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■サイレンス

■原作:川端康成,作曲.台本.指揮:アレクサンドル.デスプラ,美術.照明:エリック.ソワイエ,衣装:ピエルパオロ.ピッチョーリ,台本.演出.ソルレイ,出演:ジュディット.ファー,ロマン.ボクレー,ロラン.ストケール,演奏:アンサンブル.ルシリン ■神奈川県立音楽堂,2020.1.25 ■白い床に箱が数個置いてある極めてシンプルな舞台、その後ろに10人ほどの楽団員が一列に座っている。 川端康成の短編「無言」が原作よ。 作家大宮明房の娘富子がソプラノ、大宮の弟子三田がバリトン、語りの男が加わり3人で演じられていく。 静かに進行するストーリーはサスペンス性が感じられる。 音楽や歌唱がそれを印象的に強める。 原作を五感に響かせたような舞台に、忘れていた川端康成が形を変えて戻ってきたようだわ。 オペラ的演劇といえるわね。 背景の映像ではトンネルを通過する場面は良かった。 でも人間を映し出すのは強すぎて舞台の雰囲気を壊してしまった。 科白(ここでは歌唱)で十分に分かる。 それと「母の読める」場面を語りの男が台詞で押し通したのはしょうがないのかな? できれば歌唱で聴きたかった。 舞台が面白かったのでアフタトークを聞くことにする。 出席はデスプラ、ソルレイ、司会、通訳。 (括弧内は私の感想)。 デスプラ:昔は柔道や合気道、茶道をやっていた。(スゲッ!) 楽団衣装は雅楽を取り入れた。 (ほぅ!) 川端は映画も作っている、例えば「狂つた一頁」。 (この作品名が出るとはさすがデスプラ!) 武満徹がドビッシーを取り入れたように今回の作曲も意識してそうした。 (やっぱ、ドビッシーね) ロダン作品の「手」を見つめている川端の姿を覚えている。 (大宮の指の動き・・) ソルレイ:三田は三島由紀夫ではないのか? (そう思った!?) ベッドは観客から背を向けさせた。 (これは良かった、しかも頭髪だけが) 司会:言葉は意味を持っているが一つ一つの音の集合である。 (ソシュールなど言語学との関連をトークで触れなかったのは残念!) (司会者は川端康成の熱烈ファンに見えたが途中で鎌倉文学館館長だと知る) 鎌倉にはトンネルも火葬場もある。 (鎌倉が溢れ出ていて、スゴッ!) 以上。 アーフタトークも楽しかったわよ。 *音楽堂開館65周年記念作品 *川端康成生誕120周年記...

■バレエの王子になる! 世界最高峰、ロシア・バレエ学校の青春

■制作:NHK,語り:原田美枝子 ■NHK,2019.9.7 ■昨年に録画したのを観たのですが納得のドキュメンタリー番組でした。 ワガノア・バレエ・アカデミー男子生徒の数名にフォーカスをあて、練習風景や寮生活を映しながら国家試験、就職試験、卒業公演に迫っていく。 校長は元ボリショイバレエ団ソリスト、ニコライ・ツィスカリーゼ。 「気品あるオーラと堂々とした表現で観客には光輝く泡しかみせてはいけない」。 校長の言葉ですがその通りですね。 すべての舞台芸術に言える。 劇場に光輝く泡を観に行くのです。 ダンサーの国家試験があるとは流石ロシアです。 プロを育成するシステムが出来ている。 12の試験プログラムを熟さなければならない。 そして就職試験へ・・、幾つかのバレエ団のオーディションを受けます。 学校の成績は略関係ない。 生徒の一人は国立モスクワ音楽劇場を落ちてしまった。 即戦力も求められます。 校長は言う、「パリオペラ座、ボリショイ、マリンスキーの3つだけ! これ以外のバレエ団への就職は裏街道の人生だ!」。 厳しい。 多くの生徒はマリンスキーを目指します。 卒業公演はマリンスキー劇場で4日間かけて行う。 成績上位のダンサーが主役を務めるのはどこも同じですね。 そして目出度く卒業です。 学校生徒は10歳から18歳の全400名弱。 卒業までに半分以上は脱落するそうです。 この2月末に東京で「世界名門バレエ学校の饗宴」が開催されます。 ニコライ・ツィスカリーゼ校長も来日してクラスを公開するらしい。 楽しみですね。 *NHKサイト、 https://www4.nhk.or.jp/P6071/

