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■能楽堂七月「萩大名」「楊貴妃」

*国立能楽堂七月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・萩大名■出演:茂山七五三,茂山逸平,茂山茂 □能・喜多流・楊貴妃(玉簾)■出演:中村邦生,大日方寛,茂山千之丞ほか ■国立能楽堂,2025.7.3 ■室町時代の地方大名は公用で京都へ登ることが多かった。 都では歌も詠めない(教養がない)大名は肩身が狭かったのだろう。 「萩大名(はぎだいみょう)」も地方の武士が当座(即興の和歌)で恥をかく話である。 小唄で遊んでいる暇などない。 武士は辛い。 お馴染みの「楊貴妃(ようきひ)」だが能では奇をてらわない。 心情を描き文学的である。 玄宗皇帝の勅命を受けた方士(道教の行者)が異界へ楊貴妃に会いに行く。 貴妃は簪(かんざし)と玄宗との誓いの言葉を方士に託し舞を舞う。 そして現世に帰る方士を見送りながら一人孤愁に再沈する。 常世らしい静かさ冷たさ長閑さのなか、貴妃の暖かさが感じられる。 面白く観ることができた。 小書「玉簾(たますだれ)とは作り物の三方に鬘帯(かつらおび)を飾ること。 内に居る楊貴妃が見え難くなるのが惜しい。 シテ面は「増(ぞう)」。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7013/

■バサラオ

■作:中島かずき,演出:いのうえひでのり,出演:生田斗真,仲村倫也,西野七瀬ほか,劇団☆新感線 ■新宿バルト9,2025.6.27-7.17(明治座,2024.9収録) ■・・坂東武士のバクフ軍と公家や落武者をまとめたミカド軍の戦いは後者が勝利する。 しかしミカドも父子の確執で東西朝時代がやってくる。 そこにバサラがすきを突き天下統一を企てるのだが・・。 いつもの捻りがみえない。 唸らせる裏ストーリーもありません。 表面的な陰謀や寝返りだけで物語が進んでいく。 拘るのは外見至上主義でしょうか? いわゆるルッキズムです。 容姿の良し悪しで物事が決まる。 これにバサラを被せようとしている。 しかしルッキズムが強すぎてバサラ美意識が満たされていかない。 しかも天下統一後のバサラ時代がどのような社会か?想像できない。 多分、チャンバラ場面が散らばり過ぎて物語が分断されたからでしょう。 それでも、ヒュウガ(生田斗真)とカイリ(中村倫也)の死を突飛だがなんとかまとめた。 キャストの熱演は気持ち良いが、スタッフの苦労が伝わってくる作品でした。 *劇団☆新感線2024年作品 *ゲキXシネ、 https://www.geki-cine.jp/basarao/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、いのうえひでのり ・・ 検索結果は16舞台 .

■能楽堂六月「附子」「鉄輪」

*国立能楽堂六月能楽鑑賞教室の以下の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・附子■出演:三宅右矩ほか □能・喜多流・鉄輪■出演:金子敬一郎ほか ■国立能楽堂,2025.6.28 ■観客層がいつもと違う。 20才前後の客も多い。 会場に元気が溢れていて気持ちがよい。 プレトーク「能楽の楽しみ」(佐藤寛泰解説)を聴く。 ・・能楽はオペラに近い、仮面劇でもある。 次に西本願寺能舞台の歴史を語る。 また舞台の柱(目付柱など)を相撲建築と比較し、仮面を付けたときの空間の狭さから柱の必要性を説く。 五番立や流派の話、最期に今日の演目「附子」と「鉄輪」を解説する・・。 能楽鑑賞教室らしい分かり易い内容だった。 「附子(ぶす)」も「鉄輪(かなわ)」も初心者には入り易いと思う。 狂言は笑ってくれとトークでも勧めていたが「附子」は観客の笑いが絶えなかった。 「鉄輪」は離婚(不倫?)の話で暗いが、現代に通じる。 漫画や映画でおなじみの陰陽師安倍晴明も登場する。 女性の恨み辛みが恐ろしい復讐劇だ。 舞台をみていると作者が実際に苦労していたのが分かる? 舞台芸術の客離れが進んでいると聞いた。 配布されたプログラムには漫画も挿入されて至れり尽くせりだ。 関係者の苦労がみえる。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7012/

