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■女中たち

■作:ジャン・ジュネ,演出:こしばきこう,出演:三木美智代,堀きよ美,高城麻衣子,劇団:風蝕異人街 ■サブテレニアン,2017.10.27-29 ■膨大な科白量の芝居に時々出会うが役者の天才的記憶力にいつも感服してしまいます。 科白を紙に書いて部屋全壁に貼り付け記憶する役者を聞いたことがある。 観客からはスタッフ・キャストのこのような苦労は分かりません。 でも苦労を知らないほうが無難なようですね。 この作品も量が多い方でしょう。 三人の女優が血肉化された身体の一部のように滑らかに台詞を喋る姿を見るだけも驚きです。 最初は女中たちが演ずる中断と再開の多い劇中劇で戸惑いますが徐々に物語に入っていくことができた。 そして女主人の登場から妹クレールが毒入り茶を飲む終幕まで時間が経つのを忘れました。 喋る速度が役者身体の動きと合っていたのが心地好い。    女主人の衣装が天井や壁に所狭しと並べられた舞台は派手さの中にアングラの雰囲気が漂っていて申し分ない。 演出家?が「1時間半だが我慢して観てくれ。 終わって劇場を出たとき爽快になれる・・」。 軽過ぎる感もあったが我慢しないで爽快になれました。 初めて観る劇団ですがまとまっていましたね。 寺山修司を意識した劇団というのも今知って嬉しい。 このブログの書き手たちも寺山修司大好き人間ばかりですから。 *板橋ビューネ2017「生活者の表現を取り戻せ」参加作品 *主催者、 https://itabashi-buhne.jimdo.com/archive-1/2017-archive/

■リチャード三世

■作:W・シェイクスピア,翻訳:木下順二,演出:シルヴィウ・プルカレーテ,出演:佐々木蔵之介,手塚とおる,今井朋彦,植本純米ほか ■東京芸術劇場・プレイハウス,2017.10.18-30 ■舞台三方の汚らしい布が堅固な牢獄の壁に見え天井まで聳え立っている。 そして手術台で使う不気味な照明灯が天井からぶら下がっているの。 「 ルル 」の医学部実験室からついに手術室へ行き着いてしまったのね。 加えて錆びた曇りガラスドアや骨格だけのベッドが20世紀東欧の長い戦後史を匂わせている。 その中で木下順二訳を取捨増幅した科白と役者たちの身体動作が同期して沈黙あるリズムが出現してくるの。 何もないけど過去の記憶が漂っている廃墟のような舞台だわ。 リチャード役は佐々木蔵之介。 ツッコミよりボケに片寄った演技が沈黙のリズムに似合っていたわよ。 切れ味が鈍くなったのは仕方がないけど、周りの男性ばかりの役者たちが冴えたボケを演じているから面白く共鳴できていた。 日本語日本人役者でもプルカレーテのエキスは煮詰まっていたようね。 *劇場、 http://www.geigeki.jp/performance/theater151/

■犬狼都市-キュノポリス-

■作:澁澤龍彦,演出:金守珍,構成:水嶋カンナ,美術:野村直子,舞踊:奥山ばらば,劇団:ProjectNyx ■芝居砦・満天星,2017.10.19-29 ■口上で色眼鏡とタートルネック姿の澁澤龍彦が夢の話をするの。 そして舞台は二人の朗読と役者演技が入り混じりながら進んでいく。 途中妹尾美理のピアノ演奏も5曲入って物語を膨らませる。 一休みにもなる。 この朗読と演奏が澁澤龍彦の硬さを持ってくるのね。 硬さがダイヤモンドに一層の輝きを与え麗子はその中へ・・。 奥山ばらばと神谷沙奈美のダンスがその硬さにドロッとした夢を被せようとするけど寄せ付けない。 作者=朗読と演出・構成家=役者の拮抗が面白い。 梁山泊やNyxが持っている夢の質が澁澤龍彦と違うからだとおもう。 奥山ばらばのダンスは素晴らしかった。 科白もよかった。 大駱駝艦は面白いダンサーを多く輩出しているのね。 水嶋カンナの朗読がイマイチだったけど。 それと沢山の絵画写真は気が散るのでいらない。 久しぶりに澁澤龍彦を思い出させてくれたわよ。 *澁澤龍彦没後30年記念作品 *ProjectNyx第17回公演 *劇団サイト、 http://www.project-nyx.com/17_kenroutoshi.html

