎がどこにあるか明確になってしまったからよ。 「彷徨えるオランダ人」や「 タンホイザー 」のように作品の中で考え込むことが少ない。 オルトルートの執拗な行動をみていて「ゲド戦記」を思い出してしまった。 でもこの作品は名前の力を語らない。 名前を知らなければ愛することができないのか? 「愛の困難」に繋げていく物語ね。 フォークトの歌唱は心地よい朝の目覚めのように爽やかだわ。 彼が歌う時はいつも目覚めてしまう。 エルザ役ウールは低音質がオルトルートと重なるけど騎士との対話は楽しませてくれた。 合唱団が素晴らしい。 上演時間は休息を含めて6時間。 ワーグナーだから気にしないけど今回は集中力が途切れてしまう。 人数が多くて舞台が賑やかすぎたこと、美術オブジェに意味が付いていて客観的に考えてしまったこと、いつもの謎と対話をする場面が少なかったからよ。 でもやっぱりワーグナーって最高! 背景の光の壁はいいわね。 ところで3幕男性合唱団の黒の帽子・シャツ・ズボンが銀河帝国軍の制服に似ていたと思わない? ハインリッヒ国王が衣装は青だったけどダース・ベイダーね。 スター・ウォーズをみているようだった。 *NNTTオペラ2015シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006154.html

■太陽

■作・演出:前川知大,出演:清水葉月,劇団イキウメ ■シアタートラム,2016.5.6-29 ■SFで精神世界を描くことが多い劇団だがこれは物理世界に風景を移している。 昼と夜に人類が分かれてしまった話である。 旧い「昼人間」は太陽下では生きられない「夜人間」に憧れる。 彼らが不病不老を手にしているからである。  しかし「夜人間」の肉体的欠陥や恋愛・結婚制度などに古臭さが舞台に漂っている。 出生率低下問題もリアルに感じられない。 不病不老への想像力に妥協があったのかもしれない。  だがこの限界を突破しようとする役者たちの心意気が舞台から伝わってくる。 娘生田結が「夜人間」に変わったのをみた父草一は泣き崩れ、連れ の奥寺純子はおろおろするばかりである。 「昼人間」の喜びや悲しみ肉体の苦しみとは何 であったのか、父娘の絆とは何であったのか、こ れから何者になっていくのかを一気に現前させる場面で強烈であった。 これに医師金田洋次の土下座、純子の息子鉄彦の「夜人間」転換許可書の破棄行動が続く・・。 終幕、 不病不老と対峙できたストーリーに拍手を贈りたい。 イキウメSFは繊細だが詰め込みすぎてリアルさを欠くことがある。 *劇場、 https://setagaya-pt.jp/performances/20160506taiyou.html

■ロベルト・デヴェリュー

■作曲:G・ドニゼッティ,指揮:M・ベニーニ,演出:デイヴィッド・マクヴィカー,出演:S・ラドヴァノフスキ,E・ガランチャ,M・ポレンザーニ,M・クヴィエチェン ■東劇,2016.5.21-27(MET2016.4.16収録) ■エリザベス一世が女王として女として愛の憎しみ悲しみを心の表裏に塗りこめていく激しい舞台だった*1。 ラドヴァノフスキの震えある乾いた高音とポレンザーニの青春が滑っていくような歌唱のぶつかり合いで身動きが取れなかった。 しかも黒と金の室内装飾と凝りに凝った衣装が追い打ちをかけるの。 取り巻き連中が舞台の袖にいて4人をいつも見つめている劇的手法を取っているから緊張の和らぐことがない。  逃げ道の無い室内劇ね。 しかも権力者への視線から他者の視線に転化している。 ロベルトを死刑にした終幕、女王が鬘を外した狂乱に近い姿は圧巻としか言いようがない。 *1、 「マリア・ストゥアルダ」(MET2013年) *METライブビューイング2015作品 *作品、 http://www.shochiku.co.jp/met/program/s/2015-16/#program_09

