■ドクター・アトミック ■オッペンハイマー

*下記の□2作品を観る.
□ドクター・アトミック
■作曲:ジョン・アダムズ,指揮:アラン・ギルバート,演出:ベニー・ウールコック,出演:ジェラルド・フィンリー,サーシャ・クック,エリック・オーウェンズ他
■東劇,2024.8.23-9.19(メトロポリタン歌劇場,2008.11.8収録)
■原爆をテーマにしたオペラが登場してもMET演目なら驚かない、でも2008年作と聞いて少しビックリ。 主人公は科学者オッペンハイマー。 原爆を開発したマンハッタン計画、それも1945年7月16日の核実験とその直前数日間を描いているの。
組織のリーダとして開発を推進する主人公は内包しているジレンマを宗教性や詩に求めている。 彼の妻キティもベッドと共に登場するが抽象的歌詞に溢れている。 インディアン?を登場させたのは緩衝としての効果を期待したのかしら? 演出家のインタビューで観客は「ファウスト」を意識するだろうと言っていたのも興味深い。 全体を流れる抽象的心理描写が重い題材を救ったのかもしれない。
「・・原爆実験に日本の指導者を招待して恐ろしさを知ってもらい降伏を促したらどうか?」。 科学者としての切羽詰まった意見も出る。 でも政府はポツダム宣言に間に合わせたい! そして最後は原子雲を背景に、日本語で「子どもたちに水を!」で幕が下りる。 ・・。
*METライブビューイング2008年作品
*追記2024.11.04・・
現代思想「人種を考える」(2024・10月号)の「原子爆弾完成後の去就をめぐって」(佐藤文隆著)を読む。 ・・1943年12月アメリカに渡った物理学者ニールス・ボーアはロスアラモス研究所に自由な交流・討論を可能にする「コペンハーゲン精神」を持ち込む。 後の科学者共同体を視野に入れていた。 そしてマンハッタン計画へスターリンを招聘する考えを示す。 これにより戦後の核開発競争を防止できると信じていた・・。 これを読んで日本の指導者を原爆実験に招待する場面を思い出す。
□オッペンハイマー
■原作:カイ・バード他,監督:クリストファー・ノーラン,出演:キリアン・マーフィ,エミリー・ブラント,マッド・デイモン他
■DVD,2024.9.8(アメリカ,2023年作)
■監督が与えてくれるドキドキ感がいつもと違う。 原作の影響が強いから? ドキュメンタリー風ドラマと言える。
・・ナチスからソビエトへ脅威が移っていくなかでオッペンハイマーの考えは変わっていく。 後半は原子力委員会保安聴聞会での遣り取りに終始し、彼はそこで核報復擁護論者たちと闘う。 彼は微妙な立場にいた。 道楽者で女好き、尊大だが情緒不安で神経質、そして共産主義に緩い彼は結局は公職から追放される・・。
科学者の原爆への罪悪感は増大するが当時の状況下では限界がみえる。 しかし核の脅威が続く現代に監督からのメッセージは貴重よ。