■能楽堂五月「止動方角」「千手」
*国立能楽堂五月定例公演の二舞台□を観る. □狂言・和泉流・止動方角■出演:野村萬斎,野村裕基,石田幸雄,飯田豪 □能・観世流・千手(小書:郢曲之舞)■出演:坂口貴信,上田公威,舘田義博ほか ■国立能楽堂,2026.5.13 ■能「千手(せんじゅ)」は今回が初見である。 捕虜として鎌倉に幽閉されている平重衡は、まもなく(処刑のため)京へ送られる運命にあった。 源頼朝のはからいにより、前夜、狩野介宗茂と千手の前が酒宴を設け、束の間の慰めの時を過ごす。 本作は「平家物語」を典拠とし金春禅竹の作と伝わる。 死を目前にした重衡と、彼を慰めようとする千手の心の揺れを、千手の動 と重衡の静の対照によって描き出している点が興味深い。 後半は千手の舞が続き、途中一ノ松まで進んだところでシオリが入る。 やがて武士たちに囲まれ鎌倉を後にする重衡を見送りながら、千手の涙は止むことがない。 外へあふれ出る千手の情感 と、内に乱れを抱えつつも動じぬ重衡の姿 が、生と死の境界を観客に強く意識させる。 全体として緊張感に満ちた舞台であった。 シテの坂口貴信は、昨年八月の袴能「砧」でも観ているが、初めて聞く声はよく響き明晰に届く。 小書「郢曲之舞(えいぎょくのまい)」が入り、シテ面は「相生増(あいおいぞう)」であった。 狂言「止動方角(しどうほうがく)」も初見の曲である。 <止動方角>とは、暴れる馬を鎮めるための呪文のこと。 横暴な主人と我儘な太郎冠者の応酬が見どころで、馬も登場するため、複雑な所作と言葉が入り、演者にとって難度の高い曲であることがよく分かる。 これを野村萬斎と主人役の野村裕基の親子が演じることで、作品の複雑さが一層面白さへと転化していた。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2026/85006/