■アマデウス

■作:ピーター・シェーファー,演出:マイケル・ロングハースト,出演:ルシアン・ムサマディ,アダム・ギレン
■TOHOシネマズ日本橋,2018.7.6-12(オリヴィエ劇場収録)
■イタリア時代の甘いお菓子の思い出がサリエリ自身から語られる。 それはカトリック家族の慣習や教会のフレスコ画にも広げられ出足から想像力が刺激される。 ト書きを喋るなどの進行係を彼が担当するので物語背景がよく分かる。
サリエリのモーツァルトへの嫉妬は現代人にも通ずるから前のめりになる。 違うのは神が絡むことである。 頂点にサリエリ、モーツァルト、神がいる三角構造だ。 サリエリは神の企てに翻弄され嫉妬することに苦しむ。 転機が訪れるのはモーツアルトの妻コンスタンツェを唆した場面からだろう。 ここは役者ルシアン・ムサマディの地が見えて面白い。
以降サリエリは神への態度を硬直化させていく。 「神の企てを阻止する」「神に思い知らせてやる」。 これで前半にあった物語の豊かさが萎んでいってしまった。 サリエリの科白や行動が事務的になってしまったからである。 釣られてモーツァルトの嫉妬される意識も天才の牙も遠のいていった。
楽団員をコロスにして演技をさせるので背景が濃い舞台になっている。 しかも後半はオペラに力が入る。 「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」そして「魔笛」で幕が下りる。 どれも一場面だがとてもリッチだ。 舞台の華麗さは悪くはない、がしかしサリエリとモーツァルトと神の三角構造が深まったとは言えない。 この嫉妬の形を煮詰めればより面白くなったはずである。
インディペンデントなど5紙の劇評は五つ星を取っているがタイムズ等4紙での四つ星は後半の深みへ行く力の弱さを指摘しているのだと思う。 まっ、それはどうでもよい。 NTの舞台からはいつも素晴らしい刺激を貰えるから。
*NTLナショナル・シアター・ライヴ作品
*作品、https://www.ntlive.jp/amadeus