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■<不可能>の限りで

■作・演出:ティアゴ・ロドリゲス,出演:アドリアン・バラッツォーネ,ベアトリス・ブラス,バティスト・クストノーブル,ナターシャ・クチューモフ,音楽:ガブリエル・フェランディーニ ■静岡芸術劇場,2025.4.26-29 ■「赤十字国際委員会や国境なき医師団のメンバーとの対話から創作された作品」です。 舞台を覆った白い布を吊り上げて野外病院のテントを出現させ、そこに演奏者が一人ドラムを叩いている。 登場した役者4人は立ちっぱなしの略リーディング形式をとります。 英語・フランス語・ポルトガル語の上演だが科白が練れていない。 裸の台詞です。 字幕に集中しないといけない。 天井に字幕板があるので目の移動が楽ですが。 紛争地域の医師やスタッフらに解決困難な出来事が次々と降り注いでくる。 彼らは<不可能>と<可能>を行き来する。 不可能とは彼らで問題を解決できない、彼らの意志や行動が及ばないことです。 可能とはそれを忘れること、紛争地域から離れること、たとえばバックオフィスや本国へ戻ることです。 どちらも不完全に漂い続けていく。 演劇はこの境界上でいつも起こる。 <彼岸>と<此岸>は美と抽象も感じるが、この<不可能>と<可能>は醜と具体で一杯です。 この不可能と可能の境界を行き来できること。 これが人道支援の要かもしれない。 それは演劇の成立条件でもある。 人道支援と演劇は同じ構造を持つからでしょう。 今日の舞台は微かに両者を感じさせる。 でも現実の強さに流されてしまった。 先ずは私の生活圏を<不可能>にしないよう努力するしかない。 同時に既にある<不可能>を狭めることもです。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/367456

■フィデリオ

■作曲:L・V・ベートーヴェン,指揮:スザンナ・マルッキ,演出:ユルゲン・フリム,出演:リーゼ・ダーヴィドセン,デイヴィッド・バット・フィリップ,イン・ファン他 ■新宿ピカデリー,2025.4.25-5.1(METメトロポリタン歌劇場,2025.3.15収録) ■入り難い舞台です。 違和感のあるストーリで幕が開き、半煮えのまま幕が下りてしまった。 ベートーヴェン唯一のオペラ作品だが、彼は歌劇が苦手だったのでしょうか? 交響曲に叙唱と歌唱を乗せたような作品です。 しかも両唱の落差が激しい。 叙唱があからさまな現実を持ってくるので歌唱が浮いてしまう。 舞台に入り込めるのはレオノーレの長い独唱からでしょう。 そして二幕に入ってのフロレスタンの一声ですかね。 ロッコ役ルネ・パーペが歌い難いと言っていたが、逆に聴き難いということです。 やはりベートーヴェンの拘りを意識しました。 当時の自由主義を強く感じさせます。 総裁P・ゲルプの挨拶でも現代政治との関係を話していましたね。 逆に政治が強く出過ぎると固まってしまい面白さが伝わらない。 演出にも問題がありそうです。 METでは25年前から変わっていないらしい。 以前観たカタリーナ・ワーグナー演出の当舞台は好感が持てたからです。 次回METでは新演出で上演して欲しい。 *METライブビューイング2024作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/102326/

■真面目が肝心

■作:オスカー・ワイルド,演出:マックス・ロブスター,出演:シャロン・D・クラーク,チュティ・ガトゥ,ヒュー・スキナー他 ■シネリーブル池袋,2025.4.11-(イギリス,2025収録) ■英国上流階級の一端を覗くことができました、事実とどれだけ違うか分からないが、1895年作のため現代との差異もあるでしょう。 喜劇的困難の後に3組も結婚にこぎつけるハピーエンドな話です。 ストーリーはシェイクスピア風だが、内容はとても諄い。 つまり耽美的・退廃的・懐疑的な要素が日常にギッシリと詰まっているからです。 これがオスカー・ワイルド風なのでしょうか? 主人公はエディ・マーフィに瓜二つです。 まさにワイルド仕立てです。 劇場(映像内)の客席からの笑いが絶えない。 映画館では最初は笑いがあったが少しずつ減ってきた。 たぶんワイルドの毒に当てられた? 新郎新婦の品定めは祖先まで遡る。 もちろん資産状況も調べる。 古い日本でも同じでしょう。 こういう時は伯母が煩いのもです。 結婚に興味がある人なら観て損はない作品です。 結婚の落としどころを提供しているからです。 え!参考にならない? そして真面目とは何を指しているのか?、悩みます。 *NTLナショナル・シアター・ライブ2025作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/103255/#google_vignette

