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■カゲロウの黒犬

■作:李大京右,演出:寺十吾,出演:TSUMAZUKI ■下北沢・スズナリ,2011.2.23-3.2 ■場内に入ったら、住みたくない家の典型が舞台に作られていて不吉な予感がしました。 チラシには「現代社会の一番嫌な、出来れば見たくないようなものみせつけられた・・」と過去の感想が載っています。 幕が開くとチラシどおりの世界が展開されます。 祖母と父親の死、後に残された引き籠り兄弟とこれに群がる貧困ビジネスの人々の話しです。 日常生活を営んでいる船底を開けるとこのような地獄があることを薄々気づいているから余計に見たくないのです。 でもこの地獄は人類が登場してからずっと存在しているものではないでしょうか。 登場する人間関係は直ぐにでも分解しそうですが、舞台は非常に濃い負の対話が続きます。 ここが芝居の面白さですかね。 老人介護職員が通帳を預かっている場面があります。 自立支援ボランテアと祖母の年金を分ける話しもでてきます。 ここで長男が何も言わないのは前後の筋からいっても理解できません。 このようなストーリだとお金の処理はやはり気になります。 この芝居は出口がありません。 永遠に続く現実の一部を誇張だけしてそのまま舞台にのせているからです。 次も観たいか?と問われれば今回で十分だと答えます。 なぜなら劇場をでれば現実が待っていますからね。 これが売れない理由です。 *劇団サイト、 http://tsumazuki.com/stage/138/

■TABLEMIND

■演出:川口隆夫 ■川崎市アートセンター.アルテリオ小劇場,2011.2.23-27 ■特設舞台両側に客席が60席。 手紙を小声で書くところから始まる。 そして青白い光の帯が身体の脆さを浮き出させながら舞台の世界に入っていく。 バス停で見失った友、入院したことなどが日記のように読まれるがしかし話しは徐々に薄くなっていく。映像の他人に同化して「冬の散歩道」をバックに激しく踊るクライマックスはとてもいい。 曲目も合っている。 終幕に再び手紙を読むがノイズ音で聞き取れなくなり声は粒子のように分散していく・・。 小道具や映像・光はダンサーから付きず離れず他者のような関係を保っているように動き回る。 舞台、振付、ストーリすべてがコンパクトにパーソナルにまとめられている。 日常生活から少しばかりズラした身体を意識させてくれた。 休息ができる短編小説を読んだようなパフォーマンスであった。 *劇場サイト、 https://kawasaki-ac.jp/th/archives/

■苦悩

■作:マルグリット・デュラス,演出:パトリス・シェロー,出演:ドミニク・ブラン ■両国・シアターカイ,2011.2.21-22 ■以前観たデュラスの「インディア・ソング」「愛人」が素的だったことを思い出して両国へ急いだの。 強制収容所の夫ロベールを待つデュラスの日記の芝居化よ。 オルセー駅、今の美術館?、へ毎日通って収容所からの帰還者を確認するデュラス。 そこは帰還者ばかりか捕虜や兵隊がいっぱいの喧騒な世界。 アフリカ戦線、ド・ゴールとド・ゴール派批判、ルーズベルト、ベルリン陥落、収容所解放、赤痢、チフス検査と話しが続いていくの。 結局はドイツも同じヨーロッパだと認識し直すデュラス。 そして驚くべき夫の帰還。 しかし姿は無残にも体重が38kg。 41度の高熱と緑色の泡のような大便。 なんとか持ちこたえて、夫の台詞「おなかがすいた」で幕が閉じる芝居。 途中アンリ・コルピの「かくも長き不在」を思い出してしまったの。 劇的だった映画と違ってこの芝居は淡々としているわ。 だから想像力が必要なのよ、1945年の帰還者を待つ芝居を今観るにはね。 *劇場サイト、 http://www.theaterx.jp/11/110221-110222t.php

