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■ニュルンベルクのマイスタージンガー

■作曲:R・ワーグナー,指揮:ダニエレ・ガッティ,演出:マティアス・ダーヴィッツ,出演:ゲオルク・ツェッペンフェルト,クリステイーナ・ニルソン,マイケル・スパイアーズ他,管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団 ■NHK配信,2025.9.1(バイロイト祝祭劇場,2025.7.25収録) ■今月に入りワーグナーは3本目だ。 今年のバイロイト音楽祭から当作品がNHKで放映された。 新演出の為かな? ・・漫画チックな美術が凡庸な舞台に近づける。 2幕「蹴り合いの場」ではリングにロープを張ったボクシングまで登場する。 また3幕ヨハネ祭りはポップな美術・衣装で一杯だ。 これらは作品との深い繋がりはみえない。 見た目は楽しいが興ざめもする。 そしてヴァルターはマイスター称号を拒否したままエヴァと駆け落ちして幕が下りる。 これも後味が悪い。 父親やザックスは無念だろう。 ベックメッサーも惨めすぎる。 競争相手をこれだけ貶めると舞台が盛り上がらない。 ・・。 喜劇と呼ばれている作品だが演出家の喜劇にはついていけなかった。 上映5時間弱(休息無し)は長かった。 ワーグナーの舞台は長いが短い。 この相反感覚が今回はやってこなかった。 騎士のヴァルター役マイケル・スパイアーズは伸びのある声で聴き応えがあった。 また合唱団は臨時編成(?)らしく新鮮味が出ていた。 最近はチケットの売れ残りもあると聞いている。 舞台芸術はどこもしんどい。 盛り立てていきたいものだ。 *バイロイト音楽祭2025年作品 *NHK、 https://www.nhk.jp/p/premium/ts/MRQZZMYKMW/episode/te/V3NJMYWRPJ/

■ワルキューレ

■作曲:R・ワーグナー,指揮:アントニオ・パッパーノ,演出:バリー・コスキー,出演:クリストファー・モルトマン,エリザベート・ストリート,ナタリア・ロマニウ他,ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 ■TOHOシネマズ日本橋,2025.9.5-11(ロイヤル・オペラ・ハウス,2025.5.14収録) ■上演時間5時間(休憩含む)は長い、そして短い。 緊張ある対話が続くがヴォータンの存在が流石に目立つ。 「ラインの黄金」ではアルベリヒとバリトン域を競い合ったが今日は彼の独断場だった。 しかも髪を伸ばし義眼に変えたので最初は別人かと思ってしまった。 エルダも舞台を徘徊しているが大丈夫だろうか? 2年の歳月は短くない。 これを意識して若い歌手を多く登場させたのは戦略だろう。 でも彼らの存在力はこれからに期待するしかない。 「環境問題がテーマである・・」、「故郷オーストラリアの山火事を体験・・」。 舞台監督と演出家が語っていた。 フンディングの館をトネリコの壁で覆った1幕、荒野にトネリコの廃木を置く2幕、ブリュンヒルデを埋めたトネリコが炎に包まれる3幕。 テーマも山火事も分かるが環境問題を考えると舞台の面白さが遠のく。 「食卓にはジャガイモとトリ肉を・・」。 舞台監督の飽くなき拘りがみえるが、飲食は最低限にしてもらいたい。 食べる演技はとても難しい、フンディングの食べっぷりは豪快で巧かったが。 ところで指揮者パッパーノが音楽監督を引退するらしい。 「・・22年間で700舞台を熟した」とインタビューで話していた。 感動が遠のく前に新指揮者ヤクブ・フルシャの「ジークフリード」を観たいものだ。 エルダ、それまで元気でいてくれ! *英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ2024作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/102664/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、バリー・コスキー ・・ 検索結果は2舞台 .