■能楽堂四月「重喜」「野守」

*国立能楽堂四月普及公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・重喜■出演:山本東次郎,山本則匡,山本則秀ほか □能・喜多流・野守■出演:長島茂,原大,山本則孝ほか ■国立能楽堂,2025.4.12 ■プレトーク「八面玲瓏(はちめんれいろう)、鬼神の鏡」(原田香織)を聴く。 速い流れで解説が進む。 世阿弥はもとより、新古今和歌集や雄略天皇のこと、額田王と光孝天皇の歌、大峰八大金剛童子への展開、等々。 この分野に慣れていないと話についていけない、が刺激的な解説だった。 「重喜(じゅうき)」とは何か? ここでは僧侶になりたての新発意(しんぼち)の名前である。 僧侶の名に多いらしい。 子方である重喜が住持の頭を剃るのでハラハラしてしまう。 地謡も入る。 トークの初めに「教誡律儀(きょうかいりつぎ)」の話があったが、この教えが舞台をより面白くしていた。 「野守(のもり)」は長閑な春日野から鏡を一転させると天上そして地獄界までが出現する。 何度観ても飽きない。 今日のシテは前場の静から後場の動へ、どちらの動きも存在感が出ていた。 橋掛りを歩く姿もぶれていない。 十分に堪能した。 面は「三光尉(さんこうじょう)」から「小癋見(こべしみ)」へ。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7001/

■能楽堂四月「腰祈」「歌占」

*国立能楽堂四月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・腰祈■出演:大藏彌右衛門,大藏章照,大藏彌太郎ほか □能・金春流・歌占■出演:山中一馬,島袋元寿,則久英志ほか ■国立能楽堂,2025.4.9 ■「腰祈(こしいのり)」は山伏修行を終えた孫が祖父の曲がった腰を治す話。 孫の法力が効き過ぎてしまった!? 「歌占(うたうら)」は父子再会物語である。 そして伊勢神道の父が地獄へ落ちた時の様子を語り「地獄の曲舞」を舞う。 中世神仏習合の死生観は仏教のため浄土信仰の八大地獄が描かれる。 「世阿弥が嫌った地味な男物狂」を彼の実子・観世十郎元雅が当作品としてまとめ上げたらしい。 当時の仏教的地獄はずっと身近だったはず、でも現代はそれが迫って来ない。 シテ面は「今若(いまわか)」の色白で「・・地獄の苦しみにかやうに白髪となりて候」の髪は金髪にみえる。 現代的なシテの曲舞から地獄は遠い。 また地謡の出番が多い。 難解な謡と舞のため出演者の苦労が感じられる舞台だった。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7000/

■能楽堂三月「袴裂」「武文」

*国立能楽堂三月特別企画公演の□2舞台を観る. □狂言・「天正狂言本」と古画による・袴裂■出演:野村又三郎,奥津健太郎,奥津健一郎 □能・復曲新演出・武文■出演:金井雄資,金井賢郎,宝生欣哉ほか ■国立能楽堂,2025.3.28-29 ■「袴裂(はかまさき)」は2年前に当劇場で観ている。 割いてしまった袴を二人が着けて舞う場面は笑ってしまった。 「武文(たけぶん)」は能より歌舞伎に近い。 いや、能が70%歌舞伎30%かな? 狂言方の比重が高いのが一因だが、程良いバランスだと思う。 20場面から構成されている。 前半はスピード感が半端でない。 火事場まで一直線だ。 早送りで観たような後味が残る。  複雑な内容を75分に巧くまとめ上げたのは企画演出の賜物だろう。 このあたりは「「武文」改訂について」(横山太郎)に書かれている。 クライマクスは終場の鳴門海上だ。 「・・手向けの衣の恨めしながらも、懐かしや」。 霊になっても迷う武文の心模様がジーンと迫ってくる。 船中の場では舵取の行動が目立った。 松浦某に少し分けてやりたいくらいだ。 役者たちは切れ味のある動きと声だった。 囃子も場面を盛り上げていた。 満足度は100%! 面はツレが「孫次郎」、後シテは「木汁怪士(きじるあやかし)」。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2024/3128/

■NHKバレエの饗宴2025

■指揮:井田勝大,管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 ■NHK,2025.3.23(NHKホール,2025.2.1-2収録) *下記の□6作品を観る. □「白鳥の湖」第2幕 ■振付:マリウス・プティバ,レフ・イワノフ,演出:三谷恭三,音楽:P・チャイコフスキ-,出演:秦悠里愛,小池京介,米倉太陽ほか,舞団:牧阿佐美バレエ団 □「ラ・シルフィード」からパ・ド・ドゥ ■振付:オーギュスト・ブルノンヒヴィル,音楽:レーヴェンスヨルド,出演:前田紗江,中尾太亮 □イサドラ・ダンカン風のウラームスの5つのワルツ ■振付:フレデリック・アシュトン,音楽:J・ブラームス,出演:佐久間奈緒,ピアノ:佐藤美和 □「椿姫」から3つのパ・ド・ドゥ ■振付:山本康介,音楽:F・リスト,出演:中村祥子,厚地康雄,ピアノ:佐藤美和 □「ロメオとジュリエット」バルコニーのパ・ド・ドゥ ■振付:ケネス・マクミラン,音楽:S・プロコフィエフ,出演:高田茜,平野亮一 □コンサート ■振付:ジェローム・ロビンズ,音楽:F・ショパン,出演渡辺恭子,林田翔平,中川郁ほか,舞団:スターダンサーズ・バレエ団,ピアノ:本田聖嗣 ■重量級の「白鳥の湖」を最初に持ってくるとは! 調子が狂ってしまった。 部分上演のため演目は吟味したほうがよい。 「ラ・シルフィード」の中尾太亮が若さを発散していましたね。 「椿姫」が一番気に入りました。 山本康介の振付が効いていた。 ストーリーもメリハリがあった。 ダンサーの二人も物語的に似合っていた。 衣装も良い。 「コンサート」は初めて観る作品です。 コメディバレエとは珍しい。 楽しく締めることができました。 *NHK、 https://www.nhk-p.co.jp/ballet/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、NHKバレエの饗宴 ・・ 検索結果は8舞台 .

