■能楽堂九月「箕被」「融」

*国立能楽堂九月普及公演の二舞台□を観る.
□狂言・和泉流・箕被■出演:石田幸雄,野村万作
□能・宝生流・融(酌之舞)■出演:東川光夫,福王和幸,深田博治ほか
■国立能楽堂,2026.9.12
■プレトーク「風雅を窮めて亡霊となる、能の精髄「融」の世界」(林望解説)を聴く。
観阿弥とは異なる、世阿弥が追求した「風雅」という理念を軸に据えた内容で、「古今和歌集」紀貫之の歌から、源融の死後に荒れ果てた六条河原院の姿を読み解く。 また「伊勢物語」では融の優雅な生活を紹介する。 「古事談」(巻一の五)では天皇に推挙されなかった場面を再現、「宇治拾遺物語」は天皇との確執が語られる。 さらに「竹取物語」における<月>の象徴性との共通点、「歌枕名寄」(万治二年刊)に見られる<煙>のイメージの連関など、融をめぐる物語世界を多角的に照射する充実したプレトークであった。
能「融(とおる)」は、前場で荒れ果てた河原院の風景を豊かに味わい、後場では往時の華やかな遊宴が再現される。 全体として淡々と進む構成であるが、だからこそ早舞の場面で一種のカタルシスが訪れるのだろう。 天皇になれなかった融の恨みはほとんど感じられず、むしろ月の都の住人となった存在としての透明な気配が舞台を支配していた。 シテ面は「朝倉尉」から「中将」へ。
狂言「箕被(みかずき)」は都合により夫役が野村万作に交代した。 夫婦の年齢差が生じたものの、野村万作の安定感ある演技によって夫婦の関係性が自然に収まり、作品が持つ連歌のある生活がおもしろく立ち上がっていた。