■ラインの黄金

■作曲:R・ワーグナー,指揮:アントニオ・パッパーノ,演出:バリー・コスキー,出演:クリストファー・モルトマン,クリストファー・バーヴェス,ショーン・パニッカー他,ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 ■RBOストリーム・配信(2023.9,ロイヤル・オペラ・ハウス収録) ■英国ロイヤル・バレエ&オペラ・イン・シネマで「ワルキューレ」を9月5日から上映するようだ。 「ラインの黄金」は2023年秋に上映されたらしい。 これは見逃していた。 ウェブを探し回り「RBOストリーム」に辿り着く。 そこで見つけた。 早速観る。 幕開きから驚きの連続である。 裸体の老婆が舞台を歩き回っている? 途中で分かる。 老婆はヴォータンの妻そしてブリュンヒルデの母である女神エルダだった! うーん・・? そして現代的病を持つ人物が勢揃いした演劇をみている錯覚に陥ってしまう。 一幕2時間半を一気に観てしまった。 他の「指輪」、例えばMET(メトロポリタン)やNNTT(新国立劇場)と比較しても言語的演技的な斬新さがある。 そこに切れ味の良い歌唱がより演劇を意識させる。 ところでRBOは序夜から今回の第一夜「ワルキューレ」まで2年かかっている。 この流れだと第三夜「神々の黄昏」を観るのは2029年かな? NNTTは2015年に序夜を、2017年までに全夜を上演している。 まっ、2年が妥当だろう。 ともかく、第一夜を観に行こう。 *英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ2023作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/100622/

■能楽堂九月「才宝」「玄象」

*国立能楽堂九月定例公演の□2舞台を観る. □狂言・和泉流・才宝■出演:野村萬,野村万之丞,野村挙之介,野村眞之介ほか □能・観世流・玄象■出演:片山九郎右衛門,分林道治,長山桂三,観世淳夫,宝生欣哉ほか ■国立能楽堂,2025.9.3 ■三人の孫が烏帽子(えぼし)を着せてもらうため祖父を訪ねる話である。 「才宝(さいほう)」は祖父の名前らしい。 祝の酒宴が楽しい。 「玄象(げんしょう)」は琵琶にまつわる伝承をもとにした興味深い作品だ。 琵琶の名手であるワキ役藤原師長(ふじわらもろなが)、文雅に優れたシテ役村上天皇、美しい黒髪を持つツレの梨壺女御。 背景をいろいろ思い出しながら観てしまった。 手に持つ琵琶は名器である玄象そして獅子丸らしい、もちろん張りぼての作り物だが。 リズムある後場が素晴らしい。 龍神の速い動き、シテの早舞は確かな観応えがあった。 面はシテが「笑尉(わらいじょう)」から「中将」へ、ツレは「姥」から「黒髭」へ。 今日は中正面席に座る。 橋掛りから舞台まで一望できるのが嬉しい。 「才宝」では祖父の歩く姿、「玄象」では村上天皇と梨壺女御の入場、龍神の等速度な走り、などなどを堪能した。 歩く姿だけが何故これほどまでに劇的なのか! *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7022/

■少女仮面

■作:唐十郎,演出:中野敦之,出演:椎野裕美子,津内口淑香,丸山正吾ほか,劇団唐ゼミ ■恵比寿・エコー劇場,2025.8.19-24 ■16年ぶりに行くエコー劇場を地図で探した。 場内の雰囲気も椅子の座り心地も覚えていない。 演出家も初めてか? 唐ゼミは観ていたようで観ていない。 これは好きな作品の一つだ。 機会があれば観るようにしている。 さいきんは一糸座の糸あやつり人形劇公演だった。 演出家や劇団で表層には違いが出る、でも深層ベクトルは全てが同じ方向へ向かう。 それは作者の求心力が強すぎるから。 舞台は原作に忠実にみえた。 ・・春日野八千代は演技も歌も落ち着きがあり安心できた。 ボーイも剛直だが動きに切れがあり、目力もあった。 役者たちのコンビネーションも良い。 でも「悲しき天使」は歌い過ぎだろう。 もっと絞り込んだほうがよい。 甘粕大尉はより軍人らしく、帽子は脱がないことだ。 防空頭巾女は緊張溢れる演技にすると舞台全体が引き締まる。 仮面は白色系が似合うのだが・・。 いろいろ感想はあるが、それでも久しぶりに唐十郎を堪能できた。 観客は年齢が高い。 劇団が正統派に近い、つまり古典派だからだろう。 昨日は歌舞伎町へゴダール展を観に行ったが、いやー、今日の恵比寿も暑かった。 渋谷川では涼しくならない。 *原団唐ゼミ☆第33回公演 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/375108