■シネマトダンスー3つの小品  ■Farben

■彩の国さいたま芸術劇場.大ホール,2020.1.17-19 □シネマトダンス-3つの小品 ■演出:金森穣,衣装:堂本教子,映像:遠藤龍,出演:Noism1,井関佐和子,山田勇気,金森穣 ■小品の3つは「クロノスカイロス1」「夏の名残のバラ」「FratresⅡ」。 どれも舞台にカメラを載せてリアルタイムで背景に映写する方法を取る。 「クロノスカイロス」はアスリートたち?が走り回り立ち止まり踊る、スピード感のある舞台だ。 タイトルからみて時間と時刻を表現しているらしい。 音楽がバッハだったがダンスに合っていない。 無機質な音楽を使っても面白いとおもうが。 リアルタイムでダンサーの走り回る姿をデジタル時計と共に背景に映し出していた。 「夏の名残のバラ」はカメラマン山田勇気がダンサー井関佐和子について回りデュオとして踊る場面もある。 踊る時はカメラを床に置く。 カメラ動作が密着していて新鮮だった。 この作品は井関が地下の化粧室にいる場面から映し始める。 「中国人の不思議な役人」「マッチ売りの話」のポスターや古びた胴体だけのマネキンも写し出され寺山修司の世界に入り込んだような映像に感激してしまった。 タイトルの歌詞もなかなか良い。 「Fratres」は金森穣のソロだが背景にもう一人のダンサーの影が写り同じ動作をする。 激しい動きもあるが僧が修行をしているようだ。 影が彼の分身にもみえて哲学的宗教的な雰囲気が感じられる。 「映像の力を借りるのではなく、映像の力と拮抗すること」(金森譲)。 観ている時は舞台の流れに身を任せるが彼の映像はとても凝っているのが分かる。 後者2作品は映像と舞台はまさに拮抗をしていて切り離せない。 □Farben ■演出:森優貴,衣装:堂本教子,出演:Noisum1,井関佐和子 ■森優貴は「 NHKバレエの饗宴2017 」に登場している。 暗さのある舞台、動きのある振付になっている。 12名のダンサーは群になり体を捻じれさせ苦しみ悶えているようにみえる。 彼の舞台は文学舞踊劇と言われているがナルホド面白い名称だ。 衣装はモノトーンで上白下黒、小道具の机も黒、そこに花瓶の花束や鉢植えの木葉などを置く。 しかし花や木をみると戸惑ってしまう。 ダンスが瞬断され意味を追ってしまうからだ。 鞄から旅も意識する。 ストーリーも感じられるが身体...