■サロメ

■作曲:R・シュトラウス,指揮:ヤニック・ネゼ=セガン,演出:クラウス・グート,出演:エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー,ペーター・マッティ,ゲルハルド・ジーゲル他 ■東劇,2025.6.27-7.3(メトロポリタン歌劇場,2025.5.17収録) ■この作品は独特な雰囲気がある。 具体的な名詞に溢れているからです。 ・・それは多くの人種や地名、パレスチナのユダヤ人、ローマ人やエジプト人、エルサレム・ガラリア・カペナウム・サマリア・エドム・アッシリア・レバノン・シリア・アレクサンドリア・・・。 たくさんの果物や宝石、葡萄や林檎・柘榴や無花果、エメラルド・トパーズ・オパール・ルビー・メノウ・トルコ石・水晶・紫石・・、そして動植物の名前たちが宗教と絡み合い想像力が膨らんでいく。 バビロンとソドムの娘であるサロメには6人の分身が同じ服装と髪型で登場する。 彼女の子供時代から現在までを同時に現前させる手法は凝っています。 ダンスの場面も変わっている。 「あの人はサマリアにいる? エルサレムに向かった?」。 あの人が近づいてくるのをゾクゾクと感じることができました。 「ヨカナーンは私を愛した・・」。 サロメ役はエルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー。 魅力的な声だが現実的な身体がサロメを遠ざけてしまった。 スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」「アイズワイドシャット」を参照した。 演出家?がインタビューで話していたが、むしろドイツ表現主義映画の技法でサロメを再び甦らせたと言ってよい。 ヴィクトリア朝時代の背景と20世紀初頭のドイツ芸術がシリアの地のあの時代で混ざり合いキリストの到来を予言した。 不思議で怖い舞台を面白く観ることができました。 *MET2024シーズン作品 *MET、 https://www.shochiku.co.jp/met/program/6002/

■ザ・ヒューマンズ、人間たち

■作:スティーヴン・キャラム,翻訳:広田敦郎,演出:桑原裕子,出演:山﨑静代,青山美郷,細川岳ほか ■新国立劇場・小劇場,2025.6.12-29 ■2階が狭すぎて役者が落ちやしないか!ハラハラしました。 車椅子の動きを追ってしまった。 あと1mの奥行が必要でしょう。 次女のアパートに集まった祖母、両親、姉は落ち着きがない。 なにか隠し事を持っている。 どうでもいいような夢の話など雑談ばかりしている。 焦点が定まらない。 でもカネの話が裏にある。 悪くもない学歴や職業を持っているのにです。 抱えている持病、祖母の認知症や姉の大腸炎そして母の糖尿?や父の腰痛も彼らを暗くしている。 時々聞こえるトイレの水を流す音に乗せて不安が観客に届きます。 後半、父の隠し事がわかる。 不倫のようです。 これで年金も家も失ってしまった。 やれやれ! この流れで不倫とは・・、作者は何を考えているのか? 「だって、現実に起きてることだけで、十分気味が悪いんだから」。 チラシに書いてあった。 持病や不倫などは日常でよく出くわす。 上司の職業紹介での嫌がらせもです。 最後は父のように被害妄想が大きくなる。 現代はこのような些細なことで転落していく。 こう言っている舞台にみえる。 世界が細分化し過ぎた? おおらかさを取り戻したい! ところで、相手の科白が終わる前に自分の科白を喋る。 このような場面が何度もあった。 対話になっていない。 これは演出でしょうか? 2階の狭さも演出かもしれない? 今日の観客は高校生で占められていた。 私が高校生ならこのような漠然とした暗い作品は避けたいですね。 両親は宗教について多くを語っていたが不倫との関係は有耶無耶です。 混乱しました。 やはり宗教は(日本人にとって)壁ですね。 *NNTTドラマ2024シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-humans/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、桑原裕子 ・・ 検索結果は7舞台 .

