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■東京ノート

■作:平田オリザ,演出:矢内原美邦,出演:ミクニヤナイハラプロジェクト ■吉祥寺シアタ,2016.3.24-28 ■20名以上の役者が舞台で動き回るので目まぐるしい。 この動きは面白かったが、しかし叫ぶような科白は聞こえ難い。 特に若い女性たちの声が今回は酷い。 劇場音響も良くないのかもしれない。 天井が低いので反響で声がこもるのか又は微細に割れ混じるとか考えられる。 叫ぶような早口が特徴の劇団だが、劇場の違いを早口訓練に取り入れてもよい。 今回の「東京ノート」は違った早口叫びにして欲しかった。 *劇場サイト、 http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2015/12/post-43.html

■HYBRID、Rhythm&Dance

■演出・振付:平山素子,音楽・演奏:オレカTX,唄:床絵美 ■新国立劇場・中劇場,2016.3.25-27 ■舞台は2m四方の机を幾つも並べてある。 ダンサーが机を動かし舞台構成を変えていく。 これにスペイン地方の鍵盤打楽器チャラパルタに角笛とマンドリンのようなブズーキの生演奏が加わる。 またアイヌ民族の歌も入る。  音楽は背景ではなくダンスと対等のようだ。 ハイブリッドとはこのダンス・演奏・歌唱の対等関係を言っているらしい。 歌詞はアイヌ語?のため解らないのだが人の声というのは意味を呼び寄せる力がある。 ダンサーは狭い机上で踊るので振付が粘っこい。 この粘っこさと言葉にならない意味がくっ付きあい独特な舞台が出現する。 しかし爽快感がない。 楽器や歌手が舞台前面に出るのでダンス本体が弱く見えてしまう。 対等関係は集中し難いが、ハイブリッドの面白さは伝わってきた。 *NNTTダンス2015シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/150109_006136.html

■安全区、堀田善衛「時間」より

■作・演出:獄本あゆ美,出演:メメントC ■Geki地下Liberty,2016.3.17-21 ■観客の多くは20歳代女性と70歳代男性です。 面白い組合せですね。 堀田善衛はインドや上海、スペインでのエッセイしか読んだことが無い。 時代は1937年の南京、主人公は中国人林英呈。 この時代と場所で中国人が主人公の日本の作品は初めてです。 彼は国民党幹部でかつては英国・日本に留学したこともある。 そこに南京難民被害報告を反証するため日本の上級工作員田之倉が乘り込んでくる。 彼も所謂知識人です。 二人の周りで南無阿弥陀仏と唱えている村田従軍僧を含めて、この三人の国家観や戦争への対応の違いが舞台の見所です。 それと林の妻蓮華、その妹莽莉など女性たちが崇高さのある演技で目の前の醜い現実を描きます。 観客に女性が多いのは演出家を信頼していて魅力もあるからでしょう。 帝国植民地政策を中国で誠実に広めようとする田之倉は、乱れ切った日本軍下級兵士代表の村田を口論の末射殺します。 しかし林は田之倉も村田も同じ穴の貉だと見抜いている。 妻と腹の子供を殺された林は、梅毒のため麻薬中毒になってしまった妹をいたわりながら未来を見つめ幕が下ります。 演出家の思いが詰まった素晴らしい舞台でした。 *チラシ、 http://mola-k.com/wp-content/uploads/2016/02/memento_anzen2.jpg

■ハウリング

■振付・演出:井出茂太,出演:イデビアン・クルー ■世田谷パブリックシアタ,2016.3.18-20 ■なんと舞台一面が芝生。 ところどころに草花もみえる。 たぶん人工だけど素敵よ。 椅子も持ち出したからピナ・バウシュを思い出してしまった。 浮かんでいるドーナツ型の青空と雲は劇場の天井を真似ているようで面白い。 でもダンスの方はパッとしない。 床が芝生でしかも裸足のため鋭さが出ないからよ。 笑いのある振付や意味に力が入り過ぎてダンスから遠ざかってしまった。 でも不条理な流れと身体表現・表情との関係の楽しさはある。 ところで生演奏とハウリングの関係はよく分からない。 次回は切れ味の良い舞台でモヤモヤを吹き飛ばしてちょうだい。 *劇場サイト、h ttps://setagaya-pt.jp/performances/20160318idevian.html

