■風をおこした男ー田漢伝

■作.演出:田沁鑫デンシンキン,出演:金世佳キンセイカ,上海戯劇学院
■世田谷パブリックシアター,2018.10.6-7
■舞台後方に6つの立方体を組み半透明幕を被せて体内での演技と外からの映像を同時表現できる構造にしてある。 例えばカメラマンが舞台で役者を撮影しながら上部の幕にパラレル映写をする。 それはモノクロで古い映画を観ているようだ。 役者本人を見ないで拡大された映像をみてしまうことが多い。
1898年生まれの劇作家・詩人である主人公田漢(でんかん)の名前は初めて聞いた。 1916年東京高等師範学校へ留学し6年間を日本で過ごしている。 20世紀前半の中国代表劇作家の一人となったが文化大革命で投獄、1968年に獄死した。
舞台はセミドキュメンタリーのようだ。 20世紀の歴史を田漢の人生に重ね合わせていくからである。 子供時代の思い出や4人の妻との出会い、彼の教え子との親交は深まっていかない。 中国激動の時代を前面に描くしかない演出家の義務のようなものを全体に感じる。
田漢は留学時代に松井須磨子の芝居に惚れ込んだらしい。 彼はロマンチシストにみえる。 自身の科白でもそう言っている。 芝居好きが伝わってくるところに彼を憎めない面白さがある。 劇中劇が途中に入るがその一つ「サロメ」は見応えがあった。 ここは白黒の同時映像ではなく役者身体に目がいってしまった。 
アフタートークを聞くことにする。 出席は演出家田沁鑫、主演の金世佳、評論家七字英輔。 俳優を舞台で撮ることにした理由は? 「俳優の美しさに魅かれた」(田)。 なるほど上海戯劇院の学生らしいが演技も堂々としていて美貌人が揃っている。 金世佳も田漢役に嵌まっていた。 「何人もの劇作家が紹介されたが田漢を選んだ理由は?」(観客)。 「彼はロマンチックで(人生が)ドラマチック、そして詩が素晴らしいから。 トルストイのように女性を描くから。」(田)。 そういえば三番目の妻から「あなたはトルストイ的自信家」と言われる台詞があった(?) 同じく田漢もルソーに傾倒していたようだ。 ・・。
「漁光曲」や「義勇軍行進曲」の20世紀から離れて、田漢の母が好んだ「白蛇伝」が語られ関漢卿が劇中劇で演じられるので中国的時間軸の幅も出ていた。 ・・詰込み感は残るが。 また湖南省の季節描写など歌詞の多くに中国風景の広がりが感じられた。 久しぶりの中国話劇を楽しめた。
*日中平和友好条約締結40周年記念公演
*劇場サイト、https://setagaya-pt.jp/performances/201810denkanden.html