■コンチェルト  ■エニグマ・ヴァリエーション  ■ライモンダ第3幕

■TOHOシネマズ日本橋,2020.1.17-23(コヴェント.ガーデン,2019.11.5収録) □コンチェルト ■振付:ケネス.マクミラン,音楽:ドミトリー.ショスタコーヴィッチ,ピアノ:ケイト.シップウェイ,出演:アナ=ローズ.オサリヴァン他 ■ソビエトを感じさせるショスタコーヴィッチの音楽にストーリーのないマクミランの振付が何故かロシア小説の風景や軍隊などを思い出させてくれる。 抽象バレエだがどこかモダン・バレエを感じる。 20世紀中頃の振付の混沌が表れているようね。 隠れたドラマチックのためミニマルの陶酔感はやってこない。 □エニグマ・ヴァリエーション ■振付:フレデリック.アシュトン,音楽:エドワード.エルガー,出演:クリストファー.サウンダース他 ■作曲家エルガーが仕事の吉報を待つという変わったストーリーで、ビクトリア朝後期の彼の家族と友人たちが当時の生活衣装で登場するの。 激しい動きより静かな振付の方が当時の日常生活を持ってきてくれる。 イギリス人なら古き時代を思い出しながら観たはずよ。 □ライモンダ第3章 ■振付:ルドルフ.ヌレエフ,音楽:アレクサンドル.グラズノフ,指揮:パーヴェル.ソロキン,出演:ナタリア.オシポワ,ワディム.ムンタギロフ他 ■ハンガリー民族舞踊とロシア・バレエが混在している面白い舞台だわ。 中途半端にみえたのは、いきなり第3幕のライモンダ・パ・ドゥ・トゥに入っていく流れだから? 振付に丸みを感じたのは民族衣装が原因かな? これがダンサーの動きを均一にさせた。 ナタリア・オシポワもどこにいるのか分からないような舞台だった。 細かいことは兎も角、違いが目立つ3作品を一度に観ることができて楽しかったわよ。 *ROHロイヤルオペラハウス シネマシーズン2019 *映画comサイト、 https://eiga.com/movie/91700/

■雉はじめて鳴く

■作:横山拓也,演出:眞鍋卓嗣,出演:若井なおみ,深堀啓太朗,保亜美ほか ■俳優座,2020.1.10-19 ■高等学校を舞台にした小説や芝居は面白い。 誰もが通過してきた場所だから思い出しながら観てしまった。 登場人物の性格や繋がりを上手く表現した科白の面白さで引き込まれてしまう。 思わずゥフッゥフッと笑いが漏れてしまう箇所も多くある。 女性教師マユと男子生徒ケンの関係を謎にしている舞台だ。 それは師弟関係、恋人関係、カウンセラー&クライアント関係等々あるが・・。 ケンは悩んでいるらしい。 それが家族崩壊だと分かってくる。  それにしても高校教師は大変な仕事だと今更ながら思ってしまった。 学校組織の外に問題の要因がある場合に教師はどのように行動し解決していくのか? その前に<問題は個人で抱えるな!>はどの組織でも言える。 教師マユは男子生徒との関係をどの時点で個人から切り離し組織へ渡せばよかったのか? 舞台を観ながら考えてしまった。 スクールカウンセラーも答えられない。 しかもこの作品は結末が<芝居的>だ。 教師マユは「自分が責任をとる!」と叫ぶ。 たとえ部下が一人で問題を抱えてしまっても管理者が責任を取るのが組織の存立理由でもある。 校長はそう動こうとしているようで少し安心した。 会社組織のことも考えながら観てしまった。 サッカー部マネジャーが教師へ問う最後の言動は立派、そして教師マユは行動に問題もあるが直向きな人間愛がケンに伝わったのがこの芝居のオチだろう。 それは母性愛の様なものかもしれない。 ということでプログラムを買うことにした。 この芝居もそうだが、ドロドロした人間関係が広がっている生徒の後ろへ片足どころか両足を教師は突っ込むしかない。 「教員の皆様、日々ご苦労様です」と作家も書いている。 タイトルの「雉はじめて鳴く」はケンの母への反抗を指していると見たが、教師との関係が新しい段階に入った意味もあるようだ。 終幕の車椅子の女とそれを引く男が誰だったのかは書いてなかった。 *劇団俳優座第340回公演 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/104053