■美しきものの伝説

■演出:西川信廣,出演:文学座 ■紀伊国屋サザンシアター,2011.2.13-22 ■劇場に入ると三味線が迎えてくれていい気分になりました。 大正元年、伊藤野枝とその周辺の話しです。 芝居の話しも出てくる。 しかし少し観て席を立ちたくなりました。 歴史や人物の解説をしているような芝居です。 人間関係がとても表面的です。 いかにもセリフを喋っているという感じの対話が続きます。 感動など湧いてもきません。 三味線弾きの突然坊が「・・芝居の結末は歴史書を見ればわかる」と言っていたがまったくその通りになってしまいました。 義務感で上演をしているような芝居でした。 *劇団サイト、 http://www.bungakuza.com/utukusiki/index.html

■TPAMショーケース

■出演:①スサンナ・レイノネン・カンパニー(フィンランド)②ラバーバンダンス・グループ(ケベック)③カハーウィ・ダンスシアター(カナダ)④ペリーヌ・ヴァッリ(フランス)⑤コンセントラート(ポーランド) ■神奈川芸術劇場他、2011.2.17-20 ■ http://www.tpam.or.jp/2011/j/international/index.html ■国際舞台芸術ミーティング(TPAM)での海外5グループのダンス公演。 ①寒くて暗い大草原にいるような舞台。 足はいつも地面から離さないで腕を大きく振りまわし、鉛の靴を履いているような歩き方をするの。 大地のリズムが伝わってくるようなダンスね。 身体・体重のある北欧人だと様になるわ。 ②ストリートダンスの変形型ね。 音楽が合ってないので展開にまとまりがでないのよ。 そして手足が縮こまるってるわ。 街中で踊るならいいかも。 ③北アメリカ先住民族的舞踊と樺太アイヌ弦楽器演奏のコラボ。 横浜ランドマークホールは舞台が狭すぎるわ。 これで過去から現在迄のごった煮のような踊りになってしまったのよ。 緊張していたダンサーが終幕に疲れがでてきてからは良くなったわ。 ④「夫婦」を上演。 男と女二人のダンサーの心理的な静かな舞台。 短かい上演でうまく入り込めなかった。 多分面白いダンスだと感じるけど・・。 ⑤ダンサーは一人。 振付の理由や経緯を説明してから踊る手順は面白いわ。 ソビエト崩壊をまだ引きずっているような感じも憎めない。 グループの多くは振付も音楽も古い感じがする。 20世紀に戻ってしまったようね。 いつも観ているTOKYOの舞台を見直してしまったわ。

■ダイダラザウルス

■作・演出:深津篤史,出演:桃園会 ■ザスズナリ,2011.2.16-20 ■オデッサの階段を切り取ったようなのがドカーンと置いてある舞台。 「銀河鉄道の夜」のオマージュのようね。 主人公は列車に乗りながら過去の出来事を想起しているみたい。 海辺、ドライブ、遊園地、祭り、京都、夕飯・・。 でも個々の出来事はプライベートに包まれているようで話しの繋がりが見えない。 そして「関西弁で・・・」というセリフが数か所あり関東弁?との二つを切り分けながら喋るので余計に観客を遠ざけてしまう。 切り分けの理由はわからないけど・・。 このような舞台構造と芝居構造を持っていればいくらでも感動を呼び寄せられるのにそれができていない原因がこの二つね。 通りすがりの客には冷たいのね。 これは勿体無い! でもこの閉鎖的な感じがいいと言う観客も多くいたようだけど。 ところで大阪万博の跡地に遊園地がありここのジェトコースターの名前がダイダラザウルスなんだ。 いいタイトルだわ。 *ぴあサイト、 http://kansai.pia.co.jp/interview/stage/2011-01/20110121-touenkai.html

