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■ミカド

■作曲:アーサー・サリヴァン,台本:ウィリアム・S・ギルバート,指揮:園田隆一郎,演出:中村敬一,出演:松森治,飯嶋幸子,二塚直紀ほか,演奏:日本センチュリー交響楽団 ■新国立劇場・中劇場,2017.8.26-27 ■ディスカバー・ジャパンの活動を再開したような舞台美術だ。 衣装を含め外国人旅行者向けのメディア広告を見ているようだ。 オペラと巧く融合されていて面白い。 でも好みの分かれる舞台にみえる。 隣席の客は前半で帰ってしまった。 日本のようで日本ではない。 西欧植民地化を経験したアジアのどこかの国にみえる。 そしてコモンローを極端化したような法の話が多いのも変わっている。 さすが英国オペラ、というかチラシの通り「奇想天外抱腹絶倒歌劇」である。 日本語と英語の字幕が表示され分かり易い。 日本語オペラは歌手と一体になれる。 外国語だと歌手が何を考えているのか見当がつかないことがある。 歌詞の微妙な意味から、歌唱での微妙な表情から作品のあらゆる繋がりが見えてくるからである。 余裕を持って聞くことができた。 歌唱も演奏も心地よかった。 この劇場は音響がよくなかったが改築したのかな? 柔かなシットリ感を耳に感じる。 台詞の部分は意味も含めて過激だったが。 それはともかくマジで楽しい舞台だった。 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/9_009646.html

■月に吠える

■振付:勅使川原三郎,出演:佐東梨穂子,鰐川枝里,マリア・キアラ・メツァトリ,パスカル・マーティ ■東京芸術劇場・プレイハウス,2017.8.24-27 ■久しぶりに勅使川原三郎の舞台をみて生き返った。 それにしてもダンスと詩を結び付けると観る楽しさが変わる。 詩を朗読する場面があるが声がスピーカから流れるのだ。 やはり言葉は肉声で聞きたい。 でないとダンス身体と一体にならない。 音楽とは違うように感じる。 ダンサーは5人。 佐東梨穂子は知っていたが他3名は初めてである。 なかなかいい。 でも勅使川原が登場すると舞台が俄かに緊張する。 彼の動きは瞬間瞬間止まっているようにみえる。 身体にまとわりつく空間や時間の存在までも感じることができる。 そのときダンスをみる喜びがやって来る。 *劇場、 http://www.geigeki.jp/performance/theater155/

■野田版・桜の森の満開の下

■原作:坂口安吾,演出:野田秀樹,出演:中村勘九郎,市川染五郎,中村七之助ほか ■歌舞伎座,2017.8.9-27 ■奥の深い作品である。 壬申の乱の権力闘争の中にあの世の結界を破壊することを重ね合わせているからだとおもう。 此岸と彼岸を結ばないと芝居は深くならない。 境界にいる鬼たちを背に縦横に動き回る夜長姫。 右往左往する主役の耳男との言葉の遣り取りはやはり野田版だと納得できる。 観客に合わせてどのレベルでみても楽しめるようになっている。 横幅のある舞台での歌舞伎座公演は相乗効果でレベルの幅も広がる。 舞台美術は春爛漫で納涼歌舞伎にしては涼しさは足りないが豪華な舞台は暑さも形になる。 *野田地図サイト、 https://www.nodamap.com/site/news/363

■チック

■原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ,上演台本:ロベルト・コアル,翻訳・演出:小山ゆうな,出演:柄本時生,篠山輝信,土井ケイコ,あめくみちこ,大鷹明良 ■シアタートラム,2017.8.13-27 ■クルマの運転席を観客席に設置し役者が運転をしながら玩具の自動車を舞台に走らせるとは面白い。 小道具が映像や照明と混ざり合っていて新鮮でした。 粗筋を読まないで観たのですが出だしの30分は引き込まれました。 しかしマイクとチックのドライブは小さな事件を積み重ねていくだけです。 不安になります。 休息中にプログラムを買い野村萬斎の挨拶文を読んでどういう芝居か分かった。 二人が14歳だということが。 少年と青年の間に在るほろ苦い時期を描いた少青冒険譚ということですね。 しかし何故この芝居を見抜けなかったのか? それは・・ マイクとチックを青年として最初みてしまったからです。 マイクの両親がアル中や不倫が見え見え喧嘩も派手でで子供との距離感が掴めなかった。 それとチックが大人びているにも関わらず肝心な科白が一言も無い。 チックが見えない。 言葉の少ない作品です。 「他人の目は気にするな」と母は二度もマイクに言いますがそれだけです。 またマイクの独白する人生や死に対する言葉が前後と切り離されて浮遊している。 この状況のまま自動車事故に遭遇し幕が下ります。 この時期をテーマにした作品は映画ではよく見かけます。 少年と青年の間にある独特なリズムが必要なため舞台より映画の方が作り易いのでしょう。 *劇場サイト、 https://setagaya-pt.jp/performances/201708tschick.html