■鶴かもしれない2020

■作・演出・美術・出演:小沢道成,音楽:岡田太郎,舞台監督:竹井祐樹,照明:南香織,衣装:藤谷香子,ヘアメイク:笹川ともか ■下北沢駅前劇場,2020.1.9-13 ■タイトル末尾の年号は再演の印らしい。 近頃よく見かけますね。 演出家も検討を重ねてきたのでしょう。 良くまとまっている舞台でした。 一人舞台の女主人公である相手はラジカセ?から喋り続ける男です。 途中で役が入替り男が演じ女がラジカセになり、話が佳境に入ると一人二役にもなる。 しかもラジカセの声も二役でト書を兼ねている。 そのト書も二つに分かれ状況説明と物語「鶴の恩返し」を朗読していく。 これらが綿密に組み立てられていてスキがありません。 「鶴の恩返し」を聞きながら、現代の男女の出会いと生活を重ね合わせていくストーリーです。 二人の生活風景は貧しい。 (男が)安易にカネを求める惰性。 (女が)肉体を削ってカネを得る限界。 この惰性と限界が結び合って起こる現代の悲劇を描いている。 でも女は男にそこまで恩返しをしなければいけないのか? <恩返し>の相手を広げることが現代では必要なのでしょう、・・女はそうしたが初めの一歩で別の道を選択しましたね。 途中、衣装を散らかしダンスに近い激しい動きや照明が舞台を豊かにしていました。 ところでラジカセから聞こえる男の喋り方が無垢なのは演出でしょうか? <恩返し>つまり約束や愛がボヤケてしまった一因にみえます。 *TPAMフリンジ参加作品 *CoRichサイト、 https://stage.corich.jp/stage/104143

■廓文章 吉田屋

■出演:片岡仁左衛門,坂東玉三郎,坂東巳之助,大谷桂三,澤村由次郎,片岡秀太郎,片岡我當 ■東劇,2020.1.3-(歌舞伎座,2009.4収録) ■伊左衛門の振付や発声が微妙で複雑さを持っている。 上方歌舞伎独特の動きや台詞の為でしょうか? 太夫の語りが多いのでそれはマイムのようにみえる。 科白も分からない箇所が結構ありました。 でも観ればみるほど味が出てくる作品のようです。 片岡仁左衛門のインタビューが入っていました。 上方歌舞伎の維持活動、東京公演での難しさ等々の話から作品周辺の状況も分かります。 文字の入った紫衣装が映えていた伊左衛門でしたが、後で調べたら「夕霧からの恋文を繋ぎ合わせた紙衣」だったとは複雑な驚きです。 彼の貧しさ如何わしさ切なさが見えるようで見えない。 複雑な驚きは未だ沢山ありそうですね。 太鼓持豊作が二人の仲に入り舞台を活性化させていたのも面白い。 次回は違う役者で観てみたいですね。 *シネマ歌舞伎第35弾 *シネマ歌舞伎サイト、 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/43/ *「このブログを検索」に入れる語句は、 片岡仁左衛門、 坂東玉三郎

■2019年ライブビューイング・ベスト10

□ ワルキューレ   演出:キース.ウォーナー,歌団:ROHロイヤルオペラハウス □ マーニー   演出:マイケル.メイヤー,歌団:METメトロポリタン歌劇場 □ アドリアーナ・ルクヴルール   演出:デイヴィッド.マクヴィカー,歌団:METメトロポリタン歌劇場 □ リア王   演出:ジョナサン.マンビー,劇団:NTナショナルシアター □ 英国万歳   演出:ジョナサン.マンビー,劇団:NTナショナルシアター □ ピーター・グライムズ   演出:ウィリー.デッカー,歌団:NNTT新国立劇場 □ タウリスのイフィゲニア   演出:スチィーヴン.ワズワース,歌団:METメトロポリタン歌劇場 □ みんな我が子   演出:ジェレミー.ヘレン,劇団:NTナショナルシアター □ イヴの総て   演出:イヴォ.ヴァン.ホーヴェ,劇団:NTナショナルシアター □ くるみ割り人形   演出:熊川哲也,舞団:Kバレエ *並びは上演日順。 当ブログに書かれたライブビューイング(舞台を撮影して映画で上映)から選出。 ライブ以外の録画も含む。 *選出した劇団等に偏りがあるのは全ビューイング鑑賞数が少ない為。 2019年はBOL(ボリショイバレエ),シネマ歌舞伎,ゲキXシネ,宝塚,上記のK-BALLET,MET,NT,ROHなど約10プログラムが対象。

