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■能楽堂六月「誓願寺」

*国立能楽堂六月特別公演3舞台のうち□1舞台を観る. □能・宝生流・誓願寺(小書:来迎拍子・札之仕形) ■出演:朝倉俊樹,大日方寛,野口能弘ほか ■国立能楽堂,2024.6.29 ■「茶壷」「藤戸」は都合がつかなくて「誓願寺」のみを観る。 これは時宗一遍上人が賦算をしている寺境内に和泉式部の霊が登場し往生を願う話である。 小書きが二つ入る。 「札之仕形(ふだのしかた)」は上人から前シテが念仏札を実際に受け取り、「来迎拍子(らいごうびょうし)」は後シテが足拍子を踏む場面が入る。 舞台ではシテとワキ、シテと地謡の掛け合いが多い。 境内の騒々しさが伝わってくる。 一遍の踊念仏が想像できる。 この作品は面白さがイマイチだ。 時宗の宣伝が強すぎるからである。 和泉式部がこの世に戻った理由も深くは感じられない。 一遍が寺の額を掛け替えるのもよく分からない。 でも新仏教が栄えた13世紀鎌倉時代なら、この舞台は時宗の衝撃的コマーシャルとして民衆に受け入れられただろう。 あの和泉式部も一遍上人にぞっこんなのだから。 *劇場website、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2024/6184/ *追記・・舞踏家中嶋夏の訃報を新聞で知った。 最後に観た舞台は「もうひとつの共和国」(2009年1月)だった。 調べると「 和栗由紀夫、魂の旅 」(2018年4月)の主催者にもなっていた。 いま彼女の舞台を思い返す・・。

■デカローグ9・10

■原作:クシシュトフ・キェシロフスキ他,翻訳:久山宏一,上演台本:須貝英,演出:小川絵梨子,出演:伊達暁,万里紗,宮崎秋人,堅山隼太,石母田史郎,亀田佳明ほか ■新国立劇場・小劇場,2024.6.22-7.15 ■「デカローグ9」は妻の不倫を夫が悩む話、「デカローグ10」は父の遺産を子供たちが失う話です。 前者は妻の心の内を途中で見失ってしまった。 10話を振り返ると、このようなことはよくあった。 これを謎として受け取りたいが、今回は謎にしてくれない。 謎はドキドキする。 いま「十戒」の言葉をあらためて眺めているが、ドキドキしない理由は「十戒」にも原因がありそうです。 10話は西欧キリスト教的社会が持っている硬直性を描いたのかもしれない。 しかも、舞台が身をもってそれを提示したのです。 *劇場website、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog-de/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、小川絵梨子 ・・ 検索結果は22舞台 .

■デカローグ7・8

■原作:クシシュトフ・キェシロフスキ他,翻訳:久山宏一,上演台本:須貝英,演出:上村聡史,出演:吉田美月喜,章平,津田真澄,高田聖子,岡本玲,大瀧寛ほか ■新国立劇場・小劇場,2024.6.22-7.15 ■聴こえてくるピアノ演奏も、流れていく舞台のテンポも、そしてフェードアウトの場面切替も、すべてに映画を感じます。 「デカローグ7」は母と娘の確執を描きます。 娘の産んだ子供を娘の母が離さない。 母の行動に戸惑ってしまう。 十戒を背負った家族関係と見慣れている家族との違いでしょうか? この戸惑いは今も続いています。 「デカローグ8」はポーランドの過去を出現させます。 1943年のワルシャワへ下降していく。 そして再び現代へ上昇しながら鎮魂へと向かう。 ポーランド映画も考えてしまった。 アンジェイ・ワイダからロマン・ポランスキーへ、そして原作者へ。 デカローグの中では印象に残る作品でした。 *劇場website、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog-de/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、上村聡史 ・・ 検索結果は8舞台 .

■ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇

■監督:ヤン・レノレ,出演:ジャン=ポール・ゴルチエ,マドンナ,カトリーヌ・ドヌーブ他 ■配信,(フランス,2018年作) ■1年前の2023年6月に東急シアターオーブで上演されたランウェイ・ミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」の作成過程を撮影したドキュメンタリー映画です。 残念ながらこの舞台は観ていません。 ゴルチエのゴッツイ感じのファッションに興味が湧かなかった為もあります。 「ファッション・フリーク・ショー」はゴルチエの半生を描いている。 舞台ではゴルチエ役の俳優が子供から大人に成るまで何人も登場する(らしい)。 当ドキュメンタリーの進行役はゴルチエ自身が担当している。 構造は劇中劇と言ってもよい。 これが映画を面白くしている。 「ランウェイ・ミュージカル」とはファッション・ショーの間に歌や踊りを挿入する舞台を言います。 彼のコレクションは舞台によく似合うと思う。 これに彼の激動?の半生を被せるので結構盛り上がるはずです。 でも初日が終わったスタッフの感想は納得できなかった。 彼の半生を描く場面群が断片化され物語の繋がりが弱まってしまったのでしょう、想像ですが。 今となっては<フリーク>が演じられた舞台を観ることができない。 でも完璧主義者ゴルチエの姿を拝見できたのは嬉しい。 *映画com、 https://eiga.com/movie/99194/

■白き山

■脚本:古川健,演出:日澤雄介,出演:緒方晋,浅井伸治,西尾友樹ほか,劇団チョコレートケーキ ■下北沢・駅前劇場,2024.6.6-16 ■敗戦直後、郷里山形での歌人斎藤茂吉の晩年を描いた舞台です。 ・・茂吉の創作活動は衰えていた。 戦争の高揚感が失われた為もある。 戦争支持を謡った茂吉の短歌は息子宗吉から観念的だと指摘されるが今も信念を曲げようとはしない。 「戦争協力はやむを得なかった」と逃げ台詞も吐く。 ある日、茂吉は家政婦に気に入った歌は何か?と質問したが、短歌集「死にたまふ母」と聞いて満足する。 しかし家政婦はこの戦争で息子を亡くしていた。 これを聞いて茂吉は戦争協力歌が腐りきっていたことを認め目覚める。 彼は心を新たにして最上川を謡い始める・・。  物語に引きこまれていく力が舞台にありました。 カーテンコールでの観客の拍手も力強かった。 ベクトルが強い劇団で頼もしい。 帰宅後に茂吉本人、息子の茂太と宗吉、妻輝子や山口茂吉などを少し調べてみました。 そして再び舞台場面を思い出してみる。 背景の蔵王連峰が眩しかったですね。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/314600 *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、日澤雄介 ・・ 検索結果は11舞台 .

■消しゴム山

■作・演出:岡田利規,セノグラフィー:金氏撤兵,劇団:チェルフィッチュ ■世田谷パブリックシアター,2024.6.7-9 ■舞台上にオブジェらしきモノが一杯置いてある。 テニスボールや洗剤ボトル、猫看板?、土管や木枠も・・、その奥にあるコンクリートミキサーの回転音が場内に響いている。 役者5人はオブジェを動かしたりするので科白が少ない。 しかも喋る時はコード付きマイクを使います。 この為いつもの身体動作が使えない。 雨具に着替えたりもする。 モノの間を歩くので演技が散漫にみえます。 後半、マイクは使わないがモノをいじったり動かしたりすることが多くなっていく。 話題にするのは洗濯機の故障、タイムマシン、未来人の移民のこと、また詩の朗読も入る。 「津波被害を防ぐ高台の造成工事は驚異的な速度で風景を人工的に作り変え・・」そこから「人間的尺度を疑う作品を作る・・」。 作者の挨拶文です。 洗濯機が故障すると分解され名無しのモノモノに近づく。 防波堤と住民生活の齟齬も語っていたが、巨大な防波堤が生活を圧迫する感覚はモノ不安そのものです。 でも、これらモノモノが舞台上のオブジェに繋がっていかない。 それは、オブジェが舞台に上がると美術を装ってしまうからでしょう。 舞台美術になってしまった。 故障した洗濯機や防波堤とは少し違う。 モノ主役の舞台を長時間も観続けるのはシンドイですね。 かなり疲れました。 いや、この疲労こそ人間的尺度を疑う舞台に接したときの体感なのか? ところで母子の客が目につきました。 小学生低学年が多い。 舞台を解放すれば子供たちは喜ぶでしょう。 *劇場website、 https://setagaya-pt.jp/stage/17416/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、岡田利規 ・・ 検索結果は14舞台 .

