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■マクベス

■作:W.シェイクスピア,演出:ルーファス.ノリス,出演:ロリー.キニア,アンヌ=マリー.ダフ他 ■シネリーブル池袋,2019.8.30-9.5(オリヴィエ劇場,2018.5.10収録) ■演出家は挨拶で「核戦争後の風景ともいえる・・」。 核後の舞台作品は数多あるがナショナル・シアターもここに辿り着いたのね。 美術の出来栄えも良い。 ゲリラ調の衣装が似合う。 戦う場面が多いから科白も短く「マクベス」独特のリズムが生きていた。 夫妻も、特にロリー・キニアは言うことなし。 マクベスの心の揺れが性格や育った環境をも伴って直截に伝わってくる。 でも何かが不足している。 この理由を考えながら観ていたけど・・、たぶん国家や軍隊とマクベスの関係が薄い為だと思う。 正規軍は溶けてしまい国王への忠誠も信じられない核戦争後の世界だから? ストーリーが生き残った地域のゲリラ抗争にしかみえない。 「英雄伝」「年代記」の史劇的悲劇から外れてしまったからよ。 でも現代的軍隊が登場しなかったのは嬉しい。 NT得意の軍隊はウンザリしていたの。 演出家の言う「詩的に描く」世界は出現したかな。 観終わった時、三人の魔女に操られるマクベスの人生が詩的にまとめられていたのは確かね。 *NTLナショナル・シアター・ライヴ2019年作品 *映画comサイト、 https://eiga.com/movie/90565/

■アントニーとクレオパトラ

■W.シェイクスピア,演出:サイモン.ゴッドウィン,出演:レイフ.ファインズ,ソフィー.オコネドー他 ■シネリーブル池袋,2019.8.18-29(オリヴィエ劇場,2018.12.6収録) ■作者はエジプトやローマに行ったことが無いと言っていたわね。 アントニーがレピダスにワニを説明する場面でもそれが分かる。 でもシェイクスピアの想像力が一杯詰まっている作品だわ。 俳優表現が大袈裟なせいか言葉が明快に伝わってくる。 ナショナル・シアターが推し進めたグローバル化の成果かしら。 でも良いとは言えない。 長い科白を喋る時の役者の持続力も必要ね。 ピーター・ホールの頃が懐かしい。 その中で唯一オクティヴィアは他作品から抜け出してきたような感じだった。 彼女の登場で流れが非連続になったのは確か。 アントニーとクレオパトラの体力演技で元に戻したけど。 すべて自前だと自慢していた衣装はなるほど素晴らしかった。 クレオパトラはともかくアントニーの巾のある白いパンタロンも素敵だったわよ。 エジプトとローマの遊びと仕事の舞台仕切りも面白い。 潜水艦のデッキは現代の戦争に繋げて観てしまう。 本物の蛇がクレオパトラに噛みつく場面はおもわず息を呑んでしまった。 クレオパトラとアントニーの、周囲に揉まれながら愛を形作っていく熱演は記憶に残せる。 *NTLナショナル・シアター・ライヴ2019年作品 *映画comサイト、 https://eiga.com/movie/90569/

■狂人と尼僧

■作:スタニスワフ.イグナツィ.ヴィトキェーヴィチ,翻訳:関口時正,演出:赤井康弘,出演:山本啓介,赤松由美,葉月結子,気田睦ほか ■シアター.バビロンの流れのほとりにて,2019.8.22-25 ■精神病院で詩人ヴァルブルクは患者として治療を受けている。 彼は「ここから逃げたい」! そこに修道院シスター・アンナが現れる。 二人は愛し合っていく。 これを「愛と言ってよいのか」? とちゅう担当医ブルディカルは治療方法の違いから精神科医グリーンに患者を譲ります。 グリーンはフロイト精神分析で患者を診るが、その過程でヴァルブルクは医師ブルディカルを殺してしまう。 それでもグリーンは患者が寛解していると判断し分析治療を続ける。 が、ヴァルブルクは自殺してしまう。 ここで幕かとみていたら、死んだブルディカルとヴァルブルクは再生しシスターと共に病院から逃げ出すというレボリューションが付いている。 ・・! 何と言ってよいのやら・・。 医師ブルディカルはフロイト派なのでしょうか? でも役者の立ち位置や動き方、美術は申し分ありません。 実はバルテュスの絵を何枚も思い出しながら観ていました。 表面は違うが雰囲気は画家バルテュスの作品世界に近い。 その中でアンナ役赤松由美は他役者と違った世界にいるようにみえた。 パフヌーツィ役阿目虎南の動きは楽しい。 出身が違う俳優で固めると作品を揺さぶる面白さが現れます。 *日本・ポーランド国交樹立100周年記念事業作品 *サイマル劇団xコニエレニ共同作品 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage_main/81612 *「このブログを検索」に入れる語句は、 赤井康弘