■NHKバレエの饗宴2016

■指揮:園田隆一郎,演奏:東京フィルハーモニー交響楽団 ■NHK・Eテレ,2016.5.22(NHKホール2016.4.10収録) ■「レ・ランデヴ」,振付:F・アシュトン,出演:小林紀子バレエ・シアタ これは爽やかな舞台だ。 端として申し分ない。 そしていつものことだがカメラワークがいい。 舞台全体と部分のどちらもしっかりと撮影し対象をじっくりと見させてくれる。 客席に座っているようだ。 さすがNHKである。 ■「オセロ」,原案:W・シェイクスピア,音楽:A・G・シュニトケ,振付:日原永美子,出演:谷桃子バレエ団 新作らしい。 振付家も自慢していたが音楽が心理状況に上手く寄り添っている。 しかしダンサーたちの喜怒哀楽が大げさにみえる。 短い時間で巧くまとめた反動かもしれない。 ここはもっと抑えて身体に比重を移したほうがよいと思うが・・。 ■「モーツァルト・ア・ドゥから」,振付:T・マランダン,出演:橋本清香,木本全優 マランダンと海外バレエ団で活躍中二人の組み合わせは普段見られないので貴重だ。 ■「ゼンツァーノの花祭りから」「ナポリから」,プロデュース:M・ルグリ,出演:未来のエトワールたち 若いダンサーたちの踊り難そうな振付部分がわかるから素人がみると参考になる。 ■「リラの園」,振付:A・チューダー,音楽:A=E・ショーソン,スターダンサーズ・バレエ団 プレパラシオンのない動きは舞台芸術の基本だとおもう。 感情は微分化されるのであとに残らない。 先ほどみた「オセロ」はこの逆である。 感情を積分化している。 これで過剰を招き寄せてしまった。 能楽の面などは微分し続けている表情である。 今回の6作品中で一番気に入った。 ■「くるみ割り人形からグラン・パ・ド・ドゥ」,振付:P・ライト,出演:平田桃子,S・モラレス 平田桃子をトリに持ってきた順序は見事である。 彼女は瞬間瞬間に1/100秒の余裕を持って踊り続けている。 やはり微分化である。 これが観る者にバレエの楽しさと豊かさを伝えてくれる。 日常とは積分化することである。 舞台は非日常に向かってほしい。 *劇場サイト、 http://www.nhk-p.co.jp/event/detail.php?id=568 *2016.6.19追記、 「夢

■CHROMA

■総合ディレクション:高谷史郎,音楽:S・F・ターナ,照明:吉本有輝子,メディア・オーサリング:古舘健,コンセプチュアル・コラボレーション:泊博雅,舞台監督:大鹿展明 ■新国立劇場・中劇場,2016.5.21-22 ■映像や音響・照明を含めた舞台美術が美しい。 前半は鳥や蛇や田圃風景を語り、古い製図用ドラフターを使って忘れかけた20世紀を思い出させてくれます。 ダンスは美術と同列に扱っている為か溶け込んでいて目立たない。 アリストテレス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートン、ゲーテ、ヴィトゲンシュタインらの光学持論が読まれます。 後半はスペクトラムを含んだ映像やアラル海(?)の風景、イーゼルを持ち出しカンバスに照明を当てたりします。 このあたりは特に美しい。 ダンスはユーモアのあるパフォーマンスに代わるがやはり空間表現の一つとして演じているようです。 それにしても連続性がありません。 場面ごとの面白さはありますがこれを積み重ねていくことができない。 ここで前回の「 明るい部屋 」を思い出してしまった。 ロラン・バルトから光学へ話が広がった為エントロピーも増した舞台にみえる。 このエントロピーが「・・ここにある世界と生きる人間の負った傷」に繋がったかどうかが分かれ目です。 その境界線上で揺らいでいる作品です。 *NNTTダンス2015シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/37_008649.html

■じゃじゃ馬ならし

■作:W・シェイクスピア,音楽:D・ショスタコーヴィチ,振付:J=C・マイヨ,出演:エカテリナ・クリサノフ,オルガ・スミルノワ ■Bunkamura・ルシネマ,2016.5.19-(ボリショイ劇場2015.12収録) ■ドラマティック・バレエでこの作品は初めてなの。 振付で物語を進めていくからパントマイムに近い。 そのリズムに最初は興味が持てたけど長く続かない。 コミックでダイナミックな振付だけどマンネリ化を避けられない。 同じような登場人物が多いことや性格差異を身体表現するのに限界があるからよ。  粗筋を知っているだけでは受け付けないのかもしれない。 バレエには難しい作品だけどスタッフの力には脱帽。 場面ごとに切り取った振付はなかなかだし階段と柱の美術はスカッと冴えていたし衣装も素敵だった。 もう一度観れば良さが納得できるかしら。 *ボリショイ・バレエinシネマ2015作品 *作品サイト、 http://liveviewing.jp/contents/bolshoi-cinema2015-2016/