■明るい小川

■音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ,振付:アレクセイ・ラトマンスキー,出演:スヴェトラーナ・ルンキナ,ミハイル・ロブーヒン他 ■Bunkamura・ルシネマ,2017.8.12-9.1(ボリショイ劇場,2012.4収録) ■コルホーズ収穫祭を背景にした恋愛ドタバタ喜劇なの。 農民や芸術家たちが登場し楽しさ一杯でソビエト礼賛にみえる。 でも当時のスターリン主義者たちには気に食わなかったようね。 その時の振付家は監獄行きよ。 しかも獄中死。 ショスタコーヴィッチも動揺したみたい。 70年ぶりに復活上演をした曰く付き作品ね。 でも1936年初演時に大衆受けしたのには納得。 当時の農民の生活が描かれているからよ。 今みても「 現代の英雄 」や「 黄金時代 」とは別の風景が浮かび上がっている。 作品復活はボリショイの時代の役目だとおもう。 ところで今調べたら「明るい小川」ってコルホーズの名前なのよ(苦笑)。 *ボリショイ・バレエinシネマ2016作品 *作品サイト、 http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/17_bolshoi.html *「このブログを検索」キーワード、 ボリショイ・バレエinシネマ

■シアンガーデン

■作:虎馬鯨,演出:天野天街,出演:少年王者舘 ■ザスズナリ,2017.8.18-22 ■淡々と流れていく詩的雰囲気を持っています。 夏休みの怠い季節をピリッとさせてくれます。 ミニマルな動作や言葉の遣り取りが心地好いですね。 ロボット周辺だけは張り詰めた空気で作品を程よく硬くしていた。 シアンという言葉は色や毒素など多くの意味で使っているようにもみえました。 役者が一瞬で入退場するのは時間が、壁に穴を開けて出入りするのは空間が飛んでしまったように見えます。 映像マッピングは検討の余地がある。 技術が向上しているからです。 ストーリーのネスティングを取捨選択して密度を上げ上演時間を1.5時間くらいに短くすれば身体と言語の切れがもっと際立つはずです。 終幕のダンスも味がでていました。 *劇団、 http://www.oujakan.jp/_images/cgo.jpg

■棒しばり  ■喜撰

■出演:中村勘三郎,坂東三津五郎,坂東彌十郎ほか ■出演:坂東三津五郎,中村時蔵,坂東秀調ほか (以上タイトル順のキャスト) ■東劇,2017.8.12-25(順に歌舞伎座で2004.4及び2013.6に収録) ■坂東三津五郎特集で二作品を選んだようだ。 彼は二年前60歳に届かず亡くなっている。 中村勘三郎も同じだ。 歌舞伎役者はなぜ早死にするのか? 仕事上の酒付き合いが避けられないのだろう。 「棒しばり」は酒を飲む楽しさが伝わってくる。 現代演劇は飲食場面があると何故シラケルのか? そこで現実に戻されてしまう。 観ていながら考えてしまった。 床迄の距離も影響しているらしい。 この作品も床にベタっと張り付きながら酒を飲む。 これだと現実に戻されることは少なくなる。 テーブルでの飲食ではこうはいかない。 劇的感動と飲食は反比例していることは確かだ。 「喜撰」といえば百人一首で初めに暗記してしまう歌として覚えている。 坂東三津五郎得意演目らしい。 喜撰法師と祇園茶汲み女お梶の掛け合い仕草は楽しい。 坊主共と庵に帰っていく場面では観ていても心が晴れ晴れしてくる。 *シネマ歌舞伎第23弾作品 *作品サイト、 http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/30/#sakuhin

