■反応工程

■作:宮本研,演出:米山実,劇団:文化座
■東京芸術劇場・シアターウエスト,2018.8.17-19
■舞台をみて反応工程が何であるかが分かりました。 それは旧三井化学系企業の製造部署の名です。 平和の時代には染料を戦時下では燃料(?)を造る工程らしい。
1945年8月の当部署の日常が描かれていく。 製造オフィスの雰囲気が上手く出ていますね。 科白が熟されているからです。 特殊な状況を除いて就業風景の一つの完成形がみえる。 出退勤や朝礼、新入社員受け入れ、引き継ぎ、事務所での宴会などを取り込み、九州弁(?)の心地よいリズムで当時の職場が現前してくる。 このまま終幕まで続いても面白い芝居になったでしょう。
でも後半はこのリズムが崩れていきます。 事件を入れないと話にならない。 当部門に配属されている動員学徒と監督教官との対立が表面化していくからです。 教官は物腰が柔らかく権威ぶっていないので何を考えているのか掴めない。 学徒員田宮が教官清原に向かって最後に吐く台詞は「あなたは権力の犬だ!」。 教育者が軍部に協力していく悲劇を描いた芝居にみえます。 でも清原がはっきりしないので田宮が一方的になり真の対決が描けなかった。
この時代、戦争について少しでも深く考えた人は「消極的協力」か「消極的非協力」に傾いていくのではないでしょうか? 前者は教官清原、後者はマルクス系の本を広める勤労課員太宰です。 学徒たちはもちろん「積極的非協力」です。
戦後世界に馴染むのも消極人間には容易です。 清原は学校でデモクラシーを教え太宰は会社で組合長になっていく。 でも学徒たちは傷を背負い戦後を生きるしかない。 教官清原から「旗を高く掲げよ」のハロルド・ミュラー夫妻を連想してしまった。 友人のユダヤ人が戦後にハロルドを強く非難したが、同じように田宮が清原を「10年、いや20年経っても許せない」と言っている。 作者の「本当は言いたくなかった」台詞ではないでしょうか。
ところで宮本研の作品は調べたら二本観ていました。 「ザ・パイロット」(青年座)と「美しきものの伝説」(文学座)です。 追記ですが貼り紙やアジ看板が目立ったが舞台上の文章を読むと芝居の面白さが逃げてしまう。 ここは役者の身体と声で表現したいですね。
*劇場サイト、http://www.geigeki.jp/performance/20180817tw/