■黒百合
■原作:泉鏡花,演出:杉原邦生,出演:木村達成,土居志央梨,岡本夏美ほか
■世田谷パブリックシアター,2026.2.4-22
■泉鏡花の摩訶不思議な世界観も垣間見えるが、花売り娘の雪、盲目の恋人・拓、そして子爵家の青年・滝太郎が織りなすシリアスな三角関係が中心の据えられ、幻想味よりロマン主義的な色合いの濃い作品に感じられた。
雪は洪水で命を落とすものの、三角関係そのものは終幕まで崩れない。 当時の小説としては珍しい構図だろう。 拓と滝太郎の双方が家系の長として同じ道を歩む運命にあり、さらに盲目の拓と健常な滝太郎という身体的対比が表裏一体の関係を形つくっているためだと思われる。 それでも、この三角関係はどこか平凡に映った。 雪を狙う島野や多磨太などの高等遊民崩れの人物たちの描写が、物語の焦点を散らしてしまったのかもしれない。
黒百合探しを命ずる勇美子の内面も見え難い。 彼女はモウセンゴケの観察に心を奪われ過ぎてしまっていた。 異界の地から持ち帰った黒百合が洪水を呼んだとしても、日本の自然では決してあり得ない話ではない。 黒百合はいつの間にかただの花へと回収されてしまった。
本作は泉鏡花の初期作品にあたるが、後の彼の物語世界の萌芽が随所に詰め込まれているようにも思える。 これを舞台化するのは至難の業だろう。 音楽・照明・美術のどれをとっても、スタッフの苦心が舞台の隅々から伝わってきた。 しかしその丁寧さゆえに、若き鏡花の芽を詰め込み過ぎてしまったのかもしれない。 カーテンコールの拍手がやや弱かったのは、観客が消化しきれなかった為だろうか。
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