■ハンサード Hansard

■作:サイモン・ウッズ,演出:サイモン・ゴッドウィン,出演:リンゼイ・ダンカン,アレックス・ジェニングス
■TOHOシネマズ日本橋,2021.1.15-(リトルトン劇場,2019収録)
■保守党政治家ロビンが週末に帰る自宅ダイニングが舞台上に造られている。 そこに酒浸りの妻ダイアナが締まりのない姿で彼を出迎える・・。
プレトークで解説者が舞台設定である英国1988年の政治キーワードを幾つか掲げている。 それはサッチャー首相下での、地方自治法28条成立、英仏海峡トンネル着工、パブ営業時間延長、教育改革法成立の4点。 どれもこの舞台で話題になる。
ところで「ハンサード」はイギリス及び英連邦諸国における議会討論の筆記録を指す。 タイトルに沿うように夫婦喧嘩に近いような議論で政治と世間そしてプライベートな話が終幕まで続いていく。
しかし根がホームドラマのためか英国民の生活が垣間見えて面白い。 中産階級の立ち位置、労働党に近い妻ダイアナの考え、義父母の態度や言葉の思い出、庭が狐の被害に遇ったことや夫ロビンが作る食前酒?、夫の前妻のことなど二人の動きと科白には目を凝らし聞き耳を立ててしまう。
そして政治の話になるとサッチャー首相や保守党労働党の評価、英国と米国の違い、トンネル着工と島国の強調・・、公立と私立高校の話、居住地区と階級関係、エイズ流行等々が台詞の中へ次々と投下されていく。
しかし妻ダイアナの行動が前半から引っかかる。 彼女が昔のビデオや日記など持ち出して夫に何かを思い出させようとしていることだ。 それは夫が所属する保守党が近頃成立させた地方自治法28条に繋がっていく。
28条は同性愛を規制する法律らしい(?)。 そして、二人には息子がいたらしい。 ・・ここで謎が解ける。 同性愛者だった息子を二人はどう思っていたのか? 彼女の告白がなされ二人は涙するが・・。
結末が短くて上滑りしてしまった終幕だ。 母と息子の信頼関係は納得できたが父の涙が子の弔いにはみえなかった。 我が子を前にした保守派の父は複雑だったろう。 英国の観客なら積み重なっていく数々の話題や事件が一つに収束して二人の涙につながっていったのだろうか?
*NTLナショナル・シアター・ライヴ作品