■ナターシャ

■台本:多和田葉子,作曲:細川俊夫,指揮:大野和士,演出:クリスティアン・レート,出演:イルゼ・エーレンス,山下裕賀,クリスティアン・ミードル他 ■新国立劇場・オペラパレス,2025.8.11-17 ■彷徨う二人の主人公ナターシャとアラトがメフィストに導かれ7つの地獄巡りをする新作オペラである。 なんと現代社会こそが地獄だ!と言っている。 ・・木の無い「森林地獄」、プラスチックに囲まれた「快楽地獄」、全てを呑みこむ「洪水地獄」、金儲け一番の「ビジネス地獄」、底抜け消費「沼地獄」、世界が燃え上がる「炎上地獄」、言葉も枯れた「旱魃地獄」・・。 灰色で統一した暗い舞台のなか、電子音響や映像をふんだんに使い、楽曲は複雑で演奏は混沌として神経を不安にさせる。 歌唱も安らかにさせない。 地獄だから当たり前か? 主人公二人は未熟で為す術がない。 このため地獄が風景のように流れていく。 現代社会の表層を見つめていくだけだ。 「飽き飽きしているのでは?」。 メフィストの言葉はそのまま観客に向かってくる。 終幕、二人が行きついた地獄の果てには逆バベルの塔が!? これは理解できなかった。 塔の底まで来たからには全てを新しく創造していくしかない! こう解釈した。 聴きごたえのある歌唱は二か所、ナターシャのソロ「人間とは青い地球の化け物・・」、そして二人の終幕デュオかな。 悲観的過ぎる現代世界の描き方に賛否はあるはず。 それでも観終わったときに作品の重量感がひしひしとやってきた。 多様な方法を試みた物量作戦の成果が出ていた。  *NNTTオペラ2024シーズン作品 *劇場、 https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/37_030096.html

■りすん

■原作:諏訪哲史,脚色:天野天街,演出:小熊ヒデジ他,出演:加藤玲那,菅沼翔也,宮璃アリ ■神奈川芸術劇場・大スタジオ,2025.8.7-10 ■客席が三方向に作られている。 5m四方の舞台はカーテンで仕切られているが中は透けてみえる。 ベッドが置いてあるようだ。 粗筋を読んでいないので何が起こるか想像できない。 カーテン越しに二人の役者が姿を現す。 大学生の兄と妹とわかる。 妹は血液系癌に罹っている? ここは病室らしい。 二人の対話が面白い。 言葉の羅列がお見事、ここに映像や照明・音響を修飾語のように被せていく。 少年王者舘を凝縮させたような舞台だ。 「りすん」とは何か? 途中でわかった。 ビートルズ「 Do You Want To Know A Secret」の歌詞は当て字がはめられていたが、この「Listen・・」から「りすん」にしたと思う。 ・・? カーテンが外され、祖母が病室にやってくる。 彼女が二人の過去を持っている。 満蒙開拓民の両親や親戚、兄妹の幼少期時代、戦争末期の混乱や父のホテルのこと、などなどが語られる。 過去を得た二人は成長した。 なかでも父が経営していたホテルが何度も話題になる。 ホテルは兄妹の永遠のオアシスかもしれない。 後半に入り隣室の患者に目が向けられる。 その人は小説家? 兄妹の行動を小説にしようとしている? ここから文学論的な話になる。 演劇論も重なるので楽しい。 でもこれを続けると舞台が逸れてしまう。 それより、時々思い出させる病室という雰囲気である。 妹の死へ向かう気配といっていよい。 これを兄妹の饒舌な対話が撥ねつけていた。 でもついにその時がやってきた? 二人がダンスをしながら幕が下りる。 ここぞという時にダンスを入れるのは勇気がいる、天野天街ならいつもの事だが。 このダンスが生と死を昇華した。 雑音のない終わり方で上手くまとめたと思う。 役者たちも舞台装置も一体感があり、ツアー公演だが完璧な舞台を観せてくれた。 暑い中、久しぶりの横浜を楽しめた。 *「りすん2025edition」リ・クリエイションツアー *劇場、 https://www.kaat.jp/d/lisun *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、小熊ヒデジ ・・ 検索結果は2舞台 . *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、天野天街 ・・ 検...

