■ウルフ・ワークス
*下記□の三幕を観る.
□I NOW,I THEN(「ダロウェイ夫人」より)□ビカミングズ(「オーランドー」より)
□火曜日(「波」より)
■演出・振付:ウェイン・マクレガー,音楽:マックス・リヒター,照明:ルーシー・カーター,衣装:モーリッツ・ユンゲ,映像:ラヴィ・ディープレス,出演:ナタリア・オシポワ,ウィリアム・ブレイスウェル,クレア・カルヴァート他
■TOHOシネマズ日本橋,2026.5.15-21(ロイヤル・オペラ・ハウス2026.2.9収録)
■ヴァージニア・ウルフの小説「ダロウェイ夫人」「オーランドー」「波」をそれぞれ一幕として構成し、三幕を通して一つの作品世界を立ち上げている。 そこにナタリア・オシポワがウルフ役として全幕に登場し、三つの物語を貫く意識の流れを象徴的に結びつけていた。
三幕はいずれも振付・照明・衣装・映像のアプローチがまったく異なり、それぞれに独自の質感と世界観がある。 それでいて全体としてのまとまりもよく、久しぶりに心が高ぶる舞台体験となった。 特に音楽が素晴らしく、意識の揺らぎや流動性をそのまま音に乗せたように耳に届く。 作曲家の言葉、「どこかで聴いたようで思い出せない」旋律が続いていく。
一幕冒頭ではウルフ本人の声が流れる。 確か、英語という言語そのものについて語る録音だったと思う。 振付家が「ウルフの文体はダンスに通じている」と語っていたが、その言葉に違和感はない。
二幕では「性の狭間で揺れ動く」ダンサーたちが、レーザー光が飛び交い電子音が響く近未来的な空間で激しく踊る。
三幕が開くと、ウルフが入水自殺する直前に夫レナードへ宛てた遺書がマギー・スミスの声で読み上げられる。 「・・もう戦うことができません」。 その一文が、彼女の人生の苛烈さを静かに突きつけてくる。 背後に映し出される海の波のスローモーション映像、遠くで聞こえる子どもたちの声、それらすべてが懐かしい意識の層へと観客を導き、私たちを彷徨う旅人にさせる。 複雑で豊かな時間を生きたような、深い余韻が残った。
*英国ロイヤル・バレエ&オペラシネマ2025作品