■能楽堂六月「真奪」「敦盛」

*国立能楽堂六月普及公演の以下の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・真奪■出演:山本則孝,山本則重,山本泰太郎 □能・観世流・敦盛(二段之舞)■出演:藤波重彦,江崎欽次朗,金子聡哉ほか ■国立能楽堂,2025.6.14 ■「真奪」は「しんばい」と読む。 室町以降に流行った生け花スタイルの「立花」からきているらしい。 これは「真(本木)」と「下草」で構成される。 「真」は「心」とも書く。 舞台は主人公が他人の「真(心)」を奪う話である。 また「盗人を見て縄を綯う」も付録になっている。 プレトーク「平家物語と能が生み育てた優美なる救済劇」(坂井孝一)を聴く。 語り本系と読み本系を比較して世阿弥は熊谷直実から敦盛視点に傾いた、ワキ蓮生法師は諸国一見の僧ではない、シテ敦盛が前場では直面で登場する、敦盛は蓮生法師としてではなく敵方直実として挑む場面が一瞬ある。 これらは作品構造からみても面白い。 ところで、源頼朝は14才から20年も流人生活をしたこと、鵯越は義経の発案ではないこと、などなど解説した。 話題を敦盛と直実に絞ったほうが良かっただろう。 「敦盛(あつもり)」は風景・心情がすんなりと入って来ない。 詞章が難しい(と感じる)。 私の寝不足もある、後場は調子がのってきたが。 しかも敦盛の動きの複雑さに気が抜けない。 この作品は餡子たっぷりの鯛焼に似ている。 シテの声・動きには満足した。 面は「敦盛」。 帰りは世阿弥のことを考えながら千駄ヶ谷駅へ向かった。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7010/

■セザンヌによろしく!

■作・演出:今野裕一郎,出演:黒木麻衣,坂藤加菜,中條玲ほか,劇団:バストリオ ■せんがわ劇場,2025.6.1-8 ■タイトルをみて劇場へ行くことにする。 セザンヌの絵に入り浸っていた時期があったからです。 彼が描いた静物画や人物画の前にいると脳味噌がピクピクし始める。 私にとってセザンヌは謎の一人です。 即興風パフォーマンスと言うような舞台ですね。 ・・日記を読みながら、ドラムやサクソフォンなどを演奏しながら、そして描き続けるイラストを舞台背景に映し出していく・・。 役者というより芸術家集団にみえる。 いま、ここで、作られていく生々しさがあります。 ・・粘土をこねたり、水槽に水を入れたり、香をたいたり(?)、弁当をひろげ、バナナを食べたり・・。 いろいろな物や出来事が舞台に散らばっていく。 サント=ヴィクトワール山を意識しているが鯨の話も多い。 科白がしっかりしているので全体が緩まない。 観客で子供の声が聞こえたが舞台はそれを吸収していた。 バラバラだけどまとまっている。 受賞できる所以でしょう。 面白い舞台でした。 *第14回せんがわ劇場演劇コンクール,グランプリ・オーディエンス賞受賞公演 *劇場、 https://www.chofu-culture-community.org/events/archives/30557

■台風23号

■作・演出:赤堀雅秋,出演:森田剛,間宮祥太朗,木村多江ほか ■Bunkamura・配信,2025.6.1-14(ミラノ座,2024.10.5-27収録) ■幕が開いて、配達員が悩ましい目つきで空を見上げる・・。 赤堀雅秋が戻ってきた! 一瞬そうみえたが・・、いや、以前とは違う。 わめく台詞が多い。 役者は喚いているだけです。 狂気が息を殺しているような、静けさのある下町が演出家の風景だったはず。 その風景は消えてしまっていた。 調べたら10年以上も舞台を観ていなかった。 変わりましたね。 介護・仕事・夫婦・健康・結婚・・・、それぞれの問題が並べられていたが、しかし積み重なっていかない。 どれも煮え切らない。 どれも到達できない。 巷の生活風景を誇張しただけにみえる。 テーマが絞れなかった? 劇場が大きすぎる? 台風を含め全てが逸れてしまった。 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/333975 *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、赤堀雅秋 ・・ 検索結果は7舞台 .