■現代の英雄

■原作:ミハイル・レールモントフ,音楽:イリア・デムツキー,振付:ユーリー・ポソホフ,出演(ペチョーリン):イーゴリ・ツヴィルコ,アルチョム・オフチャレンコ,ルスラン・スグヴォルツォフ ■Bunkamura・ルシネマ,2017.8.12-9.1(ボリショイ劇場,2017.4収録) ■原作五話が三話に再構成されているらしい。 主人公は青年将校ペチョーリン。 3人が1役として主人公を演ずる。 恋人はベーラ、オンディーヌ、令嬢メリーだけどそれぞれ違うダンサーが受け持つ。 実は原作を読んでいないから肝心なところが分からないの。 この小説はロシアでは有名だから読んでいることが前提のようね。 でも主人公が毎幕ちがうから新鮮味は保たれている。 一幕はコーカサス山岳地、二幕は黒海沿岸、三幕は療養所のような体育館で舞台美術はしっかりしている。 前半は少し暗すぎるけど。 ペチョーリンはロシア的な雰囲気があり彼だけをみていると知っている小説たとえばトルストイの作品などを思い出してしまう。 でも比較するなら「 エフゲニー・オネーギン 」かしら。 イスラムも強くでている。 群舞ダンサーたちは黒服で顔を隠しとても力強く踊るからよ。 最初のベーラの場が気に入ったけど、そこでのペチョーリンはイーゴリ・ツヴィルコ、ベーラはオルガ・スミルノワ。 次のオンディーヌはエカテリーナ・シプーリナ、令嬢メリーはスヴェトラーナ・ザハーロワよ。 作品に厚みがでたのは3人のペチョーリンと3人の恋人たちのオムニバス風のおかげね。 *ボリショイ・バレエinシネマ2016作品 *作品サイト、 http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/17_bolshoi.html

■タイタスアンドロニカス

■作:W・シェイクスピア,演出:木村龍之介,出演:カクシンハン ■吉祥寺シアター,2017.8.14-20 ■「シェイクスピアの台詞は俳優に膂力(りょりょく)を与える」。 翻訳家松岡和子がチラシに書いてる。 観ていてそのとおりの舞台だと感じました。 エコーをかけた所もあったが役者の声が良く通ります。 現代的な荒々しい力強さを持った科白がビシビシ聞こえてきました。 この硬さが醒めた感動を持ってきてくれる。 それにしても人肉パイまで作って食べるとは凄い。 シェイクスピアもやりますね。 ラヴィニアの舌と腕から垂れている赤い電気コードで感電したり死んだ子供達の脳に突き刺して記憶を聞いたりする場面も残酷ある笑いと悲しみが表現されていました。 また美術界で流行りの二次元レーザ光線を取り入れたり、穴の位置を三次元移動させていくのも面白い。 衣装を次々変えていくのもチカラのある証拠です。 小劇場パワーを久しぶりに体感しました。 *劇団サイト、 http://kakushinhan.org/others/titus-info

■コンテンポラリー・イブニング

(以下3作品を上映) □「檻」,振付:ジェローム・ロビンス,音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー,出演:アナスタシア・スタシケーヴィチ他 □「ロシアン・シーズン」,振付:アレクセイ・ラトマンスキー,音楽:レオニード・レシャトニコフ,出演:ユリア・ステパノワ他 □「エチュード」,振付:ハロルド・ランダー,音楽:カール・チェルニー,出演:オリガ・スミルノワ他 ■Bunkamura・ルシネマ,2017.8.12-9.1(ボリショイ劇場,2017.3収録) ■どれもボリショイにはみえない。 しかも「檻」は1951年振付のためかJ・ロビンスとは別人のようね。 当時のモダンダンスの流れに乗った作品のようだわ。 「ロシアン・シーズン」も同じ流れを下った作品かしら。 ダンサーの入退場や相互距離の取り方がミニマムぽくなっている。 二人づつ色分けしているから余計にそう感じるの。 面白かったのは「エチュード」。 スポットライトを多用した前半はつまらないけど後半に行けば行くほど目が釘付けになっていく。 そこで登場した女性ダンサーが素晴らしかった。 この人がオリガ・スミルノワかしら? 鋼鉄の動きをしていてボリショイ・バレエの精神を感じ取れる。 今日は彼女に出会えただけで満足よ。 *ボリショイ・バレエinシネマ2016作品 *作品サイト、 http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/17_bolshoi.html