■能楽堂六月「ぬけから」「放下僧」

*国立能楽堂六月普及公演の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・ぬけから■出演:井上松次郎,鹿島俊裕 □能・喜多流・放下僧■出演:大村定,大島輝久,則久英志ほか ■国立能楽堂,2024.6.8 ■プレトーク「放下僧、禅と仇討ち 芸尽くし」(三浦裕子)は放下の全体像を描く。 放下僧とは? 禅宗との関係(団扇、弓矢の謂れ)、世阿弥との関係(自然居士、花月等)、放下の装い、放下の芸(鞨鼓、小歌、こきりこ)、そして仇の正当化、京都「揉まるる」物尽くしを解説する。 「ぬけから」は酒を呑み過ぎた太郎冠者が主人の命を忘れてしまう話。 吞みっぷりがいい。 なんと、太郎冠者の顔が次第に赤くなってきたようにみえた!? 「放下僧(ほうかぞう)」は父の仇討ちをする牧野小次郎とその兄の話。 緊張感ある舞台だ。 弓矢の謂れ「浄穢不二(じょうえふに)」、宗旨の答え「教外別伝(きょうげべつでん)」の場では血気に逸る弟を止める兄の姿、利根信俊や従者の対応など緊迫度は120%。 シテを中心に張りつめた演技がヒシヒシと伝わってくる。 囃子の演奏も聴こえてこない程になる。 後半の芸尽くしも楽しい。 *劇場website、 ぬけから・放下僧

■Medicine メディスン

■作:エンダ・ウォルシュ,演出:白井晃,出演:田中圭,奈緒,富山えり子,ドラム奏者:新井康太 ■シアタートラム,2024.5.6-6.9 ■タイトルから医療関係の話と分かる。 精神科での演劇療法は聞いたことがある。 それに近い? でも混乱しました。 登場人物3人は何者なのか? パジャマ姿の男性は患者で他の二人は医療従事者にみえます。 患者が役者になり自身の過去を演じ精神の解放を目指す治療方法かもしれない。 でも患者は雁字搦めですね。 自分の過去さえ脱線が許されない。 彼は精神を病んでいるのか? 最初に戻るが、やはり医療の話なのか? 「1984年」の類似作品かもしれない。 終幕、過去に出会った近所の女性に患者は癒される。 劇中劇では医療従事者の女性役者です。 彼女は恋人には見えない。 彼の理想の母か? むしろ聖母のような位置づけでしょう。 この劇的な出会いは突然だが平凡な結果にみえる。 ストーリーが深みへ進まず、彼の心に何も堆積されていかなかったからです。 しかし治療からみると謎が残る。 この終幕も治療の一環なのか? つまり、治療は成功したのか? いや、この出会いは治療外のことなのか? そして、なによりも劇中劇から抜け出したのか? ・・? 二人の医療従事者は、変装あり歌ありダンスありの芸達者です。 動きも機敏です。 マイクとスピーカを使い歌唱は録音、科白もリアルと録音を混ぜて複雑な構造になっている。 ドラムも出しゃばらずに巧い演奏をしていた。 わからない事が一杯の舞台でしたね。 帰りにプログラムを買おうとしたが止めました。 作者や演出家の話で情報量を増しても楽しくない。 素直な驚きを何も加えずに持ち続けるのが良いでしょう。 作者は謎や混乱を上手く使いますね。 演出家もこれを巧みに装飾していました。 二人の相性は抜群だとおもいます。 ところで観客の9割以上が女性でした。 贔屓筋でしょうか? *劇場website、 Medicine メディスン *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、白井晃 ・・ 検索結果は18舞台 .