■DANCE to the Future 2016 ダンス・トゥ・ザ・フューチャー

■振付:高橋一輝,小口邦明,室満直也,原田有希,米沢唯,貝川鐵夫,福田圭吾,ジェシカ・ラング,出演:新国立劇場バレエ団 ■新国立劇場・中劇場,2016.3.12-13 ■全8作品のべスト3(上演順)は以下の通りです。 「暗やみから解き放たれて」は除く。  1.「Immortals」(振付:高橋一輝) 照明が広がっていく幕開は素晴らしい。 男性ダンサーの振付も面白い。 照明の暗くなる場面がボヤケテしまったのは惜しい。 2.「Fun to Dance-日常から飛び出すダンサー達」(振付:小口邦明) ミュージカル風でダンダーが歌いだすような楽しさがありました。 東京ブロードウェイですね。 3.「beyond the limits of・・・」(振付:福田圭吾) 伸びのあるリズムがビンビン響いてきます。 これにダンサーがピタッと張り付いている。 観客身体も解されていくのを感じました。 以上ですがバラエティある8作品で見応えがありました。 物語は音楽でどうにでもなりますね。 「カンパネラ」(振付:貝川鐵夫)は音楽とダンサーの同期を取るのに忙しさが出てしまった。 照明技術に寄り過ぎる場面も気にかかります。 「Disconnect」(振付:室町直也)はもう少し明るい舞台で勝負したらどうか? 同じような「如月」(振付:原田有希)は上演時間も短くて中途半端にみえました。 時間的に<落ち>を入れるしかないでしょう。 「Giselle」(振付:米沢唯)はピエロに徹した彼女の明るい表情で和みました。 「暗やみから解き放たれて」(振付:J・ラング)はダンサー相互の位置関係が素晴らしかった。 これに音楽と照明が重なり独特の風景が現れていました。 天井に浮かんでいたドーナツ雲もこの風景に馴染んでいました。 *NNTTダンス2015シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/150109_006135.html

■サロメ

■原作:O・ワイルド,作曲:R・シュトラウス,指揮:D・エッティンガ,演出:A・エファーディング,出演:C・ニールント,G・グリムスレイ,C・フランツ,R・プロウライト ■新国立劇場・オペラパレス,2016.3.6-15 ■入り難い舞台だったわ。 すべてを寄せ付けない雰囲気が漂っているの。 ユダヤ教とキリストの混ざり合った時代背景や前衛時代のシュトラウス・オペラが解からないからかも。 周辺を捨て核心的な場面しか描いていないから? しょうがないのでプログラムを購入。 「シュトラウスの管弦楽法」でドラマ的手法をワーグナーから学びとったこと、「オスカーワイルドの人生と文学」から「・・お前の躰ほど白いものはない、お前の髪ほど黒いものはない、おまえの唇ほど紅いものはない・・」とサロメに言わせているのはワイルドの同性への愛が含まれているらしいと直観したわ。 この部分を前者はヨハナーンの高貴がサロメの欲望の犠牲になったというモチーフを重ね合わせたドラマの重層性で語っているの。 「ヘロディアの娘」でヨハナーンを憎んでいるのはヘロディア(マルコ福音書6章、レビ記18章)ということが分かったが舞台ではその強さを感じ取ることできなかった。 しかしヨハネは旧約聖書時代の最高の預言者でありキリストの到来を告げる人だからキリスト教社会では衝撃的な物語になるはずね。 入口が見えてきたかしら? 「7つのヴェールの踊り」は歌手が踊るのだからこれで良しとしましょう。 *NNTTオペラ2015シーズン作品 *劇場サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150109_006151.html