■黄金時代

■音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ,振付:ユーリー・グリゴローヴィチ,出演:ニーナ・カプツォーワ,ルスラン・スグヴォルツォフ,ミハイル・ロブーヒン ■Bunkamura・ルシネマ,2017.8.12-9.1(ボリショイ劇場,2016.10収録) ■ロシア構成主義の幾何学模様に囲まれた舞台隅には「1923」と書かれている。 まさに黄金時代ね。 猟師ボリスが踊り子リタをギャングのヤシューカから奪い取る話よ。 ソビエト時代を感じさせる群舞で始まるけど器械体操のような動きもあって力強い。 一転して同時代の「シカゴ」顔負けのキャバレー場面になり振付がより複雑になっていくの。 男女関係をウルトラ級のリフティングで次々とこなしていくから目が離せない。 この激しい動きでもリタ役ニーナ・カプツォーワは汗一つかいていない。 しかも個性を出さないからどこにでもいる普通のお姉さんにみえる。 相手のボリス役ルスラン・スクヴォルツォフも真面目腐ったお兄さんだからお似合いね。 ギャングのヤシューカ役ミハイル・ロブーヒンはなかなかの適役だったわ。  1930年初演は失敗したらしい。 ショスタコーヴィチはソビエト当局から形式主義とのレッテルを貼られ再演は1982年まで待たなければいけなかったようね。 これだからボリショイ・バレエには奇想天外な作品が多いのかも。 この作品も弄くり回しているからそれを感じる。 ところでルイス・ブニュエルの「黄金時代」も1930年公開時に右翼がスクリーンに爆弾を投げつける事件で50年間公開禁止になってしまった。 黄金時代はどれも同じような道を辿るのね。 *ボリショイ・バレエinシネマ2016作品 *作品サイト、 http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/17_bolshoi.html

■女殺油地獄-杉本文楽-

■原作:近松門左衛門,作曲:鶴澤清治,演出:杉本博司,出演:鶴澤清治,竹本千歳太夫,豊竹呂勢太夫,豊竹靖太夫ほか ■世田谷パブリックシアター,2017.8.11-13 ■文楽ときいて劇場へ向かったが色々と趣向を凝らした内容だった。 先ずは口上で近松門左衛門が登場する。 近頃の近松作品は作者本人の登場することが多い。 時代が遠くなっているので観客との距離を縮めたいのだろう。 戯けた恰好で週刊新潮や文春を持ち出したりワイドショーの話をするから楽しい。 次が三味線序曲「地獄のテーマ」。 鶴澤清治の新曲らしい。 「テーマ」とあるからキリスト教の地獄を思い出してしまった。 しかしこの演奏では地獄には行けない。 この世とあの世の境界線をさ迷っている感じだ。 お盆だからちょうど良いのかもしれない。 「下之巻豊島屋」は二部構成に分け「前」は素浄瑠璃形式で出演は竹本千歳太夫。 少し上を向いて語る。 顔の筋肉の動きが派手である。 太夫の顔を見続けてしまった。 意味不明の個所が時々でてくる。 上演台本そのままの字幕が表示されれば有難い。 次の「奥」は人形浄瑠璃にて上演。 与兵衛とお吉の掛け合いである。 素浄瑠璃と違って語りが聞き取れる。 人形でも身体の動きが加わると言葉は時代を越えて捕まえることができるのだ。 カーテンコールには杉本博司も登場する。 今回の舞台は美術家としての顔は見えなかった。 それでも結構楽しめた。 上演台本を買ったので家に帰り早速竹本千歳太夫の顔真似をしながら声を出して読む。 とても気持ちがいい。 *劇場サイト、 https://setagaya-pt.jp/performances/201708sugimotobunraku.html