■2019年舞台ベスト10

□ トロンプ・ルイユ   演出:野木萌葱,劇団:パラドックス定数 □ なのはな   演出:倉田淳,劇団:スタジオライフ □ 恐るべき子供たち   演出:白井晃,出演:南沢奈央ほか □ シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!   演出:三浦基,劇団:地点 □ 実験浄瑠璃劇,毛皮のマリー   演出:加納幸和,劇団:花組芝居 □ ジャンxKeitaの隊長退屈男   演出:ジャン・ランベール=ヴィルド,出演:三島景太 □ 怪人二十面相   演出:山口茜,劇団:サファリ・P □ あつい胸さわぎ   演出:横山拓也,劇団:iaku □ 寿歌   演出:宮城聰,劇団:SPAC □ 冒した者   演出:野村眞人,劇団:速度 *並びは上演日順。 当ブログに書かれた作品から選出。 映画(映像)は除く。 *「 2018年舞台ベスト10 」

■タージマハルの衛兵

■作:ラジヴ.ジョセフ,翻訳:小田島創志,演出:小川絵梨子,出演:成河,亀田佳明 ■新国立劇場.小劇場.2019.12.7-23 ■芝居を観たあと、タージマハルについて知らなかったので調べてみる。 ・・美しい墓廟は色が移り変わると言われているらしい。 二人が振り返った場面で舞台照明も虹色にしたら映えたんじゃないかしら? 職人の数2万人は史実で工匠の両手を切断したのは伝え話だったのね。 実は舞台では両手を切断する王の心がよく分からなかった。 工匠が王妃を慕っていたことが理由らしい。 でも台詞に無かったはずよ。 採用したら芝居はぐっと盛り上がったと思う。 それが王の身勝手な行動にみえて「個と全体、優先されるのは・・?」の選択が色あせてしまった。 しかし両手を切断する現場をここまで見せるのか!? ウウッと戻したくなるような凄惨な場面だった。 血の池をみると思考が停止してしまう。 逆に森から受ける自然の深さは感じられた。 二人が子供時代に森の中に小屋をつくっていたけど男の子定番の遊び、作者も作ったはずよ。 またSF的な話をするのも変わっていたわね。 エアロプラットやホワイトホールのような穴のことなどを次から次へと喋り続ける。 別世界を同時に舞台に乗せている。 面白い作者だわ。 ところで衛兵の成河と亀田佳明は力強い演技で切れがあった。 衛兵も兵隊ということね。 *NNTTドラマ2019シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/guards_at_the_taj/

■どん底

■作:マキシム.ゴーリキー,演出:レオニード.アニシモフ,翻訳:遠坂創三,尺八:大内田淳,出演:麻田枝里,安部健,池野上眞理ほか,東京ノーヴイ.レパートリーシアター ■梅若能楽学院会館,2019.12.22 ■2018年上演の「 チェーホフ桜の園より 」が面白かったので再び会館へ足を運んだ。 能に似た変わった芝居だったからである。  舞台には何も置いていない。 地謡座には尺八と太鼓のみ。 衣装から役者は江戸時代の庶民にみえる。 下町長屋の住民という設定らしい。 衣装にはいつも驚かされる。 今回の「どん底」は能より狂言に近い。 狂言を取り入れた現代演劇と言ってよい。 役者は橋掛や切戸口から出入りし、舞台では静止に近い状態で立っている座っている場面が多い。 感情を強く表す時もあるが科白は高揚が少なくゆっくり喋る。 言葉が澄み切って聞こえてくるのが素晴らしい。 また、この定速度の舞台が時として劇的に作用するのが面白い。 これでゴーリキーの言いたいことがはっきりと伝わってくる。 巡礼者ルカが去り<真実>についての議論に花咲かせたあとに役者の自殺で幕になる。 「・・真実は自由人の宗教だ!・・俺たちのような自由に程遠い人間には嘘も大いに必要」。 <真実>は等しく得ることができないが、その材料の一つ<事実>もそうなりつつある。 フェイクの奥深さを考えさせられる作品である。 騒がしい「どん底」はよく観るが、この舞台は静かな「どん底」だった。 騒がしさは内に秘めていた。 能や狂言を取り入れて能舞台で上演する現代演劇は今回も裏切らなかった。 *レパートリー夢の祭典2019作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/102751

