■冒した者2019

■原作:三好十郎,構成・演出:野村眞人,出演:稲森明日香,井上和也,神田真直ほか,劇団速度
■こまばアゴラ劇場,2019.12.5-8
■床がなんと!粘土でできている。 水や砂は見たことがあるが粘土は初めてだ。 それを床に投げつけるとネチッと貼り付く音がする。 身体に擦り付けると肉体がボロボロと崩れていくようだ。 そして粘土でできた卓袱台は寄りかかると傾き潰れていく・・。
共同炊事、進駐軍、売血、ドル(紙幣)・・、激しく発声する断片化した科白から戦後が落ち着く1950年頃だと分かる。 妻の「あなた!」という夫への言葉が当時の家族風景を呼び寄せる。 息を吸い込み止めている身体も吃音のような発声も粘土の塊のように硬直し科白に同期していく。 これは舞踏的演劇に近い。 錬肉工房や転形劇場の幾つかの場面を思い出してしまった。
「三好十郎を知っているか?」。 今日の舞台で三好十郎がやっと見えた感じだ。 原作は読んだことはないが舞台は何度か観ている。 演出家が言う「オートマティズムへの警鐘」も科白から読み取れる。 それよりも戦後の未だ高度成長を知らない時代の何とも言えない空気感が巧く漂っていた。 粘土をちぎって叩きつけるような科白と身体が劇的さを伴って三好十郎を生き返らせた。
*劇場、http://www.komaba-agora.com/play/8507