■887

■作・演出・出演:R・ルパージュ*1
■東京芸術劇場・プレイハウス,2016.6.23-26
■前方席を選んだのは正解でした。 凝った舞台美術や物語構造は昨年の「針とアヘン」に似ていますが中身はロベール・ルパージュ本人が語る自叙伝です。 887とは彼が子供時代に住んでいたケベック・シティの番地らしい。 そこでのアパートの精密ミニチュアが置いてあり、裏返すとリビングや寝室、ガレージやスナックバーに早変わりします。
ルパージュは詩「白い言語で話せ」の朗読公演を頼まれますが上手く覚えられない。 記憶の問題から両親や兄弟とアパートで生活していた1960年代へと遡っていきます。 父がタクシードライバーだったこと、祖母の認知症のこと、アパート住人たちの生活、そしてケベック独立運動が模型・人形・影絵・映像・音楽を混ぜ合わせながら語られていきます。
例えば小さな模型のタクシーが止まり、中にいる父が煙草に火をつけラジオから流れるナンシー・シナトラの「バンバン」を聞いているのを模型アパート2階から人形ルパージュが眺め、風景全体をルパージュ本人がみつめている・・。 
彼の舞台の凄さは小道具の隅々まで彼の魂が宿っていく、すべてが彼の分身のようになっていくこと。 舞台がリアルを獲得する瞬間です。 まさに魔術師ルパージュと言われる所以です。
ところで成績優秀にも関わらず彼は私立学校入試に落ちてしまう。 理由は父がタクシードライバだからです。 階級問題ではなく学校側は将来授業料が払えなくなると判断した。 たまたま日本の奨学金問題を聞いていたのでこれには考えさせられました。 ルパージュの母は子供達にこのことは父に言うなと口封じをします・・。
*1、「ワルキューレ」(MET指輪4部作2010-12年)
*劇場サイト、http://www.geigeki.jp/performance/theater120/