■どん底、

■作:マキシム.ゴーリキー,演出:レオニード.アニシモフ,翻訳:遠坂創三,尺八:大内田淳,出演:麻田枝里,安部健,池野上眞理ほか,東京ノーヴイ.レパートリーシアター
■梅若能楽院会館,2019.12.22
■2018年上演の「チェーホフ桜の園より」が面白かったので再び会館へ足を運んだ。 能に似た変わった芝居だったからである。 
舞台には何も置いていない。 地謡座には尺八と太鼓のみ。 衣装から役者は江戸時代の庶民にみえる。 下町長屋の住民という設定らしい。 衣装にはいつも驚かされる。 今回の「どん底」は能より狂言に近い。 狂言を取り入れた現代演劇と言ってよい。
役者は橋掛や切戸口から出入りし、舞台では静止に近い状態で立っている座っている場面が多い。 感情を強く表す時もあるが科白は高揚が少なくゆっくり喋る。 言葉が澄み切って聞こえてくるのが素晴らしい。 また、この定速度の舞台が時として劇的に作用するのが面白い。 これでゴーリキーの言いたいことがはっきりと伝わってくる。 巡礼者ルカが去り<真実>についての議論に花咲かせたあとに役者の自殺で幕になる。 「・・真実は自由人の宗教だ!・・俺たちのような自由に程遠い人間には嘘も大いに必要」。 <真実>は等しく得ることができないが、その材料の一つ<事実>もそうなりつつある。 フェイクの奥深さを考えさせられる作品である。 騒がしい「どん底」はよく観るが、この舞台は静かな「どん底」だった。 騒がしさは内に秘めていた。 能や狂言を取り入れて能舞台で上演する現代演劇は今回も裏切らなかった。
*レパートリー夢の祭典2019作品
*CoRich、https://stage.corich.jp/stage/102751