■能楽堂六月「地蔵舞」「水無月祓」

*国立能楽堂六月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・地蔵舞■出演:山本東次郎,山本凛太郎ほか □能・古本による・水無月祓■出演:浅井文義,大日方寛,山本則秀ほか ■国立能楽堂,2024.6.4 ■「地蔵舞(じぞうまい)」は、旅僧が頓智を利かして宿に入り主人と酒を飲み舞を舞う。 後半、酒を飲み交わす所からが楽しい。 地蔵舞は初めて観たが歌詞も舞も面白い。 「水無月祓(みなづきばらえ)」は先日に観た「加茂物狂」と似ている話で混乱する。 男女の別れ場面、見知らぬ男同士の上京など写実的な流れが続く。 早い中入、また物着や中ノ舞もあり全体構成が変化に富んでいる。 囃子・謡に緊張感が出ていた。 シテの声も通っていた。 しかし男女関係が現実的なためか物狂いとしての舞いが豊にみえない。 能としての不思議世界が現れなかった。 シテ面は「孫壱(まごいち)」。 *劇場website、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2024/6180.html?lan=j

■つばめ

■作曲:G・プッチーニ,指揮:スペランツァ・スカップッチ,演出:ニコラ・ジョエル,出演:エンジェル・ブルー,ジョナサン・テテルマン,エミリー・ポゴレルツ他 ■東劇,2024.6.1-6(メトロポリタン歌劇場,2024.4.20収録) ■初めて観る作品なの。 期待を持って映画館へ向かう。 舞台は19世紀末の分離派ウィーンを感じる、衣装もね。 でも1920年代のパリらしい。 場面はサロンからカフェ、そして避暑地へと移る。 歌唱を心地よく聴くためのストーリー構造だわ。 ドラマを隠しているからよ。 裏は非日常だが表は日常を、それも疑似的に描いているの。 匿名じみた人物たちはどこか不安が漂っている。 歌詞・歌唱も「愛」の表面をなぞっていくだけ。 でもプルニエとリゼットの一時の笑いがそれを和ませてくれた。 指揮者のインタビューで謎が解ける。 ウィーンからのオペレッタ依頼に変更を加え、第一次大戦さなかの1917年に完成した作品らしい。 「ドビュッシーの印象主義」を掲げていたが「ほろ苦い人生」「振り返る人生」をこの作品は表現している。 普段を整いながらも舞台に漂う雰囲気は大戦の影響からきていることも分かる。 高級娼婦と純心青年の物語だが「椿姫」と比較されるのが痛い。 公演回数も少ない。 心の旅路を歌った燕は静かに身を移すの。 「・・海を渡って飛んでいく。 夏の明るい国へ。 そして再び戻ってくる・・」。  「プッチーニのエレガントで洗練されたオペラ」はじわっと効いてくるわね。 *METライブビューイング2023シーズン作品 *MET、 https://www.shochiku.co.jp/met/program/5533/

■初級革命講座・飛龍伝

■作:つかこうへい,演出:マキノノゾミ,出演:武田義晴,吉田智則,木下智恵 ■下北沢OFFOFFシアター,2024.5.28-6.2 ■いつもと少し違う客層です。 平均すると若くないが老いてもいない。 バラケています。 癖のあるタイトルに興味を持つ客が集まったのか? つかの人気が衰えていないのか? 全学連学生と機動隊の若者が対等にぶつかり合うところが舞台の要です。 二人の出自は戦後日本を代表している。 学生は時代の波にぶら下がった中流階級に属し、隊員は貧しい農村から上京して下町の安アパート住まいをしている。 革命という言葉でアイデンティティを証明しようとする学生の空虚な熱狂、そこに油を注ぎ祭りを終わらせない隊員の熱意。 戦後経済成長時代の青春群像を先鋭化させた舞台は、めちゃ熱い。 その熱量は終幕まで落ちない。 カーテンコールの拍手も今年一番の熱気が感じられました。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/308201 *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、つかこうへい ・・ 検索結果は3ブログ . * 飛龍伝前夜譚 ・・熊田「さてと・・、今日のデモは途中で抜け出したいから、フロントは避けてベ平連の後ろにくっ付いていくか・・。 ・・、それッ、アンポォオ!フンサアイ!・・」。 山﨑「なぜ抜け出すんだ?」。 熊田「シモキタで芝居に出る為だよ。 ハッハッハッ!」。 山﨑「オ、オマエは、デモより芝居が大事なのか!?」。 熊田「劇団に入ったんだ。 山﨑も機動隊なんか辞めて劇団に入れよ!」。 山﨑「よし、すぐに辞表を出して俺も役者になるぞ! で、何を演ずるんだ?」。 熊田「飛龍伝!」。