■メフィストと呼ばれた男

■作:トム・ラノワ,演出:宮城聰,劇団:SPAC
■静岡芸術劇場,2015.4.24-26
■なぜ自由席なのか場内に入って分かったの。 舞台の一部を客席に、同じように客席の一部を舞台にしたからよ。 主人公はベルリン国立劇場芸術監督兼俳優クルト・ケプラ。 観客は実舞台の上で国立劇場で繰り広げる物語を体験することになるのね。 稽古場面では劇団員になったような感覚に陥ってしまったわ。 でも役者が正面向かって喋ってくれないから台詞の一部が聞こえ難い。 広い客席を取り込んだから集中できないのが欠点ね。 
1932年、ナチス文化大臣が現れクルトが監督として劇場を維持していくことになる。 同僚の亡命や粛清が続いていくけど1945年、ナチス文化大臣が自殺しソビエト文化大臣が着任したところで幕が下りる。 「すべて自由にやりたまえ! 少しは国家の意向も取り入れてくれればそれでいい・・」。 ソビエト文化大臣の芸術監督への挨拶もナチス時代と同じね。
シェイクスピアやチェーホフの多くの作品が議論され上演されるの。 その場面がストーリーにどう関係するのかを考えてしまうので楽しいけれど疲れる。 特にクルトの心情が劇中劇に表現されているからよ。 「・・腐っている」と叫び続けるクルト。 でもここに到達するまでの心の揺れがみえない。
帰りにチラシ「抵抗と服従の狭間で」を読んで舞台上クルトは実在人物に近いことを知ったの。 不安しか持てないクルトは結局ナチスに加担していく。 この消極的希望がクルトを見えなくしていたのね。 亡命を決意し粛清と戦うには不安を越える何かが必要なのかも。 熱く演じるけど冷めて届くという舞台だった。
*CoRich、https://stage.corich.jp/stage/63548