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■能楽堂四月「鷺」「夢浮橋」

*国立能楽堂四月企画公演の□2作品を観る. □復曲狂言・鷺■出演:山本凛太郎,山本東次郎,笛:一噌隆之 □新作能・夢浮橋■作:瀬戸内寂聴,演出:梅若六郎,山本東次郎,出演:片山九郎右衛門,味方玄,観世喜正ほか ■国立能楽堂,2023.4.27 ■「鷺(さぎ)」は、空海が雨乞いのために神泉苑を造ると善女龍王がおりてきて雨を降らせる話、神泉苑に落ちてしまった醍醐天皇の冠を鷺が取ってくる話、この二つを太郎冠者と主が語る。 後半は太郎冠者が鷺舞を舞う。 首を振り足を蹴りながら田んぼの泥鰌を探し回る。 語りが長いので舞を入れることにより舞台が和む。 鷺流の復曲狂言らしい。 「夢浮橋」は瀬戸内寂聴が宇治十帖の最終巻を舞台化した作品である。 いつもの舞台とは違う。 謡も所作も現代を感じさせる。 すべてにメリハリがある。 詞章を読んでも激しさが伝わってくるが舞台はそれ以上であった。 阿闍梨が恵心僧都の墓所へ向かう場面では杖を持ちながらも驚くほどヨロケてしまい、浮舟の艶めかしい身体に触れたところではシテ柱に抱き付いてしまう。 また、光源氏の息子薫と皇子匂宮の二人を愛してしまった浮舟のカケリでは扇を客席まで投げつけてしまう。 心の表現がより刺激的、より現実的だ。 面は阿闍梨が邯鄲男、浮舟は増、匂宮は若男。 瀬戸内寂聴の初演時(2000年3月)の文章がプログラムに載っている。 「私は七十七歳になっても、好奇心は一向に衰えを見せず、・・」。 当時の彼女がそのまま生き返ったような舞台だった。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/4177.html?lan=j

■ローエングリン

■作曲:R・ワーグナー,指揮:ヤニック・ネゼ=セガン,演出:フランソワ・ジラール,出演:ピュートル・ベチャワ,タマラ・ウィルソン,クリスティーン・ガーキー他 ■東劇,2023.4.21-27(METメトロポリタンン歌劇場,2023.3.18収録) ■薄暗い洞窟のなか、丸く空いた天井から月や星々がみえる。 映像では無機質な暗さに感じる、でも生舞台ならリアルな空気に包まれそう。 いつもの髪型でワイシャツ姿のP・ベチャワは異邦人の出現としては合格だけど騎士にはみえない。 近くの会社員が昼食の為に事務所から出てきたみたい。 声と演技の成熟度は彼にとって今が一番かな? 5時間の長さでも安定感があった。 それは演奏にも言えるわね。 指揮者ネゼ=セガンは幕ごとに衣装を替える余裕がある。 130人もの合唱団は衣装裏地の色彩だけで動きある舞台を演出していた。 ヴェルディとワーグナーを区別しないエルザ役タマラは淡泊すぎて魔女オルトルート役ガーギーの陰に隠れてしまったのが残念だわ。 でも観後に振り返るとこれも有りかも。 「・・疑念が心に芽生える」。 騎士とエルザの約束はそのまま物語と契約の狭間に揺れる現代社会の一面をも見せてくれる。 METでは1883年初演から数えて624回目のローエングリンらしい。 指揮者・演出家などスタッフにその余裕と責任が感じられる舞台だった。 楽しかったわよ。 *METライブビューイング2022作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/97762/

■シン・ゴジラ ■シン・ウルトラマン ■シン・仮面ライダー

□シン・ゴジラ■監督:庵野秀明,出演:長谷川博己,竹野内豊,石原さとみ他 □シン・ウルトラマン■監督:樋口真嗣,出演:斎藤工,長澤まさみ,有岡大貴ほか □シン・仮面ライダー■監督:庵野秀明,出演:池松壮亮,波辺美波,柄本佑ほか ■「シン・仮面ライダー、ヒーローアクション挑戦の舞台裏」をテレビで観る。 監督庵野秀明の役者への演技指導をみて興味が沸いたので映画館へ行くことにした。 監督の相手になる柄本佑、森山未來は舞台でも関心を持ってみていたこともある。 <シン>とは何か? これも気になったのでゴジラとウルトラマンを事前に観ることにした。 「シン・エヴァンゲリオン」はアニメのため外した。 ゴジラそしてウルトラマンも動く原発だ。 まさに原発事故での日本政府の対応を漫画にして描いている。 しかも暴れるから自衛隊そして米軍がそれに加わる。 「怪獣は日本だけにしか出現しない!」。 広島・長崎・福島そして東京へ・・。 時代を越えた政治メッセージだ。 仮面ライダーを観る。 昆虫サイボーグの楽しさがある。 作者と監督のコラボが実っている。 そして他者への不信、家族の絆、世界への愛などがストーリーの原動力になっている。 しかし終幕のアクションシーンはいただけない。 熟考過ぎて無意味な取っ組み合いに気化してしまった。 等身大の役者の科白・動作は怪獣やアニメヒーローとは違い監督の苦労がみえる。 ところで<シン>とはなにか? テレビ放送時代の頃の愛や絆は単純実直に処理していたように覚えている。 しかし今は愛も政治も文科省推薦のような描き方になっている。 <シン>は心と読ませたいようだ。 久しぶりにこの種の映画を続けて観たので疲れてしまった。 *映画com、 https://eiga.com/movie/81507/ *映画com、 https://eiga.com/movie/91634/ *映画com、 https://eiga.com/movie/94843/

