■エレクトラ
■作曲:リヒャルト・シュトラウス,指揮:大野和士,演出:ヨハネス・エラート,出演:藤村実穂子,アイレ・アッソーニ,ヘドヴィグ・ハウゲルド他
■新国立劇場・オペラパレス,2026.6.29-7.12
■オペラとしては比較的短い上演時間100分が、舞台全体に強い凝縮感をもたらしていた。 しかも父・母・娘という家族関係はきわめて抽象化されており、その空白を埋めるようにエレクトラとクリソテミスのソプラノ声域が劇場を満たす。 二人の感情が声の質量として空間に響き渡ることで、悲壮感は否応なく高まっていく。 さらに母クリテムネストラの声が割り込むことで、ソプラノ系の音響が飽和点に達し、聴き手はある種の<満腹感>に包まれる。 そのため、オレストのバリトンが響いた瞬間、音楽的にも心理的にも一息つける解放感が訪れた。
舞台美術は父アガメムノンの不在を強く意識させる造形が特徴的であった。 だが、この作品は本来、父の時代を見据えなければ復讐の感情が具体化されない構造を持つ。 私自身はその前史をあえて飛ばして観てしまうため、舞台はどうしても抽象的な感情の奔流として立ち上がってくる。
大野和士の指揮は厚みのある響きを全編にわたり維持し、作品の暴力性と緊張を見事に支えていた。 しかしカーテンコールで姿を見せた際には、今日の公演を終えた安堵と共に、相当な疲労感が窺えた。 作品を完璧に近づける熱い姿にはいつもながら驚嘆してしまう。
*NNTTオペラ2025シーズン作品