■ヴォツェック

■作曲:アルバン・ベルク,指揮:大野和士,演出:リチャード・ジョーンズ,出演:トーマス・ヨハネス・マイヤー,ジョン・ダザック,伊藤達人ほか,管弦楽:東京都交響楽団,合唱:新国立劇場合唱団,TOKYOFM少年合唱団
■新国立劇場・オペラパレス,2025.11.15-24
■この作品は観るたびに気が滅入る。 しかし今回は新制作ということで、あえてチケットを購入した。
幕が替わるごとに張りぼての家々が広い舞台を動き回る。 ベニヤ板で作られている為か、軽く乾いた質感を放っている。 カーキ色の軍服も、軍隊のダンスも、これに呼応し舞台全体を乾燥させているようだ。 湿気を帯びた重苦しいドイツ表現主義から脱皮し、演出家の力でドイツからイギリスへ舞台が移動したかのように感じられた。
そのためかテノールの鼓手長と大尉はこの乾いた空間に響き合い、声が鮮明に耳へ届く。 一方で湿り気を帯びたタイトルロールはバリトンであるためか、やや控えめに感じられた。
ヴォツェックの口癖である<貧乏>という湿った言葉も空間で乾いていくようだ。 それでも、また気が滅入ってしまったが、上演時間90分と短いことが救いとなっている。
演出家の<乾燥>とタイトルロールの<湿気>の組合せこそ、新制作の鍵であると感じた。 相反する二つの相乗効果は何とも言えないが・・。 それよりも、何より演奏が素晴らしい。 大野和士指揮のもとでの略無調オペラの醍醐味を存分に味わうことができた。
*NNTTオペラ2024シーズン作品