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■2018年舞台ベスト10

□ ヒッキー・ソトニデテミターノ   演出:岩井秀人,劇団:ハイバイ □ vox soil   演出:北村明子,出演:Cross Transit □ ハムレットマシーン   演出:三浦雨林,劇団:隣屋 □ その人ではありません   演出:富永由美,劇団:旧眞空鑑 □ 紛れもなく、私が真ん中の日   演出:根本宗子,劇団:月刊「根本宗子」 □ バリーターク   演出:白井晃,出演:草彅剛,松尾諭ほか □ チェーホフ桜の園より   演出:レオニード.アニシモフ,劇団:東京ノーヴイ.レパートリーシアター □ 魔笛   演出:ウィリアム.ケントリッジ,指揮:ローラント.ベーア □ Is it worth to save us?   演出:伊藤郁女,出演:森山未來 □ 歯車   演出:多田淳之介,劇団:SPAC *並びは上演日順。 選出範囲は当ブログに書かれた作品。 映画(映像)は除く。 *「 2017年舞台ベスト10 」

■愛犬ポリーの死、そして家族の話

■作・演出:根本宗子,劇中楽曲:小春,出演:藤松祥子,瑛蓮,小野川晶,根本宗子,田村健太郎,岩瀬亮,用松亮,村杉蝉之介,劇団:月刊「根本宗子」 ■本多劇場,2018.12.20-31 ■主人公花の飼い犬ポリーの話が続くのかとみていたら前半に愛犬は死んでしまいます。 しかしポリーの代わりに「先生」が登場する。 先生はSNS友達で花と気が合う。 花には三人の姉がいるから四姉妹ですね。 先生と花の話題に姉たちの家庭がまな板に乗せられる。 これが面白い。 三姉妹の家庭は亭主関白そのままです。 旦那たちが威張っている。 母親に抜いてもらう旦那も登場しますが、これはどうみても漫画でしょう。 威張っている理由はただ一つ、一家を養うカネを旦那が稼いでいるからです。 妻は結局何も言えない。 最後は妻が諦めてなんとか家庭が収まります。 日本の男女平等ランクが世界110位でダントツ最下位のニュースを先日見ました。 しかし女性健康寿命ランクは世界2位の最上位です。 三姉妹の家庭を含め日本の家族構造が変われない理由をこの順位落差が表している。  しかし舞台はあらぬ方向へ進む。 先生が花だけではなく姉妹たちの生活にも侵入してきます。 ストーカーですね。 花の父は早死にしているので先生は精神的な父親代わりのようにもみえる。 そしてなんと!先生は姉妹を肉体的に傷つけてしまう。 ・・。 しかし花は先生との関係を維持しようと心を砕く。 怒っていた家族もそれを応援するが、舞台は役者たちが役を半分降りてしまう異化効果で進めていきます。 終幕のこの反転場面は何を言いたいのでしょうか? よく分からないで幕が下がってしまった。 「信じる」ことについて演出家が書いている。 「一人の少女が自分と周りを信じて家族を変える」物語だと・・。 花は信用を失った先生をもう一度取り戻す為に、他者を無条件に信じて行動にでたのでしょうか? 師走のためか芝居のまとめを急いだようにみえます。 *月刊「根本宗子」第16号 *劇団サイト、 http://www.village-inc.jp/nemoto16/

■フェードル

■作:ジャン.ラシーヌ,訳:伊吹武彦,演出:ペーター.ゲスナー,出演:荒牧大道,後藤まなみ,松尾容子,石川湖太朗,小黒沙耶,西村優子,遠藤広太,劇団:うずめ劇場 ■東京アートミュージアム,2018.10.11.-2019.2.23 ■仙川劇場は知っていたが当会場はその続きにある美術館らしい。 今は「椎橋和子展」が開催されている。 花鳥風月琳派系の作品は安藤忠雄設計のコンクリートによく似合う。 その絵画に囲まれた一室で芝居が行われた。 通路を使うので奥の深い舞台だ。 狭いので観客は30席しかない。 はじめは舞台の無い舞台に戸惑ったが直に慣れた。 むしろ斬新な感じがする。 役者たちの声の調子や表情も違和感があったがこれも斬新の中に溶け込んでいく。 声がコンクリートに反射してよく響く。 これにも慣れてくると科白が脳味噌に届いてきた。 王妃フェードルと待女エノーヌは漫才に近づいていく関係が面白い。 もちろん負(悲劇)の漫才だが。 待女というより会社の秘書のようだ。 王子イポリットと待従テラメータはフットワークが良過ぎる。 物語を滑っている感じだ。 これもまた楽しい。 待従より職場の後輩だろう。 アリシーにも声に存在感があった。 この作品は科白から声へ、そして役者の身体へ、言葉がベクトルに変換され豪快に迫って来ようとする。 ギリシャ神話に題材をとった中では一番気に入っている作品だ。 場面展開のリズムとスピードが心地よいからである。 今回の舞台も満足した。 開幕前、配られた役者一覧の後藤まなみから後藤加代を連想してしまった。 以前観た渡辺守章の「悲劇フェードル」を思い出したからである。 合わせて演出家ペーター・ゲスナーの挨拶やうずめ劇団の状況を読み、展示されている絵画を眺めながら豊かな時間を過ごせたのは会場選択が成功したからだろう、客席はちょっと窮屈だったが。 *うずめ劇場第29回公演 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/95577