■青い鳥

■作:モーリス.メーテルリンク,翻訳:堀口大學,構成.演出:岩澤哲野,出演:大蔵麻月,大橋悠太,緒方壮哉ほか,劇団:libido ■こまばアゴラ劇場,2019.12.19-22 ■子供向け舞台にみえる。 影絵や動物画、積み木のようなダンボールを使った美術、科白や演技のすべてが素直だからです。 「死んだ人を見たことがあるか?」。 子供の冒険の入り口です。 観客席に子供がいないのは勿体ない。 台詞に死という言葉が多い作品ですね。 祖父母などを例に<思い出す>ことは人生で大切な行為だと言っている。 死は思い出の中にある。 死と対にある誕生で前世の話を後から否定しているのは作者も固すぎたと考えたからでしょう。 演出メモに「・・夜の御殿に青い鳥がいた(のかもしれない)」と書いてあるが、いたようにはみえないで終幕になってしまった。 肝心なことを見過ごしたのかもしれない。 コンパクトで締まりがあったが、目玉のないような舞台でした。 *劇場サイト、 http://www.komaba-agora.com/play/8512

■常陸坊海尊 HITACHIBOU KAISON

■作:秋元松代,演出:長塚圭史,音楽:田中知之,出演:白石加代子,中村ゆり,平埜生成,尾上寛之ほか ■神奈川芸術劇場.ホール,2019.12.7-22 ■「源義経の家来常陸坊海尊は「衣川の戦い」で主人を見捨て逃亡し、その後不老不死となり400年以上を生きて源平合戦を人々に語り聞かせた・・」とある。 これだけでもウキウキしてくる。 はたして・・、息をするのも忘れるほどのストーリーだった。 昭和20年、疎開児童たちが海尊の妻と称する御婆と孫娘雪乃の神隠しに遭ってしまう。 それから16年後、児童の一人が神隠しにあった友達に会いに行く・・。 という話である。 海尊がなぜ衣川の戦場で逃げたのか? それは怖かったからだと本人が語る。 拍子抜けの答えだが人として真っ当でもある。 琵琶を弾きながら登場する海尊はどこか神経質だ。 罪より恥を背負っているとでも言おうか。 次に海尊は日本軍兵士になって戦争の醜さを語る。 最初と違う役者だ。 海尊の魂は時代に見合った肉体に乗り移りながら数百年を生きながらえているようだ。 終幕に青年の啓太が海尊になることで分かる。 後半に入り驚きの展開を目にする。 魔性となった美しい雪乃は近づいた男たち、啓太や氏子を次々と餌食にしているのだ。 啓太を訪ねた疎開先の友だった豊も危うく彼女に囚われそうになる。 「高野聖」の世界を思わず浮かべてしまった。 予期せぬ名前、泉鏡花が浮かび混乱してしまった。 海尊とは何者なのか? 4人の海尊が登場したが統一感が無い。 「高野聖」との違いは、<母の性=聖母>は御婆で<女の性=魔性>は雪乃という二人に分かれたことだろう。 疎開友達の啓太と豊は二つの性に遭遇したのだが・・、この話は海尊から外れる。 そして啓太は何故海尊にならなければいけないのか? 腑に落ちるところもあるが、疑問が一杯の舞台だ。 しかし人の業が絡み合ってできている物語だ。 ・・疑問はそのまま持っていることにしよう。 ところで疎開先の子供たちの演技が淡々としていてとても良かった。 それとバスガイドは笑ってしまった。  方言は理解できなくてもどういう訳か分かるのが面白い。 *劇場サイト、 https://www.kaat.jp/d/kaison *「このブログを検索」に入れる語句は、 長塚圭史、 白石加代子

