■皆殺しの天使

■原作:ルイス・ブニュエル,作曲・指揮:トーマス・アデス,演出:トム・ケアンズ,出演:オードリー・ルーナ,アマンダ・エシャラス,サリー・マシューズほか
■新宿ピカデリー,2018.1.27-2.2(MET,2017.12.18収録)
■変わったオペラである。 パーティに招かれた人々がその邸宅から出られなくなってしまう話である。 逃げられないので歌手たちは上演2時間ものあいだ舞台上に居続けることになる。 隠れる場所もない。 しかも身も心もそして衣装も乱れ汚れていくのだから大変だ。
演奏はオンド・マルトノや1/32バイオリンを使い背筋がゾクゾクしてくる「ハイ・コンセプト・スリラー」調がなかなかいい。 そしてソプラノ歌手を揃えて高音質で迫る歌唱は現実を突き抜け闇の世界を手繰り寄せる。 上流階級だが日常生活そのままの言葉が歌詞として延々と続いて行く。
終幕、招かれた一人であるオペラ歌手レティシアが歌うとパーティ会場は外の世界と繋がり招待者は解放される・・。
狂気の世界だが日常の言葉で満たされた歌詞のため後半は飽きてしまった。 しかし土壇場でレティシアが非日常を歌い俗から聖へ移っていく場面が何と素晴らしいことか! 同時に閉ざされた室内からの解放が観客の肉体と精神をも蘇らせてくれる。 作品の感動がこの一点にある。
原作の映画は観ているがルイス・ブニュエル監督のベスト作品に入れてもいい。 トーマス・アデスが15年前から計画していたとインタビューで答えていたが彼もこの作品に惚れこんでいたのだとおもう。 因みにブニュエルのベスト5を掲げるとすれば「忘れられた人々」「哀しみのトリスターナ」「昼顔」「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(制作順)、そしてこの「皆殺しの天使」。
*METライブビューイング2017作品
*作品サイト、http://www.shochiku.co.jp/met/program/89/
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