■影のない女

■原作:フーゴ・フォン・ホーフマンスタール,訳:高橋英夫,演出:倉本朋幸,出演:寺中友将,清水みさと,山井祥子ほか,劇団オーストラ・マコンドー ■吉祥寺シアター,2025.3.24-31 ■役者の声が耳に入るが即すり抜けて霧散してしまう。 集中して聴かないと言葉の意味さえ蒸発していく。 戸惑いました。 詩小説を朗読している感じだが、その言葉は役者身体の奥から発していない(ようにみえる)。 棒読みに聞こえる場面が多々ある。 これが違和感の原因でしょう。 また組体操のような動きを入れてくる。 チェルフィッチュが微妙な動作で科白と身体の関係に迫るのとは違い、これが科白と役者の解離を一層大きくしてしまった(ように思える)。 ところで、ガラス張りで薄緑や薄青色に変化させる舞台床が映えていました。 そこに船を浮かべた場面は素晴らしい。 鷹の鳴声も舞台を引き締めていた。 後半、リズムがでてきて照明も忙しくなり盛り上がってきましたね。 この作品はオペラで観ています。 が、演劇は別物かもしれない。 チラシに「森鴎外が名訳を残した巨人ホーフマンスタールの深淵に迫る」と書いてある。 でも、深淵に入り込むことは残念ながら叶いませんでした。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/363351

■アレグリア

■振付:カデル・アトゥ,音楽:トム・ウェイツ,レジス・バイエ・ディアファン,舞団:アクロラップ ■NHK,2025.3.10-(パリ・シャイヨー宮,2019.11.26収録) ■「ヒップホップ・バレエ」とあったが初めて聞く言葉です。 しかしバレエには見えない。 強引に結びつけようとした言葉に聞こえる。 8人のダンサーが10数場面を展開している。 基調はブレイクダンスです。 繋ぎには規則性ある振付が多い。 それは子供を真似たように走り回り、またゲーム感覚を持ったダンサー同士の振付が多い。 後半、音楽の位置づけがはっきりしてきましたか? 途中に歌唱(録音)も入る。 これは日本語訳が欲しいですね。 床段差や布を使って波のように利用する場面もあり飽きさせない。 フランス的なところが見え隠れするのが気に入りました。 ヒップホツプダンスは上演を増やして欲しいところです。 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/K9ZLW6L3PL/

■アイーダ

■作曲:ジョゼッペ・ヴェルディ,指揮:ヤニック・ネゼ=セガン,演出:マイケル・メイヤー,出演:エンジェル・ブルー,ユデット・クタージ,ピュートル・ペチャワ他 ■東劇,2025.2.28-3.13(メトロポリタン歌劇場,2025.1.25収録) ■インディー・ジョーンズの世界が出現? 幕開きに目を疑ってしまった。 ファラオの世界を探検家と「アイーダ」を平行して描いていくようだ。 前者はエジプシャンブルーで空間を染めていて、これは気に入ったが、しかし観ていて物語への集中力が落ちる。 生舞台でない為とも言える。 しかも探検家がエジプト財宝を奪っていくような描き方をしている。 演出家は凝り過ぎてしまった。 探検家オギュスト・マリエットのことはともかく、重量級の舞台は始まりから飛ばしていく。 歌手も重量級が多い。 力強い空気が舞台隅々まで広がっていく。 何回観ても痺れる。 衣装も素晴らしい。 将軍ラダメス役ペチャワも角が取れてきた。 なかでも光っていたのは王女アムネリス役ユディット・クタージ。 インタビューで当役を60回近く歌ってきたと話していた。 演じなくてもアムネリスが舞台に出現していた。 エンジェル・ブルーもエチオピア王女が「地」で似合う。 都会と田舎の対決かな? ところで凱旋場面に動物たちは登場しなかった・・! よくあるのだが。 今回はダンスが中心に置かれている。 私は気に入ったが、これは賛否両論があるだろう。 そして終幕、地下牢でラダメスとアイーダは息を引き取る。 この終わり方はいつ観ても寂しい。 華麗で力強い前半とは対極にある。 もう少し捻ったストーリーにすればテンションが落ちないのだが。 ヴェルディは普仏戦争勃発で終わり方を書き急いだのかもしれない。 *METライブビューイング2024作品 *MET、 https://www.shochiku.co.jp/met/program/6005/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、マイケル・メイヤー ・・ 検索結果は3舞台 .