■班女

■作:三島由紀夫,演出:渡部剛己,音楽:本間貴士,出演:櫻井春菜子,秋葉由麻,劇団:体現帝国 ■光明山東福寺・境内,2017.10.17 ■雨が止んだので東福寺へ向かいました。 肌寒い。 山門前で使い捨てカイロが配られたので有難く使いました。 観客は50人前後ですか。  本堂前庭が舞台です。 琴の演奏とともに実子が語り始める。 途中ヘリコプターが通り煩い。 そして花子が赤い衣装で登場。 新聞紙?に皺をつけて半分に折り扇にします。 決定的場面ではこの動作が必ずある。 実子と吉雄は一人二役ですね。 垣根や本堂、背景の木々、虫の鳴き声などを取り込んだ舞台でしたが上手くまとめていました。 野外は集中力が必要ですが上演時間40分で緊張感を保つことができました。  多くの人は待って待ち続けて死んでいくものです。 待つ女が特別ではないので心情は伝わってきます。 でも待たない女はどこか空虚感を持つ。 待たないことを自分自身に説得させる必要があるからでしょう。 この作品は待つ女に比重が傾き過ぎて待たない女との対称性の面白さが欠けている。 戯曲がそうなっている。 でも舞台は実子の二役で役者の対称性が保たれていました。 そして対象の男が髑髏にみえるところが恐ろしい。 待ちすぎて男がモノに還元されてしまった? モノ化はよくあることです。 終幕二人がウヒャウヒャ笑い飛び跳ねながらの退場は見事にモノ化を振り払っていました。 *土方巽1960しずかな家Ⅲ参加作品 *作品サイト、 http://hijikata1960.yokohama/index.html

■お気に召すまま

■作:W・シェイクスピア,演出:ポリー・フィンドレイ,出演:ロザリー・クレイグ,ジョー・バニスター ■TOHOシネマズ六本木ヒルズ,2017.10.13-19(2016年作品) ■シェイクスピアの喜劇は英語でないと面白くない。 特にこの作品はね。 終幕まで科白がビシビシ伝わってきて気持ちが良かった。 松岡和子訳のリズムもシンクロしていたわね。 これはロザリンドを含め女優が活き活きしていたからよ。 そして男優は脇役が光っていたわ。 歌唱も4曲入ったけど、どれも聴きごたえがあった。   舞台は現代企業の事務所で始まるの。 現代設定にする意味は薄いけど美術や衣装が揃い易いのかもしれない。 その事務所の椅子や机を紐でつるし上げて木々にしたアーデンの森は面白い。 それと羊もね。 役者たちが白い服を着て四つん這いで歩き回るから笑っちゃった。 科白にも美術にも久しぶりに脳味噌が喜んだ舞台だった。 *NTLナショナル・シアター・ライヴ作品 *NT 、 https://www.nationaltheatre.org.uk/productions/as-you-like-it/

■福島を上演する

■作:アイダミツル他,演出:金子紗里ほか,出演:マレビトの会ほか ■シアターグリーン,2017.10.7-15 ■上演方法が昨年と同じです。 作者が8名、演出家6名の戯曲と演出が用意され毎回内容の違う舞台が上演されます。 本日は4題から成り立っているようです。 松田正隆の挨拶が昨年と同じように有りました。  でも劇場が違います。 昨年は体育館跡の「にしすがも創造舎」だった。 今年は舞台が1/4の狭さになったのでより演劇に近づいている。 それは静かな演劇を観ているようです。 平田オリザ様式というより身体的な静けさです。 特に声が大きく変わった。 昨年は避難場所のようなガラーンとした体育館だったので余計に響いたのでしょう。 今年の役者の内に籠った声を聞いて福島が潜行していることを感じました。 見えなくなってきている。 「想像せよ、それでもなお・・」。 山崎健太も言っているが不安や弱さを振り払えるだろうか? *F/Tフェスティバル・トーキョー2017参加作品 *F/Tサイト、 http://www.festival-tokyo.jp/17/program/performing_fukushima_17/ *「このブログを検索」キーワード、 松田正隆