■能楽堂八月「海老救川」「朝比奈」「水汲」「砧」

*国立能楽堂八月企画公演の□4舞台を観る. □小舞・和泉流・海老救川■出演:野村太一郎ほか  □狂言語・和泉流・朝比奈■出演:野村万作 □小謡・和泉流・水汲■出演:野村萬斎,野村裕基 □袴能・観世流・砧■出演:観世恭秀,坂口貴信,福王茂十郎ほか ■国立能楽堂,2025.8.6 ■本日の夏企画は「素の魅力」。 素は涼しい。 小舞「海老救川(えびすくいがわ)」、狂言語「朝比奈(あさひな)」そして小謡「水汲(みずくみ)」と続く。 野村家の芸を堪能した。 若人も育っている。 休憩をはさんで袴能「砧(きぬた)」が演じられた。 観客はいつもと違う。 老若男女が程よく分かれていた。 和服も多い。 「砧」は好きな作品である。 でも袴能のため最初は戸惑った。 次第に慣れる。 とはいうものの、今日も暑かった。 「650年続く能楽一家」を先日のテレビで見る。 観世宗家観世清和と嫡男三郎太が登場し箱入りや能舞台を紹介していた。 普段見ることができない内容で楽しめた。 はたして、本日の舞台にも両人は出演していた。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7019/

■盲人書簡、上海篇

■言葉:寺山修司,演出:森永理科,劇団:サイコシス ■ザムザ阿佐谷,2025.7.24-30 ■この劇場は12年ぶりです。 ・・黒衣装で周辺が埋まっていますね。 黒服限定来場者特典があるようです。 「・・完全な闇(暗転)を共有すべく、黒服での来場者に、・・プレゼントします」と。 でも、この暑さで黒はキツイ! 黒ずくめ劇団員はご苦労様です。 サイコシスは初めて観る劇団です。 満席ですか! そして気になった暗闇は完ぺきでした。 さすがです。 照明も切れ味がある。 LEDが効いている。 衣装も凝っている。 耳栓を事前に配っていたが音響も気にならない。 科白もはっきりしている。 歌唱も上手い。 場面切替も円滑です。 しかし全体が乾いている感じです。 表面を滑っていく。 戦争気配が充満している魔都上海のドロドロ感がやってこない。 小林少年と母の愛もです。 寺山修司の科白を舞台に載せると乾いていきます。 これを如何に湿らせるか? 湿への揺れがあるほど寺山修司は甦る。 湿り気を呼ぶマッチも擦らなかった。 そして、やはり小林少年は学生服学生帽が似合う、女学生マサ子がセーラー服だったのに・・、残念です。 それでも阿佐谷の寺山修司を十分楽しみました。 *「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進劇団育成公演 *寺山修司生誕90年記念認定事業 *CoRich、 https://stage.corich.jp/stage/370025

■能楽堂七月「蝸牛」「船弁慶」

*国立能楽堂七月ショーケース公演の□2舞台を観る. □狂言・大蔵流・蝸牛■出演:山本凛太郎,山本則秀,山本秦太郎ほか  □能・観世流・船弁慶■出演:奥川恒治,坂賀子,則久英志ほか ■国立能楽堂,2025.7.28 ■今日の体験コーナーは笛と太鼓だった。 観客も若い人が目立つ。 「蝸牛(かぎゅう)」と「船弁慶(ふなべんけい)」も人気作品である。 「蝸牛」は素直な心で観ると楽しい。 騙された主人が、太郎冠者と歌い踊る終幕はなんともいえない素朴な哀楽が感じられた。 「船弁慶」は何度みても面白い。 義経を子役にするのは静御前との性の関係を薄める為らしい。 プレトークで観世喜正がこう話していた。 なるほど。 子役も昇華方法の一つだ。 肉体の昇華こそ舞台芸術の真髄だろう。 役者や踊者は自身の肉体を昇華し芸術的感動を如何に呼び寄せるか! これに全てが係っている。 いや、今日も暑い。 千駄ヶ谷の夏空のなか、羽田空港に着陸する飛行機がひっきりなしに通過していく。 面は「増(ぞう)」から「怪士(あやかし)」へ。 *劇場、 https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2025/7017/