■能楽堂六月「悪坊」「玉井」

*国立能楽堂六月定例公演の以下の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・悪坊■出演:茂山逸平,茂山宗彦,茂山七五三 □能・復曲能・玉井(間狂言・大藏流貝・貝尽)■出演:宝生和英,田崎甫,辰巳和磨,野口能弘,(山本東次郎,山本則孝,山本凛太郎)ほか ■国立能楽堂,2025.6.4 ■「悪坊(あくぼう)」は反社会的行為で人々を苦しめている悪坊が心を改めて僧になる話である。 当時は宗教も職業も生活に溶け込み分節化されていない。 生活身体から湧き出る意志で将来を決める。 僧になるにもひとっ飛びだ。 雁字搦めの現代では自由に飛び回ることができない。 羨ましい時代を描いている。 心が洗われる舞台だ。 「玉井(たまのい)」は昔話の「海彦山彦」である。 「浦島太郎」も思い出す。 今回は間狂言「貝尽(かいづくし)」が入り楽しい舞台になっている。 まさに童話の世界だ。 衣装と面に凝った6人の貝の精を含め、シテ方の豊玉姫と玉依姫、龍王と天女、ワキ方の彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)と従者たちは総勢12名になる。 贅沢な舞台だ。 先日の「賀茂物狂」に続き、ふたたび至福のひとときを過ごせた。 面は豊玉姫「泣増」(龍右衛門作)、龍王「冠形悪尉(かんむりがたあくじょう)」,玉依姫「小面」(近江作)、天女「小面」(是閑作)。 後場、豊玉姫と玉依姫の優美な中ノ舞ではふくよかな表情の面が似合っていた。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7009/

■ミンコフスキー密室 ■レムニスケート消失

*以下の□2作品を観る. ■作・演出:小野寺邦彦,出演:江花実里,岩松毅,江花明里ほか,劇団:架空畳 ■座高円寺,20205.5.28-6.1 □ミンコフスキー密室 ■殺人事件を調査する探偵物語です。 探偵らしき主人公順子が活躍する世界は量子力学的時空でできている。 うーむ、SFですか? 時空は歪んでいる。 つまり時間・空間を自由に行き来できる。 でも、これこそ演劇世界でしょう。 「量子もつれ」や「エントロピー」もきこえてくる。 演劇世界と量子力学世界は兄弟だと納得しました。 12人の役者は略舞台に居る。 直接係わらない役者はコロスとなって動き回る。 喜怒哀楽が入らない科学的台詞が多いのでダンスを観ている感覚に陥ってきます。 ここに時空の反復が続く。 このミニマル要素が積み重なって物語を推進していく。 量子力学の時空の歪みから演劇を再構築し科学的ミニマル演劇に近づけている。 いやー、実に面白い構造です。 □レムニスケート消失 ■「ミンコフスキー密室」よりストーリーがまとまっていました。 美術や照明、音楽を含め続きのようです。 昨日は戸惑ったが、やっと劇団のリズムに乗れました。 科白もしっかりと耳に入ってきた。 この回は次元世界を強調している。 0次元から4次元世界に居る各住人の話です。 主人公は量子探偵の順子ですが、もう一人の物語探偵は曲者ですね。 当作品の視点位置を変えてくれる案内人のようです。 観客は老若男女がバラけていた。 近頃の小劇団では珍しい。 ところで、酒酔い場面が多いと心地良いリズムが崩れます。 *劇場、 https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=3378