■品潮記-品川宿物語-

■作・演出:市村直孝,出演:BOTTOM-9 ■新宿・サンモールスタジオ,2011.2.9-20 ■舞台は障子が幕のように立っている。  この旅籠屋の障子の開け閉めで物語が一つ一つ進んでいく。 開け閉めのリズムが心地良い。 景色は見えないが品川の磯の香りが海風に乗ってくるような舞台構成だ。 黒船来航、桜田門外の変、水戸浪士の東禅寺事件(?)、箱館戦争・・を絡めるので流れが緩やかだ。 上演時間はなんと3時間。 旅籠の丁稚だった主人公が20年前の物語の進行を務める。 そこで演じられる人間関係や事件は素直であり礼儀もある。 このような古さのある芝居好きは多いかもしれない。 精神的浄化が作用し至福の時間に浸れるからだ。 観客の年齢層が分かれていたのも興味深い。 この種の芝居はあまり観ないがたまにはいいなあ、と思える出来えであった。 *チラシ、 http://stage.corich.jp/img_stage/l/stage18403_1.jpg?1459117920

■焼肉ドラゴン

■作・演出:鄭義信 ■新国立劇場・小劇場,2011.2.7-20 ■1970年頃の在日コリアンの生活の力強さ、戦争の傷跡をそのまま舞台に乗せて直球で勝負している芝居です。 加えて経済成長期の明暗の強さが一体となった激しさがある面白さを持っている。 三姉妹と息子の別れでひさしぶりに涙が止まりませんでした。 兄弟がたくさんいた時代の家族の繋がりや別れが懐かしく見えました。 戦争終結の時、日本人は「敗戦」ではなく「終戦」だと受け止めていることが芝居から見えてきます。 この差異の言葉である「責任」が時々顔を出します。 日本人は「責任」を忘れてはいませんが他人事のように想像してしまいます。 これが息子の死の原因にも繋がっている。 そして生活の苦楽が集約している息子の語りが芝居に一層深みを与えていました。 *NNTTドラマ2010シーズン作品 *劇場、 http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000325_play.html

■沼袋十人斬り・改訂版

■作・演出:赤堀雅秋,出演:THE SHANPOO HAT ■シアタートラム,2011.2.10-20 ■しがない三人の中年男の友情物語である。 セリフは漫才のように面白いところがある。 しかし殺人も盗難もどこか中途半端だ。 道路工事や蕎麦屋のアルバイト、気晴らしのパチンコやスナックバー、親の介護など生活の匂いはするが断片しかみえてこない。 いつまでたっても芝居は煮つまってこない。 これがわかっているから歌舞伎調でカムフラージュせざるを得ないのではないか? 過去のモジュールを寄せ集めたようで、息抜きをしている作品だ。 「・・いよいよ15年目になる。 しかし同じ場所でひたすらぐるぐる回っている・・」と書いてあったが、次はぐるぐる回らず真っすぐにすっ飛ばしてくれ。 *劇場サイト、 https://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/02/post_216.html

■アライブ・フロム・パレスチナ、占領下の物語

■芸術監督:ジョージ・イブラヒム ■川崎アートセンタ・アルテリオ小劇場,2011.12.11-13 ■ベトベトした昔のトマト、あまーい西瓜、林檎、サクランボ、タマネギの匂い、黒オリーブ、・・・、ゴム爆弾、戦車、ロケット弾、ヘリコプターの音・・。 日常生活の言葉は極端へ跳ぶようね。 舞台は丸めた新聞紙で一杯。 メディアでは伝わっていないパレスチナ人の日常生活を描きたいと監督の言葉がチラシに載っているわ。 しかし俳優の動きもセリフも無駄が無く滑らかで、しかもブラック・ジョークが多くてその生活がよくみえない。 上演回数や受賞の多さが芝居の持っていた牙を丸めてしまったのよ。 パレスチナ問題が深く潜行してしまった今、次なる作品を早急に作るべきね。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/24544

