■帰還不能点

■脚本:古川健,演出:日澤雄介,出演:岡田篤,今里真,東谷英人ほか,劇団チョコレートケーキ
■東京芸術劇場・シアターイースト,2022.8.17-9.4
■舞台は1950年頃? 政府機関で働いていた同輩が飲み屋に集まり戦時を振り返る話です。 その組織名は総力戦研究所。 彼らは戦争シミュレーションを仕事にしていたらしい。 その成果は1941年8月に首相官邸で発表された・・。
彼らは飲み屋で模擬実験を再現する。 政府・軍のトップ、たとえば近衛文麿・松岡洋右・東條英機の役に彼らはなり切る。 しかも場面ごとに役が入替る。 次々と劇中劇が展開していく面白い構造です。
研究所は戦争必敗の結論を提出していたのだが・・。 なぜ戦争を止められなかったのか? 「日露戦争でも・・、しかし勝った・・!」。 東條の言葉です。
途中で「帰還不能点」が何かわかりました。 それは南部仏印進駐の是非です。 政府が進めてきた近視眼的な外交政策が軍部の保身、つまり石油・ゴムの資源獲得、を許してしまった。 この進駐で米国は対日石油全面禁輸に踏み切り、そのまま日本は真珠湾攻撃へと突き進む・・。
20世紀史としての興味が尽きません。 現代でも形を変えて繰り返していることを認識させてくれる。 飲み屋の女将の夫が研究員だったこと、ナビゲータとしての彼女の立ち位置がよかった。 でも終幕の私的場面は付け足しの感じがしないでもない。 幕の下ろし方が難しい作品です。