■工場

■脚本・演出:堀川炎,出演:石川彰子,中藤奨,堀川炎ほか,劇団:世田谷シルク ■こまばアゴラ劇場,2019.8.13-18 ■会社の事務室が舞台のようです。 それも工場らしい。 ストーリーは日常業務に沿って展開していく。 ラジオ体操や朝礼、企業理念唱和、節電・消灯、掃除。 防災訓練から始末書の書き方まで登場するとは・・。 20世紀高成長時代の日本にも見える。 これだけの作業を並べて、作者も経験があるのでしょうか? ここに外国人が入社してくる。 彼は不都合な業務規則に違和感を持ちます。 それは日本人の生き方にまで疑問を持つ。 時代が現代まで下りましたね。 この劇団は初めてです。 舞台の雰囲気が変わっている。 静かな演劇に入りますがどこか緊張感が漂っている。 科白が短い為それだけリアルに近づけるのかもしれない。 日常業務の行動に付随する言葉は短いですから。 それと役者が周囲を見つめる時の眼差しが効いています。 目付き鋭い。 観客を飽きさせない工夫が随所にみられる。 終幕の狂ったように踊りだすのもオチとしては申し分ない。 面白く観ることができました。 アフタートークがありました。 出席は堀川炎、宇吹萌(うすいめい)。 前作「春夏秋冬」と違いセリフ劇として今回は押し出しているようです。 宇吹は机の白だとか電灯などの美術も誉めていました。 そう、悪くはありません。 それと堀川自身のダンスもよかった、5秒くらいでしたが。 彼女の役者登場は久しぶりとのこと。 と言うのは平田オリザや宮城聰が良い顔をしないらしい。 その理由は聞き漏らしてしまった。 ところで全員がタブレット端末を持っているフリをしていたが分かり難い操作でしたね。 宇吹のこの秋のスズナリ公演作品を紹介して終わりました。 *青年団リンク公演 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/101012

■烈々と燃え散りしあの花かんざしよ、金子文子と朴烈の物語

■作:シライケイタ,演出:金守珍,出演:水嶋カンナ,いわいのふ健ほか ■下北沢.スズナリ,2019.8.13-18 ■「朴烈事件」を扱った舞台らしい。 無政府主義者朴烈とその妻金子文子が皇太子裕仁への爆弾暗殺を計画した事件である。 舞台は史実に沿って展開するが、主人公は金子文子だ。 チラシの「清水邦夫、シライケイタの女性像に金守珍が挑む!」もこれで納得。 1922年、朴烈との出会いから黒友会の結成、代々木借家での例会、著名人を集めての講演会開催、爆弾闘争による組織内不和、そして関東大震災までを描く。 文子は歌集から数句を詠み刑務所内での自殺で幕が下りる。 文子には虚無主義が混ざり合っている。 朴と同志朝鮮人は祖国独立の為に日本国家と戦う目的があった。 共に戦った文子は国家を何度倒しても同じであることに辿り着く。 日本国家が持つ闇を破壊しなければ主権人権の真の獲得は出来ないと考えた(ようにみえる)。 爆弾を誰に投げつけるかでこの違いが分かる。 朴は政府要所や百貨店などなどに、しかし文子は即座に天皇と答える。 幾つかの場面で貧しい文子の子供時代が挿入される。 彼女の骨のあるニヒリズムを育てた時代だ。 文子の子役が登場するがこれが心温まり詩情豊かにしていた。 タイトルの花簪は文子を女郎へ売るのに見栄えを良くする為に母に買ってもらったものだった。 日本の暑い夏を記憶している舞台だ。 *新宿梁山泊第67回公演 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/101736

