■トリスタンとイゾルデ
■作曲:W・R・ワーグナー,指揮:ヤニック・ネゼ=セガン,演出:ユヴァル・シャロン,出演:リーゼ・ダーヴィドセン,エカテリーナ・グバノヴァ, マイケル・スパイアーズ他 ■新宿ピカデリー,2026.4.24-30(メトロポリタン歌劇場,2026.3.21収録) ■オペラ作品にはしばしば妙薬が登場するが、本作における<愛の妙薬>の効き目は群を抜いている。 ドニゼッティのそれとは比べものにならず、妙薬を飲んだトリスタンとイゾルデは現実から遠ざかり、抽象的な内面世界へと沈み込んでいく。 動きは次第に少なくなり、舞台を支えるのはほぼ歌唱のみとなる。 そのためか、演出家は二人の感情世界を可視化しようと、映像表現に大きく依存してしまう傾向がある。 本公演でも、象徴性の強い映像が多用され、観客は迷路に迷い込んだような感覚を覚える。 生の舞台であればまだしも、映画館で舞台上の映像をそのまま観ると、どうしても距離が生じてしまう。 この状況を打破するのは、結局のところ映像を吹き飛ばすほどの歌唱と演奏だ。 今回もその期待に十分応えてくれた。 ヤニック・ネゼ=セガンの細部まで行き届いた指揮、トリスタンとイゾルデの二人、そして忠実な従者ルヴェナールと待女ブランゲーネ、さらにマルケ王の安定した歌唱力が作品を力強く支えていた。 こうしてみると、『トリスタンとイゾルデ』は、物語の核心である内面の葛藤と音楽そのものが前面に出るセミステージ形式こそ、最も相性が良いのかもしれない。 *METライブブューイング2025年作品 *MET、 https://www.shochiku.co.jp/met/program/6908/