■鼻血

■作・演出:アヤ・オガワ,出演:アシル・リー,カイリー・Y・ターナー,塚田さおり他
■新国立劇場・小劇場,2025.11.20-24
■「鼻血」というタイトルは一見ぱっとしないが、劇場に入ると松田聖子などアイドル歌謡曲が大音量で流れ活気に満ちていた。 観客には常連と思われる高齢者も多く見受けられたが、若い世代を呼び込みたいという意図は役者たちの表情からも感じられる。
この舞台は演出家アヤ・オガワ自身を主人公に据え、家族との関わりを題材にしている。 アメリカの日常が舞台上に描かれ、父とのぎくしゃくしていた関係が語られていく。 特に父の葬儀の詳細を話題することは興味深い。
登場人物は複数の役者によって交互に演じられ、演技は新鮮で巧く練り上げられている。 その工夫が舞台にリアルさをもたらしているのだろう。 さらに観客との友好的な遣り取りを重視している点も特徴である。
アヤは父との関係を悔いているが、私自身も少しは経験を持つので次第に共鳴していった。 火葬場での「骨上げ」の場まで取り上げられ、観客から八人が選ばれて実際に参加する演出には驚かされた。
看取りや葬儀を経験してきた者にとっては、亡き両親や親族の顔が自然と思い浮かぶ流れだ。 親が健全な若い観客と、高齢の観客とは受け止め方が大きく異なる芝居かもしれない。 過去に戻り、そこから未来(現在)を見つめ直すような複雑な感慨が押し寄せてくる舞台だった。
*NNTTドラマ2025シーズン作品