■シャンハイ・ムーン

■作:井上ひさし,演出:栗山民也,出演:野村萬斎,広末涼子,鷲尾真知子,土屋佑壱,山崎一,辻萬長
■世田谷パブリックシアター,2018.2.18-3.11
■1934年の上海、内山書店の2階が舞台です。 主人公は野村萬斎が演ずる魯迅。 実は魯迅を読んだことがない。 それも忘れかけていた魯迅が<急に出現!>した感じです。 ということで休み時間に急遽プログラムを購入して読み始める。
観ていて魯迅の好みや健康状態は分かりました。 彼の嫌いなものは医者、歯医者、3、4がなくて5が国民党。 好きなものは甘納豆、ジャム、クッキー、・・とにかく甘いものばかりです。 煙草は日に50本。 持病は虫歯を筆頭に不整脈、胃腸カタル・・。 
治療のため主治医と歯医者が魯迅に麻酔をかけますが過去に出会った人々が彼の記憶に甦ってしまう。 記憶の人物と周囲の家族・友人を混同してしまう。 そのうち呂律も回らなくなり語句も誤ってしまう。 井上ひさしらしさが出ています。
しかし起こりそうで何も起こらない。 科白も間延びしている。 登場人物が説明ばかりしている。 <説明演劇>と言ってもいいくらいです。
その中で魯迅役野村萬斎は存在感がありますね。 彼の声は低くてもハッキリと耳に届く。 彼の動きや佇まいが一つの魯迅像を形成している。 周囲を見回すと魯迅をよく知っている観客が多いらしい。 比較ができて面白いはずです。 魯迅を知らない人はこの魯迅像で舞台をみていくことになる。
終幕、妻許広平の意見もあり魯迅は鎌倉へは行かず上海に留まる。 周囲がこの決定に従ったのは内山書店に出入りしている人々が中庸の精神を持っているからでしょう。 井上ひさしが言う「人間と人間の信頼」の基本と言っているものかもしれない。 魯迅を慕う国民党や日本人会の人々もいるようです。 しかし煮え切らない芝居です。 井上ひさしはこの作品で息抜きをしたのではないでしょうか? そして魯迅が<急に出現した>理由がわかりました。 いま立ち止まり魯迅を振り返る時期に入ったということでしょう。
*こまつ座&世田谷パブリックシアター共同制作
*劇場サイト、https://setagaya-pt.jp/performances/201802shanghaimoon.html