■わたしが悲しくないのはあなたが遠いから

■作・演出:柴幸男,劇団:ままごと ■東京芸術劇場・シアターウエスト,2017.10.7-15 ■想像力を超える舞台に出会うことがある。 これがそれだ。 想像すらしない内容のため唸ってしまった。 舞台に求め続けている劇的さの質がいつもと違うが、このような芝居に出会えたことに感謝している。 舞台の枠を取り払い生の営みが世界に浸透していくような感じを持たせてくれる。 「わが星」もそうだった。 これから生まれてくる女の子が隣の部屋でこれから生まれてくる友達の存在に気付く。 それからというもの友達はいつも遠くにいる・・。 時間の流れと空間の距離がヒトの誕生・成長・死そして再生へと有機的に結び付けられ生物の歴史や宇宙の歴史にまで広がるのを感じ取ることができる。 昔SF小説に凝った時期があったが好きな傑作を読み終わった時の感動と似ている。 最高のSF舞台であった。 *F/Tフェスティバル・トーキョー2017参加作品 *F/Tサイト、 http://www.festival-tokyo.jp/17/program/shiba_wtkn/

■神々の黄昏

■作曲:リヒャルト・ワーグナー,指揮:飯守泰次郎,演出:ゲッツ・フリードリヒ,演奏:読売日本交響楽団,出演:ステファン・グールド,ペトラ・ラング,島村武男ほか ■新国立劇場・オペラパレス,2017.10.1-17 ■序幕を観ても今までの流れを思い出せない。 今回は3シーズンに跨がったから色々な作品の記憶が混ざり合ってしまった。 最長でも1シーズン2作の2シーズンで完結をしないとだめね。 長編小説と同じで少しずつでも継続性が必要なの。 METライブビューイングで観た時の衝撃的感動は例え映画でも間をおかなかったからだと思う。 しかもこの4作目は枝葉の多い粗筋で物語の高揚感が乏しい。 「・・美しいアリアを歌うことではなく朗誦風に語ること、それもただの語りではなく「劇的語り」を歌手に要求する・・」。 「・・声域をまったく顧みないほどに音域が拡大し・・、とりわけ感情の高まりが並外れた音の跳躍となってあらわれる・・」。 岡田安樹浩も書いていたけど4作目は淡々と流れると演奏と歌唱の中で劇的世界を引き寄せるしかない。 ところで楽団員が黒シャツで統一されていた。 カッコよかったわ。 演奏もし易いと思う。 でも「暗殺のオペラ」を思い出してしまった。 *NNTTオペラ2017シーズン作品 *新国立劇場開場20周年記念公演 *作品サイト、 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/gotterdammerung/

■お國と五平

■作:谷崎潤一郎,演出:伊藤全記,出演:山口真由,中山茉莉,加藤好昭,劇団:7度 ■サブテレニアン,2017.10.5-7 ■幽霊になった友之丞が過去を語る劇中劇の構造です。 夫の敵討の為お國は従者五平を引き連れて友之丞を追う・・。 友之丞の髑髏が吊るされていて緊張感溢れる舞台でした。 お國と五平の対話で成り立つ物語前半は敵役友之丞が二人の科白を担当する。 でも二人を演ずるのは別の役者です。 二人は下着姿で無言でゆっくりと歩き絡み合う。 ときどき友之丞と斉唱のように台詞を喋ります。 後半、二人が友之丞と対面してからは三人の科白に戻ります。 五平が友之丞を切り殺す場面はありますが前半と同じゆっくりとした動作で事が続いていく。 そして友之丞が劇中劇の外に出て心情を語り美空ひばりの歌を聴きながら終幕となります。 芝居回数の多い作品と聞いています。 友之丞のお國への複雑さの有る一途な想いが観客の心を揺さ振るからでしょう。 友之丞が幽霊になっても再びこの世に出てきたい、そして語りたいのが痛いほど分かります。 *板橋ビューネ2017「生活者の表現を取り戻せ」参加作品 *劇場、 https://itabashi-buhne.jimdo.com/archive-1/2017-archive/