■るつぼ

■作:アーサー・ミラー,演出:リンゼイ・ターナ-,出演:エリン・ドハティ,ブレンダン・カウエル,ニック・フレッチャー他 ■シネリーブル池袋,2023.4.14-(NTナショナル・シアター,2023年) ■悪魔と交わったか否か? 舞台は1692年のマサチューセッツ州。 悪魔の存在を受け入れている人々をみて観客は安全な場所で批判的に観ることができます。 1953年初演時は「・・マッカーシズムに対するアレゴリーとして受け取られた」(wiki)とある。 悪魔は時代とともに替わっていく。 宗教と国家が結びつく恐怖を描いている作品と言ってよい。 「・・この世は善と悪が入り乱れている。 白か黒をはっきりさせる!」。 ダンフォース判事の強い言葉です。 善か悪か?正義か不義か? 宗教が国家に近づく、あるいは国家が宗教に近づく。 現代日本でもよくある。 話題の世界統一教会など幾つもの宗教系団体は<悪魔>を追い払い<正義>を立てるため国家と結び付きたい。 「るつぼ」は今でも将来にも起こり得る。 観応えのある理由です。 舞台上の役者の配置・動きは申し分ない。 特に幕開け、教会ミサでの讃美歌(?)風景は劇的でした。 照明・音楽は作品の通奏低音のように効いていたが、雨の演出は映像でみると効果が薄れてしまったのが残念です。 *NTLナショナル・シアター・ライブ作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/98396/

■平和の日

■作曲:R・シュトラウス,指揮:準・メルクル,演出:小林輝彦,渡邊仁美,大塚章ほか,演奏・合唱:東京フィルハーモニー交響楽団,二期会合唱団 ■Bunkamura・オーチャードホール,2023.4.8-9 ■ナチスとの関係はいつもは深入りしないが、この作品は避けることができないようね。 しかも解釈の都合がいくらでも付くから、あらゆる政治的状況に合わすことが可能なの。 1930年後半のドイツはもちろん、今のウクライナでもロシアでも上演できそう。 粗筋はシンプルで上演時間も長くはない。 セミ・ステージ形式にはもってこい。 しかも2000席の大劇場で一回公演のためか、旧教徒司令官とその妻マリアを含めて歌唱に力が籠もる。 新教徒を迎い入れた大団円では平和讃歌の絶唱で終わる。 ワーグナー的手法も感じられるが、むしろベートーヴェンに近いかな。 「ばら騎士」「カプリッチョ」とは真逆の世界でプロバガンダ的と言わざるをえない。 時代が招き寄せてしまった作品と言ってもよいわね。 *東京二期会コンチェルタンテ・シリーズVol.5 *二期会、 http://www.nikikai.net/lineup/friedenstag2023/index.html

■能楽堂四月「引括」「雲林院」

*国立能楽堂四月普及公演の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・引括■出演:松田高義,野口隆行 □能・宝生流・雲林院■出演:金森秀祥,野口能弘,奥津健太郎ほか ■国立能楽堂,2023.4.8 ■「引括(ひっくくり)」は離縁を目論んでいる夫が妻に、暇を出すから好きなものを持っていけ、と言うと妻が取った行動は・・! 「雲林院」のプレトーク「伊勢物語のまぼろし、能と注釈と」(田中貴子)を聴く。 ・・源氏物語や伊勢物語は後代の人にとっては時が経ち過ぎて読み難い。 このため多くの注釈書が出回った。 当作品も源氏物語や伊勢物語の注釈が多く見え隠れしている。 以下の3点に沿いながら能と注釈の関係を語る。 1.世阿弥自筆本と比べる 2.雲林院について 3.芦屋の公光(きんみつ)とは ・・。 注釈の影響力に驚く。 舞台では和歌問答、アイの語り、序の舞と続くがどれもが長い。 そのため眠くなりそうになるが、・・しかしそうならない。 この微妙な半覚醒の状態がとてもいい。 公光の夢の続きを観客が引き継いでいるかのような舞台だった。 面は「小尉」と「中将」。 桜雲の廃寺で舞う黃装束の業平に会うのは久しぶりだがどこか憂いがあった。 ところで4月に入って外国観光客が急に増えてきたようだ。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/4175.html?lan=j

■能楽堂四月「鈍太郎」「藤戸」

*国立能楽堂四月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・鈍太郎-萬乃古式-■出演:野村万蔵,小笠原由祠,河野佑紀 □能・金春流・藤戸■出演:櫻間金記,福王茂十郎,野村万之丞ほか ■国立能楽堂,2023.4.5 ■「鈍太郎」は妻と妾を持っている。 彼はどうしても妾に目がいってしまう。 そこで平等に接しない案を出したのだが、結局は二人に捨てられてしまう。 萬乃古式(よろずのこしき)を取り入れたので、現代の男女平等の問題にも繋がっている。 「藤戸」は平氏との戦いで手柄を立てた佐々木盛綱がワキ、漁師の我が子を盛綱に殺された老母、そして亡霊の息子がシテとして登場する。 前場は母の悲嘆の姿が迫ってくる。 後場は息子が登場し盛綱を呪うが成仏を遂げる。   シテが一人二役のため母と息子は出会うことがない。 どちらも相手が盛綱のため舞台感動が弱くなった。 息子が母を連れに来たとも受け取れるが読み過ぎか? シテの声が聴き辛かった。 面は痩女(やせおんな)と二十余(はたちあまり)。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2023/4173.html?lan=j