■記憶の通り路、孤独に苛まれている老婦人には気をつけて

■作:マテイ.ヴィスニユック,演出:江原早哉香,出演:柳瀬太一,白根有子,高階ひかり他 ■中野.レパートリーシアターKAZE,2019.8.10-12 ■オムニバスってとても好きなのよ。 物語の一つ一つは非連続だけど少しずつまとまっていくところがね。 まとまった何モノかは舞台上に居るような居ないようなところがある。 非連続を想像力で繋げるからよ。 ヨーロッパのどこかの街の海岸表通りから裏通りを歩いて再び表通りに戻ってきたようなストーリーだった。 街の遊歩者になった感じかしら。 そして水を張った床の効果が素晴らしい。 大潮の海に反射する光は別格ね。 また水を意識しないで演技をする場面も不思議な感じがでていた。 たとえば「傷」などに。 女優たちの棒読みのような喋りも詩的作品に合っていた。 反射する光を見ながら太田省吾の「水の休日」を思い出してしまったの。 この作品も水を張り卓袱台や座布団を置いて役者は水を意識しない演技をしていく。 置いた鞄を持ち上げると中に溜まった水が滴れ落ち、水面が揺れ強い光で乱反射する場面は忘れられない。 今日の舞台は想像や記憶が入り混じって当に「記憶の通り路」だった。 *東京演劇集団風第97回公演(レパートリー作品) *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/101958 *「このブログを検索」に入れる語句は、 江原早哉香

■楽屋、流れ去るものはやがてなつかしき

■作:清水邦夫,演出:金守珍,出演:三浦伸子,渡会久美子,清水美帆子,日下由美 ■下北沢.スズナリ,2019.8.8-11 ■女優二人が鏡の前で化粧をし続ける変わった舞台だった。 二人とは三浦伸子と渡会久美子。 渡辺美佐子の「化粧」を二人座って演じているような形だ。 二人は売れない女優の裏話に花が咲く。 プロンプターの話も多い。 そこに売れっ子女優(日下由美)が登場し科白の練習を始めるが最初はお互いが見えない(?)。 科白はチェーホフの「かもめ」や「三人姉妹」。 化粧の二人も昔覚えた科白を喋りはじめる。 「マクベス」や「斬られの仙太(?)」も入る。 次に若い女優(清水美帆子)が枕を持って登場し、(日下由美に向かって)ニーナ役を返してもらいたいと喧嘩になる。 ・・。 化粧する二人は楽屋に住み着く幽霊らしい。 70分を化粧し続けるだけの二人を観ているのは疲れる。 日下由美の科白にもあったが、そこが淀むからだ。 この淀みを取るにはどうしたらよいのか? やはり言葉と肉体の両輪が同時稼働しないと梁山泊劇的感動は半減する。 *新宿梁山泊第66回公演 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/101619

■鴨居玲という画家がいた

■脚本:広田淳一,衣装:串野真他,ステージング:中村恩恵,演出:シライケイタ,出演:首藤康之,シライケイタ,山口馬木也,演奏:郷古廉 ■表参道.スパイラルホール,2019.8.9-10 ■鴨居玲をみたのは10年も前です。 それは2010年そごう美術館「 鴨居玲展 」。 死が漂う衝撃の展示会でした。 今回のスタフ&キャストをみて驚きました。 なんと広田淳一が脚本を書いている。 興味ある演出家の一人です。 それと、いつもの中村恩恵・首藤康之コンビ、脂が乗っている郷古廉のヴァイオリン、何度か観ているシライケイタ、山口馬木也。 ・・朗読劇のようです。 舞台4角に椅子が置いてある。 4人は歩き回り、演奏する。 曲はバッハ無伴奏から、テレマンから。 鴨居玲役は首藤康之。 縊れたような中年役が似合うようになりましたね。 坂崎乙郎との対話部分が面白かった。 シライケイタと山口馬木也の科白は解説です。 解説が多いのは鴨居玲が有名ではないから? 彼がみえなくなってしまった。 鴨居玲の人物画はとても演劇的です。 作品からみた彼の死生観はピエロのようにみえる。 仮面を被っているということです。 では自身はどうだったのか? この舞台は答えてくれない。 彼の直接の言葉をもっと入れてほしかった。 解説ではなく、もっと対話を! 天井から「スペインの娘」(1968年)がぶら下がっていました。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/102001

