■ヨナ
■原作:マリン・ソレスク,演出:シルヴィウ・プルカレーテ,出演:佐々木蔵之介ほか
■東京芸術劇場・シアターウエスト,2025.10.1-13
■劇場に入り観客を見渡すと、なんと!8割が女性。 しかも中年層が多いようにみえる。 贔屓筋かな? それにしても小難しい舞台だった。 タイトルからしてその気配が漂っている。 「ヨナは旧約聖書の聖人で、神に背き、その罰で鯨に呑まれ、三日間腹の中にいた漁師であり・・」、という背景がある。
舞台は鯨の腹の中。 狭くて暗い空間だが、音響・照明・美術を駆使して内奥を広げている。 ヨナの幻想(?)も現れる。
「人生の最期は眠らなければいけないのか?」「母さん!俺を産み続けてくれ」「(ここは)分断された場所なんだ!」「繋がらないのを繋げようとするのはもう止めよう!」「神が通りがかってくれたらいいのに」「復活のない神のようなもの」「復活した神をみたい」。 モノローグの断片には宗教を媒介にした自己への問いや迷いが色濃く滲んでいる。
「闇に触れた者だけが、光を探すことができる」「ヨナは私だ、ヨナはあなただ」。 言葉の一つ一つは耳に届くが、これが有機的な形となって身体に染み渡る感覚には至らない。 ひとり芝居のゆえに、原作者と演出家の生き様が前面に押し出されているせいかもしれない。
二人の故郷ルーマニアは池袋から遠い。 20世紀史も複雑だったはずだ。 東方正教会はどのような宗教なのか? 地理的・歴史的な距離も作品の理解を難しくしている要因だろう。
佐々木蔵之介は預言者然りとはしていなかった。 それでも、現代的ヨナ像を見事に演じていた。 鯨の暗い腹の中に、確かに灯をともしていた。
終幕では、暗い海から一転して、家具やベッドが赤い夕日に照らされる部屋が現れる。 その瞬間、演出家プルカレーテの狂気が垣間見えたのは嬉しい驚きだった。 前半から、このような部屋を幾つも造り、それを順次展開しても面白かったかもしれない。 私なりの解釈を加えながら舞台を反復する作品として受け止めた。
ところで「秋の隕石」プログラムの入手が遅れたため、庭劇団ペニノ「誠實浴池( せいじつよくじょう)」を見逃してしまったのは残念。
*舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」作品
*東京芸術劇場xルーマニア・ラドゥ・スタンカ国立劇場国際共同制作
*「ブログ検索🔍」に入れる語句は、シルヴィウ・プレカレーテ ・・検索結果は6舞台.