■現代日本演劇のダイナミズム  ■演劇評論家扇田昭彦の仕事

■感想は、「 現代日本演劇のダイナミズム他 」

■灰から灰へ

■作:ハロルド.ピンター,演出:長野和文,出演:稲川実加,平澤瑤,劇団:池の下 ■アトリエ第七秘密基地,2018.12.14-16 ■舞台は中央に鏡、左右に椅子がシンメトリーに置いてある。 男と女は椅子に座ったり凭れ掛かったり周りを歩き回り・・、女は二三度鏡に向かう。 美術も衣装も平凡だがスキ無く練られています。 男は女が付き合っていた男のことを聞き出そうとする。 女は以前の男に「握り拳にキスをしてくれと言われた・・」と。 しかし女の話は事実なのか夢の中の出来事だったのかよく分からない。 「ハメルーンの笛吹き男」や「ベツレヘムの幼児虐殺」に似た話もするからです。 男は持て余し気味に理屈でやり返す。 その不自然な対話は終幕まで続いていきます。 男と女は夫婦に近い間柄のようですが喜怒哀楽が見えない。 ついに男は握り拳をつくりキスをしてくれと女に言って幕が下りる。 ・・。 密室での不可思議な科白だけに役者二人の力量が全てでしょう。 どれだけ観客に想像力を与えられるか? 間の取り方や声の抑制などで面白さが変化する作品ですね。 二人の間に現れる肌理の滑らかさが有ればより膨らんだように思います。 *池の下第26回公演海外作品 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/95558 *「このブログを検索」語句、 ピンター

■ジゼル Giselle

■振付:アクラム.カーン,作曲:アドルフ.アダン,出演:タマラ.ロホ,ジェームズ.ストリーター,ジェフリー.シリオ他 ■東劇,2018.11.30-12.21(リヴァプール.エンパイア劇場,2017.10.25-28収録) ■アクラム・カーン版ということで早速観に行く。 バレエというより最早ダンスだ。 それは振付のみならず衣装・美術・照明・音楽の全てに言える。 舞台背景に厚い壁がそびえている。 はじめに驚くのはヒラリオンの鋭い眼差しである。 ダンサーはジェフリー・シリオ。 動きも鋭い。 肉ではなく骨で踊っている。 群舞も動物のように跳ね回る場面が多い。 比べてアルブレヒトが不調のようだ。 日常としての肉体を感じさせてしまっている。 音楽も打楽器が耳に付く。 時々遠吠えのようなサイレンが鳴り響く。 スピーカから流れるアザーンにも聞こえる。 そして全てを通してどこか東洋の匂いが立ち込める。 それはヒラリオンが貴族らに日本式お辞儀をする場面、ウィリたちが竹棒を振り回すのにも表れている。 彼ら二人はジゼルを愛しているのか? そうは見えない。 ヒラリオンはジゼルに対してもキツイし、アルブレヒトは彼女を見る目が死んでいる。 終幕の二人の悲しい別れが迫ってこない。 これでは「ジゼル」と言えないだろう。 彼岸と此岸を分ける壁の使い方は良かったが。 別作としてみれば、これはこれで楽しいが。 マシュー・ボーンの「白鳥の湖」のほうがまだ戦略的に成功していた。 *ENBイングリッシュ.ナショナル.バレエ作品 *作品サイト、 https://www.culture-ville.jp/enbgiselle

■うたかたの恋 Mayerling

■振付:ケネス.マクミラン,音楽:フランツ.リスト,指揮:クン.ケセルス,出演:スティーヴン.マックレー,サラ.ラム,ラウラ.モレーラ他 ■TOHOシネマズ日比谷,2018.12.7-13(ROH,2018.10.5収録) ■A・リトヴァクの1936年版は観たことがあるけどバレエは初めてよ。 マイヤーリンク事件は日本では知られていない。 ヨーロッパではどうなのかしら?  皇太子ルドルフの狂気に向かう精神状況を時系列に展開した舞台なの。 そこに多くの女性が絡む。 衣装や美術は華麗だけど暗い。 音楽はそこまで重くないから踊れるわね。 でもルドルフを追えない。 女性たちの存在感も愛人マリーを除いていつのまにか溶解していく。 観ていて苦しい。 ルドルフ役スティーヴ・マックレーは初老のようにみえてしまった。 マリー役はサラ・ラム。 二人は狂気が似合う。 初めて出会った二幕の、そして死の直前の三幕のパ・ド・ドゥは文句無しでドラマティック! 「予測不可能な振付」の面白さね。 あと一幕最後のステファニー王女?を入れて今回のパ・ド・ドゥ・ベスト3かな。 最後は久しぶりにROHのロイヤル感に浸れたわよ。 *ROHロイヤル.オペラ.ハウス.シネマシーズン2018作品 *作品サイト、 http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=mayerling