■「熱海殺人事件」vs.「売春捜査官」

■作:つかこうへい,台本・演出:坂出洋二,出演:杉山英之,木下知恵,猪熊恒和ほか,劇団:燐光群 ■下北沢.スズナリ,2019.7.26-8.6 ■昭和に戻った舞台だ。 それは暑さをも吹き飛ばすと言うことだ。 しかも円城寺あやが「なごり雪」で登場するから恥ずかしいくらいの戻りようだ。 その時のダンスは笑える。 木村伝兵衛刑事がこのダンスを後で蒸し返すことからわかる。 科白量は多いが役者のパワーで熟している。 下ネタも昭和的だ。 しかし昭和は飽きる。 このまま終幕まで続くのか? 後半に入った途端、沖縄が登場する。 昭和と平成が混ざり合っていく。 と、同時に役者が動かなくなった。 身体も昭和から平成になったのだろう。 高齢化も影響している。 科白も解説調が多くなる。 しかし辺野古基地闘争が暑さをジワリと呼び戻す。 平成の暑さか? 「・・反語の連鎖で語り、あえてシンプルに」していて力強い舞台だ。 そして「人種、出自、性そして女性の社会的地位への偏見・差別」が表裏から迫ってくる。 今年一番の熱さだった。 その暑さの中で、つかこうへいをチラッと見た気がした。 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/101006

■ピーター・グライムズ

■作曲:ベンジャミン.ブリテン,指揮:リチャード.アームストロング,演出:ウィリー.デッカー,美術・衣装:ジョン.マクファーレン,出演:スチューアート.スケルトン,スーザン.グリットン他 ■新国立劇場.情報センター,2019.8.4(NNTT,2012.10収録) ■情報センターでオペラ録画を初めてみたけど満足よ。 他ライブビューイングと比較してだけど。 もっと酷いかと想像していた。 見知らぬ村落共同体に突然投げ込まれたような感じがする作品だわ。 無調系音楽が共同体の断片しか届けてくれない。 美術と照明も無彩色系の何もない荒れた空間だけ。 北海に面した漁村だというのに海の匂いがまったくしない。 もちろんピーター・クライムズも漁師にはみえない。 彼と少年の関係は複雑だけど舞台では上手く表現されていなかった。 抽象の世界に共同体の雑音が混じりあって心休まる舞台ではない。 歌詞はドイツオペラとは違い経験論が微かに匂う。 でも後半になって、その雑音の中に静かな劇的さが漂い始める。 何とも言えない傑作かもしれない。 1945年戦勝日のロンドン初演は大成功だったらしい。 戦争に勝利した直後にこのような作品がヒットするとはイギリスも大した国ね。 カーテンコールの照明下で一人一人の衣装を初めて眺めることができた。 とても良く出来ているの。 舞台の粗い床は銀色に輝き眩しかった。 2012年に見逃した作品を(映像だけど)みることができて嬉しい。 *NNTTオペラ2012シーズン作品 *劇場サイト、 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/20000608_opera.html

■怪人二十面相

■原作:江戸川乱歩,演出:山口茜,出演:高杉征司,日置あつし,芦谷康介,達矢,佐々木ヤス子,劇団:サファリ・P ■こまばアゴラ劇場,2019.8.1-4 ■科白と身体の独特なシンクロナイズに驚きました。 5人の役者が素早く入れ替わって怪人二十面相の変装を成し遂げる過程は見事です。 言葉も変装していく。 「いつ変装したか覚えていない」と怪人自身が言っている。 彼の人格は一つだと思っていました。 これが崩れてしまった。 彼は二十(=多くの)の他人からできている。 次々と他者に変身していく舞台は不思議感が漂います。 考えさせられました。 科白の連なりを役者間で引き継いでいく舞台はよくある。 でも言葉はそのまま次の役者の身体に移るだけです。 しかし怪人二十面相という変換機構を通すと言葉も身体も変装して次に引き継がれていく。 言葉が引き継がれる身体に反発力が有るから出来ることなのでしょう。 日常動作をダンスに変換しているのも成功の一因です。 科白が身体動作と結合分離を繰り返しこの変換が完成されるということが分かりました。 床穴ライトや指輪ライトなどスポット照明の使い方も面白い。 まとまり過ぎている感じもある。 怪人二十面相が何者なのか?今やっと理解できました。 *サファリ・P第6回公演 *劇場サイト、 http://www.komaba-agora.com/play/7973