■ヤコブの井戸  ■長崎の聖母

□ヤコブの井戸
■作:ディートハルト・レオポルド,演出・出演:清水寛二,出演:殿田謙吉,小笠原弘晃,みょんふぁ他,能団:銕仙会
■座高円寺,2021.8.4-8
■場内には能舞台が作られています。 橋掛もあり、鏡板にはアクション・ペインティング風の絵が描かれ、針金で吊った4本の柱は傾いている。 前衛能舞台と言ってよい。 スカッとしていて気に入りました。
・・旅する師弟らしきユダヤ人が井戸の前にやってくる。 ワキツレは自分のことを<僕>と言う。 でも違和感がない。 そこへパレスチナの老婆が登場し身上を語りだす。 ユダヤの男と水を分かち合ったこと、子供たちを戦争で失ったことなどを話して立ち去る。 ここで猫が登場するが二千年も生きているアイのようです。 猫の話から、女が水を与えた男はイエスだったのかもしれない!? 物語が俄然輝きだします。 後場に入り、女は若いサマリア人となって登場する。 女は数千年に続く宗教と民族の争いを嘆き踊る。 すると井戸から水が湧きだし、女はユダヤ人と水を分かち合ってから去っていく・・。
久しぶりに感動しました。 舞・謡・囃子が一つにまとまり迫ってきたからです。 能がもつ劇的さでしょう。 新作能とあったがとても練られていた。 イエスは登場しませんが、この名前を感じることで物語の時空が深まったと思います。
佐藤信と清水寛二のアフタートークを聞くことにしました。 この作品はワルシャワ・ウィーン・パリで公演を行い、ペルシア女の能面は新しく作った等々。 能では演出と演技は同時進行する、演出家は非難されたときに責任を負う為にいる、能と違って現代演劇は帰る家がない、観世榮夫は能の一部を切り取って出演するのを嫌がった等々。 以上がトークの内容です。
□長崎の聖母
■作:多田富雄,演出・出演:清水寛二,出演:大日向寛,小笠原由,歌唱:波多野睦美,能団:銕仙会
■座高円寺・WEB,2021.8.7-(座高円寺,2021.8.7収録)
■公演日時の都合がつかずWEB配信で観ることにしました。 ・・巡礼者が長崎浦上天主堂を訪れ、そこで老女に出会う。 女は1945年8月9日の被爆の有り様を語り去っていく。 そこで巡礼者はアイ役の修道僧と祈りをささげる。 すると聖歌が聴こえるなか女が現れる。 女は聖母マリアなのか? 女は平和と救済を祈り舞う・・。
メッセージの強い作品です。 聖歌が4回歌われるがこれが素晴らしい。 能と見事に融和していました。 舞台床が煙に覆われ、4本の柱の根本が燃えているようにみえる照明も雰囲気を出していた。
今回の2作品はパレスチナ紛争と長崎原爆投下を題材にしていたが、反戦平和のメッセージが能舞台を壊さず直截に発信されていた。 能構造に現代を取り込むことにも違和感がなかった。 見応えがありました。