■ジュリアス・シーザー

■作:W.シェイクスピア,演出:ニコラス.ハイトナー,出演:ベン.ウィショー,ミシェル.フェアリー,デヴィット.モリッシー,デヴィット.コールダー他 ■TOHOシネマズ日本橋,2018.12.1-7(ブリッジ.シアター,2018年収録) ■舞台上にロックコンサート会場を設けエキストラの観客を周りに配置して始まるの。 コンサート会場は広場になり戦場に変わっていく。 その観客は群衆にもなりそのまま終幕まで舞台上に居座る。 劇中劇ではなくて観客まで含めた舞台中舞台と言えるわね。 群衆に囲まれる赤い野球帽を被りジャンバー姿のシーザーはアメリカ大統領選のトランプ候補と重なる。 役者達の演技は申し分なし。 でもブルータスもアントニーも納得できる演説には聞こえなかった。 しかもブルータスがマイクで喋るのは最悪、途中からアントニーまでも。 ここは生の声で説得されたい。 戦場も凝っているけど新鮮味は期限切れよ。 ナショナル・シアターのシェイクスピアの戦い場面は現代の軍隊軍人を登場し過ぎる。 意図は分かるけど、今回は肝心な場面が心に伝わってこなかった。 ブリッジ・シアターの劇場としての良さはわかったわ。 「コアな観客にエッジの効いた芝居はやらない!」と演出家は前回に言っていたが、その通りにして自滅してしまった舞台にみえる。 *NTLナショナル.シアター.ライブ作品 *作品サイト、 https://www.ntlive.jp/juliuscaesar

■歯車

■原作:芥川龍之介,構成・演出:多田淳之介,劇団:SPAC ■静岡芸術劇場,2018.11.22-12.15 ■舞台床が鋭い角度で谷のように中央へ落ちている。 山の手に立った役者は客席から見上げるようだ。 急な床を昇り降りして観客席まで侵入してくる役者は力強いが緊張と不安も連れてくる。 まるでA・ヒッチコックのサスペンス映画の舞台だ。 原作字幕を表示したり役者が台本を持って朗読劇にする場面もある。 音楽と照明も切れ味が良い。 先ずは芥川龍之介より新感覚派の横光利一を思い出してしまった。 「歯車」は読んだかどうかも覚えていない。 この数十年芥川といえば芥川賞しか馴染みがない。 字幕をみて彼の自殺前の数日はこんなにも壮絶だったのか驚いてしまった。 作家カフカや美術展開催中の画家ムンクなど精神疾患系芸術家は医学系からの批評が多かったが近頃はそうではない。 疾患や芸術の見方が変化したからだろう。 これだけ元気のよい舞台にできたのは演出家多田淳之介のキラリ力もある。 芥川龍之介の不安も吹き飛ばしてしまったところもあるが・・。 その原動力を彼は「中高生鑑賞事業公演にある」と言っている。 でも中高生の頃から芝居三昧だと人生堕落の一途を辿ることになる。 それはともかく当分は海馬に残る舞台の一つになるとおもう。 *SPAC秋春シーズン2018作品 *CoRich 、 https://stage.corich.jp/stage/95129

■青いプロペラ

■作:南出謙吾,演出:森田あや,劇団:らまのだ ■シアタートラム,2018.11.29-12.2 ■地方の老舗スーパー「マルエイ」の従業員たちの日々を描く舞台です。 そこへ大型ショッピングセンターが進出してくる・・。 従業員の仕事ぶりがリアルというより写実ですね。 写実が成功している舞台は珍しい。 仕事と科白の細部が活き活きしているからでしょう。 具体から写実への移行の巧さです。 ホキ美術館へ行って写実絵画を観ているようです。 欠点といえば写実からリアルへの転化が弱い。 たとえば役者が何もない空間を見つめる目の動きなどに「・・従業員たちに切迫した様子は無く、どこかその運命を受け入れている」までには到達していません。 抽象化がなされていない。 具体→写実→抽象→リアルを追求する途中にみえます。 でも「・・かつては、マルエイも地元商店に壊滅的な打撃を与え、ここに出店した」社会的営みの繰り返しがジワッと感じられました。 人々の時の流れがみえてくる。 ユニクロやケーズデンキで買ってしまう。 終幕の店長の行動が中途半端になってしまったのは残念です。 *シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.11 *劇場サイト、 https://setagaya-pt.jp/performances/201811next.html