■バグダッド動物園のベンガルタイガー

■作:ラジヴ・ジョセフ,演出:中津留章仁,出演:杉本哲太,風間俊介,安井順平,谷田歩
■新国立劇場・小劇場,2015.12.8-27
■虎の幽霊は初めて? 米軍兵ケヴは仮病なのでは? 物語に入れない状態が続きます。 しかしサダム・フセインの子ウーダイの登場でやっと納得できた。 何故って? 皆が幽霊という状況に慣れてきたのでしょう。
虎が主人公かと見ていたらそうではない。 この虎は神だとか実存だとか言っているが存在感が徐々に薄くなっていくからです。 ケヴも早々幽霊になり虎の仲間入りです。 逆に濃くなっていくのがイラク人通訳ムーサ。 でも彼の悩みがよく分からない。 妹のことでもない。 米軍兵トムを撃った理由を太陽が沈んだからだと言う。 太陽が眩しかった「異邦人」が姿を変えて登場したようにもみえます。
ところでトムもケヴも手を失う。 ハンセン病のイラク人も手が無い。 紛争地帯では身体の一部が欠けても物語を覆すことはない。 トムがイラク人女性の手を借りて自慰をする場面も大袈裟です。
それにしても「神」という言葉が耳に付きます。 死んだ後でこの神と何の話をするのか? 閻魔大王ならわかりますが。 ムーサはこの目の前の光景こそ神が作ったのだと直截に言います。 腹を空かした虎が獲物を待つ場面で幕が下りますが、「神」を自然の摂理と同じような意味合いで使っているようにみえます。 やはり虎もヒトも動物ですから。 漫画のような展開ですが脇道に逸れると現実の暴力が転がっている変わった作品でした。
*劇場サイト、http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_006140.html