■ナターシャ

■台本:多和田葉子,作曲:細川俊夫,指揮:大野和士,演出:クリスティアン・レート,出演:イルゼ・エーレンス,山下裕賀,クリスティアン・ミードル他
■新国立劇場・オペラパレス,2025.8.11-17
■彷徨う二人の主人公ナターシャとアラトがメフィストに導かれ7つの地獄巡りをする新作オペラである。
なんと現代社会こそが地獄だ!と言っている。 ・・木の無い「森林地獄」、プラスチックに囲まれた「快楽地獄」、全てを呑みこむ「洪水地獄」、金儲け一番の「ビジネス地獄」、底抜け消費「沼地獄」、世界が燃え上がる「炎上地獄」、言葉も枯れた「旱魃地獄」・・。
灰色で統一した暗い舞台のなか、電子音響や映像をふんだんに使い、楽曲は複雑で演奏は混沌として神経を不安にさせる。 歌唱も安らかにさせない。 地獄だから当たり前か?
主人公二人は未熟で為す術がない。 このため地獄が風景のように流れていく。 現代社会の表層を見つめていくだけだ。 「飽き飽きしているのでは?」。 メフィストの言葉はそのまま観客に向かってくる。 終幕、二人が行きついた地獄の果てには逆バベルの塔が!? これは理解できなかった。 塔の底まで来たからには全てを新しく創造していくしかない! こう解釈した。
聴きごたえのある歌唱は二か所、ナターシャのソロ「人間とは青い地球の化け物・・」、そして二人の終幕デュオかな。 悲観的過ぎる現代世界の描き方に賛否はあるはず。 それでも観終わったときに作品の重量感がひしひしとやってきた。 多様な方法を試みた物量作戦の成果が出ていた。 
*NNTTオペラ2024シーズン作品