■天守物語

■原作:泉鏡花,作曲:水野修孝,指揮:山下一史,演出:荒井間佐登,出演:佐藤路子,迎肇聡ほか,日本オペラ協会合唱団,多摩ファミリーシンガーズ,演奏:フィルハーモニア東京 ■新国立劇場・中劇場,2016.3.5-6 ■日本オペラ協会公演のためかとてもシッカリ作られている。 美術・衣装・照明は申し分ない。 演出家の話によると前半が狂言風、後半は夢幻能風に設定したらしい。 亀姫・朱の盤坊・舌長姥が登場する場面はいつ見ても面白いし狂言風も成功している。 後半の夢幻能はよく分からなかった。 でもシンプルにまとめているので観易い。 それより日本語の響きが心地よい。 日本語オペラを観ると声と言葉の関係をとても意識してしまう。 母語以外のオペラではそうはいかない。 能を現代版にしたようにもみえる。 日本語字幕も効果はあるが文字を見ると何かを失う感じがする。 事前に原作の再読が必要な舞台だったのかもしれない。 都民芸術フェス参加作品の為かいつもとは違うタイプの観客が目立った。 ところで若者の演劇離れや演劇人口が減っているらしい。 昨日の夕刊一面に 全国演劇鑑賞団体連絡会議会員数 29万人(1997年)が15万人(2015年)まで半減した記事が載っていた。 寄り道をする余裕がなくなったことも理由だろう。 *2016都民芸術フェスティバル参加公演

■イェヌーファ

■作曲:L・ヤナーチェク,指揮:T・ハヌス,演出:C・ロイ,出演:M・カウネ,W・ハルトマン,J・ラーモア,G・ザンピエーリ,H・シュヴァルツ ■新国立劇場・オペラパレス,2016.2.28-3.11 ■会場で配られた粗筋を一気に読んだけどこれは凄いストーリーだと知るの。 イェヌーファは恋人シュテヴァに捨てられてしまう。 既に彼の子を宿していたがイェヌーファの継母は将来を考え子供を殺してしまう。 シュテヴァの異父兄ラツァはイェヌーファと結婚にこぎ着けるが結婚当日に子供の死体が川で発見される・・。 舞台は三方と床が白板で囲まれた簡素な部屋で緊張感がキュッと迫ってくる。 ときどき背景の壁が開き収穫時の麦畑や一面の雪景色も見える。 歌手たちは一人づつ散らばって静止している姿勢が多いので存在ある孤独感も漂う。 そして芝居のような科白を歌唱で包み演奏がなぞっていくの。 イェヌーファが子供の無事を聖母マリアに祈る二幕は物語に吸い込まれていくようだった。 終幕、ラツァがすべてを許しイェヌーファも彼を受け入れる開放感は素晴らしい。 しかも人生や結婚のことを深く考えさせられる作品に出来上がっていたわ。 今回はベルリン公演時のスタッフ、キャストで上演したようだけど観客にとっては最高の贈り物になったわね。 満席とは言えなかったけどカーテンコールでの観客の拍手は本物よ。 *NNTTオペラ2015シーズン作品 *作品サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/jenufa/

■池袋モンパルナス

■作:小関直人,演出:野崎美子,出演:劇団銅鑼 ■俳優座劇場,2016.3.2-6 ■とても熟れている舞台だった。 場面切替えも踊りや歌で繋げて滑らかに感じる。 ストーリーにも澱みが無い。 改訂や再演で磨きがかかっているのね。  1920年後半に東京池袋に集まってきた画家たちの話*1。 <芸術の革命>を目指すが特高に目を付けられ戦争に抗い切れず多くの画家は戦地へ行くことになる。 靉光を中心に物語が描かれているの。 当初彼は「太平洋美術会」で学ぶ。 ここには松本俊介も在籍していたらしい。 「みづゑ」への投稿も話題にのぼる。 靉光らは1930年後半から「独立美術協会」展などに出品。 そして1939年福沢一郎*2、寺田政明、古沢岩見らと「美術文化協会」を創立、1943年には「新人画会」結成。 その後靉光も召集、・・戦地満州からの彼の手紙を妻が読みあげ、松本俊介のカメラで記念写真を撮り幕が下りる。 八方美人のような舞台だったけど青春群像の面白さは現れていた。 当時の池袋のカフェの雰囲気がみえなかったのはちょっと残念ね。   *1、 「池袋モンパルナス」(2011年) *2、 「福沢一郎絵画研究所」(2010年) *劇団サイト、 http://www.gekidandora.com/titles/ikebukuromoparunas/