■海辺のカフカ

■原作:村上春樹,脚本:フランク.ギャラティ,演出:蜷川幸雄,演出補:井上尊品,出演:寺島しのぶ,岡本健一,古畑新之,柿澤勇人ほか
■TBS赤坂ACTシアター,2019.5.21-6.9
■たくさんの物・事そして人が関係しあっていくストーリーは楽しい。 <沢山>を処理するのに場面を細かくし説明的な台詞を積み重ねていく。 次第に関係が繋がってくるが解釈は多義にわたり観客に委ねているようだ。 
影の問題が出てきたところで「ゲド戦記」を思い出してしまった。 求める何かが両作品は似ている。 彼岸の入り口にある石も同じだ。
動物の登場する舞台はよく見かけるが失敗することが多い。 今回は縫いぐるみが良くできていた、タマも付いていたし。 非現実と行き交う境界演劇はリアルではないといけない。 しかし猫殺しのジョニ・ウォーカがなぜ死にたかったのか? 台詞を聞き漏らしてしまった? 彼はカフカの父親(それも裏顔)だと思っていたが、そうではないらしい。 同様に佐伯がカフカの母親だと思いたくなかった。 オイディプス神話からは逃れられない。
ナカタ(木場克己)の喋り方は強い棒読みだった。 もう少し滑らかに喋れば物語世界がリアルに近づいたはずだ。 異化効果も不発にみえる。 これは演出の問題だが。 大島役岡本健一はなかなか良かった。 シェイクスピア作品よりこのような役が合う。 プラトンの男男、男女、女女が半分に引き裂かれる話はこの物語の通奏低音だろう。 しかしヘーゲルは頂けない。
星野(高橋努)も単純で雑音が少なく、さくら(木南晴夏)も発声がしっかりしていて爽やかだった。  二人は村上春樹に合う。 佐伯役を寺島しのぶにしたのは演出家が一番苦労したはずだが、彼女の感情を伴わない笑顔のような泣顔のような顔は謎を隠し通せた。
大道具を大きなガラス箱に入れ、それを動かし場面展開をしていく方法は面白い。 黒子も気にならない。 大切な何者かを沢山詰め込んでいる作品だが人・物・事が上手く収束したとは思えない。 しかしこれで良いのだ、と思う。
*劇場サイト、http://www.tbs.co.jp/act/event/kafka2019/
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