■極付印度伝マハーバーラタ戦記

■脚本:青木豪,演出:宮城聰,出演:尾上菊之助,尾上松也,中村時蔵,中村七之助ほか ■歌舞伎座,2017.10.1-25 ■漫画や童話も悪くはないが、インドの壮大な物語は新作歌舞伎にバッチリ合うはずである。 ということで急遽チケットを購入した。 神々の子供を人間が生む神婚説話は多々あるがこの作品も半神半人が活躍する。 軍神帝釈天から生まれたアルジュラ(阿龍樹雷)と太陽神の子カルナ(迦楼奈)の戦争と平和を描く物語である。 好戦のアルジェラと非戦のカルナというところか。 しかし二人の立場は微妙に変化していく。 この変化こそが現代政治を思い返す要になる。 大詰で二人は道を踏み外し戦争になってしまうが最後には平和への道を探し出す。 これをみて神々は地上の支配を人間に任せようとする。 舞台美術や衣装はインド風、演奏にはパーカッションを取り入れているが日本の伝統衣装や音楽と巧く融合している。 「ベン・ハー」もどきの戦車も登場するが歌舞伎は何を取り込んでも消化できるらしい。 もちろん関係者にパワーがないと出来ないが。 三幕物だが多くの場では修飾や寄り道が満載なので飽きさせない。 特に二幕はドルハタビ姫の婿選び、ユリシュラ王子のサイコロ賭博、魔物シキンビの登場など遊び心が一杯だ。 カルナが手に入れた最強武器シャクティは核兵器のようなものかもしれないと考えてしまった。 後で使う場面があったが「スター・ウォーズ」のライトセーバーだった!? 神々の登場で始まり退出で終わる世界三大叙事詩の豊かさが溢れている舞台である。 そして裏には観客に現代政治を考え続けさせる厳しさも持っていた。 *2017年第72回文化庁芸術祭参加公演 *日印友好交流年記念 *作品サイト、 http://www.kabuki-bito.jp/mahabharata/

■壁蝨

■作・演出:加藤拓也,出演:劇団た組,歌・演奏:橋詰遼 ■シアタートラム,2017.9.29-10.1 ■タイトルが読めなかったので調べると「ダニ」だに。 初めて観る劇団なのでウキウキしました。 30才前後の男性客が多い。 でも劇場に縁が薄い客層の為か少し不安です。 幕が開いて細かいリズミカルな動きと科白で作品に慣れを感じました。 観ていながら柴幸男・藤田貴大の舞台が一瞬過ぎる。 繊細感が似ているからでしょう。 しだいに母と娘の家族史らしいことが分かってきます。 娘は学校で虐められている。 性と結婚の話がとても多い。 いつしか娘は結婚し一人娘を産みます。 その子供が成長し学校で友人を虐めてしまう。 終幕、母の死を通して娘は子供に母から受けた同じ愛情を注ぐことに決める。 そして人生が世代回転していく・・。 表面はPOP調で明るく裏は歌謡曲調で濃影の有るホームドラマです。 橋詰遼のギターと歌が人生の虚しさを語ります。 母娘物語なのでチラシを見直すと男性演出家でした。 人生を上手に要約していますが発酵させればもっと熟成するはずです。 客層のことですが観終わって考えました。 今時の30才前後の男性は女性の一生がどういうものなのか知りたがっている。 母と一人娘の家族構成が多くなっていることもあるのでしょう。 役者ファンが居るようにはみえなかった。 ところでダニとヒトが似ているような話もあったが良いタイトルにはみえません。 *劇団サイト、 https://takumi.themedia.jp/posts/archives/2017/06