■殺意、ストリップショウ

■作:三好十郎,演出:栗山民也,出演:鈴木杏
■シアタートラム,2020.7.11-26
■ナイトクラブのダンサー緑川美沙が登場し過去を語りだす。 ・・上京した彼女は兄の勧めで社会学者山田先生の家に身を寄せ、そこで同居している先生の弟・徹男を知る。 ほどなく徹男は戦死してしまう。 戦後の混乱のなか美沙はダンサー兼娼婦として生活していくが、兄や徹男とは違う山田先生の表裏のある生き方をみて彼女自身の人生を見直していく・・。 というストーリーで中身の長い劇中劇になっている。
実は途中で、なぜ美沙が山田先生に殺意を抱いたのか肝心の場面を見逃してしまった。 気が付いたら彼女は先生を殺そうとしている。 先生は戦前がマルクス主義者、戦中は国粋主義者、そして戦後は再び共産主義者としての表の顔を持っている。 いつの時代にも若者達から熱烈な支持を得ているらしい。 そして裏では娼婦を追い求め淫らな行為を続けている。 美沙も徹男の戦死を知った日に先生から凌辱を受けている・・。
自宅に戻り、早速WEB文庫で殺意を持った箇所を探しました。 そこには先生の思想や人生観に従って死んでいった兄と徹男の惨めな死、先生の勝手な現在までの人生、この断絶からくる憎しみの発生が書いてあった。 納得しましたが、しかし戯曲は別物です。 つまり徹男の美沙への存在感が薄かったことで殺意を見逃してしまったようです。
それよりも劇場に戻って終幕のクライマクスに行きましょう。 美沙は先生と娼婦の逢引場面を盗み見しているが、そこで娼婦が痔を患っていたのを知る。 先生が娼婦を治療している真剣な姿を見て美沙は今までの考えを改めるのです。 娼婦に対して先生が取る対立する行動態度は一人の人間に同居するのは当たり前だということ悟るのです。 それは性器と肛門から国粋主義と共産主義にまで広がっていく。
美沙はストリップダンサーであり娼婦が持つであろう肉体的感覚から悟りを得たようにみえる。 これは舞台から受けた印象です。 美沙が持つ素直さもある。 そして彼女は他者から解放され<自由>になり幕が下ります。
独り舞台のためか観客との距離がとても近い。 コロナで客数が半分ですから余計にそれを感じます。 しかし満州事変や真珠湾攻撃など背景が何故か身体に迫ってこない。 役者鈴木杏の裏の無い喋り方のためか「歴史」になってしまった。 それでも作者と役者のズレが舞台を揺るがして新しい美沙を現在に甦らせていた。 鈴木杏の直截な独り芝居だからできたのでしょう。 舞台に吊るした古ぼけたガラス窓(鏡)が効果的でした。 久しぶりの生舞台でしたがやはり最高ですね。 心身が生き返ります。