■ファウストの劫罰
■原作J・W・ゲーテ(ファウスト),作曲:H・ベルリオーズ,指揮:マキシム・パスカル,出演:池田香織,山本耕平,友清崇,水島正樹,管弦楽:読売日本交響楽団,合唱:二期会合唱団,NHK東京児童合唱団 ■東京芸術劇場・コンサートホール,2025.12.13-14 ■上演がセミ・ステージ形式のため迷わずチケットを購入した。 オペラは指揮者や演奏の姿が見えなければ楽しさは半減する。 ピットに隠れてしまうと音響も籠りがちだ。 その点、演奏と歌唱が舞台上にあることで観客は自由に場面を想像ができる。 歌手の演技は控えめな方が理想的だと感じる。 初めて観る作品だったが舞台は充実していた。 演奏も合唱も大編成で迫力があり、歌手たちも一回限りの上演に熱を込めていた。 ベルリオーズのようなロマン派作曲家はやはりゲーテの世界に相応しい。 「壮大なゲーテ文学を余すことなく表現した!」という広告文の通りであった。 「・・崇高な自然は私の限りない憂愁を止めてくれる」。 ファウスト博士は地獄へ落ちる直前にそのことに気が付くが、しかし、彼が自死を試みた以前から自然は常に眼前にあったのだ。 それを真に見出すには、マルグリートと言う女性を通さなければならなかった。 教会の鐘や復活祭ではファウストの心を救うことができなかったのである。 彼の自然観がおもしろい。 一方で、「ベルリオーズの傑作を圧倒的な映像美とともに贈る」という広告文には疑問を持った。 舞台背景にはストーリーに沿った映像が延々と映し出されたが、これが音楽的想像力を防げてしまった。 「ラコッツィ行進曲」では現代の軍隊行進や戦車などの兵器が、「ネズミの歌」では鼠が這い回り、デュオではスマホのLINE対話画面が映し出される。 こうした一方的な映像は舞台の雰囲気を壊していたように思う。 しかし「フランス音楽の若き旗手マキシム・パスカルと待望の読響とのタッグが実現」という宣伝文には大いに満足した。 パスカルの指揮を生で見るのは初めてだったが、フランケンシュタインのような独特な動きが楽しく、演奏も十二分に堪能できた。 期待以上の舞台であり心から満足した。 *東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ *二期会、 https://nikikai.jp/lineup/faust2025/