■マーキュリー・ファー

■作:P・リドリー,演出:白井晃,出演:高橋一生,瀬戸康史ほか
■シアタートラム,2015.2.1-22
■登場するゲストは快楽殺人者とでも言うのでしょうか? 性的倒錯を一歩進めたホラーと紙一重の内容ですから難易度が高そうですね。
過去の記憶を物語風に幾つも挿入し語られていきます。 子供時代の拳銃ゴッコは男の子なら分かりますよね。 役者たちは素直と僻みが混ざり合って新鮮です。 そしてバタフライやパーティの謎が舞台を牽引します。
現代の米国のようですが終幕に軍隊が攻めて来るのは驚きでした。 でも倒錯世界では戦争は切り札です。 その軍隊を率いるゲストはベトナム戦争の話はしますがそれ以上は語らない。
ここでパゾリーニの「ソドムの市」を思い出してしまった。 傀儡政府権力者たちが倒錯行為や拷問を繰り返すその空には爆撃機編隊の姿という圧倒的場面をです。
この舞台は段取りが出来ているのにこの圧倒場面が形だけになってしまった。 精神的狂気と社会的狂気の結合が未完成だったからでしょう。 しかもゲストを殺し「正常」を探すところで幕が降り、狂気と正気はすれ違いのままになってしまった。 結合できたら演出家はパゾリーニのようになってしまうかもしれません。 たぶん作者も「正気」の道を表現したかったのでしょう。
舞台の湿気と役者たちの乾気が衝突し独特の生気が漂っている面白い作品でした。
*劇場サイト、https://setagaya-pt.jp/theater_info/2015/02/mercury_fur.html