■ゾウガメのソニックライフ

■作・演出:岡田利規,劇団:チェルフィチュ ■神奈川芸術劇場・大スタジオ,2011.2.2-15 ■仕事上の講演会に出席しているようでした。 役者の動きや喋り方が下手なプレゼンテーション時のしぐさのようです。 その説明がうまくいったかどうかを確認するような役者の視線が観客に降り注ぎます。 これは説明会型演劇または講演会型演劇です。 日常生活でよく意識にのぼる想いや感情そのものを話題にしています。 「残りの40年という人生は短い・・」。 ですから日常の先にある死も同時に考えることになります。 旅行の話しはもちろん出てきます。 何故なら旅行は死の予行演習ですから。 夢の話しもします。 夢は生活の大部分を占めている無意識世界の出入口ですから。 質を向上するのは悪くはないがしかし、日常生活に質の良し悪しなど無いだろうということです。 パフォーマンスのある、モノローグ構成が面白い、下手なプレゼンテーションの、感動は無いが刺激的で、とても為になった、講演会のような芝居でした。 *劇場サイト、 http://www.kaat.jp/d/zougame

■風のほこり

■作:唐十郎,演出:金守珍,出演:新宿梁山泊 ■芝居砦・満天星,2011.1.21-30 ■とある芝居小屋の舞台下、そこが劇団の文芸部室。 水が流れ落ち、まるで大きな下水道の中の溜まり場に作られているような舞台だ。 幕があがってすぐに義眼女田口加代と文芸部水守三郎が遠い思い出の甦るようなセリフを早口で喋り、観る者は昭和5年の浅草に引きこまれていく。 水が目薬になり、水の鍵を探そうとしたり、水は芝居の流れに寄り添いドロッとした空気のように感じられた。 そして目玉の不思議さも加わり妖しい雰囲気が漂う。 これに過剰な言葉が役者の身体から紬ぎ出されると観客も未知の過去世界に落ちていく。 ひさしぶりに唐の水の世界に浸った。 しかし寒い冬に水の舞台は身にしみる。 題名に風をつけるのは合わない。 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/24831

■明るい表通りで

■作・演出:三谷智子,出演:文月堂 ■シアタートラム,2011.1.27-30 ■若人発掘目的の「ネクストジェネレーション」で入場料も半額なので観に行ったのですが思った以上に質の良い芝居でした。 三姉妹の長女と不動産社員の結婚が物語の中心のようです。 チラシに丁寧な作りと書いてある通り、男女間の感情の遣り取りはとても現実的に面白く描かれています。 ところで若い女性演出家の作品の多くはこの芝居のようなホームドラマ系です。 この主の作品は次のセリフがキーワードになっています。 「しあわせとはなんでしょうか?」がそれです。 これがあると観ないでも中身がわかります。 この芝居でも長女が安易に使っていました。 戦略を立ててこのセリフを越える芝居をこれからは上演しないと、同じような他劇団と共に埋もれてしまいますね。 ところで以前、とある劇団の「ガラスの動物園」で母も姉も亡くなり弟のトムが旅立つ時にこのセリフがありましたが、最高でした。 *劇場サイト、 https://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/01/_on_the_sunny_side_of_the_stre.html

■チェーホフ

■作・演出:タニノクロウ,出演:篠井英介,毬谷友子,手塚とおる,蘭妖子,マメ山田 ■東京芸術劇場.小ホール,2011.1.25-2.13 ■幕が開き舞台の中に舞台、そしてその中にまた小さな舞台・・・。 切絵のような風景に原色の照明。 俳優の動きも歌も衣装も人形のようでとても素晴らしいわ。 でも直ぐに飽きてしまったの。 舞台は物でとても豊かなのに、それが持っている存在の不思議や感動が出現しないの。 友子の良さも含めて役者も同じね。 タニノクロウが医者だと今回のチラシで初めて知ったわ。 これで前回観たアンダーグラウンドの謎が解けた。 そして通底にアリストテレスがいるようね。 このチエーホフのよさは、あのチェーホフをアリストテレスからみてみようと言っているようだわ。 でもこれがいつも失敗してるようにみえるけど? 舞台は絵画や医学そして文学とは違うようね。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/23855