■少女都市からの呼び声

■作:唐十郎,演出:小林七緒,音楽:諏訪創,振付:スズキ拓朗,プロデューサー:流山児祥,出演:山下直哉,原田理央,井村タカオ,山丸莉菜ほか ■SPACE早稲田,2019.12.6-18 ■作品の粗筋はすっかり忘れていた。 でも舞台が始まると記憶より先に懐かしさがやってきたわよ。 「少女仮面」と姉妹のような作品にみえる。 それは氷の帝国へ、そして満州へと繋がっていくから。 そこにガラスの世界がきっとある。 唐十郎が少年期にみた風景が至る所に散らばっている。 しかも舞台は作者世界の荒々しさが出ていた。 演出家にパワーの有るのが分かる。 歌唱や振付は巧過ぎて唐世界から外れてしまっていたけどね。 でも50年の時が混ざり合っている面白さはあった。 田口の指を一本ずつ切り落とす血が妹雪子のガラスの身体に机にベッタリと付いていくのを見ると眩暈がおそってくる。 そしてガラスを擦り付ける金属音はダメ押し! ガラスの子宮と血は交われない。  舞台に緞帳が掛かっていて幕間で繰り広げる寸劇は紙芝居を意識しているはず。 異化効果と次に何が起こるかのドキドキ感を狙っていると思うの。 そして汚れの目立つ地下にある小さなこの劇場が作品に見事合致していたことを付け加えておくわね。 この春に観た「風の又三郎」に違和感があったのは劇場が合わなかったということかな、たぶん。 ということで、今年一番の唐十郎世界に浸れた舞台だった。 楽しかったわよ。 *新進演劇人育成公演俳優部門作品 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/104860

■リタとリコ、セチュアンの善人より

■原案:ベルトルト.ブレヒト,構成.演出.台本:渡辺敬彦,台本協力:守山真利恵,出演:山本実幸,泉陽二,大内智美ほか,劇団:SPAC ■静岡芸術劇場,2019.12.14-22 ■主人公の名前が面白い。 それはリタとリコ、直ぐには由来が分からなかったけど、物語の方向を指し示している。 舞台の上のリタもリコも言葉数が少ない。 科白の間の空白で二人の表裏差が熟され観ているリズムにうまく入り込んでくるの。 少ない科白量と空白が観客に咀嚼されて物語世界が広がっていく。 このリズムが舞台美術と共鳴しているのが素晴らしい。 黒を基調とした少ないモノが科白に結び付いていくから。 男根の鼻を持つリコたち、唯一赤い色のバラをつけるリタの姿は傑作だわ。 リコに変身するコートと帽子も素敵よ。 ビードルズを含め選曲も良し。 「生れてくる赤ん坊のためにリタでいたい」。 リタとリコという対決を越えたリタの心の有様だと思う。 この言葉で観客も対立を解消するその先を確信できる。 浄土宗系の他力本願や悪人正機も考えながら観てしまった。 *「・・利他主義と利己主義からリタとリコを思いついた」(演出家インタビューより) *SPAC秋シーズン2019作品 *劇場サイト、 https://spac.or.jp/au2019-sp2020/rita_and_rico_2019 *「このブログを検索」に入れる語句は、 ブレヒト