■マクベス

■作:W・シェイクスピア,監督:J・カーゼル,出演:M・ファスベンダ,M・コティヤール ■東宝シネマズ新宿,2016.5.13-(2015年作品) ■荒涼としたスコットランド風景はそのままマクベスの心象に繋がる。 俳優たちの凄みのある顔容もこの風景に溶け込んでいく。 ほぼ独白劇である。 これで映画から演劇に近づいていく。 余計な物事を省略しているので力強い。 シェイクスピアが観たら<合格>と言うだろう。 宴会場面、亡霊バンクォと貴族やマクベス夫妻の立ち振る舞いに息を呑んだ。 全体を振り返るとマクベス夫人の存在感をくっきりと出せたら一層面白くなったはずだ。 ロマン・ポランスキやオーソン・ウェルズの個性有る同作と違って映画の広さと演劇の深さを兼ねそろえている。 戦闘場面が激しくなるのは集客上致し方ない。 「マクベス」は今年で二本目になる*1。 没後400年ということで野村萬斎版もこの6月に再演するらしい。 *1、 「オペラ・クラブ・マクベス」(こんにゃく座,2016年) *作品サイト、 http://macbeth-movie.jp/

■蝶々夫人

■音楽:G・プッチーニ,指揮:K・M・シション,演出:A・ミンゲラ,出演:K・オポライス,R・アラーニャ ■東劇,2016.5.7-13(MET2016.4.2収録) ■ウーン、これは面白い。 日本だけど日本でない。 中国・朝鮮・東南アジアの匂いもする。 花鳥の自然描写も日本的というより地球レベルを感じさせる。 着物のグラディエントも現代美術を見ているようだわ。 それでも日本を強く意識するの。 クリスティーヌ・オポライスは「・・蝶々夫人が好きだ、この作品は特に気に入っている」と言っていたけど、このことが見事に歌唱と演技に現れている。 彼女の無国籍で無表情な振る舞いにも関わらず豊かな舞台が出現している理由よ。 しかもこの振る舞いが<日本>を近づけてもいるらしい。 そして人形浄瑠璃の子供が彼女にぴったり寄り添うところは感情を越えた純粋親子のようね。 演出家アンソニー・ミンゲラを出演者たちは称賛していたけど舞台をみれば納得。 公開時に観た「イングリシュ・ペイシェント」や「コールド・マウンテン」がまだ記憶に残っているのもそれを証明している。 *METライブビューイング2015作品 *作品サイト、 http://www.shochiku.co.jp/met/program/s/2015-16/#program_08

■ドン・キホーテ

■音楽:L・ミンクス,原振付:M・プティパ,改振付:A・ファジェーチェフ,指揮:M・イェーツ,演奏:東京フィルハーモニー交響楽団,出演:小野絢子,福岡雄大,NBJ ■新国立劇場・オペラパレス,2016.5.3-8 ■ドン・キホーテが旅の決心をする幕開けはスリリングね。 前半はスペインを雰囲気にダンスを、後半はスペインから離れてバレエを満喫できる。 でも何を語っても取り込んでしまうストーリーなの。 キューピットもわんさか登場する。 このハチャメチャな流れが楽しい。 二幕居酒屋場面は音楽に滑りがあってダンサー達は踊り難そうだった。 バジル役福岡雄大の存在感は名前のごとく雄大で騎士道物語に似合っていた。 でも女性ダンサーはみな小柄な体格だから物語を力のベクトルで表現するのが叶わない。 力を繊細感あるスカラーで極めるからバレエそのものを楽しむ方向に向かってしまう。 舞台は美術も衣装も素敵だった。 数個月ぶりのバレエを観て生き返ったわ。 *NNTTバレエ2015シーズン作品    *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/don_quixote/