■歯車

■原作:芥川龍之介,構成・演出:多田淳之介,劇団:SPAC
■静岡芸術劇場,2018.11.22-12.15
■舞台床が鋭い角度で谷のように中央へ落ちている。 山の手に立った役者は客席から見上げるようだ。 急な床を昇り降りして観客席まで侵入してくる役者は力強いが緊張と不安も連れてくる。 まるでA・ヒッチコックのサスペンス映画の舞台だ。 原作字幕を表示したり役者が台本を持って朗読劇にする場面もある。 音楽と照明も切れ味が良い。 先ずは芥川龍之介より新感覚派の横光利一を思い出してしまった。
「歯車」は読んだかどうかも覚えていない。 この数十年芥川といえば芥川賞しか馴染みがない。 字幕をみて彼の自殺前の数日はこんなにも壮絶だったのか驚いてしまった。 作家カフカや美術展開催中の画家ムンクなど精神疾患系芸術家は医学系からの批評が多かったが近頃はそうではない。 疾患や芸術の見方が変化したからだろう。
これだけ元気のよい舞台にできたのは演出家多田淳之介のキラリ力もある。 芥川龍之介の不安も吹き飛ばしてしまったところもあるが・・。 その原動力を彼は「中高生鑑賞事業公演にある」と言っている。 でも中高生の頃から芝居三昧だと人生堕落の一途を辿ることになる。 それはともかく当分は海馬に残る舞台の一つになるとおもう。
*SPAC秋春シーズン2018作品
*CoRichhttps://stage.corich.jp/stage/95129