■能楽堂十二月「塗附」「江口」

*国立能楽堂十二月定例公演□の2舞台を観る.
□狂言・和泉流・塗附■出演:野村万禄,小笠原由祠,河野佑紀ほか
□能・喜多流・江口■出演:香川靖嗣,大日方寛,野村万蔵ほか
■国立能楽堂,2025.12.3
■「江口(えぐち)」は観阿弥の原作を世阿弥が改作した作品である。 舞台はゆったりとしたテンポで進み上演は2時間に及ぶ。
前場では西行法師と江口の君の贈答歌を巡り、里女と旅僧の問答が続く。 後場では仏教用語が次々と語られるなか、江口の君がそれを解釈していく。 そして終幕、君が普賢菩薩の姿となり西の空へと消えていく。
遊女が普賢菩薩へと昇華する劇的な展開もあるが、舞台の中心は和歌問答や仏教的摂理の説明に置かれているように感じられた。 言葉から身体へと変身できるかが、この舞台の要であろう。 しかし問答や説明がやや長く、劇的な要素が薄まってしまった印象もある。 作者親子は作品に言葉を詰め込み過ぎたのかもしれない。 面はともに「小面(こおもて)」。
「塗附(ぬりつけ)」は古くなった烏帽子を塗師に塗り直してもらうという話である。 慌ただしい師走を感じさせる舞台であり、今年を振り返る時期に差し掛かったことを思い起こさせてくれた。
*能作者のまなざし-観阿弥-特集